ろりこんくえすと!
2-12 人の背負いし罪
    2-12  人の背負いし罪
    十人十色という言葉がある。
    十人それぞれが好きな食べ物、好きな色、好きな趣味があり、そして好きな性癖がある。
    人は何故、何かを好きになるのだろうか。
    自身がその何かを好きになろうとして好きになるのではなく、気が付いていたら好きになっているものなのかもしれない。
    きっかけなんて何も無かった。気が付いたらそうなっていった。多分、彼の背負った咎はただの本能なのかもしれない。
「はぁはぁ.......っ! はぁはぁ.......っ!」
    人々が賑わう街角の一角で、エルクセム王都に植えられた茂みの中に隠れながらストーカーを行う一人の中年の男性がいた。
    中年の男性は『かめら』と呼ばれる魔道具を片手に、数多く王都に並ぶ屋台のひとつであるアイスクリームの屋台を目を大きく見開いて凝視していた。
「お、おおっ.......!    いい舌使いだ、素晴らしい!    素晴らしいよ!    おじさん感激だよ!    はぁはぁ.......!    はぁはぁ.......!」
    中年の男性は『かめら』をパシャパシャと連打しながらある一点を眺めていた。
     彼が眺めているのはアイスクリームではない。というか、彼はアイスクリーム等眼中に無かった。
    彼が関心を引いていたのはただひとつ。アイスクリームを、赤髪の女性の隣でぺろぺろと舐めている一人の幼女だった。
「か、可愛い!    可愛いなぁ!    あの水色髪の女の子凄く可愛いなぁ。白いフリフリのエプロンがとても良く似合っていて、おじさんのストライクゾーンど真ん中だなぁ。ぜひ一緒にお茶でもしてお喋りしてイチャイチャしたいなぁ。歳はいくつぐらいかなぁ?    あの身長とあどけない顔を見るに九歳か十歳ぐらいかなぁ。そうだとしたら、おじさんの理想年齢ぴったりだなぁ。ああっ、可愛い、可愛いよぉ、はぁはぁ.......はぁはぁ.......はぁはぁ.......」
    彼はロリコンだった。しかも重度の、手遅れで末期状態のロリコンだった。
    彼はロリコンをこじらせすぎた故に、度々仕事を放りかしては王都に出向いて幼女の姿を影から観察していた。
    彼は『かめら』を覗いてはパシャパシャとボタンを押して幼女の姿を『かめら』の中に写す。
    この『かめら』と呼ばれる魔道具は、目の前ある風景を切り取って絵にする事ができる魔道具だ。 彼は『かめら』を利用して、盗撮した幼女達の写真をコレクションしている変態だった。盗撮した写真は彼の大事なコレクションとなり、寂しい時のオカズとなるのだろう。
「団長、真昼間からこんな所で何しているんですか.......」
 
    彼が幼女の盗撮に精を出している時、彼の後ろからよく聞き慣れて、そしてため息が混じった声が聞こえてきた。
「ぬおおおあああッ!?    って、なんだ、ドレムかびっくりさせるな。おじさんは今ね、とてもいいところなんだ。邪魔しないでくれたまえ」
    彼に後ろから声を掛けたのは、ゆったりとした黒色ローブに身を包む女性だった。
    女性は未だに茂みの隠れて身を屈める中年の男性を見ると、天を仰いで大きな溜息を吐いた。
「はぁ.......また貴重な魔道具を勝手に持ち出してストーカーしてるんですか?    よくもまあ、毎日毎日飽きないですね。馬鹿なことやってないで早く仕事に戻りますよ、団長」
「だが断る!    おじさんはね、パトロールという重大な仕事をしているのだよ。ドレム、おじさんはパトロールに忙しいからほっといてくれ」
「何がパトロールですか!    明らかに幼い女の子を盗撮して興奮していただけでしょうが!」
「断じて違う!    おじさんはな、目の前にいるああいった幼い子どもこそ、凶悪犯罪や事件にあってしまう可能性が高いと思うのだよ!    だから王都の平和を守るこのおじさんが、しっかりと監視して幼い子ども達を守らなければいけないのだよ!」
ドレムは声を荒らげて、目の前の救いようがないロリコンの頭を引っぱたいた。
