ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

1-30 脅威度A

  

    1-30    脅威度A


  「ぐッ……ぁ……」
 
 アシュレイがふらふらと地面から立ち上がる。
 
 右腕の切断面からはボタボタと大量の血液が地面に落ちては染み込んでいく。

 いや、量があまりにも多すぎる。

 絶え間なく大量の血液が流れていくので、染み込みきれずに水たまりのように溜まっていく。

 まさに、血の池と化していた。
 
「お、おいアシュレイ.......」
「私のことはいい、それよりもブロードソードを寄越せ」
 
 僕は軽く頷いて、ブロードソードをアシュレイへと放り投げた。
 
 くるくると放物線を描いて投げられたブロードソードの柄を、アシュレイは残された左腕で素早く掴み取る。
 
 そのまま真横にブロードソードの切っ先で服を切り裂いた。
 
 裂かれた衣服の切れ端を強く引きちぎり、細長い布を作るとそれを強く切断された腕に締め付けた。
 
「まさか口の中にヒートチャリオットを打ち込んでもピンピンしているとはな。生物学的にありえなさすぎる」
 
 アシュレイが苦味を潰したような顔で貪食の食人鬼を見つめる。
 
 その間に布は赤に染まっていく。
 
 顔を強ばらせ痛みに堪えながらも布をきつく締め付あげる。
 
 そんなことをすれば激痛が更に襲いかかるだろう。それでも布を口に咥え、一切の力を緩めずにきつく縛って出血を止める。
 
 アシュレイの腕の血の流れが絶え、止血に成功した。
 
「ゲプッ」
 
 不意に、アシュレイの止血が成功すると同時に貪食の食人鬼の口から、黒い煙がもくもくと吐き出された。
 
 僕はすかさず暗視を発動して、口の中を見た。

    そこには、火傷ひとつすら負っていなかった。
 
 アシュレイのヒートチャリオットの威力は音無の洞窟での食人鬼との戦いで知っている。
 
 それを直撃、果ては口の中に受けても貪食の食人鬼は平然としている。
 
 さっきの上空の爆発でさえ、前回と遜色がない程のかなりの規模だった筈なのにこいつは無傷だ。
 
 言葉として表すなら、化け物としか言い様がない。
 
「逃げろリフィア」
 
 僕はベルトからダガーを抜き取りながら、リフィアに促した。
 
「こいつはやばい。あまりにも強すぎる」
 
 僕の手が震える。
 
 脅威度Aの魔物は、もはや人の手には負えない存在だった。
 
「だから街の外へ、早く、逃げろ.......!」
  
 恐怖と重圧で喉が急速に渇いていく。
 
 枯れた声で促す僕を見て、リフィアは涙を流して首を縦に振り、僕達の側から走り出した。
 
 そうだ、それでいい。
 
「――ふぅ.......」
 
 身を翻し、背中が小さくなっていくリフィアを見て僕は息を吐いた。
 
 僕は、一体何をやっているんだろうか。  
 
 自嘲染みに笑いながら震える手に力を込めて、無理矢理震えを黙らせる。
 
 柄を握る力が強くなり、ギリギリと音が鳴る。
 
 そんなことをしている僕は、確かに笑っていた。
 
 人間って、どうしようもない時は本当に笑ってしまうんだな。

    僕は目の前にいる化け物を見た。
 
 今、僕はリフィアを逃がし、アシュレイと共に目の前の化け物と戦おうとしている。
 
 こんなの無謀だ。勝てるわけがない。
 
 それでも、何故か僕は背を向ける事はしない。
 
 両足をずらし、ダガーを貪食の食人鬼に向けて戦闘態勢に入る。
 
「やるぞ」
「ああ」
 
 風が、吹いた。

