能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜

大島 こうのすけ

EP.128 魔術師は挑発する

魔獣の大軍を率いた魔族が襲来した件から一週間後、ようやく学園が開校された。現在、学園の全生徒が講堂へと集まっており、講堂内はかなりの喧騒で支配されている。


「やー、久しぶりの登校だけどなかなかこうしてみると人が多いよね」
「全生徒がいるもの、多いのは当たり前よ」
「アリスさんと.........あれ?ミナがいないな」
「ミナはさすがに王族の特等席、アリスはどっかでルイといるわ」


エリルとリアがそんな他愛もない会話をしている少し後方の席に、ちょうどルイとアリスがいた。彼の膝の上にはふわりとイルーナが鎮座している。


「ねぇ.........それってたしか私とルイ君以外には見えないんだっけ?」
「ああ、そういう魔法をかけている」
「ん、私とジークは運命共同体。離れることなど認めない」
「そ、そう...........」


アリスはなんとも言えぬ反応を見せる。第三者視点からバカップルを見ると痛く見えてしまう、そんなあれだ。そんな雑談をしているうちに、講堂内は灯りが落ちた。

全生徒の視線が、壇上へと注目する。巨大な講堂内部に、鮮明にその足音が響いた。壇上を歩く影は2つ。教師でもあり騎士団長でもあるレオと、ローブを羽織り仮面を被った男。


「まずはゼルノワール学園の生徒諸君、このような場で素顔を隠すことをどうか許して欲しい」


男は謝罪の一言から入り、そのまま続ける。


「前任の学園長が辞任することになったため、新しい学園長として私が王宮から配属された。私の名は、ジャック。この中には貴族家の出身で聞いた者も居るのではないだろうか。『五面相ファイブフェイス』を統括している者だ」


彼のその言葉に、一部生徒がざわつき始めた。そこから波紋のようにざわつきは広がり、やがて大きな喧騒に。しかしそれを、レオが止ませた。


「さて、長ったらしい話は嫌いだ。この辺にしておこう。とにかく、今日集まってもらったのは、私の挨拶のためだ。すまないね」


そう言って締めくくり、彼は壇上を去って脇の袖幕へと消えていく。その後、時間割連絡とともに教室まで解散となった。

もちろんそれを舞台脇で聞くはずもなく、男は学園長室の椅子に腰かけていた。


「.........やれやれ」


至って済ました表情でもはや癖となった溜息をつきながら、男は仮面をとって机に置いた。2回のノックの後にレオが入室してくる。


「どうでしたか?学園長」


少し意地悪い笑みと共にレオはそう質問した。しかし彼はいたって淡々と返す。


「やめろ、柄じゃない」
「でも事実、君はこの学園という組織のトップに君臨することになったんだぞ?」
「背も弄り、声帯も弄り、全てが偽りの形だけの学園長だがな」


もちろん彼はいつも通りの声で、クルシュの身長で、そう言って自嘲気味に笑う。もちろんこうなったのは彼の行動によるものだ。戦争の対価として、学園の運営権を王国から讓渡された。これは全て彼の計画のうちだ。ジャックという空想の人物を作り、国王の信頼を厚くして、依存させる。自身の武力の魅力へと見事に国王を引き込んだ故の、現状。


「君は本当によくやる。私の10歳はこんなものではなかったぞ」
「身内の過去なんていつでも聞ける。だから話は掘り下げないぞ?」
「もちろんです。次は訪問が待ってますからね?学園長」


少し煽るように笑って見せたレオに、肩を竦め、またジャックを作った。この後、クルシュは各教室へ挨拶に回るのだ。なんでも歴代学園長のしきたりだとか。




一方変わって、こちらは1年のSクラス。講堂から帰ってきた生徒たちの話題は、もちろん新学園長の話で持ち切りだ。一部を除いて。


「みんな話してるねぇ〜」
「その中の人が自分たちの身近な人だと知ったらどうなるんでしょうね........」


もちろんその一部というのはエリル達、計5人だ。先程挨拶した人物が彼だと知っている5人は驚くこともしない。その話題を持ち出すこともしない。ただ周りの反応を眺めている。するとその時、前の引き扉がノックされた。


