能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜

大島 こうのすけ

EP.100 魔王は授業をサボる

茜が指す夕暮れ時、ゆっくりとその瞳が開かれた。その蒼い瞳には木目の天井が映った。同時に自分が寝かされていると自覚する。そして上体を起こすと辺りを見回す。誰もおらず、1人ベッドで眠っていたようだった。そこに扉が開かれエリカとユリアが入室してくる。


「お、目が覚めたのか、ルイズ」
「おはようございます、ルイズ。と言っても朝ではありませんけどね」


2人がそれぞれ椅子を持ってきてルイズの横に掛ける。


「ここは?」
「この学園の保健室だぜ。お前、あの後意識失ったんだよ」
「そう.........」
「まぁあの場はなんとかエリカとレオが立て直してくれたのでよかったのですが...........」
「?」


苦笑い気味のユリアにルイズが頭に疑問符を浮かべて首を傾げる。その瞬間、何故かエリカがそっぽを向いた。


「レオの弟さんがルイズに勝ったのを見て、他の人達が調子に乗ったようでして、その後強気で決闘を挑んでくる生徒達にエリカがキレてほとんどの生徒達をボコボコにしてしまったんですよ」
「ありゃ頭にくるだろ!『3強』舐めすぎだっつーの!」


ユリアが頭を抱える一方でエリカは思い出したのか愚痴を吐く。その二人の光景を見たルイズは頭を下げる。


「.........ごめんなさい、今回は私が先行しすぎた」
「全くだぜ。もうちょっと大きめに構えてくれよな」
「それにしても私たちの中で一番魔法に特化しているルイズを倒すなんて。クルシュ、でしたか。あの子、一体何者なのでしょう?」


ユリアが疑問を呈する。それは最もだ。本来、『3強』というのは国の最高戦力の事。そのうちの魔法が特化しているルイズに、あろう事か魔法で勝っている。それに体術に関しても一般兵士くらいなら余裕で倒せるほどの力はあるが、それでも負けた。いくら人族生徒達の頂点に立つクラスとはいえ、『3強』と謳われる自分達に勝てるはずが無いのだ。それでは『3強』と言われる意味が無い。


「魔族?」
「有り得ますが、可能性は低いでしょう。魔族特有の異質な魔力が感じられませんでした」
「ていうか『星宝の刻印』が魔法使ってたぞ?なんだよアレ」
「..........系統は私と同じだった」
「あの刻印は魔法は使えないはずなんですが............。まさか私たちの常識自体が間違っていたのでしょうか」
「まぁ現に魔法が使えるところを見たんだ、そうとしか言えねぇな」
「それにしても、強力すぎる」


いくら魔法が使えるとはいえ、ただの年端も行かない一般学生がルイズの最大魔法を上回る威力の魔法を行使するなどありえない事だ。故に疑問は深まる。


「で、どうすんだよ?」
「しばらくは様子見...........でしょうか」
「..........とりあえずは、だけど」


3人の中では様子を見るということで収まった。










少し時は遡り、ジークはというと。


「サボりなんて、感心しませんわね」
「まぁ魔王にも色々事情はあるというものだ。気にするな」


やはりと言うべきか、エリルの予想通りラグ・ドーラ邸で紅茶を嗜んでいた。公爵家というだけあって王国の建て直しと共に優先されて建て直しされ、わずか数週間も満たずに新居のごとき屋敷が建った。そこが現在のラグ・ドーラ邸である。


「確か『3強』でしたか。人族最強の3人と呼ばれる女性冒険者達ですわよね?」
「ああ。俺の討伐の為に2年前に旅に出されたんだがここ一ヶ月の間に帰ってきたようだ」
「...........ちなみにルイの城とリンドハイム王国はどれだけ差があるんですか?」
「ふむ、そうだな。ざっと徒歩で一年半くらいか?」
「遠いですわねっ!?」
「まぁいくらでも移動手段はある。実際はそんなに時間もかかるまい。現に俺が魔王城から居なくなった2ヶ月の間にそれを発見、帰還したんだからな。あの3人は」
 「わたくしはなんであんなに頭に乗っていたのでしょう..............」


