ろりこんくえすと!
2-31 痕跡
2-31 痕跡
「ふっ、勝った.......」
俺の目の前には、己の理想を打ち砕かれた一人の漢が崩れ落ちている。おっぱいを信じ、おっぱいを崇めた一人の漢が。
敵ながら、俺は敬意を払って漢に頭を下げる。
この思い出は忘れずに生涯に渡って胸に刻んでおこう。俺は漢の夢を破り、屍を乗り越えていったのだから.......。
「何勝ち誇った顔して縛られたまま決めポーズを決めているんですか!? 貴方は何もしてないでしょう!?」
床には五人のフルアーマー野郎達がぶっ倒れている。俺が倒した最初の一人を除き、残りは全てドレムさんが電撃を射出する魔法を使って無力化していたのだった。
胸も実力も最弱やらと酷い言われようだったが、それでもドレムさんは腐っても、ファリスさんと同じ副騎士団長の椅子に座っただけあり、Lvは低くてもかなりの実力は持っていた。
「よしノア、作戦は成功だ。これからエキューデ達を救出しに行くぞ。あ、ドレムさん、出来ればこの縄を解いてください。お願いします」
「..............」
ドレムさんが凄い微妙な顔で俺を見つめている。
何故だ、俺は貧乳が尊き存在だと世界に訴えかけただけなのに。解せぬ。
◆◇◆
「ここは.......なんでしょうね?」
ドレムさんに縄を解いて貰った俺達は、牢屋から離れ、しばらく施設を探索した後、いかにも怪しい部屋を見つけていた。
中は薄暗くて湿気が多く、血なまぐさい匂いが立ち込めている。
この部屋は俺には思い当たる節があった。それは、門兵の会話で出てきた『得体の知れない人体実験や凶暴な魔物をバラしている』という内容だ。
その証拠に、床には赤黒く乾いた血がベッタリと張り付き、部屋に隅には乾燥して水分が無くなった肉片が無造作に散らばっている。
だが、それより気になるものが.......。
「随分と大きい鎖だねミナト。これならドラゴンでも縛れそうだよ」
そう、ノアが指摘した通り、天井からとてつもなく太くて長い鎖が垂れ下がっていた。
所々千切れ、血と鉄で錆び付いた鎖は、何処か物恐ろしい雰囲気が感じられる。
「凄いですねこの鎖。見たところ、純度100%の魔鉱石で作られてますよ。しかも込められた魔力量が桁違いです」
ドレムさんが鎖を見上げながら、感嘆とした声で呟いた。
「なあ、魔鉱石って何?」
俺は気になって、ちょんちょんと肩肘でノアをつついて尋ねてみた。
魔鉱石なんてワードは、なろう小説を読み漁った俺には聞き飽きた物だが、如何せんその性質にかなりの差異があるだろう。
「ん、ミナトは知らないのも無理もないね。魔鉱石ってのは、込められた魔力の量が多ければ多い程、その強度と重量が増す鉱石のことよ。ちなみに、魔鉱石はかなり貴重だから普通は合金して使の。もし、ドレムが言った通り、この鎖が全て魔鉱石で作られているとしたら、結構なお値段になるね」
「へー」
魔鉱石。なんとも異世界らしい金属だ。これはオリハルコンとかアダマンタイトとか、もっといけばヒヒイロカネもあるかもしれないな。夢が広がるぜ。
「なんだこれ? 随分と綺麗な羽だな」
俺は腕を組みながら視線を下に向けると、赤黒く染まった床に、蒼色に輝く羽が落ちていた。
拾い上げてよく見れば、その羽は構造色なのか、光の反射で見る角度から玉虫色のように色が美しく変わり、思わず見蕩れてしまう程だ。
「ミナト、何拾ってまじまじと見てんの? ちょ、それって、あの魔獣ヒポグリフの羽じゃ.......?」
ノアが屈んだまま俺を心配したのか、横からピョコッと蒼色の羽根を覗いてきて、驚きと疑惑の混じった声で呟いた。
「これは間違いありませんね。正真正銘、ヒポグリフの羽です」
ドレムさんが俺の後ろから蒼色の羽を取り上げて、難しい顔をしながら鑑定してくれた。
「ヒポグリフか。なんか強そうな名前だな」
ヒポグリフ。中二病を患っていた頃の俺の知識によると、元の世界ではグリフォンと馬が交わった空想上の生物だとされる。
