能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜

大島 こうのすけ

EP.59 罪を犯した神

冒頭から作者さんです。気がつけばもう評価数が1作品目と並びました!やったぜ!
これからも頑張りますので応援お願いします!





彼は目が覚めた。いや、目が覚めたという表現は適切ではないだろう。と、こう言う方が正しい。どこまでいこうとも純白の世界にただ独り。そこには彼しか居ない。


「.........ここは?」


彼はそう言いながら立ち上がった。単純に考えればここは彼の作った世界、1週間の間、帝国に対抗するためにアリス達を鍛えるために作った世界だ。しかし、ここは何か違う。もしここが彼の世界ならば、そこには他の3人も存在していないとおかしいのだから。


「やっと来た」


俺は咄嗟に声のした方を振り向いた。そこに居たのは、銀灰色の腰まで伸びた長い髪、それを際立たせるような銀色の瞳、150cmくらいの華奢な体を包むようにコートを羽織った少女だった。彼女はこちらを、無機質な瞳で凝視した。


「お前は誰だ?」
「私は魔王の配偶者。伴侶とも言う」
「どういう事だ?」
「そのままの意味」


無表情なその顔で、なおもその少女は続ける。


「クルシュ・ヴォルフォード、いや、大魔術師アスト。貴方に願いがある」
「どうして俺の名を知っている?」
「あなたを見ていた。ずっと、この世に生を受けた日から」
「それはつまりこの時代で、ということか?」
「正確には、そう。あなたを見て、そして転生前の名前も知った」


そうなれば、この少女は只者ではない。俺の記憶と前世を遡れるような種族など、神以外には有り得ない。しかし、神は俺が滅ぼした筈だ。


「あなたが思っていることは最も。だけど、私はそれ以上昔の神」
「昔の神?俺が滅ぼすよりも前に生きていた?」
「そう。そしてあなたが滅ぼす頃には死んでいた神」
「神は不死だと聞いたが?」
「私は神によって殺された。大罪を犯したから」


大罪、それが意味するところを俺は知らない。確かに神同士で殺し合うなら頷けるが、しかし何故だ?


「大罪?」
「そう。私は犯しては行けない罪を犯した」
「その罪は?」
「その前に聞きたい」


そう言うと彼女の無表情な顔は少し悲しげな表情へと変化し、なおも言葉を続けた。


「あなたは魔王の名を知っている?」
「魔王の名?それは.........」


いや、顔は分かる。しかし名前が分からない。どういう事だ?俺が忘れたとでもいうのか?この映像にモヤが掛かる感じは..........何だ?


「言えないはず。あなたは魔王の名を忘れてしまったから」
「忘れた?」
「そう。そしてあなたが神を殺す動機になった理由も」


そう言えばそうだ。確かに俺は何らかの為に神を滅ぼした。そしてその理由には魔王が関係していた気がする。


「何故お前はそんなことを知っている?」
「私は思想神イルーナ。様々な記憶や思いを司る神」


イルーナ、その名前は聞いたことがない。俺が知るのは滅ぼした神の名前だけだ。


「待て、神が魔王の配偶者?」
「そう。神と魔族、決して相容れない2つの種族の恋」
「もしかしてそれがお前の犯した大罪なのか?」


そう言うとイルーナはコクコクと頷いた。


「魔王に恋をしてしまった、それが私の大罪。許されない絶対の罪。これを犯した私は神に殺された」
「お前が記憶を知っているのなら、何故俺の記憶は消された?何故お前が消された俺の記憶を見れる?」
「私は思想神。消された記憶を探し当てるのは造作もないこと。だけど記憶を消した本人はわからない」


俺が消されたのは今のところ魔王に関する記憶だけ。いや、他にもっとあるのかもしれないが、今は問題ない、か。


「なら魔王の名前、そして動機を教えろ。それを教えるのは問題ないはずだ」
「言えない」


しかし目の前の彼女は、Noと言ってみせた。


「何故だ?」
「記憶は他者からの伝達より自分で思い出す方がより沢山の事を蘇らせれる。あなたが魔王に会った時、それを全て思い出すことになるだろう」


予言、と受け取るのが1番だろうか。しかし魔王か、この時代にもその存在はあるらしい。


「一つ質問だ」
「何?」
「今さっき、魔王に合えば全て思い出すと言ったな?つまりそれは、同一人物と考えていいんだな?」


またもコクコクと頷いた。


「ではもう1つ。お前は、生きているのか?」
「どうしてそれを聞く?」
「神だと言うのなら、転生することも簡単なはずだ。それも魔王の配偶者だというのならすぐさま魔王に会いに行くだろう?」
「神である私は、もう居ない、おそらく」
おそらく・・・・?」
「私の運命は、あなたとこの時間を過ごすことが最後になっている。そこから先は、どうなるのか分からない」


つまり知らぬところには答えようがないということか。


「まぁ、ならいい。で、だ。お前の願い事を受けるにして俺のメリットはなんだ?」
「あなたにメリットはない、あなたは必ずそうなる」
「ほう?」


運命の導き通り、と言うやつか。


「ここはどこだ?」
「ここは夢の中。それはあなたも分かっているはず」


ならばイルーナは夢の中で干渉している、そうする必要があった、と考えるべきか?


「お前の願いは?」
「私の願い、それはひとつ」


そうして彼女は、それを言葉にする。


「あの人を、助けて欲しい」
「助ける?」
「かつて敵であったあなたでも、最後に和解したあなただからこそ、あの人を、今度は仲間として迎えて欲しい」
「元魔王、そして今現在も魔王であるやつを仲間に?」
「そう。それが、私の願い。同じ種族からは恐れられ、他の種族からは忌み嫌われたあの人への、私の願い」


切実な、純粋な眼差しが俺を射抜く。別に断ろうと思えば一瞬だ。しかし、妙にこの願いは何よりも優先するべきことだと思えてくる。不思議なものだ。


「全く、なかなかな頼み事をしてくるものだな。神が人間に頼み事なぞ聞いたことがない」
「引き受けてくれる?」
「ああ。どっちみち魔王には会おうと思っていたからな」


確かめる必要がある。現在糸を引いているのは魔王側なのか、それともなにか別のものなのかを。今回のことはそのついでに、と言うだけなのだから問題は無い。


「でも、そのためには目の前の脅威を退けなければならない」
「その通りだな。やれやれ」
「カギは第一皇女にある」
「ミナにヒントが?」


イルーナはまたもコクコクと頷いた。


「今回の魔族は一筋縄では行かない。二手、三手先を読む必要がある。そこを注意しておく方がいい」


その言葉を最後に、俺の目の前からその少女は消えた。それと同時に俺の意識もまた深い水に落ちていくように幕を閉じた。




突如現れた思想神と名乗る少女、イルーナ。彼女が告げた言葉の意味とは!?

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