能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜

大島 こうのすけ

EP.62 魔術師は竜を滅する

開戦の火蓋は切って落とされた。5人が止めるのは総勢5万の軍勢と上空を滑空する不特定多数の竜達。しかしこのクルシュ、エリル、リア、アリス、ミナ。この5人だからこそそれを可能とするだろう。

クルシュは『空間収納』から全長5mほどの砲塔を携えた砲台を横一列に11並べる。魔壊型魔力駆動式固定砲台、総称『オーケストラ』。殲滅ライフル、エルードと並ぶ至高の逸品である。魔力で稼働するため弾薬も何もいらないこの砲台が、11門全て上空の竜へと向く。弾は自身の魔力の総量に比例する、つまりクルシュがこれを使えば鬼に金棒という訳だ。

言ってみれば死の砲門、そんな砲塔が照準を定めながらゆっくり竜を捉える。


「さて、記念すべき第1射だな」


軽々とそういいのけ、無造作に手を振ると、瞬間、11門の砲門全てから巨大な光のレーザーが射出される。それは、寸分違うことなく竜が飛び交う軍団へと直撃し、大爆発を起こした。


「やれやれ、汚い花火だ」


そう言って肩を竦めたのも束の間、巻き上がった煙の間から空を切る様にして竜がこちらへと飛んでくるのが見えた。視認出来るだけでも先程の量の倍はあるだろう。要は遥か上空に滑空していたため数が少なく見えた、という訳だ。相変わらずの量に溜息をつきながら次々に手を振る。幾度となく砲門から光の殲滅レーザーが射出され、一派ごとに11匹ずつ落としていく。しかし、中には一矢報いてやろうと攻撃を受けながらこちらに墜落する竜もおり、砲塔が3門、竜の巨体の体重と落下速度が乗った落下物によって破壊された。


「ふむ、ではこれでどうだ?」


ニヤッと笑いながら『空間収納』からまた魔道具を出現させる。砲身が長いが、銃口は4つに別れている浮遊する銃が、空中に五列並んだ。魔壊型浮遊散弾銃、ハチトリ。ノータイムで魔力によって引金が引かれると、秒速50mの銃弾の雨が空中に向かってばら撒かれる。

弾幕が張り巡らされ、例外ひとつなく竜が次々と空中から地面へと墜落し一部帝国軍を巻き込みながら絶命する。今回は一矢報いようとする竜もその行動をとる度にクルシュへ到達する頃には塵へと変えられた。魔力抗体を持つ圧倒的力の暴力達は、1人が作った魔道具兵器によって壊滅へと導かれた。その事実を、帝国側は愚か王国軍までも信じられないと言った表情で見つめる。が、しかし。


「戦場で余所見なんて、余裕だね?」
「あたしを無視しないでもらえるっ!?」
「隙ありすぎよっ!」


その一瞬の油断が、3人たちの餌食となる。左では暴風が荒れ狂い、右では轟音轟かせ地響きが、正面では次々と首から上が血の噴水へと変貌する。この短時間のうちに、帝国軍は当初の半分の2万5000と竜達を喪失している。戦況は圧倒的に不利となりうるかもしれないというのに、まだ進軍を諦めていない。それは一重に、今から・・・来る人物達のせいだろう。

竜を殲滅し終えた俺はこれ以上は目立つまいと3人の視覚を共有しながら状況を見ていた。3人ともまずまずの成果を発揮してくれている。









駆け抜ける一陣の風に、殺戮という名の2文字が似合う。彼が通った後には、ただ血の噴水だけが残り、死体の山が築かれる。と、その横でエリルについていたミナが突然立ちどまり膝に手を当てた。


「はぁ、はぁ、はぁ..........」
「大丈夫かい?少し飛ばしすぎたかな?」
「い、いえ、気にしないでください。まだまだついて..............っ!」


直後、ミナがその殺気を捉える瞬間にはエリルが彼女を抱きかかえ距離を取った。先程まで2人がいた場所には、文字通り空を切った片刃だけの武器が空中を泳ぐ。そのままゆっくりと視線を追うと、エリルより10センチは高いであろう筋骨隆々の男がこちらを鋭い眼光で睨みつけていた。


「ほう、よく避けた」


その男はそう言うと再び片刃だけの武器を正眼に構えた。


「誰かな?」
「見たことがあります.........。帝国5高と呼ばれるうちの一人、常闇の刻印、刀使いのジルヴァ!」


ミナがそう言うとジルヴァは目を細める。仮面で見えないが、声質からそれが女であるとわかるのは時間の問題だ。


「まさか我らの軍はこんな少女共にやられていたのか。情けないな」


ジルヴァは溜息をつきながら楽な姿勢へと戻る。すると今度はその姿勢で殺気を放ち始めた。


「僕も少女にされてるんだ.........」
「あ、あはは.........」


エリルの声質は通常よりもやはり高い。それによって顔がわからなければ間違えられることもあるだろう。仮面越しに残念そうな声で話すエリルに同じく仮面越しでミナが苦笑いする。その光景を見て、しかしジルヴァは警戒を怠らずに告げる。


