甘え上手な彼女2

Joker0808

第41話




「高志……」

「なんだ?」

「私今からだから……ちゃんと見ててね……」

「え……今からなのか?」

「うん……順番ずらしてもらった……高志に見て欲しいから」

「そ、そっか……じゃあ、頑張ってこいよ……俺ちゃんと見てるからさ」

「うん……じゃああとでね……」

 紗弥はそう言うと高志の元を離れ、小走りでイベントステージに戻って行く。
 高志はそんな紗弥を見送り手を振る。
 そして………。

「よぉ~高志君」

「随分待たせてくれたじゃねぇか……」

「覚悟しろよぉ~」

「………やっぱり?」

 その後、高志がどうなったかは想像の通りだった。





「………」

「おう、ボロボロだな」

「誰のせいだよ! 誰の!!」

 優一は観覧席に戻っていた。
 結局、嫉妬に狂ったクラスメイトにボコボコにされてしまった。
 優一はけろっとした表情で新しく買ってきたたこ焼きを食べていた。

「いやぁーお前のおかげで俺は無事だったよ。サンキュー」

「あぁ、それは良かった……親友のお前が無事でよかったよ……」

 高志は俯いたままニヤリと笑い、優一に言い放つ。

「あぁ、本当だよ……他の奴らに見つかる前で……」

「え……」

 高志がそう言うと、優一を取り囲むようにしてクラスメイトが集まって来る。

「よう……優一ぃ!」

「たこ焼きは上手いかぁ?」

「じゃあ、今度は俺たちの憎しみの鉄拳を食らうかぁ?」

「お、おまえら! 高志貴様ぁぁぁぁぁ!!」

「ふっ……」

 優一はクラスメイトの男達に連れられて人気の無い場所に運ばれる。

「これで今日はもう俺に手を出すなよ」

「あぁ、約束だしな……仕方ない」

「こんなに痛めつけておいてか……」

 高志は赤西にそう言い、視線をステージに戻す。
 コンテストは順調に進行しており、もう終盤に差しかかっていた。
 
「さてさて! 残る参加者は後二人! 会場は嫉妬に狂った男性が抜けたせいで多少寂しいですが……最後までお付き合い下さい! それではエントリーナンバー23番! 宮岡紗弥さん!!」

 司会者のかけ声と共に、紗弥がステージに現れる。
 高志は紗弥から視線を反らさず、ジッと紗弥を見ている。
 紗弥も高志を見つけ、二人の視線が合う。
 紗弥は高志を見つけて安心し、優しく微笑む。
 その姿に会場からは歓声が沸いた。

「おぉ! 最初からかなりの好感触です! これまでにないほどの盛り上がりを見せています! それでは質問コーナーに参りましょう!!」

 やはり紗弥は綺麗だ。
 それを高志は今、強く実感していた。
 ステージに居る紗弥はいつもの紗弥と違って輝いている気がした。

「今日は誰と来ましたか?」

「えっと……彼氏です」

 紗弥がそう言った瞬間、会場の男達は残念そうに「あぁ~」っと声を漏らす。

「おぉ! 青春ですねぇ~、告白はどちらから?」

「私からです」

「やや! 一体どんな人なんでしょうねぇ~、こんな素敵なお嬢さんの心を盗んだ罪深い男性は!」

(この司会者、かなりノリノリだな……)

 高志はそんなことを思いながら、ステージで質問に答える紗弥を見つめる。

「でも……最近色々あって……」

「貴方もですか!? 今日のコンテストには男性と上手くいっていない女性が多いですねぇ……」

(そんな美女コンテスト嫌だな……)

 司会者の言葉に、高志がそんなことを思っていると、紗弥が話し始める。

「でも……良いんです。さっき彼に元気を貰いましたから」

「じゃあ、仲直りを?」

「はい、もう不安も無くなりました。だって……私が一番って言ってくれましたから」

 紗弥は頬を赤らめながらそう言う。
 高志はそんな紗弥の言葉に涙を浮かべる。
 本当に良い彼女だと思いながら、高志はもっと紗弥に優しくしようと心に決める。
 その後、紗弥の出番が終わり、高志はステージから視線を反らす。

