能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜
EP.54 魔術師は推察する
あの後は安全確認をして解散だった。俺達は転移魔術で家に帰ってきている。
「や〜疲れたねぇ〜」
「竜なんて滅んだってお母さんが言ってたんだけど.........」
「知らないのか?新聞に掲載されていたぞ?」
俺の指摘にウッと唸るリア。どうやら新聞は読んでいないらしい。しかし新聞に掲載されたら普通は騒ぎになるはずなんだがな、どうなっているんだかこの国は。
「あの〜私いてもいいんですか?ここ」
「ん?大丈夫だよ、リアさんだっているし」
「あ、あたしはあれよ、クルシュの奴隷だから............」
最後に向かって消え入りそうな声で顔を真っ赤にするリアに、ミナが頭を傾けた。事情を知らない奴はミナと同じ反応をする。おかげでクラスから変なレッテルを貼られているみたいだが。
「そういえばあの竜、最後クルシュ君の攻撃を自力で解いてたわよね?」
「おそらく魔法抗体が再構築されたんだろう。竜が意図的にやったとは思わないがな」
「じゃあ誰かがやるって言うの?」
リアが質問をぶつける。
「恐らくな。だがあそこにいなかったとすると遠距離操作、それもかなり遠いところからだ」
「でもそんな遠くなんてどこから............あ」
リアが気づいたように目を見開く。エリルも気づいたのか真剣な表情に変わり、ミナとアリスを置いてその場の空気が固まる。と、リアが口を開いた。
「遠くないけど...........帝国?」
「今のところはその線が有力だ。王国にいるなら既に俺が見つけてるしな」
俺はこの国全域に『探知魔術《魔》』を発動させている。変な胎動をする魔力があれば俺の魔術に反応するはずだからな。オマケにあそこは一面どこを見渡しても草原、隠れる場所はない。そうなるとやはり帝国しか疑いが無くなる。
「..........あの国はどこまでもっ!」
「リア?どうしたの?」
「あ...........なんでもないわ」
やってしまったとばかりにリアが口を紡ぐ。ニルヴァーナ皇国は帝国によって滅ぼされ、利用された。リアにとっては親の仇であり1番憎い国だろう。
「でも帝国とは不可侵条約を結んでいます。それを破るというのですか?」
「破っているならそれは問題だが、世の中はバレなければなんでもいいという世界だからな。有り得無くもない」
「それに帝国は荒々しいと聞くしね。武装国家並みに血の気の多い国だから世界征服考えてそうでも不思議じゃないよね〜」
帝国が王国と不可侵条約を結んでいるのは知っている。しかし前回のリアを利用した時も魔族は帝国と名乗った。つまり不可侵条約は既に破られている可能性が高い。
「そんなことになったら、国家間での戦争が始まりますっ!」
「ああ、それは避けられない。しかもそうなれば100%この国が負ける」
「なんでですか!?、騎士団長のレオ先生やセリル副団長さんもいます!宮廷の魔道士さんも優秀な方々が沢山いますよ!」
「あの竜の行く先を見たか?」
その言葉に誰も喋らなくなる。ミナも思い出したのか口を紡いだ。
「帝国の方向に飛んで行ったな?ここで仮説を立てる。もし帝国が自由にあの竜を操れるとしたら?そしてその竜が単騎じゃないとしたら?」
「そ、それはっ!」
否定しようにもその先をミナは答えない。そして恐る恐るリアが口を開いた。
「もし、そうだとしたら?」
「この国は滅びる。一方的な蹂躙だ」
その言葉にエリル以外の全員が戦慄し、ギリッとリアが奥歯を噛んだ。全盛期ならば俺もなんとかできたが今は少し厄介だ、単騎なら10体程度しか叩けない。リアなら一体はイケそうだが他は全滅、エリルは姿を晒す訳にも行かないためほぼ無理だ。最も、あれを使えばどうにかなるだろうが。
「そ、それじゃあ回避する方法なんかないですよね............?」
「その時はその時だ。死を受け入れる他ない」
俺のその答えに対して、納得出来ないとばかりに即反応した2人。
「クルシュ君の魔法ならなんとかなるでしょ!?」
「そうよ!クルシュの魔法なら.........」
「正直に言うと俺でもあいつを相手にするのはミナのサポートがあっても20匹が限度だ。単騎ならその半分ってところか」
エリルならなんとか出来る、とは言えないな。まだエリルの正体をバラす訳にも行かない。止むを得なくなった時、その時だけだ。
「すいません、私帰ります」
「あ、じゃあ僕送ってくね」
そう言ってエリル達は出ていく。まぁ雰囲気も悪かったからな、今日はこの辺でいいだろう。
