ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

2-23 証明



 2-23 証明


 五芒星が描かれた銀のコートを靡かせて、氷の破片が降り積もった瓦礫の山の上で、銀髪の男が僕達のことを見つめていた。

「ウェルト、ユリウス=ナサニエルって誰だっけ? ウェルトの親戚のおじさんか?」

 空中でふわふわと漂う中、アシュレイが肩を叩いて僕にユリウスのことを尋ねてきた。

 何故そうなる。どこをどう見ればあの銀髪の男が僕の親戚のおじさんになるんだ。

「違うわい。僕の親戚のおじさんはもうとっくに死んでるわ。って、アシュレイは本当に覚えてないのか? ほら、ネメッサの街の地下水路でヒュージスライムキングを産みだした疑惑がある人間だよ」

 どうやらアシュレイは、ユリウス=ナサニエルなんて数週間前の古い記憶は、すっかり忘れてしまっていた。

 はぁ.......エマに頭が悪い悪いと罵られる僕でもまだ覚えているぞ。

「ああ! 300年以上生きてるとかなんたらこうたらとか、言ってたっけな」

 ※1-12参照

「とにかく、あいつの下に行ってくる。もしかしたら戦闘になるかもしれない。アシュレイ、危険そうだからリフィアを頼んだ」

 僕は僕にべったりと抱きついているリフィアをひっぺ剥がして、アシュレイに頼もうと思ったが.......。

「リフィアもいくの!」

 リフィアは僕から離れるのが嫌らしく、駄々を捏ね始めた。首をブンブンと振り、手を交差させてバッテンを作って拒否のポーズを取った。

 仕方ない。本当は使いたくなかった奥の手だが。

「あとでプリン買ってあげるから我慢してくれ」
「はいなの」

 リフィアはプリンの魔力には到底叶わなかった。すぐに素直になり、犬かきの要領でアシュレイの元に向かっていき、べったりと張り付いた。

 よし、これで大丈夫だな。

「えーと、ウェルトさん。何故そこまでグレイスを敵視するのでしょうか? グレイスはただ王都に出現した危険な魔物を退治しただけです。ほら、私も一応第三騎士団副団長ですし、副団長同士という縁がありますからね。暴力よりも言葉で解決できる筈です。私も御一緒しますよ」
「いや、ドレムも他のみんなも待機だ」

 ドレムがにっこりと笑い、僕の腕を掴んできた。

 だが、僕はドレムの申し出を拒否した。

「え、我も?」
「エアロフリューゲルを空中から降りて地上でも維持できるなら、ぜひ肉壁として来て欲しいけど」
 「酷くない!? まあ、流石に我でも地上ではエアロフリューゲルを維持できないからな」

 まあ、そうだよな。流石に無理だろう。

 それに、そもそもエキューデはあんまり戦力にならなそうだし。ロイドとの戦いでも、飛来する石棘を防ぐだけで精一杯だった。君は紅花匕首をくれるだけでいいよ。

「お兄ちゃん、たった一人で行くの?」
「ああ」

 僕はリフィアに頷き、考えを示す。下を見ればユリウスはまだ上を見上げている。これは、確実に僕達の事が気付かれているっぽいな。

「なんていうか、奴からは『悪い予感』みたいなものがするんだ。だから僕一人で行く。使いたくないけど、いざとなれば切り札覚醒もあるしね。あ、それとドレム、魔力切れのお前が行っても戦力にはならない。もしも、人質に取られると動きにくくなる。僕は遠慮なく攻撃するけど」
「貴方ってわりとクズですよね」
「どこがだよ。いきなり魔法をぶち込まれたのに水に流す僕は優しさに満ち溢れているだろ。.......なんでそんな変な顔をするんだよ? じゃあ行ってくる」
 
 顔を顰めるドレムを無視した僕は、空中に浮遊する中で、両手を腰に回して空激波を発動させた。

 空激波の衝撃で僕は背中を押され、再び自由落下の運動に組み込まれる。

 風切り音が耳を掠め、エアロフリューゲルの範囲内を抜けて僕は地面に降り立った。そして目の前には、銀髪の男が僕のことを見据えていた。

「王都に巨大な魔物が出現したと聞いて駆け付けたが.......君がやったのか? あれ程の大きさの魔物を使役するとはな。大変興味深い」

 銀髪の男はコツコツと足音を鳴らし、顔に余裕の表情を浮かべながら僕に向かって歩いてくる。顔を見れば見るほど、錬金術師の名簿に乗っていた顔とそっくりそのままだ。

 いや、『道標みちしるべ呪具じゅぐ』が銀髪の男に更に近づいたことで輝きがさっきよりも増している。

 これはもう確定だ。こいつは、ユリウス=ナサニエル本人だ。

「おっと、僕じゃないぞ。やったのは上にいるエキューデって頭がおかしい奴だ」

 僕は空に指をさして言った。変形巨大骸骨ギミックジャイアントスケルトンで街を破壊したのはエキューデだ。

 やってもいない罪でまた牢にぶち込まれるのは勘弁だ。

「次の質問は僕の番だ。ヒュージスライムキング。こいつをネメッサの街の地下水路で奴を育てていたのはお前か?」

 僕はユリウスに問いかけた。ネメッサの街の地下水路で戦ったヒュージスライムキング。僕はユリウスが、圧倒的な再生能力を持った魔物を産みだした意図が分からなかったからだ。

「.......。質問の意味が分からないな。魔物を産みだした? 第一騎士団副団長の私にはなんの理由もない」
「違うだろ。お前は第一騎士団副団長なんかじゃない。氷の錬金術師、ユリウス=ナサニエルだ」

 僕はユリウスの言葉を遮り、薬指に付けられた指輪を見せ付けた。

「ユリウス? 知らんな。なんだそれは?」
「とぼけても無駄だ。今それを証明してやる」

 僕は薬指に付けていた指輪を取り外し、ユリウスに投げて寄越した。

 この指輪は特定の生物の場所を辿るという能力だけじゃないだろう。これは勘だが、性格からしてあのちびっ子エマならこの指輪には何か細工してる筈だ。

「それは指輪? 何をしようとしている?」

 ユリウスが投げられた指輪をキャッチして、まじまじと見つめる。その時、チカチカと点滅していた指輪は、ユリウスに触れていたことで眩い光を放ち、ユリウスの頭の上に透明な板を出現させた。

「やっぱりな」

 僕は口元を歪め、透明な板ステータスボードを見つめて言った。

 流石だよエマ。あのツンデレちびっ子、中々粋な計らいをしてくれるじゃないか。僕は大好きだ。

 -簡易ステータスを表示します-
 -エラーが発生しました-
 -解析できるステータスだけを表示します-



 名前 ユリウス=ナサニエル
 種族 魔■■■族?
 職業 ■■■■儡?

 


「どうやらステータスは嘘をつかないらしいな。なあ、ユリウス」

 ステータスボードが頭の上にあるユリウスの顔には、もう余裕の表情は微塵も無くなっていた。



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