「ホント……俺にはもったいないな……」

 高志は立ち上がり、紗弥を迎えに行く。







「全く……」

 優一はクラスメイトにボコボコにされ、祭り会場をさまよっていた。

「あいつら………逆恨みしやがって……」

 優一は不満を漏らしながら、会場を歩き芹那を探す。
 
「あいつは一人だと面倒事に巻き込まれるからな……」

 最初にあった時も、その次も、芹那は面倒事に巻き込まれていた。
 だから優一は少し嫌な予感がしていた。
 
「二度あることは三度……なんていうが、まさかな……」

 なんでこんなに芹那が心配なのか、優一自身よくわからなかった。

「あぁぁぁ!! クソ! なんで俺があんな奴を!!」

 芹那を心配する自分にイライラし、声を上げて探す。
 そんな優一の目の前に再びクラスメイト達が現れる。
 何やら眉間にシワを寄せながら悩んでいる。

「おい、人をボコってお前ら何してんだ?」

「あ、優一! お前の連れが……その……」

「あ? 秋村? あいつがどうしたんだ?」

「いや……その……柄の悪い奴らに……」

「詳しく聞かせろ」

 クラスメイト達の話しはこうだった。
 優一を探していたと思われる芹那が、柄の悪い四人組の男と人気の無いところに消えた。
 無理矢理連れて行かれているようで、警察に連絡するかをクラスメイト達は話し合っていたらしい。
 優一はそれを聞き、直ぐさま芹那が消えた場所に向かった。