記憶が正しければ、鷲の嘴を持ち、二対の気高き羽を有し、四本足の馬の蹄を持つ幻獣だそうだ。
「強いってもんじゃありませんよ。ヒポグリフは脅威度Aと定められていて、災害級の魔物に分類されるとても危険な魔物なんですよ?」
「ちなみに聞くけど、どれくらい強いんだ?」
「そうですね、羽ばたくだけで竜巻を起こす、と言えば想像が付くでしょうか? ヒポグリフは『大空を飛ぶ天災』と呼ばれ、遭遇したら最後、生きては帰ることすら叶わないと言われています」
まじかよ。異世界やばすぎんだろ。
羽ばたくだけで竜巻を起こすなんて、とてもじゃないが信じられないが、実際に黒髪の少年が黒い竜巻を起こしていた。
普通にあり得るかなと、違和感なく納得してしまう自分がいる。
俺がドレムさんの説明を聞いていて愕然としていたその時、ノアが俺と同じように床に落ちていた何かを持ってきて俺達に見せつけてきた。
「中々ぶっとい毛だね。これって陰毛かな?」
「やめい、汚い発言やめい」
ノアが指に挟んで見せたのは猛猛しく、真っ赤な毛だった。
確かにたった一本だけの毛としてはかなり太い。
これが陰毛だとしたら嫌だな。凄く嫌だ。脳内で勝手に筋肉ダルマの外国人男性を想像してしまう。うへぇ、変な妄想したから吐きそうになった。
「これはブレイズレオの鬣の体毛ですね。ブレイズレオもヒポグリフ同様、脅威度Aに定められ、災害級の魔物に指定されています」
これもドレムさんが鑑定してくれた。
ヒポグリフにブレイズレオ。ドレムさんの言葉が本当だとするならば、確かに凶暴な魔物をバラしているな。うわ、嫌な予感しかしない。
「ブレイズレオも強い魔物なんだよな?」
名前から想像すれば、ブレイズは炎。レオはライオン。つまり、炎属性のライオンの魔物だと想像するのは容易い。
問題はその戦闘能力だ。ヒポグリフでさえ、ドレムさんが言うには羽ばたくだけで竜巻を起こすぐらいだ。
同じ脅威度Aやら災害級に指定され同カテゴリーに組み込まれているならば、ブレイズレオもヒポグリ同様、かなり、というか滅茶苦茶危険な魔物なのは確かだろう。
「ブレイズレオは焦土火山と呼ばれる極めて過酷な環境に君臨している魔物ですね。常に炎を纏った体毛を持ち、口からは溶岩を凌ぐ高音のブレスを吐き出し、強靱な獅子で獲物を狩る魔物です。まあ、遭遇すればヒポグリフもそうですが、命はまずないですね」
「うっわ、まじかよ。絶対出会いたくねぇ」
俺はふと、天井に吊るされている鎖を見上げて身震いを覚えた。
何故、鎖は一本だけしかないのだろう、と。
違う時期に別々にバラされた? 既に死体で運ばれてきたから?
様々な憶測が頭を過ぎるが、それでも『とても嫌な予感』が全身を駆け巡った。
「お、隠し扉はっけーん!」
突然、後ろからノアの嬉々した声が聞こえてきた。俺はビクっとして後ろを振り返ると、ノアがガンガンと他とは少し違った色の壁.......、いや錆び付いた扉を蹴り飛ばしていた。
「よくこんな分かりにくい所を見つけましたね」
「へっへーん、凄いでしょ!」  
ノアがない胸を張る。貧乳愛好家の俺としては触手が動くが、流石に小学生ぐらいの歳の女の子には興奮しないな。
「錆びすぎて他の壁と見分けがつかねぇな、これ。よっこらっしょとっ!」
隠し扉と言うよりかは、見分けが付きにくいだけの扉だと思うが。
俺はギギギギギ、と錆びた金属が剥がれていく耳障りな音を立てながら、俺は扉をこじ開ける。
扉の奥は、この部屋より一層薄暗い階段が地下まで続いて、奥からボソボソと話し声が聞こえてきた。
「ふふん、行こうミナト! 多分、ここの下にエキューデ達がいるに違いない!」 
ビシッと指をさしてドヤ顔で言い放つノアに俺は頷き、階段をゆっくりと降りていった。
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