能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜

大島 こうのすけ

EP.89 魔術師は闘う

魔術が荒れ狂う。曇天の空を多色のプリズムが舞い、まるでそれは流れ星が無数にまたたいているかのように。そんな空で、彼、クルシュは軍神セリギウスを冷たく、どこまでも冷徹に見下ろしていた。その体に宿る圧倒的力を持って自身が常に優位に立ちながら。


「っ!?」


彼が手を振るうごとに並の魔法師相手では捌ききれないほどの魔術が発動する。その全ては彼が独自に開発した魔術、本来の原理では防ぎきれない太古の魔術だ。だがさすがは神か、そんな魔術の数々をある時は避け、ある時は防ぎながらも対応していた。


「また外れたか。当てたと思ったんだがな?」
「貴公は、何故そのような感情を我らに抱く?」
「何だと?」
「私怨、憎悪、嫌悪、負の感情である」


それを聞いたクルシュは、何を言い出すかと鼻で笑う。


「決まってるだろ?お前達が気に食わないからだ。半端に力を持ってふんぞり返っているお前達がな」


そう言う瞬間にも魔術が展開される。

――『雷閃魔術』雷翔

蒼き雷が曇天の空より降り注いでセリギウスを穿たんと迫る。だがしかし、セリギウスは魔法陣から取り出した槍でその全てを防いだ。


「その槍は...........」
「軍聖槍ルドヴィカ。私の神器だ」
「なるほど、エリルのグラディースと同じようなものか」
「気づいていないようだが、私はもう貫いている」
「ッ!」


瞬間、クルシュの両肩が衝撃と共に穿たれた。穴から出血が溢れ、肩に激痛が走る。見えなかった、いつ行動を起こしたのかもわからない。


「私の権能は『軍師』と『武神』。所持する武具ならば神速我らの速度で扱うことが出来ようぞ」
「........なるほどな、確かに油断した」


そう言いながらも右手に『回復魔術』で傷を癒し、さらに左手で『雷閃魔術』を展開する。

――『雷閃魔術』纏雷

蒼雷がクルシュの体に纏われる。髪が静電気で逆立ち、体中を雷の光が照らす。


「雷は光の現象。光速を身に纏うとて私の攻撃は避けられぬぞ?」
「確かにそうだ。だがな?」


刹那、クルシュのその姿が消えた。


「神位身体強化魔術も合わせればどうだ?」
「っ!?」


軍神の権能を持ってしても捉えきれなかったクルシュが眼前に現れた。反射的にルドヴィカを前へ突き出すが、その時にはもうクルシュの姿はそこにはない。刹那、セリギウスの神体に神速を上回る限界の拳が打ち込まれる。


「ごはっ!?」
「まだ終わらないぞ?」


怯んだセリギウスに続けて拳が叩き込まれる。秒速100発の拳が10秒、1000発の拳が一気に打ち込まれ、さらに回し蹴りがセリギウスの首を穿った。そのまま真下へと叩き落とされた神体へと今度は魔術が展開される。

――『雷閃魔術』雷皇葬哮

魔法陣から高出力のエネルギー砲が地上向かって射出される。それは周囲に稲妻を走らせながらセリギウスに直撃し豪音を轟かせた。が、直後。


「『无二槍』」


声が響いた瞬間、クルシュの心臓に視認できない槍が打ち込まれた。激しく吐血したクルシュはそのまま蹲るようにして地面へと落下する。


「明らかに心臓を破壊したと思ったが」
「やれやれ、もしものために対策しておいて正解だったな。まぁ一瞬、衝撃で心臓が止まったが」


そう言いながら落下した時に付着した土埃を叩く。その片手間で自分の貫かれた胸部を回復しながら。


「だけどな、その槍も覚えた」
「往くぞ、魔術師!」


互いが地面を蹴る。直後、槍と拳がぶつかり合った。一撃、一撃と突き出された神器をクルシュは素手でいなして行く。上段振り下ろしからの突きを半身を引いて避けたクルシュの手が槍を掴んだ。

――『逆証魔術』

掴んだその手に魔術回路が浮かび上がり、次の瞬間槍が粉々に砕け散った。


「何っ!?」
「神器だろうと元を理解していれば壊すのは容易い」
「ちぃ!」


苦し紛れに放ったセリギウスの拳は腕を弾き後方に流され、前かがみになったところを腹部へクルシュの掌底打ちが突き刺さる。更に怯んだセリギウスへと踵が頭上から振り落とされ、そのまま頭から地面へ突っ込みバウンドした神体を回し蹴りが穿った。数回地面を跳ねて、幾度か転がる。


