ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

1-38 旋風の一撃



    1-38    旋風の一撃



    赤い凶星は光輝く。
 
 さっきまで数百本だった触手は、今尚増え続け遂には四桁にまで到達した。
 
 黒き壁を背に触手はその本数を伸ばして蠢き続けている。
 
 そして、触手が再び空から放たれた。
 
 降り注いだ触手はネメッサの街をただの石塊に変えていく。
 
 とはいえ、ネメッサの街はもう街とは言えない景観になっているのであまり変わらない。
 
 地面が穿たれ、陥没し、無数の穴が作成されていく。
 
「ぐっ.......!」
 
 僕は地上に落ちていく触手を捌きながら、更地と呼ぶに等しくなったネメッサの街を駆け抜ける。
 
 ネメッサの街に住む人々の多くは死んでしまったが、まだ生き残りがいるはずだ。  
 
 その人たちを見捨てる訳にはいけない。
 
 僕は降り注ぐ触手を心形刃紋で迎撃しようと腰のベルトに手を伸ばす。
 
 だが、
 
「ダガーがもうない.......?」
 
 そう、腰のベルトにはもうダガーが無かった。
 
 砕け散ったりして、残ったダガーの正確な本数は分からないがまだ何振りかあったはずだ。
 
 心当たりがあるとするならば、貪食の食人鬼に腹を貫かられた時に何処かへ落としてしまったらしい。
 
 落としたダガーなら、恐らく貪食の食人鬼と一緒に空の上だろう。
 
 虚偽の理を使い、一時的に万有引力の法則を盗み出して天に拘束したのだ。  
 
 貪食の食人鬼のいた辺り一帯事、上に打ち上げたので拾うのは物理的に無理がある。
 
 こんなことをした僕が言うのもなんだが、虚偽の理はよく分からないまま咄嗟に使ってしまった。  
 
 それでも、言い訳になるだろうが虚偽の理を使わなければ既に街は滅んでいる。
 
 後悔しても遅い。時を戻すことは出来ないのだから。
 
「あの触手を、一体どうすればいいんだ」
 
 とにかく状況が不味い。
 
 覚醒した僕ですら、心形刃紋でしかあの触手への対処法が存在しない。
 
 素手でも放れる気掌拳と殺風激ではインフィニティスラストと同じように吸収されてしまうだけだ。
 
「お兄ちゃん.......」
 
 そんな時、リフィアが後ろから街を駆け抜ける僕の腰をぎゅっと抱きしめた。
 
「何やってるんだ早く逃げ.......いや、今は僕の側の方が一応安全だ」
 
 触手が天から落ちる中、リフィアが貪食の食人鬼を倒しに向かった僕の事を見つけたのは不幸中の幸いなのだろう。
 
 僕は後ろから手を回してリフィアを背負って、上から降る触手を次々と避けていく。
 
「なんとかダガーに変わる武器を探さないと」
 
 僕はリフィアを背負いながら街を再び駆け抜ける。
 
 すぐ横を触手が掠めていきながら、僕は街を見渡した。

 街を見渡したが、既に建物という建物が完全に瓦礫になっているので見つけられそうになさそうだ。

    そんな中、不意に背中からリフィアの声が聞こえてきた。
 
「お兄ちゃん、ダガーの変わりに、リフィアのこれを使って」
「え?」
 
 僕の呟きにリフィアは反応して、僕に背負られながらごそごそとエプロンを漁り、中から銀色に輝く一振りのナイフを僕に差し出した。
 
「これは.......」
 
 手渡されたのは薄い形状のナイフ。
 
 いや、これはナイフではない。
 
 手術に使うメスの一緒だろう。
 
「これはランセットと言って手術用のメスなの。けど、ただのランセットじゃないの。殺菌作用の為かミスリル銀で作られているの」
  
 ミスリル銀。
 
 それは魔力伝導率がかなり高い事で有名な貴重な金属。
 
 主に一部の高位冒険者や、都市国家を治める騎士団長等が使うレアメタル。
 
 僕が使っていたダガーは魔力の異常伝達で簡単に砕け散った。
 
 だが、このミスリル銀で作られたランセットなら僕の魔力に耐えられるかもしれない。
  
 だけど、
 
「これは、武器じゃない.......ただの手術用の道具だよ.......」
 
 そう、例えミスリル銀で作られていようがランセットはランセット。
  
 魔力に耐えられても、振り抜いた際に生じる空気抵抗の衝撃には耐えられそうにも無かった。
 
「大丈夫だよ、お兄ちゃん」
 
 そんな僕に、リフィアは背中から身を乗り出してランセットを持つ僕の手の甲に手の平を重ねる。
 
「このランセットは護身用のことを考えられて戦闘にも使えるように施してあるの」
「じゃあ、これは」
「うん。だから、お兄ちゃんなら上にいる化け物もこのランセットで倒せるはずなの」
 
