能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜

大島 こうのすけ

EP.122 魔術師は提案する

今回は少し短いです、ごめんなさい




国王との会談(商談)の後にクルシュが転移したのはリア宅。やはり多少なりとクルシュの現状を聞いていたのか、突然訪問してきたクルシュにセレスは驚いていた。


「なんにせよ、意識が戻ってよかったわクルシュ君」
「ああ。少しの間リアにも迷惑をかけたみたいだ、すまなかったな」
「いいのよ、今はあの子のやりたいようにさせようって決めたもの」


口を手で隠しながら微笑むその姿は内心とても穏やかに見える。クルシュを看病することも伝えていたのだろう、安心したような表情に見える。


「それで、今日はなんの御用かしら?。それもリアじゃなくて私に」
「帝国を落としたのは知ってるか?」
「ええ.........まぁ知ってるわよ」
「帝国民、貴族層も合わせて全てがニルヴァーナの民だったことがわかった」
「っ!?」


クルシュのその言葉に、セレスは驚いたように目を見開く。


「どうやら相手方は記憶操作か何かで支配していたようでな。国王がいなくなりその記憶操作が溶けた次第だ」
「嘘よ............だってあの時皇国は戦火に包まれて............っ!」
「きっと反乱を起こさせたのも記憶を操作させたやつが仕組んだものだろう。それも王宮だけを狙ってな」
「じゃあ............民は..............」
「おそらくどこかに攫われ収容されたんだろう。そして記憶の変更を施された、道理は叶っている」
「そう................なのね」
「確定じゃないが帝国民全てが『ニルヴァーナ皇国』の名前を口に出しているらしくてな、十中八九そういう事だろう」


そう述べるクルシュの対面で、セレスはなにかホッとしたように胸をなで下ろしていた。


「よかった.............」
「嬉しいのか?」
「ええ。だってあの国を愛してるもの。その国の民が無事で嬉しくない王妃なんて居ないわ」


微笑んだその表情は、嬉々としているものだった。国民の安全を我が事のように喜んでいる。そのセレスに対して、クルシュの表情は真剣なものに変わる。


「さて、本題はここからだ」
「え?終わりじゃないの............?」
「事後報告に来たわけじゃない。それならばリアからでも聞けるだろう」


そう括って一旦出されたコーヒーを口に含む。下で転がして風味を楽しんだ後、喉に流して飲み込んだ。そしてカチャリとカップを置いてはセレスの瞳を見据える。


「セレス、ニルヴァーナ皇国をどうしたい?」
「えっ...............どうしたい..........って?」


唐突に投げかけられた質問があまりにも急なものでセレスは言葉を詰まらせる。まさかクルシュから身内の事など聞かれるはずもないと思っていたからだ。


「現状、元アルキメデス帝国は王国の所持下にある。帝国民もそのまま保護させている。そしてこの国の国王は帝国を潰そうとは考えていない、これが一番の問題だ」


語るその舌がますます言葉を紡ぐ。


「言うなれば、国王はこの国の処理に困っている。条約を結んでいるからな、自国の戦争で国を落としたなんてことは無いんだろう。どう処分すれば最適かなんて、知識も経験もない。故にどうも手がつけられずの状態という訳だ。国そのものを無くならせるか?いいや違う。労働力と財力的に無駄が多い。じゃあ手付かずのまま捨てるか?それも違う。資材がもったいない。じゃあどうするか?」
「............新しい城主を立てて国を作る?」
「そう、それが最適解だ。帝国を王国が落とした、これは周りの国々やほかの種族の国にも大きな影響を与えるだろう。なにせ相手は問題視ばかりされている帝国だからな、これを制した影響は大きい。そして王国側としても事後処理は面倒じゃない方がマシだ。新しく国を作ると言い出すやつがいれば他国との架け橋になるだけで利益も大きい、最初から有効な関係も作れる」
「理には叶っているけど................その、そんなに上手く事が運ぶの?」
「まぁそれは要相談だ。さて」


一拍置いて、クルシュは口を開いた。


「セレス、ニルヴァーナ皇国を再建する気は無いか?」
「えっ........?」


それは、思いにもよらぬ提案。セレスとしては思ってもみない発言である。


「でも..........どうやって?」
「あんたが直接国王と会談する。王家の証はあるだろう?」
「ええ.............一応」


ちらりと視線を移動したその先は彼女の指輪。何かしらの模様がリングに刻まれている。


「それを見せれば一目であんたが王族だとわかるはずだ、あちらも国については調べていたようだからな」


そう語るクルシュにセレスは少し黙り込んだ。何かを思うように俯いて一点を見つめている。


「あくまでこれは提案でしかない。それにこれは家族の問題でもある、1度リアと話し合ってからでもいい。しかし期限はそう長くないのを覚えていてくれ」
「.............いいえ、いいわ」
「もう決めるのか?」
「ええ。もし叶うなら、私はもう一度あの国を取り戻したい!」


力強く、そう、面と向かって言った。その声に迷いは一切なく、硬い信念を感じられる。


「いいんだな?」
「ええ、もう決めたわ」
「了解した。また後日、その時が本番だ」
「..............!」


ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。だが彼はそれ以上何も言わない、ただその場から消えた。

少し緊迫した雰囲気から晴れて、セレスはため息をついた。


「..........ほんと、不思議な子ね。よくもまぁここまで話を持って行けるものだわ」


少し疲れたように机に倒れ込んだ。


「本当、お父さんみたい...........」


今は亡き夫、ニルヴァーナ国王の顔を頭の中で思い浮かべて、セレスは笑った。




新たなクルシュの策が動く。

所でR15表記の境界線ってどこまでなんでしょう?最近その先に行っている小説多くないですか.........?

コメント

  • リムル様と尚文様は神!!サイタマも!!

    あぁ、神よ。いや、魔術師よ。感謝する。

    1
コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品