ろりこんくえすと!
2-14 Lv58の男
2-14 Lv58の男
Lv58……!? だと……!?
俺は鑑定でパツキンのLvを見て驚愕すると踵に力を込め、白磁の大理石に滑走音を立てながら急ブレーキを掛けて立ち止まった。
寸での所で大上段に振り下ろした剣を止め、俺はバックステップで後ろに後退する。
「ほう.......感がいいな」 
パツキンが手を払うと同時に虚空から剣が現れた。剣はその場で一振されると、白磁の大理石ごと、一刀両断に足元を切り裂き、オーク城全体に轟音が走った。
なんだ今の能力!? 新手のスタンド使いか!?
それにしても危なかった。あのままパツキンの懐に突っ込んでいたら俺は今頃真っ二つだ。 
鑑定を忘れずに発動した俺を褒めてあげたい。
俺は冷や汗を全身から流しながらゆっくりと後ずさる。本能が最大級の危険警報を訴え、俺の全身に鳥肌がたって震えてくる。
武者震いか? いや、これが戦慄って奴なのだろう。
くそっ、こいつバケモンかよ。Lv2の俺じゃ勝ってこねぇ。勝率は0%。つまり無理ゲーだ。
俺は後ろ歩きしながらパツキンから遠ざかる。世の中逃げるが勝ちという言葉があるが、その通りだ。
幸い、パツキンも顔は出しているが、フルアーマーをその身に纏っている。フルアーマーじゃないな、セミ装備だ。重量が重いセミ装備と俺の軽量のジャージ。全速力で走ればワンチャン逃げれるかもしれない。
「サンマソード!」
俺は剣を握る反対の手に魔法陣を展開させ、サンマを召喚すると振りかぶって投げた。
サンマはパツキンに向かって飛んでいくが、パツキンは剣を滑らかに振るうとサンマは空中で三枚下ろしにされた。
ダメだ、こりゃ勝てんわ。サンマを食べ続け十四年。サンマ愛好家の俺ですらサンマを三枚下ろしにするには数十秒かかる。
それなのに、目の前のパツキンは一秒の壁を超えてフレーム単位で三枚下ろしにしやがった。しかもまな板の上じゃない、空中でだ。
こんなの勝ち目が無い。絶望的すぎる。例えるなら、ポ○モンで一個目のジムバッジを取るためにジムリーダーに会いにいくと、いきなり四天王の一人と勝負する感じだ。
俺は背中を向けて逃げ出した。追加でカジキを召喚し、『生魚を容易く掴める手』で渾身の力を込めて後ろに放り投げる。すぐに剣が物を切る音が聞こえ、カジキも三枚下ろしにされた。
「どこへ行こうとゆうのだね?」
パツキンの冷たい声が聞こえ、俺は殺気を感じた。咄嗟に取った行動は全て勘。剣の柄と刀身を両手で押さえ、後ろを振り返った。
その直後、激しい剣戟が起こって目の前に火花が散り、俺は壁に叩き付けられた。
くそったれ。
俺はさっきの攻撃を受けて、真ん中に大きな亀裂が入った今にも折れそうな剣を見て血反吐を吐いた。
Lv58のパツキンは人間を卒業していた。さっきの攻撃に使った剣は、パツキンの身の丈の三倍程ある大剣だった。
でかすぎんだろ。モ○ハンでもあんな巨大な大剣は見たことないぞ。
パツキンはまるで小枝を振り回すように大剣をくるくると片手で回しながら言った。
「君はどんな殺し方がお好みかな? 串刺し、微塵切り、三枚下ろし。さあ、リクエストを聞いてあげよう」
俺はどうやら頭がおかしい奴に目を付けられたようだ。パツキンが愉悦に浸って笑うと、周囲の空間から剣が形成されていく。長剣、短剣、刀、etc.......。
Fa○eじゃねえんだぞお前。欲張りセットか。
それにしてもパツキンは剣を生み出す能力を持っているのか、俺も欲しい。俺は残念ながら生魚を生み出す能力だ。出来れば交換してくれ。
俺は壁に背中を預けながらパツキンに言った。
「悪いな、リクエストは無しだ。俺は切り刻むのはあまり好きじゃないんでな」
サンマは三枚下ろしにして漬け丼にしたり、蒲焼にして食べてもいいが、サンマは炭火焼きが一番なんだよ! ポン酢! 大根おろしぃ! サンマァ!