「じゃああたしも帰るわ」
「なら俺が送っていこう」
「え?私1人で留守番!?」
「すまないな、すぐに戻る」
そうしてその場にはアリスだけが残った。
「.............」
「いやぁ〜変な話になっちゃったね」
歩き出して数分、沈黙を破ったのはエリルだった。
「そうですね。まさかあんな話になるとは思いませんでした」
「クルシュもクルシュだよね。あくまで予想なのに本当みたいに言っちゃってさ」
悪態をつくエリルを見て少しミナがフフっと笑う。
「本当に仲がいいですよね」
「そうかい?まぁ付き合いは長いけど」
「クルシュさんはいつもあんなに鋭いんですか?」
「まぁクルシュの言うことはだいたい当たるよ。軍師クルシュって呼んだりしてね、アハハ」
少しの冗談で言ったつもりの言葉にリアの顔が再び暗くなる。やってしまっとばかりに別の話題を持ち出そうとするエリルをミナが遮った。
「私、やっぱり戦うのは嫌です。怖いです」
「............」
「怖いです。戦うのが、この国を、家族を失うのが。なにより、この楽しい日々がなくなるのが怖いです」
悲しい表情で彼女はそう言った。争いを知らないからこその、皇女としての切な願いである。
「エリルさん、私は...........」
ミナが口を開こうとした瞬間
「おや、ミナじゃないか。今日はこんな時間なのかい?」
振り返るとそこにいた。長身赤髪銀眼のその男は、ミナの兄であるアイルだ。
「お、お兄様..........?」
「今日はAクラスも早くてね。僕も今帰宅途中さ」
「そうでしたか」
「おや、そこの君は........」
気がついたようにエリルに視線をむける。一方のエリルは近寄って笑みを浮かべ手を差し出す。
「エリル・リリアスだよ。よろしくね」
「これは丁寧にどうも。アイル・リンドハイム、よろしくね」
2人は固く握手をした。互いに笑いあって和やかな雰囲気が生まれる。
「おっとすまない、僕はこれから少し用事があるからね。行こうか、ミナ?」
「あ、はい。それじゃあエリルさん、また明日ですね」
「うん、じゃあまた明日ね」
そうして2人は別れを告げた。エリルの視線から2人の背がだんだんと小さくなって行く。
「.............」
そしてその場には2人の背を見失うまで険しい表情で見続けたエリルだけが残るのだった。
エリルの表情の意味とは!?
「や〜疲れたねぇ〜」
「竜なんて滅んだってお母さんが言ってたんだけど.........」
「知らないのか?新聞に掲載されていたぞ?」
俺の指摘にウッと唸るリア。どうやら新聞は読んでいないらしい。しかし新聞に掲載されたら普通は騒ぎになるはずなんだがな、どうなっているんだかこの国は。
「あの〜私いてもいいんですか?ここ」
「ん?大丈夫だよ、リアさんだっているし」
「あ、あたしはあれよ、クルシュの奴隷だから............」
最後に向かって消え入りそうな声で顔を真っ赤にするリアに、ミナが頭を傾けた。事情を知らない奴はミナと同じ反応をする。おかげでクラスから変なレッテルを貼られているみたいだが。
「そういえばあの竜、最後クルシュ君の攻撃を自力で解いてたわよね?」
「おそらく魔法抗体が再構築されたんだろう。竜が意図的にやったとは思わないがな」
「じゃあ誰かがやるって言うの?」
リアが質問をぶつける。
「恐らくな。だがあそこにいなかったとすると遠距離操作、それもかなり遠いところからだ」
「でもそんな遠くなんてどこから............あ」
リアが気づいたように目を見開く。エリルも気づいたのか真剣な表情に変わり、ミナとアリスを置いてその場の空気が固まる。と、リアが口を開いた。
「遠くないけど...........帝国?」
「今のところはその線が有力だ。王国にいるなら既に俺が見つけてるしな」
俺はこの国全域に『探知魔術《魔》』を発動させている。変な胎動をする魔力があれば俺の魔術に反応するはずだからな。オマケにあそこは一面どこを見渡しても草原、隠れる場所はない。そうなるとやはり帝国しか疑いが無くなる。
「..........あの国はどこまでもっ!」
「リア?どうしたの?」
「あ...........なんでもないわ」
やってしまったとばかりにリアが口を紡ぐ。ニルヴァーナ皇国は帝国によって滅ぼされ、利用された。リアにとっては親の仇であり1番憎い国だろう。
「でも帝国とは不可侵条約を結んでいます。それを破るというのですか?」
「破っているならそれは問題だが、世の中はバレなければなんでもいいという世界だからな。有り得無くもない」