「悪いことは言わん、去れ。女、子供を傷つける趣味はない」
「生憎だけど僕らが引けば後ろの王国軍に被害が出るからね。お相手するよ」


そう言って静かにエリルは剣を構えた。







そしてこちらはリア。指輪に宿るティアマトの力を使いながら確実に帝国兵を倒して行っていた。


「何よ、大したことないわねほんと」


リアはそう言いながら指輪を付けている側の手で軽く腕を振る。すると、どこから吹いたのか荒れ狂うほどの暴風が一瞬で辺りを支配する。その風に乗せられ次々と兵士たちが宙を舞い、空へ打ち上げられ、そして落下して絶命する。


「もうちょっと骨のある人出てきてくれないかしら?」
「ならばこうしたらどうだ?」


肩を竦めたその直後、何かに当たったように一瞬にして暴風が消え去った。リアは魔力の胎動がした方向へと目を向ける。


「誰っ!?」


そこに居たのは、ローブを羽織った青年。その顔には張り付いたような笑が浮かべられている。


「俺は帝国5高のうちの一人、翠碧の刻印、抵抗使いのクルード」
「クルード..........ああ、思い出したわ」


リアはギリッと奥歯を噛みながら憎らしげにクルードを見やる。その視線に、訝しげな表情を送った。


「ん?その声なんかどこかで..........」
「覚えてなくたっていいわ。どっちにしろこの気持ちは変わらないもの」


そう言った瞬間、リアの魔力量が明らかに跳ね上がった。指輪が光り、リアの魔力に呼応する。


「さぁ。始めましょう」


背後から追い風を吹かせながら、余す限りの憎しみを乗せてクルードを睨みつけた。






そしてこちらはアリス。リアと同じく指輪を使いながら兵士達の動きを止め、魔法で倒して行っている。


「もう!キリがないんだから!!」


こちらはリアと違いそろそろうんざりしているらしい。それもそうだろう、仮にも領主の娘が1万程の兵士達を1人で相手しろなど精神的にも辛いものがある。しかし戦場ではその余裕こそも命取りと言える。


「ッ!?」


アリスは咄嗟に防御魔法を展開する。直後、魔法の雨がアリスへと降り注いだが、防御魔法を展開したアリスには傷一つない。


「お見事〜!」


アリスを取り囲んだ軍の一端が開き、拍手を送りながらこちらへ歩いてくる男が。アリスはその男に警戒を強めながら次の魔法を展開しておく。


「よく防ぎました!帝国5高のうちの一人の俺の攻撃を防ぐなんて大したもんだよ!」


その男は興奮したようにそう言う。しかし当然アリスには褒められているような感覚はないため依然として警戒を強める。


「おっと、名乗り忘れてたぜ。俺は帝国5高、真紅の刻印、獄炎使いのゴルムだ」


その男は心底楽しそうに首筋の刻印を煌めかせ、手に炎を集めた状態でニヤッと笑った。






そうして俺が3人の視界共有から戻した瞬間。


「っ!!」


迫る殺気に反射的に体が動いた。眼前に振り下ろされた大剣を後ろに一回転して避け、続けざまに降ってきた魔法の雨を横に飛んで回避した。


「避けるか」
「なかなかっすね」


そうして俺を見る人影が2人。1人は鎧越しにでもわかるような筋骨隆々の体をした、俺より20センチは上かと言うほどの体躯の男。もう1人は全身ローブから顔だけを出したもう一人の男とは対象的な体躯の男。


「ふむ、もしかしなくともお前達は帝国5高のうちの2人か?」 
「よく分かったな。俺は帝国5高の一人、金色の刻印、帝国軍騎士団長。大剣使いのシド」
「同じく帝国5高の一人、蒼藍の刻印、ルルクっす」


やれやれ、どうやら先程の攻防を見て俺が1番厄介だと止めに来たんだろうな。金色と蒼藍か、悪くない組み合わせだ。


「俺に対して2人、という事はそれだけ俺が厄介ってことか?」
「そうっすよ、あれだけ居た竜を台無しにしてくれちゃって〜!」
「貴様が1番厄介だと判断した。故に私達が来たのだ」


フッ、と俺から乾いた笑いが零れ落ちた。しかしその笑みにシドとルルクは平然としている。


「そうか。まぁいい、さっさとかかってこい」
「何?」
「今、なんて言ったっすか?」
「かかってこい、と言ったんだが?」
「君、自分の立場わかってないみたいっすね?」
「いいだろう、有無も言わさず切り捨ててくれる」


我慢していた笑いが、ついに限界を迎えた。高らかに笑いあげた後に、俺は押さえつけていた魔力を少しだけ解放した。


「「っ!?」」
「今、立場がわからないと言ったな?その言葉、そっくりそのままお前達に返そう。悪いがお前達程度に俺は倒せない」


そう言って、俺は魔術を練り始める。




次回から個人視点へと切り替わります。

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コメント

  • べりあすた

    一方的な殺戮の続きだ…

    3
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