「やぁ、未来あるSクラス1年の諸君」


入ってきたのは学園長であるジャックと、レオ。先程の講堂と同じく、仮面をつけてローブを外さない。


「はーい、学園長せんせーい。どうしたんですかー?」


わざとらしくエリルが手を挙げて質問した。普段を知る者達からするならば道化もいい所だ。


「いや、しきたりに習って各クラスに挨拶へ回ろうと思ったのだが........ふむ」


少し考えて、再びジャックは口を開いた。


か」
「どういうことですかー?」


わざとらしくエリルが聞き返す。それに対し、ジャックは教壇から降りて生徒の机近くまで歩み寄る。


「いやなに、君達の総合的な実力があまりにも無さすぎると思ってね。仮にもこの学園の看板1〜3までのSクラス生徒へと選ばれたのなら、もう少し骨のある人物がいると期待してたのだが、所詮は力の上下だけで選んだ無能の集まりだったみたいだ」


その言葉に、一瞬だけその場が固まった。もちろん正体を知っている5人も。レオ自身も彼が何を考えているのか分からなくなっている。


「なんだとてめぇ!」


突っかかっていったのは、やはりと言うべきか、グレイだった。クラスのあおりを一端に受け持つのがもはや彼の定位置になっている。エリルへ挑んだ時から決まっていた、悲しい宿命である。
ジャックはトン、と置いた靴の下の床の材質をで変化させてグレイの手足をしばりつけた。


「クソっ!なんだコイツ!」
「ただの拘束魔法だ。気にしないでくれたまえ」


もがこうとするグレイを横目に、仮面の奥ですこし低く音程を落としジャックは言葉を放った。


「確かこの国は帝国へと戦争をしかけている最中は休学としていたそうだね?いや、それ自体は誠に仕方の無いことだ。国営なのだから一挙に同じことは出来ない。それも戦争中なら尚更だ」


だが、と付け加えて今度は教壇へと足を進めた。


「君たちは休みをどう使った?まさか、国が勝利することを祈っていた?はたまた休日が増えたと思って満喫していた?ハハッ」


仮面に手を当てて、天井を仰ぐ。次の瞬間、一気に雰囲気が変わった。


「怠慢だな」


ぞわりと、生徒達の背筋に悪寒が走った。それは意図して彼らに向けたもの。もちろん身内である5人も例外ではない。しかし5人は平然とした風でその話を聞いていた。


「ここは、国最高の教育機関だ。もちろん、他の学園同様に休みを与える制度も存在する。しかし、その時間を我々はなにに使えとは言っていない」


静まり返る中、さらにジャックが続けた。


「ここで分かるのは私の言っていることが矛盾していること。先程怠慢と言ったが、その時間を自由に使うのは当人次第だ。だが、ここでよく考えてみろ。君達は学園の看板を背負っている。君たちの評価が、この学園の評価だ。Sクラス以外の有象無象の評価などこの学園へはなんのプラスにもならない。結局は評価を貰うには力を必要とする。高い評価を貰うに値する力、それが必要だ」


ここで、ジャックはなにかを思いついたような仕草で、握り拳を作った手をもう片方の掌へ縦に落とした。


 「そうだ。君達には今度の長期休暇からは課題を追加しよう。何、心配することはない。簡単だ。休みが終わるまで、永遠と魔力を使い続けろ」


その瞬間、一気に生徒たちが騒ぎだす。もちろん魔力を使い続ければ魔力欠乏症となって魔力が使えなくなってしまう。しかしかれとてそんなことは承知で言っているのだ。むしろ生徒に対して、お前たちは頭が大丈夫か?とでも言うような物言いとなる。


「魔力を使い続けることで、魔力の底が上がっていく。要は体力と同じ原理だ。キツイ練習をこなして、体力をつけていく。魔力を使い続けて、魔力の底を挙げる。簡単だろう?........ああそうだ、あとは魔法詠唱を1日に100回やることもしようか」