「アイスダーツ! アクアバレット!」
俺は使い物にならなくなった剣を投げ捨てると、両手に魔法陣を展開して氷矢と水弾を天井に設置されていたシャンデリアにぶつけた。
シャンデリアは俺のへっぽこ魔法でもぶっ壊れたようで、ガラスと氷が割れる音が調律し、白磁の床の上に透明色の破片が辺り一面に散らばった。
アブソリュート・ゼロ。これが俺の能力だ。覚えておきな。
俺は背中を擦りながら立ち上がると、両足に喝を入れて走り出した。
とっとっと逃げるぞ。この出口はパツキンのせいで使えそうもない。ここはオーク城、つまり王様の住まう家だ。
出口がひとつしかないってことはないだろう。探せ、探すんだ。裏口でも緊急脱出路でもいい、とにかく出口を探すんだ。
「無駄だ」
パツキンの声が聞こえ、暴風が通路に吹き荒れた。壊されたシャンデリアが更に無残に破壊され、俺は風圧に耐えきれずピンポン玉のように跳ねながら遠くに飛ばされて再び壁に激突した。
俺は地面にゴロゴロと転がりながらパツキンを見た。パツキンは大剣から白い煙を噴き出しながら歩いてくる。足元を見ると、パツキンのいた場所は三日月形に抉れていた。
野郎、地衝斬を使ったのか。もう既に狩技は廃止されたはずなのに何故使える。つーか、狩技ゲージまだ溜まってねえだろ。ふざけんな改造厨。
俺は心の中で吐き捨てて、呻きながら体を起こした。全身が痛い。この痛みは、相撲好きの父に無理矢理相撲部に入れられて、先輩方に張り手を何度もお見舞いされた時以来だ。
ちなみに相撲部は一日で辞めた。思い出したら腹が立ってきたな。あんな部活滅んでしまえ。
「最悪の気分だ」
俺は口を拭ってパツキンを睨んだ。パツキンは口を拭う俺を見て狂ったように笑った。
なんて理不尽な世界なんだ。ゲーム序盤にいきなり負けイベントが発生する事もあるが、これはいくらなんでも悪意がありすぎるだろ。
周回特典! 周回特典さえあれば.......っ!
しかし悲しいかな、俺はまだ一周目だ。ちなみにこの『現実』というバグと高難易度が多すぎる糞ゲーはセーブができないしロードもできない。
死ぬとゲームオーバー。もう二度とプレイができない欠陥品だ。
「さあ、終わりにしよう。今日の気分は真っ二つだ。これで、終わりだ」
パツキンは笑いながら大剣を振り下ろす。白磁の大理石を割りながら、空気を纏った斬撃が俺の上から振り下ろされた。
万事休す、か。
俺は力無く項垂れたまま、ギロチンによって処刑される罪人の感覚を味わいながら目を瞑った。
走馬灯が俺の脳内を駆け巡る。俺の生きてきた記憶が掘り起こされる。 
どれもこれも下らない物ばかりだ。俺は自分の送ってきた人生にうんざりして、やり残した事を思い起こしながら唇を噛み締みしめて涙を流した。
せめて、せめて.......!
可愛い女の子と童貞を卒業してから死にたかったですッ!!!
そして、爆音が響いた。
大理石の破片が吹き飛ばされ、鼓膜が破れるような感覚に陥った。
「..............?」
だが、俺は無傷だった。
俺がゆっくりと目を開けると、そこに映ったのは白金の甲冑と、燃えるような赤髪だった。
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