能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜
EP.125 アリスの試練
月がくっきりと形を成す、満月の夜のとある日の事。ここはベルフレート邸、とある一室に窓際から月光が差し込んだ。その光が照らす先、紅き絨毯の床には靴音が響く。暗がりでもはっきりとわかる純白の翼、窓から入る風に灰色の髪がなびき、アメジストと見間違える宝石のような青い瞳は眠る彼女を見下ろす。
「ん........んぅ.........?」
まるで合わせたように、彼女の瞳が開かれた。そのエメラルドグリーンの瞳が捉えた先に、同じく彼女を見下ろす者の視線があった。
「..........っ!!」
「あら、起こしちゃったかしら。ごめんなさいね?」
口を隠して微笑んだその女性を、彼女は知っていた。自分の中に宿った天使、リューネだ。
「どうして............!?」
「今日は満月。今日の日だけは私の魔法が作用する日なの。まぁこの体は幻影だけど」
「こっちに出てきて何をする気なのっ!」
「何を?そうね............」
少し考える素振りをして、数十秒。また貼り付けたような微笑みを浮かべた。
――刹那。
「っ!?」
いつ抜刀したかも分からぬ不可視の攻撃。音も実像もなく、一瞬にしてアリスの首筋に彼女の剣、フレスロアがあてがわれる。
「驚くことじゃないわ。私の体が幻影だとしても、物を持てないなんて道理はないのよ?」
なおも笑い続けるリューネに対して、アリスの首筋から血液が垂れた。だがその次の瞬間には、フレスロアが納刀されていた。
「まぁ、ほんの冗談よ。あなたを私が殺したならば、私は死よりも恐ろしい地獄の夢を見そうだから」
一つため息をついて、面白無さげに彼女が眠っていたベッドに腰かける。なおもこちらを見つめるアリスに対して、リューネはまた溜め息をついた。
「何?警戒しているの?残念だけど私はあなたを直接的にも間接的にも殺すことは出来ない。もちろんこちらに殺す意思はないわ、仮にも私の宿主なんだから。安心して?」
今更アリスの首筋に剣をあてがっておきながら言い訳見苦しいが、当然彼女がそれを気にすることなどなく。
「さて、何をするか、だったかしら。..........そうね、興味本位で魔法を使って外へ出たけど、まぁ強いて言うなら『お話』かしら?」
そんな言葉をリューネが言おうとも、アリスの警戒が解ける事は無い。そんなアリスの様子を見て、3度目の溜息が彼女から漏れ出る。
「どうしても怪しいと思うのね..........悲しいわ..........」
「どうしてそうなったのか自分の胸に手を当てて考えてよ.........」
白々しく泣き真似をするリューネに白けた視線をアリスは送った。当然リューネ方もそんな気は無いため早急に演技をやめる。
「まぁそれは置いといて、よ。..........あなた、あんな無愛想のどこが好きなの?」
「は、はぁっ!?」
いきなり飛んできたストレートはアリスの心臓をダイレクトに刺激した。
「あ、あなたにそんな事関係ないでしょっ........!!」
「あるわよ?アリスと私は一心同体なんだから」
「...................」
「もう1人のアリス、今はそれが私。半身の事情をもう半身が知りたいのは当たり前でしょ?」
それを聞いてアリスは、しばらく考えるように黙り込んで、そして口を開こうとして。
――鐘が鳴った。
カーンカーンカーンカーンカーン!
