能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜

大島 こうのすけ

EP.32 エリルVSグレイ

翌日、第3闘技場にSクラスは集められていた。今日は模擬戦闘授業で一日を使うというなんとも贅沢な時間割らしい。まるでエリルとグレイの決闘を見透かしたようだ。


「お前達、察しはついているだろうが私がこの授業の担当だ。それで、面白いことにも早速決闘を申し出た奴らがいるらしいな?」


少しざわついていたクラスがその声によって黙り込む。その代わりとして二人の男子生徒が立った。


「はーい、僕達でーす」
「先生、これは譲れないんです。どうか許可をください」
「何を勘違いしている?私は咎めないぞ、むしろ大歓迎だ。ましてやこの授業では実戦を想定した授業をする。まずは戦ってみるのも悪くは無いだろう」


その後様々な準備の末に決闘は成った。両者が左右の端で待機し、 審判としてレオが入る。残りのSクラスは闘技場のスタンドで彼らを応援する形だ。


「エリルくぅぅぅぅん!!!」
「きゃー!頑張ってぇぇぇ!!」


ちなみにどうやら一日で100人のファンクラブがエリルにできたそうだ。まぁ昔からそういうやつだったからな、仕方ないといえば仕方ない。


「はんっ、早速女たらしか」
「さぁ?少なくとも僕は彼女達のことは好きだよ」
「偽善が」


グレイがそう毒づく。しかしなお爽やかな表情でエリルは決闘が始まるのを待つ。レオが闘技場の中心に歩き、魔法陣が展開される。

決闘をする時は互いの了承の下、正式な魔法契約を第三者(主に審判)と結んで戦う。この契約中に決闘に乱入することを出来なくするためだ。まぁ『逆証魔術』を使えば簡単に割り込めるがエリルが負けるわけはないしむしろグレイが死なないか心配だ。まぁその辺は加減するだろうが。


「契約は結ばれた。これよりグレイ・カノープス、エリル・リリアスによる決闘を始める、互いに全力を持って叩きのめすように。始めっ!」


レオの一言で開戦が告げられた。互いに獲物を確認すると、グレイは剣型の魔道具、エリルは俺と同じ素手だ。まぁ昔に魔道具なんて物はなかったからな、当然といえば当然だが。


「『炎斬』!!」

グレイが剣を横薙に払うと炎の剣撃がエリルへと飛来する。

なるほど、グレイは真紅の刻印か。魔法の威力はやはり、リアと比べてしまうと弱いが、確かカノープスも貴族の家だ。英才教育は施されているだろう。


「ふむ、なるほどね」
「避けないと当たるぞ?」


それが何か、とでも言わんばかりにエリルが息を吹きかけると、『炎斬』が消えるどころかその風圧がグレイを結界で作られた壁に激突させた。


「..........かはっ!?」
「君こそ避けないとボロボロになるよー」
「今、どうやって.........」
「ふうって息を吹いただけだけど?それで消えるなんて思わないよねー」


ふむ、昔ならばあの程度の威力の物は子供でももう少しマシな物を作る時代だったからな。エリルにしてみればさっきのはロウソクの火に等しいのだ。


「エリル君すごぉぉぉぉい!!」
「魔法を火で消すなんてっ、やっぱりエリル君よねー!」
「私もふうってされたいー!」
「それでアイツみたいになるわよ?」
「でもエリル君なら歓迎!」


どうもエリルのファンクラブは頭のネジが飛んでいるやつが何人かいるらしい。でも恥じることは無い、そんな女は昔にもいたからな。


「次は何を見せてくれるの?」
「舐めるな!『爆炎の咆哮ドラゴン・ブレス』!!」


放たれた上位魔法が龍の形を象りエリルへと襲い掛かる。しかしエリルは片手を擡げ、その上に小さな風の弾を作った。ふむ、『風弾』か。


「それっ」


エリルが投げた小さな風の玉は『爆炎の咆哮ドラゴン・ブレス』を巻き込み小さな竜巻を作る。それが晴れる頃には、何もかもが無くなっていた。しかしエリルの周りには数多の魔法陣が出現している。


「ん?」
「こっちが本命だ!『灼熱散弾フレイム・バレッタ』!!」


そう叫んだ瞬間、上空を浮遊する魔法陣から次々に炎の弾丸がエリルに向けて放たれる。所々外れて土煙をまきあげながらも、エリルが動く形跡はない。


「どうだ!?、さすがにこれで無事とは...........」


しかしグレイは信じられないと言った表情で眼前を見つめる。それもそうだ、あれだけ魔法を叩き込んだはずのエリルが無傷でそこに立っているのだから。


「うん、なかなか良かったよ。でも惜しいね」
「な、なんで無傷なんだ!?」
「僕に『風の鎧ウィンド・アーマー』を使わせるなんて久しぶりだよ」


エリルが指をパチンと鳴らすと体の周りを被っていた風が霧散する。


「ただの..........魔法で?」
「んー、クルシュなら僕も常時『暴風の鎧テンペスタ』は使わざる負えないんだけどね。やっぱり君はクルシュより下だ」
「ふざ.........けるなよ!ただの能無しに!この俺が負けてたまるかぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