「それに帝国は荒々しいと聞くしね。武装国家並みに血の気の多い国だから世界征服考えてそうでも不思議じゃないよね〜」
帝国が王国と不可侵条約を結んでいるのは知っている。しかし前回のリアを利用した時も魔族は帝国と名乗った。つまり不可侵条約は既に破られている可能性が高い。
「そんなことになったら、国家間での戦争が始まりますっ!」
「ああ、それは避けられない。しかもそうなれば100%この国が負ける」
「なんでですか!?、騎士団長のレオ先生やセリル副団長さんもいます!宮廷の魔道士さんも優秀な方々が沢山いますよ!」
「あの竜の行く先を見たか?」
その言葉に誰も喋らなくなる。ミナも思い出したのか口を紡いだ。
「帝国の方向に飛んで行ったな?ここで仮説を立てる。もし帝国が自由にあの竜を操れるとしたら?そしてその竜が単騎じゃないとしたら?」
「そ、それはっ!」
否定しようにもその先をミナは答えない。そして恐る恐るリアが口を開いた。
「もし、そうだとしたら?」
「この国は滅びる。一方的な蹂躙だ」
その言葉にエリル以外の全員が戦慄し、ギリッとリアが奥歯を噛んだ。全盛期ならば俺もなんとかできたが今は少し厄介だ、単騎なら10体程度しか叩けない。リアなら一体はイケそうだが他は全滅、エリルは姿を晒す訳にも行かないためほぼ無理だ。最も、あれを使えばどうにかなるだろうが。
「そ、それじゃあ回避する方法なんかないですよね............?」
「その時はその時だ。死を受け入れる他ない」
俺のその答えに対して、納得出来ないとばかりに即反応した2人。
「クルシュ君の魔法ならなんとかなるでしょ!?」
「そうよ!クルシュの魔法なら.........」
「正直に言うと俺でもあいつを相手にするのはミナのサポートがあっても20匹が限度だ。単騎ならその半分ってところか」
エリルならなんとか出来る、とは言えないな。まだエリルの正体をバラす訳にも行かない。止むを得なくなった時、その時だけだ。
「すいません、私帰ります」
「あ、じゃあ僕送ってくね」
そう言ってエリル達は出ていく。まぁ雰囲気も悪かったからな、今日はこの辺でいいだろう。
「じゃああたしも帰るわ」
「なら俺が送っていこう」
「え?私1人で留守番!?」
「すまないな、すぐに戻る」
そうしてその場にはアリスだけが残った。
「.............」
「いやぁ〜変な話になっちゃったね」
歩き出して数分、沈黙を破ったのはエリルだった。
「そうですね。まさかあんな話になるとは思いませんでした」
「クルシュもクルシュだよね。あくまで予想なのに本当みたいに言っちゃってさ」
悪態をつくエリルを見て少しミナがフフっと笑う。
「本当に仲がいいですよね」
「そうかい?まぁ付き合いは長いけど」
「クルシュさんはいつもあんなに鋭いんですか?」
「まぁクルシュの言うことはだいたい当たるよ。軍師クルシュって呼んだりしてね、アハハ」
少しの冗談で言ったつもりの言葉にリアの顔が再び暗くなる。やってしまっとばかりに別の話題を持ち出そうとするエリルをミナが遮った。
「私、やっぱり戦うのは嫌です。怖いです」
「............」
「怖いです。戦うのが、この国を、家族を失うのが。なにより、この楽しい日々がなくなるのが怖いです」
悲しい表情で彼女はそう言った。争いを知らないからこその、皇女としての切な願いである。
「エリルさん、私は...........」
ミナが口を開こうとした瞬間
「おや、ミナじゃないか。今日はこんな時間なのかい?」
振り返るとそこにいた。長身赤髪銀眼のその男は、ミナの兄であるアイルだ。
「お、お兄様..........?」
「今日はAクラスも早くてね。僕も今帰宅途中さ」
「そうでしたか」
「おや、そこの君は........」
気がついたようにエリルに視線をむける。一方のエリルは近寄って笑みを浮かべ手を差し出す。
「エリル・リリアスだよ。よろしくね」
「これは丁寧にどうも。アイル・リンドハイム、よろしくね」
2人は固く握手をした。互いに笑いあって和やかな雰囲気が生まれる。
「おっとすまない、僕はこれから少し用事があるからね。行こうか、ミナ?」
「あ、はい。それじゃあエリルさん、また明日ですね」
「うん、じゃあまた明日ね」
そうして2人は別れを告げた。エリルの視線から2人の背がだんだんと小さくなって行く。
「.............」
そしてその場には2人の背を見失うまで険しい表情で見続けたエリルだけが残るのだった。
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