生徒のジャックを見るその目は、侮蔑や嫌悪へと変化していた。しかしそんなことを彼が気にするはずもない。


「ここまで来たならはっきり言おう、君達はクズだ。魔法の『ま』の字も知らないゴミ共だ。そんなゴミに学園の看板を背負われても困る。悪いがこちらから君たちを突き放すことは出来ない。ならばどうするか?君達を変えるしかない。前学園長が作った甘えたしきたりも、学習内容も、すべて1から変えよう」
「てめぇ!さっきから言いたい放題言いやがって!!」


油断して魔法が緩んだグレイがジャックへ向かって殴りかかろうとする。しかしそれを、魔法が再び縛りあげた。


「反応は悪くない。だが、せめて魔法で攻めてくるべきだったな」
「クソっ!なんなんだよお前!ていうかなんでこういう時にあいつがいねぇんだよ!クルシュがよォ!」


ハッと言われてみて気づいた。クラス内がざわつき始める。もちろん本人が目の前にいるのだが、そんなこと彼が気づくはずもない。レオがサポートを入れた。


「グレイ、クルシュは今日は体調を壊して休んでいる」
「はぁ!?あいつが体壊した!?絶対仮病だろうがよ先生!」
「まぁ、そのクルシュという少年のことはどうでもいい。問題は当のこの学年だ。やれやれ、期待した私が馬鹿だったよ」


そう言って彼は教室を後にしようとした。しかし、引扉を引く寸前に彼の真横に何かが投げ込まれた。投げ込まれたそれは、彼の顔面横に突き刺さる。


「待ってください」


凛とした声が響いた。ジャックが振り返ってみれば、そこには立ち上がってジャックを睨みつけているリアがいた。彼の顔の横に刺さっているのは、学園用として使っている赤い刀身の剣の魔道具。もちろんクルシュの手は加えられていない。


「今の言葉、取り消してください」
「ほう?」
「決闘です。あなたへ決闘を申し込みます。もし私が勝てば、クラスへの侮辱の言葉を取り消し、力を証明できることを理解してください」
「君が負ければ?」
「わたしが負ければ............」


そこまで言って、彼女は言葉が出なかった。勢いに任せ出たものの、どうしようかと迷っている。その時だった。


「僕達がリアさんと一緒に謝ろう。望まれるなら土下座だってしよう」
「ほう?」


そこに出たのは、4人。ジーク、アリス、ミナ、エリル。リアの後ろで、彼女を支えるような形に立つ。


「あ、でもミナさん王族だからもしリアさんが負けてミナが土下座、なんてことが知れたら一大事かもね?」
「いいえ、大丈夫ですよエリルさん。ここでのことは全て外部に一切漏らさないと、王族の名にかけて誓います」
「僕の作戦が台無しじゃないか〜。ま、いっか。それで、こんな条件が着いたけど、先生は一生に一度でも王族が地面に頭つく姿見たいんじゃない?」
「..................」


ジャックは少しその場で黙った。しかし静かな笑い声と共に再び口を開く。


「ククク...........いいだろう。その条件で飲もうじゃないか」
「決まりですね。レオ先生、手配お願い出来ますか」
「わ、わかった」


この時、完全に身内の茶番が始まっていたのをレオは必死に声を押し殺して平常心で聞いていたという。





ーー喧嘩を売られたら、売り返す。


どうも作者さんです。本当にお待たせしました。執筆中に文章が丸ごと消えたり、リアルの忙しさだったりでやる気が吹き飛んでいたのです..........。

まぁそんな作者ですが、今回までの話を見返すと、あれ?リアの戦闘シーン、4章になかったよね?とか思い、こんな感じに至りました。せっかくエリカと修行している描写は書いていたのに、結局忘れてしまっていましたからね。そんなわけで、次回はジャック学園長(クルシュ)VSリアとなります。
久しぶりに戦うリアは、クルシュにどこまで自分の成長した姿を見せれるのでしょうか!お楽しみに!

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