「.........っ何!?」
静寂な村へやけに鮮明に響く金属の打撃音。村全体を見渡すベルフレート領の物見櫓に設置された襲撃を知らせる鐘の音だった。アリスは魔法で私服に着替え、フレスロアを腰に刺して足早にベルフレート邸を飛び出す。
「レオさん!?」
「アリスか!今すぐに逃げろ!」
「どうなってるの!?」
「この森で魔獣が大量に突如発生したらしい。規模は.........1万」
「1万!?」
1万、その数は小国1つを簡単に滅ぼせるほどの量である。当然それは授業でも習っていることであり世間の常識である。仮にこの数を聞いたのがクルシュ達であるならば鼻で笑っていたことだろう。しかしアリスは違う。疾風無双のエリルや範囲攻撃魔法が得意なリアならば簡単に殲滅できるところを、彼女自身は剣にしろ魔法にしろできることは限られる。圧倒的強さを持っている訳では無いのだから。
故に思案する。今自分には何が出来るのか、と。数秒の沈黙の後、自然と握った拳に力が入るのを感じた。
「.........レオさん、パパとママを連れて逃げて。私が食い止めるから」
「アリス!?何を言っているんだ!君が逃げろ!私がくい止める!」
「ここは私の生まれ育った村だもん。私が守らなきゃいけない!だからレオさん、パパとママを頼んだわ!」
「アリスっ..........!」
レオの制止を待たずにアリスは森の方へと駆け出した。気が付かぬ間に上位身体強化魔法を自身にかけ、村の中を疾風のごとき速さで抜ける。次々と光景は変わり、やがて森の前に到着した。
「へえ、1万に1人で立ち向かうの?」
「あ、あなたっ...........着いてきてたの!?」
「当然でしょ?もう1人のアリスなんだから」
気がつけば背後にリューネが佇んでいた。いつも通り笑顔を崩さぬまま、純白の翼は月光に照らされ輝いている。
「ていうか居たならレオさんに見えてたんじゃ..........」
「いいえ?私が見えるのはあなただけよ」
「そ、そう..........」
鬱蒼と生い茂る木々は暗闇をより際立たせ、どこまでも暗く先すらも見えない。この先に魔物が大量に居る、そう思うだけで恐怖が体を硬直させた。息を飲んで、次に気合を入れるように頬を両手で叩いた。
「本当にやる気なのね?」
「..........やるしか、助かる道はないもの」
「......いいわ、その心意気。私も協力してあげる」
そう言うと、リューネの体が淡く光り、そのままアリスの体へ溶け込んで行った。脳へ直接リューネの声が届く。
『さぁ、行きましょう?私はリューネ、熾天剣の天使。今宵私はあなたの可能性にかける』
「.......私はアリス・ベルフレート。その力、私の中に」
視界が冴え、身体中を魔力が巡回するような感覚を覚えた。自然とその脳裏にはとある言葉が連想される。
「『天醒の刻』」
その背中に漆黒の翼が顕現し、アリスの体を包み込む。夜に溶け込むような翼はその姿を空へ魅せるように解き放たれ、黒き羽が幾つも舞い落ちた。気がつけばその体には先程着ていた私服ではなく黒紺のドレスが。
そのまま飛翔し森全体を見渡せる高度までたどり着くと、直ぐにそれは確認できた。木々を薙ぎ倒しながら進む、荒々しく、恐ろしい魔獣の軍勢が。1万と聞いたが、それ以上あるのではないかと錯覚するほど。
「..........私が、守る!」
少女は確固たる決意の元、漆黒の翼で夜空を舞った。
――試練が、始まる。
いつからシリアスが休暇を取っていたと錯覚していた?
はいどうも、作者さんです。危なかったですね、平成最後の日という意味でも、前話投稿からもうすぐで1ヶ月という意味でも、間に合って良かったです。次回、きっと無双します、きっと。(予定はみてry)
「ん........んぅ.........?」
まるで合わせたように、彼女の瞳が開かれた。そのエメラルドグリーンの瞳が捉えた先に、同じく彼女を見下ろす者の視線があった。
「..........っ!!」
「あら、起こしちゃったかしら。ごめんなさいね?」
口を隠して微笑んだその女性を、彼女は知っていた。自分の中に宿った天使、リューネだ。
「どうして............!?」
「今日は満月。今日の日だけは私の魔法が作用する日なの。まぁこの体は幻影だけど」
「こっちに出てきて何をする気なのっ!」
「何を?そうね............」
少し考える素振りをして、数十秒。また貼り付けたような微笑みを浮かべた。
――刹那。
「っ!?」
いつ抜刀したかも分からぬ不可視の攻撃。音も実像もなく、一瞬にしてアリスの首筋に彼女の剣、フレスロアがあてがわれる。
「驚くことじゃないわ。私の体が幻影だとしても、物を持てないなんて道理はないのよ?」
なおも笑い続けるリューネに対して、アリスの首筋から血液が垂れた。だがその次の瞬間には、フレスロアが納刀されていた。
「まぁ、ほんの冗談よ。あなたを私が殺したならば、私は死よりも恐ろしい地獄の夢を見そうだから」
一つため息をついて、面白無さげに彼女が眠っていたベッドに腰かける。なおもこちらを見つめるアリスに対して、リューネはまた溜め息をついた。
「何?警戒しているの?残念だけど私はあなたを直接的にも間接的にも殺すことは出来ない。もちろんこちらに殺す意思はないわ、仮にも私の宿主なんだから。安心して?」
今更アリスの首筋に剣をあてがっておきながら言い訳見苦しいが、当然彼女がそれを気にすることなどなく。
「さて、何をするか、だったかしら。..........そうね、興味本位で魔法を使って外へ出たけど、まぁ強いて言うなら『お話』かしら?」
そんな言葉をリューネが言おうとも、アリスの警戒が解ける事は無い。そんなアリスの様子を見て、3度目の溜息が彼女から漏れ出る。
「どうしても怪しいと思うのね..........悲しいわ..........」
「どうしてそうなったのか自分の胸に手を当てて考えてよ.........」
白々しく泣き真似をするリューネに白けた視線をアリスは送った。当然リューネ方もそんな気は無いため早急に演技をやめる。
「まぁそれは置いといて、よ。..........あなた、あんな無愛想のどこが好きなの?」
「は、はぁっ!?」
いきなり飛んできたストレートはアリスの心臓をダイレクトに刺激した。
「あ、あなたにそんな事関係ないでしょっ........!!」
「あるわよ?アリスと私は一心同体なんだから」
「...................」
「もう1人のアリス、今はそれが私。半身の事情をもう半身が知りたいのは当たり前でしょ?」
それを聞いてアリスは、しばらく考えるように黙り込んで、そして口を開こうとして。
――鐘が鳴った。
カーンカーンカーンカーンカーン!