人族の事を聞き、自分の過去の姿が蘇ったのかこめかみを揉んだ。それをジークはフッと笑う。


「何を笑ってるんですかっ!!」
「いいや、最初に会った時が嘘のように豊かになったと思ってな」
「それは................ルイのおかげですわ」
「ん?俺か?」
「はい、あなたです」


フィオーネがジークへ向けて優しく笑う。


「わたくしの過去はわたくしが嫌っていた過去です。それを、どこかの誰かさんが派手に壊していきましたから」
「くはは、俺はただ俺の持論を言ったに過ぎぬ」
「それで、わたくしは結果的に救われたんです。だから、言い遅れましたけど、ありがとう」


その瞳にも、その表情にも一切の偽りはなく、これこそが彼女の本来の姿なのだろう。素直で努力家で負けず嫌いな、女の子なのだろう。本当に、心からの感謝を込めて、微笑んだ。


「やはり、お前は笑う方が似合う」
「............へっ?」


一瞬、耳を疑うようなことが聞こえて間抜けな声を上げてしまう。そしてその脳が言葉を理解して、彼女の顔を紅潮させる。


「にゃ、にゃにを!」
「む?別に事実なのだから言っても問題ないだろう」
「そ、そういう事ではなくて!.............そ、その」


次の言葉を言おうとして、詰まる。と、その時、ガチャりとドアが開いて新たに1人入室してきた。


「あらあら、ルイさん。いらしていたのですね」


その声の主は、フィオーネの姉、サレーネだ。ライトブルーの艶がある腰まで伸びた髪に、エメラルドのように輝く翡翠色の瞳はまさに芸術のよう。誰もが一目見てはその美貌と大人故に溢れる妖艶さに魅了されることだろう。それだけサレーネは本来冗談無しに美しい容姿なのだ。


「お、お姉様!?」
「ただいま、フィオーネ。良い子にしていましたか?」
「怪我はもういいのか?それに最近仕事も再開したと聞いたが」
「はい、お陰様で。もうこのとおりピンピンしてますよ」


そう言いながら微笑む。そうして来ていたローブを脱ぎ、ソファへと腰掛ける。もちろんジーク側の。


「最近はやはり療養の時のブランクが響いて疲れるんです。ルイさん、疲れを癒してくださいな♪」
「ちょっ.........!!」


ゆっくりとジークへしなだれかかったサレーネにフィオーネが身を乗り出して講義しようとする。だがサレーネのその瞳もまた意地悪くフィオーネを見ていた。


「くはは、良い。俺は来るものは拒まぬ。まぁ少し荒いが癒してやろう」
「ま、まぁまぁ.............いきなりそんなに激しいのをご所望で.............」


サレーネが何を察したのか頬に手を当てて嬉しそうに紅潮させる。そんなサレーネを尻目にジークがパチンと指を鳴らすといくつかの機能が付いた椅子が魔法陣から出現した。それにサレーネを座らせると魔力を流した。


「..........あら?あらあら................ あああああああああああああああああ!」
「魔力駆動型癒席『娯楽椅子マ・シーン』だ。クルシュのを見て俺も作ってみたがまさかここで使うとはな」


サレーネの様子を見てジークが満足そうに頷く一方で、フィオーネは頭を抱えてソファに座っていた。


「まぁ確かに、思うようには行きませんものね..............」


フィオーネは静かにそうごちた。




エルフの心、魔王知らず。



はい、作者さんです。お気に入り500人、そして記念すべき100話目です!皆さんのいいねがここまで私を押してくれました!ありがとうございます!!今後とも、よろしくお願いします。

コメント

  • リムル様と尚文様は神!!サイタマも!!

    記念すべき100話目が魔王!授業サボるてww

    1
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