   僕達は頷いて前だけを見る。
 
 砂を巻き上げ、風が足元を撫でていく。
 
 そして、しばらく凪いだ後、風が止んで、

    ――それが合図となり、戦闘が始まった。
 
「絶命剣!」
「ビートスパイク!」
 
 僕達は瓦礫の残骸を蹴飛ばし、前へと進む。
 
 刺突と刺突が貪食の食人鬼に向かって繰り出される。
 
 互いの全力の一突き。
 
 それでも、双刃は黒い肌に容易く弾かれる。
 
「ゲァ!」
 
 黒い腕が伸ばされ、僕達に向かって地面に叩きつけられる。
 
 咄嗟に後ろへ躱したが、黒い腕が地面に深々と突き刺さり、メキメキと砕いていく。
 
「地嵐!」
 
 腕が開き、留守となった腹部へ全力で地嵐を叩き込む。
 
 重い衝撃音が鳴り響き、突風が散る。
 
 家を容易に吹き飛ばす程の強撃。
 
 それを受けても尚、貪食の食人鬼は足を少し滑らせただけで無傷だった。
 
「瞬歩!」
「ブレードブロック!」
 
 黒い腕が不規則に曲がる。
 
 僕は瞬歩で躱し、アシュレイはブロードソードで腕を受け止めた。
 
「がっ.......!」
 
 軋む。
 
 握る腕の骨が、剣が、全身が、
 
 凄まじい怪力によって、軋む。
 
 あまりの強打により、後ろに吹き飛ばされて、壁にアシュレイは叩きつけられた。
 
「歪風!」
 
 後方で壁が崩れる音を聞きながら、僕は風の刃を貪食の食人鬼に放つ。
 
 鎌鼬が回転し、漆黒の肌を刻んでいくが、無傷。
 
 むしろ僕のダガーに細かいひびが入っていく。
 
「ゲェェァッ!」
 
 雄叫びをあげて、残った片方の腕が振り上げられた。
 
 真上に一本の黒い線が現れ、それが風を切る音を立てながら太くなっていく。
 
「ツゥッ!?」
 
 腕が振り下ろされた。
 
 僕は地面を蹴って横に回避したが、さっきの巨大な杭を打ち込むような一撃を食らった地面はもう限界が来ていたようで、ジグザグの亀裂が出来上がり陥没していく。
 
 足が沈む。
 
 バラバラと落ちていく石の板に体を乗せながら僕は下へと直行する。
 
 僕の脳が浮遊感を認識した。
 
「させるかよッ!    地嵐!」
 
 魔力が乱れ狂う。暴風が僕の下を通過し、上へと巻き戻す。
 
 落ちていく石片や土が上へ押し上げられていく。
 
 僕は吐血しながら押し上げられていく石片を足場に移動する。
 
 かつてネメッサの街の道路だった残骸を踏み台にしながら貪食の食人鬼に向かって跳んでいく。
 
「ビートスパイク!」
 
 僕の後ろで、凛としたあの声が聞こえた。
 
 アシュレイが僕と同じように石を踏み台にしながらブロードソードを突いていた。
 
 僕のすぐ横を赤髪が舞い、銅色の刃がすり抜けていく。
 
「絶命剣!」
   
 僕も、やるしかない。
 
 ダガーの刃を直線に構え、瞬歩で崩れゆく石片を蹴飛ばしながら前へと進む。
 
 短剣の剣先が、銅剣の剣先が、
 
 漆黒の悪魔へと向けられた。
 
「ゲェ……ェッ!」
 
 貪食の食人鬼の両腕が交差した。
 
 黒の双腕が、僕の視界に散らばる物を全て薙ぎ倒し、僕達へ迫っていく。
 
 そして、僕の体に凄まじい衝撃が襲いかかった。
 
 今にも沈みそうな絶海の孤島の陸地のように、バラバラと亀裂と陥没が入れ混じる地面にブロードソードが音を立てて落ちて、
 
 アシュレイの左腕が血飛沫を空中に零しながら胴体を離れて天高く舞い、
 
 僕は黒い鞭に打たれて吹き飛ばされた。
 


 

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