「.........っ何!?」
静寂な村へやけに鮮明に響く金属の打撃音。村全体を見渡すベルフレート領の物見櫓に設置された襲撃を知らせる鐘の音だった。アリスは魔法で私服に着替え、フレスロアを腰に刺して足早にベルフレート邸を飛び出す。
「レオさん!?」
「アリスか!今すぐに逃げろ!」
「どうなってるの!?」
「この森で魔獣が大量に突如発生したらしい。規模は.........1万」
「1万!?」
1万、その数は小国1つを簡単に滅ぼせるほどの量である。当然それは授業でも習っていることであり世間の常識である。仮にこの数を聞いたのがクルシュ達であるならば鼻で笑っていたことだろう。しかしアリスは違う。疾風無双のエリルや範囲攻撃魔法が得意なリアならば簡単に殲滅できるところを、彼女自身は剣にしろ魔法にしろできることは限られる。圧倒的強さを持っている訳では無いのだから。
故に思案する。今自分には何が出来るのか、と。数秒の沈黙の後、自然と握った拳に力が入るのを感じた。
「.........レオさん、パパとママを連れて逃げて。私が食い止めるから」
「アリス!?何を言っているんだ!君が逃げろ!私がくい止める!」
「ここは私の生まれ育った村だもん。私が守らなきゃいけない!だからレオさん、パパとママを頼んだわ!」
「アリスっ..........!」
レオの制止を待たずにアリスは森の方へと駆け出した。気が付かぬ間に上位身体強化魔法を自身にかけ、村の中を疾風のごとき速さで抜ける。次々と光景は変わり、やがて森の前に到着した。
「へえ、1万に1人で立ち向かうの?」
「あ、あなたっ...........着いてきてたの!?」
「当然でしょ?もう1人のアリスなんだから」
気がつけば背後にリューネが佇んでいた。いつも通り笑顔を崩さぬまま、純白の翼は月光に照らされ輝いている。
「ていうか居たならレオさんに見えてたんじゃ..........」
「いいえ?私が見えるのはあなただけよ」
「そ、そう..........」
鬱蒼と生い茂る木々は暗闇をより際立たせ、どこまでも暗く先すらも見えない。この先に魔物が大量に居る、そう思うだけで恐怖が体を硬直させた。息を飲んで、次に気合を入れるように頬を両手で叩いた。
「本当にやる気なのね?」
「..........やるしか、助かる道はないもの」
「......いいわ、その心意気。私も協力してあげる」
そう言うと、リューネの体が淡く光り、そのままアリスの体へ溶け込んで行った。脳へ直接リューネの声が届く。
『さぁ、行きましょう?私はリューネ、熾天剣の天使。今宵私はあなたの可能性にかける』
「.......私はアリス・ベルフレート。その力、私の中に」
視界が冴え、身体中を魔力が巡回するような感覚を覚えた。自然とその脳裏にはとある言葉が連想される。
「『天醒の刻』」
その背中に漆黒の翼が顕現し、アリスの体を包み込む。夜に溶け込むような翼はその姿を空へ魅せるように解き放たれ、黒き羽が幾つも舞い落ちた。気がつけばその体には先程着ていた私服ではなく黒紺のドレスが。
そのまま飛翔し森全体を見渡せる高度までたどり着くと、直ぐにそれは確認できた。木々を薙ぎ倒しながら進む、荒々しく、恐ろしい魔獣の軍勢が。1万と聞いたが、それ以上あるのではないかと錯覚するほど。
「..........私が、守る!」
少女は確固たる決意の元、漆黒の翼で夜空を舞った。
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コメント
リムル様と尚文様は神!!サイタマも!!
お久しぶりです!!我らが神のヒトリ!!