「あんたは幼い子ども達を襲う側の人間でしょう!?」
「何を言うか!?    おじさんは幼い子ども達の愛と平和を守るエルクセム第三騎士団団長、ロイド=ツェペリだぞ!」
    残念ながら、中年の男性はただのロリコンではなく、エルクセム第三騎士団団長という役職に就いているロリコンだった。
    そう、何故か彼は、誉あるエルクセム王都騎士団団長の一人である石厳の騎士。
    ロイド=ツェペリだった。
    何故ストーカーの彼が騎士団長になれたのか、何故ロリコンの彼が騎士団長になれたのか、それは誰も知らない謎である。
    しかし、これだけは言える。
    彼はとてもタチの悪いロリコンだ。
    例え彼が真昼間から正々堂々と、いたいけな幼女をストーカーしていても捕まらない。
    それは何故か?    それは彼が騎士団長だから。
    例え彼が幼女をストーカーしている場面を見かけられても捕まらない。
    それは何故か?    それは彼が騎士団長だから。
    例え彼が幼女を盗撮して、大量に幼女の写真が部屋にあっても捕まらない。
    それは何故か?    それは彼が騎士団長だから。
    たとえ彼が思わず目を覆って背けたくなるような変態だとしても捕まらない。
    それは何故か?    それは彼が騎士団長だから。
    例え彼が重度のロリコンであり、第一級の犯罪者予備軍でも捕まらない。
    それは何故か?    それは彼が騎士団長だから。
    王都の平和を守るエルクセム騎士団の頭、それがエルクセム騎士団団長。
    彼はその立場を悪用して、よく幼女をストーカーしているロリコンであった。
「頭が痛いです。どうしてこんな人間が騎士団長に選ばれたのでしょうか.......」
「それはおじさんが騎士団長に適任だと王が認めという理由だ。おじさんは子ども好きな、立派な騎士団長だ!」
「ちなみに聞きますけど、子ども好きなら幼い男の子も好きなんですか?」
「糞ガキは皆死ねばいいと、おじさんは思うね」
「もうダメだこの人.......」
    ドレムは頭を抱えて項垂れた。
    頭が痛かった。しかし、目の前にいるこのロリコンが自分の上司だということを考えると更に頭が痛かった。
「む、観察対象が移動を開始した。ドレム、すぐに尾行を開始するぞ」
「私も一緒にストーカーしろとか頭腐っているんですか?    もうストーカーは充分しましたよね?    早く本部に戻って溜まった仕事をこなしてください」
ロイドは不思議そうな顔でドレムを見つめて言った。
「何を言っている?    ドレムはエルクセム王都第三騎士団副団長だ。つまり、団長補佐という訳だ。その団長補佐である君が、団長であるおじさんの命令に従わないというのか!」
「ストーカーの片棒担げなんて命令はお断りですよ!    馬鹿な事言ってないで少しは団長としての自覚を持ちなさい!」
「団長としての自覚なら、おじさんは毎日毎日王都のパトロールで周囲に示しているだろう!」
「あぁ.......もうやだこの人.......」
ドレムはこの時だけ、微塵も信じていない神様に手を合わせて祈りを捧げた。
ああ、神様。どうかこのロリコンに天罰をお与え下さい。できれば人類の汚点であるこのロリコンを、母なる大地の養分に還してあげて下さい。
その時、ドレムの無垢なる願いが神に通じたのか奇跡が起きた。
「ドレム、尾行を開始するぞ。幼女の守護者であるこのおじさんが、しっかりと監し」
哀れなロリコンは最後まで言葉を紡げなかった。
ロリコンの足元から白い柱が地面を砕いて顕現し、ロリコンを空高くにぶっ飛ばした。
「うぇ?」
ドレムは突然の出来事に頭が追いつかなく、数秒の間呆けてしまった。
白い柱は複雑に組み合わされた白骨の集合体で、それが地下から溢れだしてくる。
そして、王都の一角に甲高い声と轟音が鳴り響いた。
  白骨の集合体は王都の道路を下から穿ち、砂塵の中から巨大な四本足の骸骨と、黒髪黒色の少年と灰色の髪を持つ男性がドレムの目の前に映し出された。
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