能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜

大島 こうのすけ

EP.29 魔術師は旧友に会いに行く

投稿し始めて1ヶ月も経たないうちに評価100を超えました!ありがとうございます!!
これからも頑張りますのでもうちょっとコメント欲しいかなぁ...........なんて言っても仕方ないですけどね。
はい、頑張ります。



聞きなれない声が聞こえた。艶のある声で、少し恍惚した表情で俺を見つめながら、そう言った。


「........ すまない、何が好きなんだ?」
「...........え?」
「ん?さっき好きって言わなかったか?」
「え、あ?え?」


ふむ、よく分からないな。「好き」と言われたから「何が?」と返したのだが間違いだったか?それ以外に俺には検討もつかないが。


「だから何が好きなんだ?」
「...............」
「アリス?」


ふむ、何故か気絶しているな。要因はわからないが意識が飛んでしまっている。まぁ好きの正体が何かはわからなかったがどうでもいい。

俺はそのまま扉を閉めて置き手紙を残して家を出た。



俺が転移魔術で移動してきたのは2年間世話になった村の森。ここでは様々なことがあったな。オークを根絶したり、レオを助けたり、アリスに魔法を教えたり、まぁ今では庭のように感じる。

何故ここに来たのか、という事だが俺の『探知魔術《魔》』に懐かしい反応があった。2暦前、俺が生きていた時代に縦横無尽に大陸を闊歩していたとある俺の数少ない『友』の反応だ。

反応は森の1番中心部から、確かあそこは洞窟になっていたはずだ。恐らくそこを縄張りにでもしているのだろう。


(さて、ここに来るのも久しいな)


俺が入ろうとしたその時、洞窟奥から揺れを伴う大きな足音が聞こえてきた。その威圧的な歩き方、聞こえてくる足音から何者かはすぐにわかった。出口で待ち構えると、直ぐにその正体は顕になる。灰色の毛を血で染め、獰猛な牙を剥く9mはあるかという巨体。間違いない、風の女神の従獸、神狼フェンリルだ。


「我の縄張りにはいる愚か者は貴様か?」
「やれやれ、久しぶりの再会にその口調はないだろう?」
「貴様のような年端も行かぬ雑魚など知らぬ。2秒以内に消えろ、さもなくば殺す」
「ほう?大きく出たな。俺を殺すか..........ククク」
「何がおかしいッ!」


怒号で吠えたフェンリルの風圧で木々が吹き飛ぶ。5mほど後ろの木までが更地へと変化した。


「ふむ、まだ全盛期か?」
「生憎と我は生涯全盛期でな。さぁ、分かっただろう?次は四肢を抉る」
「..........お前も鈍感になったものだな。この魔力でわからないとは」
「言いたいことはそれだけか?」
「仕方ない。あまり旧友に手は出したくはなかったのだがな」
「貴様など知らぬと何回言えば知るかッ!」


フェンリルが地面を蹴った。その速さは光をも超える。フェンリルの突進と俺の魔術障壁がぶつかり辺りに稲妻が走る。すると俺の第1陣障壁が虚空へと破壊された。


「ほう?やるではないか」
「まさか俺の障壁も脆くなったものだな。やはり全盛期でないためか」
「ならこれでどうだッ!?」


『神狼砲』

大きく開口した口から魔法陣が現れる。そしてその中心に莫大なエネルギーが収束し、放たれた。結界に叩きつけられる衝撃が、俺の第4陣までの障壁をいとも簡単に吹き飛ばし、残りは第5陣の障壁だけとなる。


「貴様の命も残り少ないようだな!」
「ふむ、なるほど。俺も落ちたものだ。さて」


『逆証魔術』

俺が指をパチンと鳴らした瞬間、俺を襲った莫大なエネルギーがガラスを割ったような音とともに魔法陣ごと破壊され、残った威力が後方の森を2km先まで吹き飛ばした。よって、一時的に森は更地となっていた。


「何!?、貴様、何故その魔術を!?」
「何度も言っているだろ。久しぶりだな、と」
「い、いや..........そんなはずはない。貴様があの人であるはずがっ!」
「ふむ、まだ信じないのか。では少しやり方を改めよう。最初からこれを見せればよかったな」


『凍結魔術』

1歩踏み出した俺の足元から一瞬にして零度の世界へ森が生まれ変わる。広がった氷は瞬時にフェンリルの足を凍らせ、その強靭な足を断固として動かさせない。


「『凍結魔術』............」
「まだ『絶対零度アブソリュート』を使わないだけマシだと思え。今のは『零度ブリザード』だ」
「確かによく見ればその顔.............」
「さぁ、俺の名前を言ってみろ。エリル」
「..........アスト?」


やっと気づいたか。ふむ、2暦前はこんなに疑り深いやつではなかったのだがな。まぁいい、俺はそんなことを気にするほど器の小さい男ではないからな。

俺を認識した瞬間、フェンリルは俺と同じくらいの少年に体が変化し、俺の元へ駆け寄ってくる。中性的な顔立ち、深緑色の髪にエメラルドグリーンの双眸が嬉々として俺を見つめる。


「アストだ!本当にアストだ!」
「俺以外の誰に見える?それこそ俺以外には見えないだろう」
「とりあえず、さっきはごめんね?」
「ああ、別に気にしていない。さて、それにしても相変わらずキャラ変化が激しいな」
「いやぁ、あのキャラ結構めんどくさいだよね〜アハハ」


エリルは腕を後ろに回してはにかむ。まぁ俺としてはいつも通りのテンションでよかったとは思うが。


「にしても目覚めるの早いね?」
「逆にお前が生きているのが不思議なんだが?」
「僕はあと5億年は生きるよ?」
「ふむ、あと1回は転生しても会えそうだな?」
「だね」


久しい相手と話すのはあまり得意ではないのだがな。エリルだけはこうして話せる。まぁその昔はよくこいつの背中に乗ったものだ。


「で、何しに来たのさ?」
「いやなに、久しぶりに懐かしい魔力を感じたからな」
「なるほどね。..........その姿だとどこかの家に生まれ落ちた訳ではなさそうだね?」
「自分で墓を作って転生したからな。最初から親などいないな」


まぁもともと一人で生きていくつもりだったからな、親などいらなかった。今更、また1から教えられるのも癪だしな。


「へぇ、それはまた。見たところ10かな?」
「昔から歳の言い当ては得意だったな。そうだ、今は10歳だ」
「じゃあ、なんでさっき2000歳の時の魔法が使えたの?」
「転生魔術は能力も引き継げるからな。体が馴染めば使えるようになる」
「研究者の成果ってときたま凄いね」
「まぁな。さて、それじゃあ行くか」
「ん?どこに?」
「お前を見ていて気が変わった。お前はここで生きるよりいい所がある」


俺は転移魔術でエリルを巻き込み村へ移動する。確かこの時間だ、もうレオは帰ってきているか。


「どこ行くのさ?」
「俺が今世話になっているところにな。少し理由があって今はクルシュと名乗っている」
「へぇ、別に名乗ればいいのに」
「まぁそう簡単じゃないという事だ」


そして俺は懐かしい家の扉を開けた。

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