ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

2-36 失大罪スキル【悔恨】



 2-36 失大罪スキル【悔恨】


 -エルクセム王城内-第二騎士本部-



 全身が痛い。ここは何処だろう?

「うっ.......ぐぅ.......」

 呻き声をあげながら目が覚めると、薄暗い部屋の中に私は居た。身体を動かそうとしても動けない。縄か何かで縛られていて、全身が締め付けられて拘束されているようだ。

 何故私はこんな状況に陥っている? 確か私の最後の記憶は久々に再会したドレムと会って、巨大な骨の魔物と.......。

 そうだ、その後ユリウスという男に私は襲われたんだった。いきなり腹部を殴られ、私はユリウスに連れていかれた。それが私の最後の記憶だった。
 
「やあ、やっと目を覚ましたかい?」

 朧げな意識を戻していると、私の上から耳元で若い男の声がした。顔を少しずらせば、整った顔立ちの細身の男が両手を広げてケラケラと笑っていた。

「ようこそ、第二騎士団本部へ」

 男の口からは予想だにしない言葉が出てきた。

 第二騎士団本部? そんなエルクセム王城内の重要な場所に、何故私は連れていかれたのだ?

「あらま、これは不思議そうな顔だねぇ。ま、無理もないか。どうやらユリ.......グレイスから『特異点』の事は知らなかったみたいだと聞いているしね」

 また『特異点』。リフィアを見てユリウスが呟いた言葉だ。意味が分からない。リフィアはただの変哲もない女の子だ。『特異点』とリフィアには何の結び付きがあるのだろうか。

「何故ユリウスをグレイスと言い直した? それに『特異点』とはなんだ? そしてお前は誰だ?」
「おっと、質問がやけに多いね。でもレディには優しくないといけないから全部答えてあげよう」

 男はニヤニヤと笑いながら、私の周りを歩いて話し始める。

「まずはユリウスだね。彼は自分の一応上司みたいなもんだ。ちなみに、レディはどこまでユリウスのことを知っているんだい?」
「さあな、と言いたい所だが、ユリウスがネメッサの街の地下水路でヒュージスライムキングを育成していこと、そして何百年以上も生きていること、ユリウスはエルクセム王都でも高名な錬金術師だったことぐらいは知っている。それだけだ」
「うっわ、何がそれだけだよ。極秘情報だだ漏れじゃん。こりゃあユリウスが処分して欲しい訳だ」

 男は私の回答に驚きを隠せないといった感じで、やれやれと額に手を当てて項垂れた。

「そんな可哀想なレディに教えてあげよう。ユリウスは『第八第目魔王軍幹部』だ。そして自分も、だ」
「.......それは随分と面白いジョークだ。だが一言も笑えない」

 『第八代目魔王軍幹部』だと? 魔王なんて存在は御伽噺だと小さい頃から教わっている。それに加えて第八代目? 魔王という存在はこれまでに代替わりを行っていたのか? 

「おいおい、まるで信じてなそうな顔だなぁ。少し傷付くよ。ま、これでユリウスの質問は答えたかな。次は『特異点』だ」

 私は固唾を飲んで、これまでより一層な真剣な表情で男の話に耳を傾ける

「『特異点』とは簡単に言ってしまうとこの世界の理を歪め、不可能を可能に変えてしまう存在。 つまりイレギュラーだ」
「意味が分からん」
 「そんなぁ、これでも分かりやすく教えてあげたんだよ? でもこう言えばいいかな?」

 男は縛られて転がされている私に屈んで顔を覗き込み、耳元でそっと呟いた、

「レディの近くの人間の中で、何の前触れもないのに突然、『急成長を遂げた人間』いるかな?」
「.......ッ!?」

 ウェルトだ。そんな人間、思い当たる節があるのはウェルトしかいない。

 あいつは、私と冒険者ギルドの依頼をこなしていた頃はDランク冒険者並の実力だけ『だった』。

 しかし、貪食の食人鬼との戦闘が終わった後からウェルトは少しだけ、ほんの少しだけだが身に纏う雰囲気が変わっていた。死線を潜った影響なのか、男らしくなって肝が据わっている感じが一緒にいて私は実感していた。

 そして、実際ウェルトがユリウスと交戦していた所を見てた時、私は本当に目の前で戦っている人間が私が知っているウェルトではなくなっていた。

 戦い方は変わっていない。変わっていたのはウェルトの強さそのものだ。

 身体能力の著しい向上。そして、上位技能の獲得。

 恐らく、ウェルトは既に冒険者としてはBランク、下手すればAランク相当の強さを有していた。
 
「つまりそういうことなんだ。『特異点』はそういった存在なんだ」

 私はその言葉で理解する。上手く言葉に出来ないが、『特異点』は他者を劇的に変える力があると。

「そして最後の質問だったね」

 男は屈んだ状態から立ち上がり、己の名を名乗った。

「自分は第二騎士団団長ムエル=トランシュは表の顔。裏の顔は人体実験大好きマッドサイエンティストの第八代目魔王軍幹部。繰糸のムニェカだ」
「それが本当の話だとしたら、魔王軍幹部がエルクセム王都の第二騎士団長とは世も末だな」
「奇遇だね、同意するよ。ちなみにユリウスは第一騎士団副団長だ。そして現エルクセム王、まあただの禿げた豚なんだけどさ、そいつを第二騎士団長の自分と第一騎士団副団長のユリウスで上手く操ってるのさ。っと、この前あの禿げた豚に、勝手に勇者召喚なんてされてユリウスに怒られたりしたけれども、ね」

 男はおどけたように笑い、まるで私の顔を少年が珍しい虫を見つけた時のような輝いた目で覗いてきた。

「さてここからが本題だ。レディは確実に『特異点』の影響を受けている。つまりだ、そのレディにこの失大罪スキル『悔恨』を使ったらどうなるかな? それに興味があるんだ」
「失大罪スキルだと?」
「そうさ、これまでいっぱい失敗したんだよ? ね、シャルル?」

 ムニェカがパンパンと手を叩くと暗がりの中から全裸の美しい女性が現れた。生気が感じられない虚ろな目をしながら、片手にはまだ若い女の子の潰れた生首をぶら下げている。

 全身を真紅に濡らし、血の雫を滴らせながら、女性はか細い声で言った。

「.......ま、ま、マス、.......ター.......」
「よしよし、シャルルはとてもいい子だね」

 シャルルと呼ばれた女性は一切の抵抗もせずにムニェカに頭を撫でられる。

「一瞬でお前の事は理解したよ。一言で言えば虫酸が走るくらい悪趣味だ。反吐が出そうになる」

 私はシャルルとムニェカの異質なその様子を見て、気分が悪くなった。

 洗脳。

 それがムニェカがシャルルに行ったことだ。自意識というものを無くし、ただ主人の命令を聞くだけの機械、いや、人形と言うべきものにする代物。それは私が思うに、この世界で最悪の人間の尊厳を踏み躙る行為だった。

「それ自分でも自覚あるんだよね。でも仕方ないじゃん! シャルルみたいなちゃんとしたお人形さん作る為にはやんないといけないんだよ!」

 私はムニェカの狂気地味た笑みを見て戦慄した。あのシャルルという女性のように、私を洗脳するつもりなのか、と。

「ふふ、レディみたいな美しい女性はお人形さんになるべきなんだ。さぁ、楽しい楽しい実験開始だ。失大罪スキル『悔恨』、発動」

 ムニェカが縛られて動けない無防備な私に、優しく額に手を当てて発動させた。

 私に触れられた手が淡く光ると、微睡むように私の意識は闇の中に落ちていった。



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