 リフィアは天に人差し指をさして上を見上げた。
 
「お兄ちゃんなら、きっと出来るの」
 
 その台詞を聞いた瞬間、僕の胸が熱くなった。
 
 この、胸の中から燻っいく気持ちはなんなのだろうか。
 
 今の僕なら、できそうだ。 
 
 いや、きっとできる。
 
 僕はリフィアに頷き、踵をブレーキ代わりにして急停止をした。
 
 そのままランセットを宙に放り投げ、回転して自由落下するランセットの柄を片腕で掴み取った。
  
「分かったよ、リフィア。 いくよ、複合技能.......!」
 
 僕はリフィアに抱きしめられながら裂帛のかけ声と共に、片足だけを一歩前に出した。
 
 短い快音を響かせて、大地を踏みしめる。
 
 箭疾歩。
 
 瞬歩の強化技をその一歩を踏むだけの為に発動させる。
 
 そして、僕は天に向かって、ランセットの柄を逆さ向きに横一文字に振り抜いた。

 刃の向きは逆だが、僕が放ったのは無数の斬撃を放つインフィニティスラスト。
 
  しかし、それだけではない。

 ミスリル銀の刃は超振動を起こしながら斬撃を飛ばしていく。
 
 レゾナンスエッジ。
 
 インフィニティスラストと同じ短剣術の奥義。
 
 放つと同時に斬撃が連鎖して空中に拡張されていく。
 
 心形刃紋。
 
 貪食の食人鬼の触手に唯一、僕が使える有効打が展開された。
 
 いや、まだだ。
 
 ランセットには殺意に満ちた黒い魔力が渦巻いている。

 殺風激。
 
 全てを引き裂く黒い暴風が、ランセットを握る僕の腕を纏っていた。

 箭疾歩の勢い。
 インフィニティスラストの斬撃。
 レゾナンスエッジの超振動。
 心形刃紋の天命を斬る力。
 そして殺風激の黒竜巻。

 僕はこれら全ての技能を組み合わせる。

 前に、閃刃に歪風を乗せて放った応用技と同じ事を行う。

 だが、今回は違った。

 覚醒した僕はもう、常人の枠には収まらない。

 限界の壁を超え、人の域を踏み越えたその先にあったのは、たったひとつの到達点。
 
 曰く、その刃は天を貫き、
 曰く、その風は全てを払い、
 曰く、その技は至高の斬撃、
 
 故に、僕の一撃は昇華する。

 「逆巻くさかまく辻太刀風つじたちかぜ

 空気が割れた。

 空間に無数の真空の斬撃が奔る。
 
 斬撃は風を纏いながら一同だけ広がり、ひとつに合わさっていく。

 それはただの応用技ではなかった。

 体術、短剣術、風遁術、暗殺術が融合し、新たに生み出した極地。

 僕が編み出し、この世界で僕だけが使える最終奥義。
 

 それが、逆巻く辻太刀風。


 黒き暴風を纏ったランセットが完全振り抜かれ、突風が生まれる。

 いや、突風なんて生易しいものではなかった。
 
 斬撃と暴風が合わさり、逆巻きの螺旋状の竜巻が出現した。
 
 竜巻は龍が天に昇るが如く、一直線に貪食の食人鬼へと向かっていく。

 それは触れただけでなにもかも跡形も無く消し去る風の塊。
 
 竜巻は大気と一緒に触手を吸い込み、その渦の中に姿を消す。
 
 伸ばされた触手は心形刃紋の渦巻く斬撃で完全に消滅する。
  
 僕の背丈を優に越える触手程度では、この竜巻に抗うことすらできない。

「これで終わりだ」

 僕は貪食の食人鬼に宣言する。
 
 貪食の食人鬼の爪撃が破れ、触手が全て切り刻まれ、両腕両足が空に舞って落ちていく。
 
 街を覆い尽くす黒き壁に垂直の一本の線が入り、みちみちと何かがちぎれていく音が鳴る。
 
 貪食の食人鬼は、黒き壁ごと半分に割かれていく。
 
 右と左が独立していき、空に夕焼けの赤い光が照らしだした。

「ゲグァァァァァアッッッ!?」
 
 絶叫を上げて貪食の食人鬼は黒き壁と一緒に崩壊が始まった。
 
 だが、貪食の食人鬼は血の溢れ出す体に力を込めて再生を始まる。
 
「いいや、無駄だ」
 
 僕は上を仰いで口にする。
 
「その斬撃は止まらない、細胞のひとつひとつ、全て残らず破壊するまで!」
 
 その言葉と同時に再生が止まり、内部から斬撃が全身を刻んだ。
 
 肉体が破裂し、貪食の食人鬼の身体を全て血潮と変えていった。
 
 黒き壁がボロボロと崩れ落ち、もうすぐ沈みそうな夕焼けが崩壊したネメッサの街を明るい光が包み込んだ。
 
 -貪食の食人鬼を討伐しました-
 
「やった.......やったよ、お兄ちゃん!」
 
 アナウンスが頭の中で響いたと同時に僕はランセットを握る手から滑り落として、
 
「え.......ちょっと、お兄ちゃん.......?」
 
 膝から地面に崩れ落ち、意識を失った。



 

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