ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

1-27 加速する進行

    

   1-27    加速する進行


    戦線が崩壊する――。
 
 食人鬼を食い止めていた冒険者達が殺されたことで、食人鬼達の進行が広がってしまった。
 
 民家を破壊し、道路を割り、人々を喰らわんと散開する。
 
「ウェルト!    これでは被害が拡大していくぞ!」
「まずいな、このままじゃ皆殺しにされる」
 
 僕達は二人のチンピラに夢中になってる貪食の食人鬼を無視し、散らばり始めた食人鬼を追いかける。
 
 食人鬼はずんぐりしている体型からは信じられないほど、素早い動き可能だった。
 
 食人鬼達は腕の力が強いように、脚の力も強かった。
 
 一般的に、人間の足は手の三倍の力があると言われている。それは食人鬼も同じようで、バッタみたいにぴょんぴょんと障害物を飛び越えてネメッサの街を跳躍していく。
 
「待てッ!」
 
 瞬歩を発動しながら追いかけるが、食人鬼の背中はどんどん離れていく。
 
 本来、瞬歩は短距離を一瞬で移動する技能。
 
 戦闘では非常に心強いが、追いかけっことなるといつもより少し早く走れる程度にしかならない。
 
「地嵐!」
 
 僕は埒が明かないと見かねて地嵐を放つ。
 
 しかし、地嵐は食人鬼に容易く躱され民家に風穴を開けただけだった。

    背後という見えない視界からの攻撃。それなのに、簡単に避けられた。まるで後ろに目がついているみたいじゃないか。
 
 いいや、違う。
                              
 ――こいつら、強くなっている・・・・・・・
 
 前に地下水路で倒した三体の食人鬼。
 
 そいつらは僕の地嵐は避けれなかったし、僕の目でも視認できるアシュレイのアンカーショットもモロに食らっていた。
 
 もしかしたら、僕の追っている食人鬼は、かなり強い個体なのかもしれな.......

 そんな訳ないだろ。

 これは、間違いなく貪食の食人鬼のせいだ。魔物の上位種には、配下の魔物を強化する統率系統のスキルを持っていることがある。
 
 恐らく、今の食人鬼達には何かしらの補正が掛かって、ステータスが上昇しているんだと僕は思う。
 
 たださえ脅威度Cの食人鬼がこれ以上強化されるだなんて、考えたくもなかった。
 
 だけど、さっきの一連の動作でそれは確信に変わる。この状況は、かなり厄介だ。
 
「歪風!」
 
 民家の壁を蹴り飛ばし、ダガーを振り抜いて空気の斬撃を飛ばす。
 
 斜め下、死角からの攻撃。
 
 それでも食人鬼は腕を払って歪風を打ち消した。
 
 
 傷は何一つ与えられなかっが、効果はあった。
 
 食人鬼のターゲットは街の人々から僕に移ったようで、動きを止める。
 
 口から獰猛な牙を剥き出しにし、不気味な笑い声をあげながら僕を見つめた。
 
 僕と食人鬼は向かい合う。
 
 ダガーと赤い腕がお互いに向けられ、殺し合い生存競争が始まった。

 
 食人鬼の腕が伸縮し、横凪に振るわれる。
 
 対する僕はダガーを上に放り投げ、
 
 「背負い投げッ!」
 
 両手で伸ばされた腕を掴み、距離が離れた食人鬼を投げ飛ばそうとした。
 
 しかし重い。体重も然ることながら筋力が尋常じゃない。

 食人鬼は僕に放り投げられることは無く、食人鬼の立っている場所が砕けただけ。

 石片が舞い、地面が陥没する。
 
 どうやら食人鬼は足に生えている鉤爪で地面を掴み、その場で持ちこたえたようだった。
 
「ゲェ!」
 
 もう片方の腕が高速で叩きつけられる。
 
 僕は無我夢中で放り投げたダガーを握り、ブレードブロックで受け止めた。
 
 早い。そして力強い。
 
 ダガーは食人鬼の一撃を受けて柄ごと刃から砕け散った。
 
 バラバラと破片が落ちて、僕は反動を受け止められずに後ろに吹っ飛んだ。
 
 足が熱い。靴が地面と擦れたことで摩擦熱を起こしていた。僕の下から白い煙がシューッと横切った。
  
「ほんと、嫌になるな」
 
 さっきの一撃は目で負えなかった。
 
 今、僕が戦っている食人鬼は、貪食の食人鬼の統率系統のスキルの影響をモロに受けている。
 
 この食人鬼は脅威度Cじゃない。脅威度Bと言っても過言ではない強さだ。
 
「瞬歩ッ!」
 
 僕は息を吸い、呼吸を整えて地面を蹴る。
 
 腰のベルトから剣士から受け取っていた、ブロードソードを取り出して鋭い突きを繰り出した。
 
「絶命剣!」
 
 カキン、とブロードソードから、まるで固い岩にでも斬りかかったような感触が伝わった。
 
 弾かれた!?
 
