ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

1-21 手遅れ


    1-21   手遅れ


「アシュレイ、体調は大丈夫か?」
 
 僕達は朝早くから、焚き火を焚いた場所から街へ向かって歩きだしていた。

 アシュレイはもう大丈夫なようで、いつもの調子で僕の隣を歩いている。

 一方僕は昨日は一睡も眠れなかったが、横になったお陰で身体と精神の疲労は薄まっていた。

「もう大丈夫だ。昨日の見張りでは魔物が一匹も襲ってこなかったからな。充分休めたぞ」  
「そっか。でも早く街に帰って少し安静にしないとな」
「お前は心配性だな。私はもうこの通りピンピンしてるのに」
 
 アシュレイは僕に向かってガッツポーズを繰り出す。

 両手を見ると火傷はもう引いたようで、痛々しい赤色からいつもの肌色に戻り、腫れも治まっていた。
 
 僕達は他愛のない会話を交わしながら、平原の道をゆっくりと歩いていく。

 視界の前には大きな湖が広がっていて、目を凝らさせば、遥か遠方にネメッサの街が見えてきた。

「ウェルト、ここの湖の麓を越えればもうすぐ街へ着くぞ」
「もうすぐ街か。食人鬼の件を冒険者ギルドに報告したらさっさと休もう」
 
 僕達は湖の麓に入り、数分程歩いていく。

 しかし、湖の水辺近くを歩いている時に、破損した木片の山が見えた。

 流木なのだろうか?    それにしてもかなり多い気がするが.......。
 
「アシュレイ、なんだこの瓦礫の山は?」
 
 僕は、見つけた木材の山に指をさして、アシュレイに尋ねた。
 
「これは派手に散らばって.......まて!    ウェルト、これは瓦礫なんかじゃない。湖の水質を管理する集落の民家だったものだ」
「なんだって?」
 
 僕は屈んで、散乱している木材の欠片をひとつだけ拾ってみた。

 原型を留めていない程バラバラにされていて見分けがまるでつかないが、よく見ればアシュレイの言う通り、人の手が加えられているものだ。
 
「この湖はネメッサの街の貴重な水源だ。だから毎年、何人かの住民がここに住んで水質を確かめている。だが、どうゆうことだ?    民家が跡形もなく全て破壊されている。それに人の姿が見当たらない。三十人規模で生活をしているはずなのだが.......?」
「じゃあ、ここはちょっとした村だったのか。でも壊されてすぎて見る影もないじゃないな。なんだこの白いやつ?  何かの木材.......いや、これは人の骨!?」
 
 僕は木材の中に白い棒のようなものを見つけて引っこ抜いた。

 すべすべとした触り心地と、見覚えのある色と形を確信した時、僕は悲鳴をあげる。

 恐る恐る手に持った物を僕は見つめる。

 それは紛うことなき、人の骨だった。

 形状からすると、恐らく腕の骨なのだろうか。他にも人の骨が何本も瓦礫の山の下から発掘される。
 
「ウェルト、こっちからは血の付いた服が出てきたぞ」
 
 アシュレイが僕の目の前に赤黒く変色した服を差し出してきた。

 ところどころ千切れてボロボロになった服は、この持ち主の行方を表していた。
 
「おい.......まさかッ!?」
 
 僕の背筋に寒気が走る。人の肉を一欠片すら残さず食べる魔物なんてやつしかいない。
 
 そう食人鬼だ。
 
 僕は確信を持って、湖の水辺まで走って辺りを見回した。

 そこには予想通り、いや当たって欲しくはなかったが、三本足の足跡が刻まれていた。
 
「ウェルト、まさかこの地面の足跡は」
「間違いない、食人鬼の足跡だ」
 
 湖の水辺には、三本足の足跡が残っていた。

 それも一匹や二匹じゃない。

 数十匹にも渡る足跡。 

 それが湖の中に向かってずっと続いていた。
 
「水辺には食人鬼の足跡が複数付いている。まさか、いやありえない。食人鬼が群れで行動しているのか?」
 
 食人鬼は単独で行動しない。
 
 だが、
 
「アシュレイ。もしかしたら、食人鬼を統率する上位種が存在しているかもしれない」
 
    
 食人鬼を統率できる上位種がいるとするならば話は別だ。

 僕は昨日からその事を考えていたが、最悪な事に、見事に的中してしまったようだ。
 
「食人鬼の上位種だと?    そんな魔物は聞いたことがないぞ」
「ああそうだな。けどこれを見て確信したよ」
 
 僕は地面に付けられた足跡のひとつに指をさした。

 そこには、他の足跡より二回り程大きい足跡が刻まれている。

 鉤爪の跡も、他の跡よりも一段と鋭そうだ。
 
「なんでこの足跡だけ他の足跡より大きいんだ。成長期の食人鬼がいました、なんて通じない。これは、上位種の足跡だ」
「脅威度Cの食人鬼の上位種なぞ、脅威度Aクラスの化け物だぞ! それがこの付近にいるとなれば.......!」
「かなり、不味いな」
 
 僕とアシュレイは思わず顔を顰めてい見合わせた。僕は焦燥を噛み締めながら、口を開く。
 
「アシュレイ、ひとつ聞いてもいいか?」
「.......聞きたいことは予想できるな。言ってみろ」
「ここの湖と地下水路って繋がってるよな?」
「.......その通りだ」
 
 それはつまり、もう食人鬼の上位種と複数の食人鬼が街の地下水路に潜伏している事を示していた。
 
「くそっ! 最悪の展開だ、街へ急ぐぞアシュレイ!」
 



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