能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜
EP.98 魔術師は1番手になる
舞台からこちらを見下ろす3人。すると1人がさらに舞台をおりて同じ地に立った。
「たぁっく、国王も人使いが荒いぜ。帰ってきたばかりのあたしらに講師をやれなんてよォ」
面倒くさそうにその女性は頭を掻いた。赤紺色のポニーテールに同じく赤紺色の瞳。その傍には、彼女の武器だろうか、身の丈以上の長さを誇る大槌とも戦斧とも見て取れる異様な武器が。
「皆、知っていると思うがこの方は『炎武の槌』、エリカ・セルライドさん」
「なぁに硬っ苦しい挨拶してんだよォレオ〜!」
「わっ..........ちょ、こういう時に胸揉むのは辞めてくださいっていつも...........!」
あのレオがたじろいでいた。その光景は何も知らない人が見ればただじゃれあっている大人の女性2人に見えるだろうが、クルシュやリア達には何となくエリカと紹介された女性の親父臭さが出ていて白けた視線を送っている。と、その瞬間、もう1人の女性が同じく舞台をおりてエリカの頭を手刀で殴りつけた。
「っ痛!?.........な、何すんだよユリア!!」
「いつも言っているでしょう、男まがいの真似はおやめなさいと。はぁ、全く。レオもすいませんね」
「い、いえ.......。ええっと、こちらの方は『刀姫』ユリア・ルーゲルダさん」
「初めまして。うふふふ、皆さんいい力をお持ちのようですね」
ニコニコと微笑みながらユリアはクラスに対してそう言った。艶のある黒い髪は腰まで伸び、瞳も同じく黒色。容姿も整っており、背も彼女達の中では1番高く、そのスレンダーな体型は同じ女性でも目を見張るものがあるだろう。まさに美人とはこういう人を言うのだろうと思わせる。そして何よりそのボディラインがよく分かる半ばタイツのような服を来ており、少しだけ艶めかしく思えた。そして腰には2本の刀が帯刀されている。
「エリカ、不潔」
「なぁっ!?ルイズまで!!」
「で、最後にこの方が『氷戒』ルイズ・アナスタシアさんだ」
「ん..........よろしく」
口数少なく挨拶したルイズと呼ばれる少女。天色の肩で切りそろえられた髪に広大な海のように蒼い瞳がよくあっている。顔はもちろん童顔であり、背も彼女達の中では1番小さい。何ならクルシュ達よりも少し下だ。歳もクルシュたちより下にしか思えない。そんな彼女が横で羽交い締めにされているエリカを尻目に口を開いた。
「このクラスで女子生徒の行方不明者が出た。名前はアリス・ベルフレート」
その言葉で、クラス全員が凍りついた。比喩表現ではなく物理的に、だ。彼女の足元から床が氷へと変えられていき、クラスの足元がその場に固定するように凍りついた。よく見ればルイズ自体も微量の殺気をクラスへ向けている。
「...........全く、情けない。並の兵くらいなら通用するあなた達がこんな事になるなんて」
「おいルイズ、さすがに........」
「黙って。これだけは言わなきゃ駄目」
注意しようとしたエリカがルイズの言葉により一蹴された。クラスはルイズが発する凍てつくような殺気に当てられ言葉が出ない。
「私が見た中で、あなた達みたいに落ちぶれた最高クラスはいない。人族の学生の頂点の自覚、足りてる?」
その質問を返す人物は誰もいなかった。その様子に溜息をつきながら魔法を解除しようとして、瞬間。
パキッと床の氷が踏みつけられる音が響いた。ルイズが見ると、クルシュが何食わぬ顔で平然とこちらへ歩いてきている。
「私の氷は?」
「あまりにも脆弱だったんでな、壊させてもらった」
「......... 名前は?」
「クルシュ・ヴォルフォード、そこにいるレオの弟だ」
クルシュが名乗りを上げた瞬間、ルイズはもちろんユリアとエリカも驚いたようにレオに視線を向ける。弟がいたのか!?と。レオはそれに苦笑いで返した。そして視線を戻したルイズが彼の手の甲に刻まれた刻印を見た瞬間、再び目を見開いた。それは入学試験の時の周りのような反応で。
「..........どうやって?、なぜ?」
「言っただろう、脆弱だから壊させてもらったと。耳が遠いのか?」
「っ!」
嘲笑にも似たその疑問に一瞬ルイズの殺気が強まったが、それも束の間、見事な感情コントロールでポーカーフェイスに戻る。しかしその目は鋭くクルシュを凝視していた。