「たくよぉ……」







「あ、あの……もう結構ですから……」

「えぇ~良いじゃん、お兄さん達と遊ぼうよ~」

「そうそう! 君コンテスト出てた子だよねぇ~メッチャ可愛かったよぉ~」

 芹那は現在、人気の無い公園の林の中で柄の悪い男四人に囲まれていた。
 優一の居場所を知っていると言われてついてきたが、それが失敗だったと芹那は気がついた。

「君、本当に可愛いねぇ~」

「さ、触らないで下さい!」

 一人の男が芹那の頬に触れようとしたのを芹那は手ではじいた。
 その瞬間、男達の目が変わった。
 
「っち! 面倒だ! 取り押さえろ!!」

「や、やめて!! 離して!」

 芹那は腕を掴まれ、身動きを取れ無くされた。

「やめるかよ! 結構胸もありそうじゃねーか、たっぷり可愛がってやるよ!」

「いや……やめて……助けて……」

 浴衣の帯をはずされ、芹那は浴衣を脱がされそうになる。
 涙を流し、芹那が助けを求めた時だった。

「随分楽しそうですねぇ~変態お兄さん方」

 優一がニヤリと黒い笑いを浮かべて男達の目の前に現れた。

「あぁ? なんだてめぇ!」

「あ、こいつ、この子の連れっすよ!」

「へぇ~王子様気取りで助けに来たってわけか……かっこいいねぇ~」

 完全に余裕の表情を浮かべる柄の悪い男達。
 歳は恐らく大学生くらいであろう、体格も結構良い。
 しかし、優一は黒い笑みをやめず、四人に言う。

「あぁ、そういうの良いんだよ……こっちは合法的に暴れられっから、楽しみでさぁ……早く手を出してくれた方がありがてぇんだよ……」

「なら遠慮なくっ!!」

 一人の不良が優一に殴り掛かる、優一はその拳を避けて、再びニヤリと口元を緩める。

「高志……今日は良いよな?」

 そう小さく呟き、優一の反撃が始まった。





「はい、じゃあ復唱」

「「「私たちは女子高生に乱暴しそうになった変態お兄さんです!!」」」

 数分後、芹那と優一の前にはパンツ一丁で土下座し、頭を下げながらそう言う柄の悪い四人組が居た。
 優一は無表情でその様子を動画に収め、四人に言う。

「次、こいつになんかしてみろ……コレをネットに上げて住所と本名も公開するからな」

「は、はい!」

「もう貴方様の女には手を出しません!!」

 泣きながらそう言う四人に、高志はしゃがんで目線を合わせて言う。

「あいつは俺の女じゃねーよ」

「え……そ、それじゃあ……どういう……」

「俺はなぁ……俺のものに手を出されるのが嫌いなんだよ」

「そ、それは恋人って意味なんじゃ……」

「違うって言ってんだろ!!」

「「「ええぇ………」」」

 優一の言葉に矛盾を感じる四人。

「こいつを虐めて良いのは俺だけ何だよ! わかったらさっさと行け!」

「「「は、はいぃぃぃぃ!!」」」

 四人は返事をしてそのままその場を後にした。
 優一はため息を吐き、芹那を見る。
 先ほどから無言で何も言わず、ずっと俯いている。

(無理もねーか……強姦されそうになったわけだし……)

 優一は芹那の心情を考え、今くらいは優しくしようと考える。

「あぁ……なんだぁ……とりあえず、浴衣直せよ」

「………優一さん」

「お、おう……どうした? なんか食うか?」

「………ごめんなさい」

「え………」

 優一は芹那のそんな言葉に思わず言葉が漏れる。
 なぜ謝るのか、優一にはわからなかった。
 芹那が謝ることなど何も無いからだ。

「私……いっつも……優一さんに迷惑掛けてばっかりで……今回も……」

 涙を浮かべながらそう話す芹那に、優一はため息を吐く。
 
「はぁ……確かにな……毎回面倒毎に巻き込みやがって……」

「………ごめんなさい」

 悲しそうな表情の芹那に、優一は背中を向ける。

「だからよ……その……もう離れるなよ」

「え……」

「俺が側にいれば、馬鹿な男が寄ってきても大丈夫だろ……だ、だからよ……」

「あ、あの……それって……」

 優一は祭りに芹那と来ると決めたあの日から、本当は気がついていた。
 自分が芹那をどう思っているか。
 その答えに決着をつけるため、優一は芹那と一緒に祭りに行くことを了承した。
 そして、目の前で芹那が無理矢理乱暴されそうになったところを見て、優一は自分の気持ちに気がついた。

「………お前の根性には負けたよ………」

 優一は芹那に背を向け、頭を抑えながろそう言う。
 
「なんか、俺はお前は心配でしかたねーんだ………だから……俺の側に居てくれよ」

「優一さん………」

 芹那は恥ずかしそうにそう言う優一の背中に抱きつく。
 ようやく自分の思いが実り、芹那は涙を流す。
 そんな芹那の手に優一がそっと手を添える。
 まさかこんなことになるなんてと思いながら、優一は空を見あげて笑みを溢す。

「優一さん……」

「なんだよ」

「大変です……」

「どうかしたか?」

「はい、優一さんに踏まれたくて……はぁはぁ……私……体が火照ってきました……」

「………はい?」

 優一は凄く嫌な予感がした。
 先ほどまでの良い雰囲気はどこへやらといった感じで、芹那は顔を赤らめながら優一に抱きつく。

「はぁはぁ……ゆ、優一さん……今日私の家……親が居ません……」

「そ、それがどうした?」

「もう、女の子に言わせないで下さいよ~」

「わ、悪いが……俺は今日は普通に帰るぞ……」

「嫌です。それに……さっき側に居てほしいって……」

「意味が違う!」

「私の家には縄もロウソクも手錠もあるんですよ!! 直ぐに出来ます!」

「それを使って何をする気だ! 言っておくけど、付き合うって言っても、そう言うことは段階を踏んでからだぞ!!」

「いやです! 今すぐ私を虐めてください!!」

「あぁぁぁ!! 結局かよ! なんで俺はこんな奴なんかをぉぉぉぉぉ!!」

 優一の後悔の叫びは祭り会場まで響いたと言う。
 

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