「魔術師だからと甘く見るなよ。だれも武闘派ではないと言った覚えはないぞ」
「......ぐふっ!ごほっ!...........確かに、その腕は我らに匹敵しよう」
「身体を動かすのは久しぶりだ。もう少し付き合え?」
「っ!?」


ニヤッと加虐的に笑ったクルシュの身体は残像を残して消える。不可視の速度で眼前へ迫ったクルシュは拳を下段に構えている。

――模倣武闘


「『昇華龍閃擊』ッ!!」


腹部に突き刺さった拳がセリギウスを上空へと突き上げた。そのままクルシュも光の尾を引きながら地面を蹴りあげセリギウスを追撃する。蹴り、アームハンマー、アッパー、まるで龍が左右に揺れながら上昇していくようにクルシュは高度を増して行く。そして5擊目、さらに天空へと突き上げられたセリギウスの眼前に瞬時に移動したクルシュの踵落としが腹部へと突き刺さり、今度は地面へと落下する。

そしてクルシュ自身も同時に落下しその姿はだんだんと黄金の龍へと姿を変えた。突き出した拳がまるで龍の顎門を開くように、そしてそのままセリギウスへと直撃する。あまりの衝撃に地面には更に亀裂が増え、爆風が瓦礫を吹き飛ばし、辺り一体を光が埋めつくした。

数十秒後、光が消えたその場で立っていたのはクルシュだった。


「これは俺の友人の武術バカが考えた技だ。何度か見せてもらって覚えたが、まさかここで使う事になるとはな。..........と言っても聞いていないか」


既に先程の一撃で神体を傷つけられたセリギウスは白目を向いて気絶していた。故に喋ることもなければ動くことも無く、あとは滅ぼすだけなのだ。


「いやはや、お見事ですね」


しかし、そこに分魂神メギルストスが待ったをかけた。セリギウスのすぐ上で滞空し、何やら魔法陣を展開していた。


「何のつもりだ?」
「いえ、さすがに滅ぼされるとまずいので回収に参りました」
「お前らの狙いはなんだ?」
「もちろん神樹切断ですとも。ですので本命はあちらですよ?」


ローブの奥で顔が笑った。


「ただの人間と神狼がどうこうできる相手ではないとだけ言っておきましょう」
「悪いがアリスもエリルもやわではないんでな。それでも..........」
「それでも私達には負けない、と?」


クルシュの言葉を遮ってメギルストスが話す。


「甘いですねぇ、なんとも甘い。私達がただ考えもなしに神を送ったとお思いですか?」
「何?」
「足止めに鏡映神と軍神は役に立ってくれました。ええ、御の字ですとも。ここまではあなた達を足止めする神達、分かりますね?」
「まさか、俺がこの布陣に分けるのを予想済みだと?」
「ええ、その通りですとも。だからこそ、神樹方面には殺傷性と切断性の優れた神をご用意しました」


『殺傷性と切断性』その言葉を聞いたクルシュの脳裏に1柱の神の存在が過ぎる。


「剣神カルヴァン......?」
「ええ、ええ!!その通りですとも!さすがは大魔術師、予想がお早い!」
「なるほど、確かに厄介な神を用意してくれたものだ」
「お助けするならばお早めに。くれぐれも駆け付けたら神樹が切断されてお仲間も皆殺されている、なんてバッドエンドはおやめ下さいよ?私たちが面白くなくなりますから。それでは、ごきげんよう」


最後に虚空へ笑い声を響かせながらメギルストスはセリギウス共々消え去った。


「.........やれやれ」


神々の面倒な策略に肩をすくませながら、クルシュは神樹へと転移した。

だがそこに居たのは、血塗れになりながら地面に伏し、気を失っているエリルだけだった。




魔術師なのに拳を使うとはこれ如何に..........

コメント

  • 神崎桜哉

    かなり私的でわがままというか、何というか、私が勝手に言いたいだけなのですが、光速を纏って、神位身体強化をつけたら光速超えますよね?
    ってことは多分ですけど1秒で繰り出せるパンチが100では少なすぎると思うんですよ。それだと、セリギウスの身体能力がそこまでになってしまいます。
    クルシュの身長を170前後と仮定した時、腕の長さは75〜80cmだと思います。また、一般的に運動している人が10秒間に繰り出せるパンチは60回程度なので、1秒で6回、片手だと3回程度という計算になります。光速は1秒約30万kmつまり3億mなので、3億(m)割る0.8(m)で3億7500万。
    つまり光速を纏った状態では、片手でも3億回以上両手だと7億回以上パンチを繰り出せます。
    つまり、光速より早いということは、これを超えることができるため、やはり1秒に100回はかなり少ないと思います。多分音速も超えてないです。
    本当にちょっと気になっただけです。ストーリーも面白いと思ってますこれからも頑張ってください。
    長々と失礼しました。

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