直後、グレイの魔力が先ほどの倍以上に膨れ上がる。辺りに火花が散り、結界の中は相当な熱を持っていることだろう。


「祈りよ届け、我の願いに呼応し、地獄の黒炎を!」
「やれやれ、本当に詠唱なんか有るんだね」
「吹き飛ばす!『獄炎ヘルファイア』!!!」


突き出した手から膨大な黒炎が吹き出す。その全てが、エリルを焼き尽くすために用意された地獄の炎。しかしエリルはそれを前にしても顔一つ変えない。


「やはり君はクルシュ以下だよ。魔法も、技術も、と言うより全てね。僕はこんなのにやられるほどヤワじゃない!」


何を思ったのか、魔法に対してエリルは素手でそれを受け止める。炎が手を焼くのも気にせず、勢いよくその掌を閉じた。すると、魔法が握りつぶされその場に霧散する。


「なっ............!?」
「ふう、何とかなるものだね」
「魔法を........素手で.........?」


もちろんその反応が妥当だ。俺とて簡単に真似できる芸当ではない。俺は痛いのは嫌いだからな。周りの反応も言葉を失っていると言った感じだ。


「きゃぁぁぁぁエリル君さすがよぉぉぉぉぉ!!」
「魔法を素手で潰すなんてっ、ワイルド過ぎぃぃぃぃ!!」
「私も握り潰されたいなっ!」
「でも死ぬよ?」
「エリル君にならいいっ!」


まぁ相変わらずの奴らがいるのには違いないがな。さて、俺としてはもう終わったと見えるがどうか?


「さて、君はもう魔力も空じゃないかな?」
「うるせぇ.........まだ!」


今度はグレイが魔道具を持って接近する。振り下ろされた型も何も無い斬撃などエリルに当たるはずもなく、数度振った剣は虚空を切るばかりだ。


「なんでっ、当たらっ、ねぇ!?」
「そりゃ君、そんなんじゃ無理だよ。クルシュなら初撃で僕を仕留めるからね」
「っ、この!」


無謀に振り上げた剣とぶつかり合う音は何も無く、代わりにポトリとグレイの右腕から先が地面に落ちた。


「........は?」
「この程度じゃ僕には勝てないよ」
「あがぁぁぁぁぁ!?腕が!腕がぁ!?」


苦しみ蹲るグレイの胴を蹴りあげて闘技場に転がす。決闘はルールに従って成されるが、特に何も縛りがなければ殺傷行為以外は許される。それに腕の乖離くらいは俺の魔術で直せる。


「ごほっ、ゲホッ!」
「どうする?まだやる?」
「くっ、なめ...........るな!」


まだ諦めないグレイの胴をまたもエリルは蹴り飛ばす。先ほどと同じようにまたグレイは闘技場を転がった。


「君、よかったね。相手が僕で」
「どういう.........事だ?」
「クルシュが相手なら君は何度も輪廻転生で死の痛みを味わうところだったよ?。生憎と僕は彼には絶対に勝てない、たとえ僕が本気を出したとしてもね。それほどに僕の友は強いんだ、それほどに僕の友は強大なんだ。それに優しさも、人を活かす力も、観察力も君には無い。だから君はクルシュ以下なのさ」


突き放したように言ったその言葉はグレイの心を軽く打ち砕く。事切れたかのように力なく手がぶらりと地面に落ちた。


「俺の........負けだ」
「先生〜だってさ〜」
「うむ。グレイ・カノープスのギブアップにより勝者、エリル・リリアス」


レオの判断により友人の名誉か中傷かをかけた戦いは見事にエリルが勝利した。まぁ元々として神々の仕いである神狼に勝てるやつなどこの時代にはいないのだがな。



エリルさん、超位魔法手づかみって..........。熱くないのかな?(他人事)


はいどうも、作者です。コメントが増えた〜(半数が誤字指摘)。
.........はい、お恥ずかしいばかりです。で、でもあれは深夜に書いていましたので............言い訳にならないですね、すいません。

誤字防止の見直しを入念にしますので許してくださいなんでもしま(殴

コメント

  • 蘆屋紫黒

    血統❌、決闘⭕。

    3
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