「........それで、文句でもあるの?」
「いいや、ひとつ聞いておこう。アリスが行方不明なのは自覚が足りてないからか?」
「そう。もっと言えば自己管理の不足。自己責任」
「..............確かにそれは俺も同意見だ。戦場において生きるのに必死なやつが他人を助けるなんてお人好しな行動は滅多にできないからな..............だがな」
一瞬、最後の言葉に力が入ったような気がして、ルイズが睨んでいたクルシュの瞳が彼女の瞳に焦点を合わせた。
「自分の考えを押し付けるような奴にアリスを馬鹿にされる筋合いはない」
瞬間、ルイズの胸ぐらが掴みあげられ舞台に投げ込まれた。ルイズはその小さな体を空中で反転させて舞台の中央で着地すると、同じく舞台へ飛び上がってくるクルシュを睨んだ。
「..........何のつもり?というよりどうやって私を................」
「『能無し』だから身体強化もできない?むしろ魔法すら使えない?そんなことあるわけが無いだろう」
やれやれと肩を竦めて正規の舞台入口の方向へと歩いて行く。そして歩きながら口を開いた。
「1度言いたかったんだが、お前達も、クラスの連中も、なんならこの時代も、常識的に間違っているぞ。『星宝の刻印』は本来無限の可能性を秘めた未知の魔法を扱う。それをどこかで間違ったのか、お前達が歴史を曲げたのか、いつしか『能無し』と呼ばれるまでに落ちた」
「さっきから何を言って.........!」
「さらに付け加えるとしたら、アリスは『金色の刻印』でな。この時代では最優の刻印だ。それを知ったお前は『それでも最優なのか?』とでも言うんだろう?」
「っ.........」
全く、くだらないと付け加えてクルシュは上着をレオめがけて投げ渡した。
「っと」
「レオ、上着を頼むぞ」
「あ、ああ..........」
さらに中に来ていたシャツを腕まで捲りあげるとコキコキと首を鳴らした。
「この時間は基本戦闘の訓練だったな。丁度いい、1番手は俺だ」
「あなたが相手?..........ふざけてるの?」
「いや?いたって大真面目だ。だから、俺はお前と戦う」
そのクルシュの瞳には少しだけ怒気のようなものが含まれているように感じられた。
次回、クルシュどうなることやら
「たぁっく、国王も人使いが荒いぜ。帰ってきたばかりのあたしらに講師をやれなんてよォ」
面倒くさそうにその女性は頭を掻いた。赤紺色のポニーテールに同じく赤紺色の瞳。その傍には、彼女の武器だろうか、身の丈以上の長さを誇る大槌とも戦斧とも見て取れる異様な武器が。
「皆、知っていると思うがこの方は『炎武の槌』、エリカ・セルライドさん」
「なぁに硬っ苦しい挨拶してんだよォレオ〜!」
「わっ..........ちょ、こういう時に胸揉むのは辞めてくださいっていつも...........!」
あのレオがたじろいでいた。その光景は何も知らない人が見ればただじゃれあっている大人の女性2人に見えるだろうが、クルシュやリア達には何となくエリカと紹介された女性の親父臭さが出ていて白けた視線を送っている。と、その瞬間、もう1人の女性が同じく舞台をおりてエリカの頭を手刀で殴りつけた。
「っ痛!?.........な、何すんだよユリア!!」
「いつも言っているでしょう、男まがいの真似はおやめなさいと。はぁ、全く。レオもすいませんね」
「い、いえ.......。ええっと、こちらの方は『刀姫』ユリア・ルーゲルダさん」
「初めまして。うふふふ、皆さんいい力をお持ちのようですね」
ニコニコと微笑みながらユリアはクラスに対してそう言った。艶のある黒い髪は腰まで伸び、瞳も同じく黒色。容姿も整っており、背も彼女達の中では1番高く、そのスレンダーな体型は同じ女性でも目を見張るものがあるだろう。まさに美人とはこういう人を言うのだろうと思わせる。そして何よりそのボディラインがよく分かる半ばタイツのような服を来ており、少しだけ艶めかしく思えた。そして腰には2本の刀が帯刀されている。
「エリカ、不潔」
「なぁっ!?ルイズまで!!」
「で、最後にこの方が『氷戒』ルイズ・アナスタシアさんだ」
「ん..........よろしく」
口数少なく挨拶したルイズと呼ばれる少女。天色の肩で切りそろえられた髪に広大な海のように蒼い瞳がよくあっている。顔はもちろん童顔であり、背も彼女達の中では1番小さい。何ならクルシュ達よりも少し下だ。歳もクルシュたちより下にしか思えない。そんな彼女が横で羽交い締めにされているエリカを尻目に口を開いた。