 僕は狙った場所は胸の心臓。それも、堅牢な肋骨の隙間を狙ったんだ。
 
 それでも弾かれるってことは、耐久のステータスが大きく上昇している事なのだろう。
 
 筋肉が非常に高密度に収縮し、体がまるで鋼鉄の鎧にでも覆われているかのような硬さを誇っている。
 
 僕はのぞけり、隙を晒した。
 
 隙を晒した僕を食人鬼は喰らわんと、口を開けて突進する。
 
「地嵐!    回し蹴り!」
 
 無理矢理足を捻って食人鬼を蹴り飛ばす。
 
 さらに、地嵐も加えて僕自身も吹き飛ばした。
 
「うっ.......」

 なんとか避けれたが、僕は民家の壁にぶつかって呻きを漏らした。背中が痛いが、あの牙で噛みちぎられるよりはましだ。
 
 拙い。
 
 今の僕じゃ食人鬼に致命傷を負わせられない。これは僕が食人鬼を倒せない事を示していた。
 
 脅威度の一段階上昇。
 
 それによって、倒せるようになっていた食人鬼が倒せなくなってしまった。
 
 このままでは僕も食人鬼に食い殺される。
 
 食人鬼と睨みあう極度の緊張状態の中、不意に前方にあった建物が爆発した。

  「なっ.......!?」
 
 食人鬼の後ろに土煙が巻き起こり、民家が破壊される。その民家は見覚えがある。
 
 レノッカのパン屋さんだ。
 
 ボロボロと崩れ落ちていくレノッカのパン屋さんから赤い影が姿を現す。

 ――食人鬼が、もう一体。

 その食人鬼は僕を事が視認できるはずなのに、ずっと下を向いていた。
 
 僕はふらふらとよろめきながら瞬時に暗視を発動させ、土煙の中を凝視する。
 
 そこには、レンガの亡骸を這って後退していた一人の幼女の姿があった。
 
 白いエプロン、水色の髪。

    それは見間違うはずのない人物だった。
 
 リフィアだ。

 僕は駆け出した。リフィアに赤い腕が伸ばされ、もう一体の食人鬼は鋭利な鉤爪でリフィアを掴もうと近づいていく。
 
「させるかよッ!」
 
 僕は瞬歩を連続で発動させる。足に過剰な負荷を掛け、風を切る。
 
「邪魔だ! そこをどきやがれ!」
 
 そしてさっきまで戦っていた食人鬼に地嵐を五連発。僕と戦っていた食人鬼は、至近距離から放たれた地嵐は避けようがない。
 
 一撃目。食人鬼の顔面が凹み、少し後退する。
 
 二撃目。突風により身体が押し出されていく。
 
 三激目。暴風が滞空し、地面から足が離れ宙に浮いた。
 
 四激目。更に顔面が凹み、頭部から血が弾けた。
 
 そして、五激目。食人鬼は遥か後方へ吹き飛んでいった。

    食人鬼は民家に激突し、瓦礫を巻き上げて静かになった。

 僕は魔力を大幅に消耗しているのにも関わらず、更に足に負荷を掛けて瞬歩を発動し続ける。

 大地を蹴る度に骨と筋肉に激痛が走る。
 
 僕がリフィアを守るように食人鬼の目の前に躍り出た時は、既に食人鬼の腕が振り下ろされていた。
 
「ブレードブロック!」
 
 リフィアに振り下ろさた腕をブレードブロックを使って防ぐ。

「お、お兄ちゃん!?」
「ぐ、ぐぐぐぐ.......」

 筋肉が悲鳴をあげている。それでも、僕が使っていたのがブロードソードで幸いだった。
 
 もしもこれがダガーだったら、刃が砕けて僕ごとリフィアは引き裂かれていただろう。
 
「お、お兄ちゃん.......?」 
 
 リフィアは腰を抜かしていて地面に座り込み、その小さな身体を震わせて、うるうると水色の目からは涙が滲んでいた。
 
「僕のことはいい。早く逃げ、ろ.......ッ!」
 
 ギリギリとブロードソードが軋み、食人鬼の腕の力はどんどん強くなる。腕に力が込められる度、僕の筋肉が泣き叫ぶ。
 
 足が地面にひびを入れ、少しずつめり込んでいく。
 
「ゲェ.......」
 
 僕の背中から聞きたくない声が発せられた。
 
 さっきぶっ飛ばした食人鬼が起き上がっていた。
 
 口から涎をだらしくなく垂らし、ある一点をじーっと見つめている。
 
 それは、リフィアの姿だった。後方から食人鬼はリフィアに向かって歩いてくる。
 
 まずい、強化されている食人鬼を二体も相手にしながらリフィアを守ることは無理に等しい。
 
 その癖、どうやら二体の食人鬼はリフィアの事がとても気に入っているようだ。
 
 目を爛々と輝かせ、鼻息を荒くしている。
 
 食人鬼にとって、リフィアみたいな小さい子どもは特に好物らしい。
 
 確かに、身体が柔らかい上に小さいから食べやすいとは思うけど、いくらなんでも悪趣味すぎる。
 
「ぐぐぐぐぐ.......!    地嵐ッ!」
 
 僕はゼロ距離から鍔迫り合いを行っている食人鬼に向けて地嵐を放つ。
 
 遥か遠くに叩きつけるつもりで放ったが、食人鬼はステータスが強化された事で、三本の鉤爪で地面をズリズリと擦りながら後退しただけだった。
 
 全身には浅い切り傷しか刻まれない。それもすぐさま再生されていく。
 
    対する僕は、かなりこの体勢から地嵐を放つことは無理があったようで、全身の魔力が乱れて、口から一筋の血を流した。

    いや、無理なのは元からだ。

   地嵐と瞬歩を連続して発動するのは僕の体に無視のできない負荷を掛けていた。
 
 「お兄ちゃん.......っ!」
 
 ぽたぽたと、僕の赤い水滴が落ちた。
 
 リフィアは立ち上がって僕に近づき、右足をぎゅっと抱きしめた。
 
「もう、大丈夫だから.......」

    僕はリフィアを抱き寄せる。余程怖かったのだろう。リフィアの心臓がバクバクと高鳴り、僕の足から伝わってくる。
 
 僕はかれかれの喉声で、どうにかリフィアを安心させようと言葉を口にした。
 
「僕に任せておけ」
 
 絶望的なこの状況で、そう僕は言ってしまった。



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