「このクラスで女子生徒の行方不明者が出た。名前はアリス・ベルフレート」
その言葉で、クラス全員が凍りついた。比喩表現ではなく物理的に、だ。彼女の足元から床が氷へと変えられていき、クラスの足元がその場に固定するように凍りついた。よく見ればルイズ自体も微量の殺気をクラスへ向けている。
「...........全く、情けない。並の兵くらいなら通用するあなた達がこんな事になるなんて」
「おいルイズ、さすがに........」
「黙って。これだけは言わなきゃ駄目」
注意しようとしたエリカがルイズの言葉により一蹴された。クラスはルイズが発する凍てつくような殺気に当てられ言葉が出ない。
「私が見た中で、あなた達みたいに落ちぶれた最高クラスはいない。人族の学生の頂点の自覚、足りてる?」
その質問を返す人物は誰もいなかった。その様子に溜息をつきながら魔法を解除しようとして、瞬間。
パキッと床の氷が踏みつけられる音が響いた。ルイズが見ると、クルシュが何食わぬ顔で平然とこちらへ歩いてきている。
「私の氷は?」
「あまりにも脆弱だったんでな、壊させてもらった」
「......... 名前は?」
「クルシュ・ヴォルフォード、そこにいるレオの弟だ」
クルシュが名乗りを上げた瞬間、ルイズはもちろんユリアとエリカも驚いたようにレオに視線を向ける。弟がいたのか!?と。レオはそれに苦笑いで返した。そして視線を戻したルイズが彼の手の甲に刻まれた刻印を見た瞬間、再び目を見開いた。それは入学試験の時の周りのような反応で。
「..........どうやって?、なぜ?」
「言っただろう、脆弱だから壊させてもらったと。耳が遠いのか?」
「っ!」
嘲笑にも似たその疑問に一瞬ルイズの殺気が強まったが、それも束の間、見事な感情コントロールでポーカーフェイスに戻る。しかしその目は鋭くクルシュを凝視していた。
「........それで、文句でもあるの?」
「いいや、ひとつ聞いておこう。アリスが行方不明なのは自覚が足りてないからか?」
「そう。もっと言えば自己管理の不足。自己責任」
「..............確かにそれは俺も同意見だ。戦場において生きるのに必死なやつが他人を助けるなんてお人好しな行動は滅多にできないからな..............だがな」
一瞬、最後の言葉に力が入ったような気がして、ルイズが睨んでいたクルシュの瞳が彼女の瞳に焦点を合わせた。
「自分の考えを押し付けるような奴にアリスを馬鹿にされる筋合いはない」
瞬間、ルイズの胸ぐらが掴みあげられ舞台に投げ込まれた。ルイズはその小さな体を空中で反転させて舞台の中央で着地すると、同じく舞台へ飛び上がってくるクルシュを睨んだ。
「..........何のつもり?というよりどうやって私を................」
「『能無し』だから身体強化もできない?むしろ魔法すら使えない?そんなことあるわけが無いだろう」
やれやれと肩を竦めて正規の舞台入口の方向へと歩いて行く。そして歩きながら口を開いた。
「1度言いたかったんだが、お前達も、クラスの連中も、なんならこの時代も、常識的に間違っているぞ。『星宝の刻印』は本来無限の可能性を秘めた未知の魔法を扱う。それをどこかで間違ったのか、お前達が歴史を曲げたのか、いつしか『能無し』と呼ばれるまでに落ちた」
「さっきから何を言って.........!」
「さらに付け加えるとしたら、アリスは『金色の刻印』でな。この時代では最優の刻印だ。それを知ったお前は『それでも最優なのか?』とでも言うんだろう?」
「っ.........」
全く、くだらないと付け加えてクルシュは上着をレオめがけて投げ渡した。
「っと」
「レオ、上着を頼むぞ」
「あ、ああ..........」
さらに中に来ていたシャツを腕まで捲りあげるとコキコキと首を鳴らした。
「この時間は基本戦闘の訓練だったな。丁度いい、1番手は俺だ」
「あなたが相手?..........ふざけてるの?」
「いや?いたって大真面目だ。だから、俺はお前と戦う」
そのクルシュの瞳には少しだけ怒気のようなものが含まれているように感じられた。
次回、クルシュどうなることやら
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