甘え上手な彼女2

Joker0808

第17話

*


「なぁ、高志」

「ん、なんだ?」

 高志が風呂の湯に浸かっていると、優一が隣に座り話し掛けてきた。

「夏だぞ」

「夏だな」

「海だぞ」

「海だな」

「泊まりだぞ」

「泊まりだな」

「なんで、俺に彼女が出来ない」

 優一の言葉に高志は溜息を吐く。
 
「作ろうと思えば、直ぐに作れるだろ?」

「出来ねーから言ってんだよ……」

「芹那ちゃんは?」

「あいつは対象外だ」

「わがままだなぁ……良い子だと思うぞ?」

「良い子は好きな人を縛ったりしないんだよ!」

 風呂場には高志達以外にも多くの人が居た。
 だからか、少し大きな声を出しても高志達の声はそこまで響かない。
 
「まぁ、可愛いのは認めるけどよ……」

「お、優一がデレた」

「デレてねーって! でも、流石にあの性癖にはついていけねーよ……」

「お前、ちゃんとそれ芹那ちゃんに言ったか?」

「は、そんなのずっと……」

「お前が否定して来たのは芹那ちゃん本人だろ?」

「……あ」

 優一は誠実に言われて考え、少ししてハッと気がついた。
 そんな優一に高志は得意げに言う。

「だろ? 意外に言ったらお前の為にやめてくれるんじゃね?」

「そ、そんな訳ないだろ、あいつは根っからのドMだっつの」

 優一はそう言って、自分の顔にお湯を掛ける。

「う~ん……そうかな?」

 程なくして、高志達は風呂から上がり部屋に帰って来ていた。
 時間もそこまで遅くないので、高志と優一はお茶を飲みながら話しをしていた。

「あぁ~やっぱりデカい風呂は良かったなぁ~」

「だな、足を伸ばせるのが良いよな」

 雑談をしながら、二人は椅子に座り、買ってきたお菓子を食べてくつろいでいた。

「……」

「……」

「暇だな……」

「あぁ……暇だ」

「トランプでもするか?」

「二人で何するんだよ」

「それもそうか……」

 数分で早くも飽きが来てしまった。
 テレビも面白い番組がないし、話題も切れてしまい、流石に飽きてしまった。

「女子のとこ行くか?」

「うーん……秋村がなぁ……」

「さっき縛られたしな」

「そうなんだよなぁ……」

「じゃあ、いくか」

「待て待て」

 高志の行動を優一が止める。
 そんな優一に高志は不思議な顔で尋ねる。

「どうした?」

「どうしたた? じゃねーよ、俺の話し聞いてたよな?!」

「俺は紗弥に会いたい」

「ホントお前らバカップルな! 俺は行かないぞ! 寝る!」

 優一はそう言うと、ベッドに入りそのまま布団を被って眠ってしまった。
 
「頑固だなぁ……」

 高志は布団を被る優一にそう言うと、部屋を出て隣の紗弥達の部屋に向かった。
 ドア横の呼び鈴をならし、高志は返事を待つ。

「はーい……あ、高志」

「よ! 暇で遊びきたぞ」

「八重先輩! 優一さんは!? 優一さんは!?」

「芹那ちゃん、残念ながら優一は部屋で寝てるよ」

「うぅ……残念です……」

 あからさまに寂しそうな表情の芹那に、高志は笑みを浮かべポケットからカードキーを取り出す。

「そう言う訳だから、優一に会いたかったら、コレを使って部屋に入るといいよ」

「え! 本当ですか!! ありがとうございます!」

「はい、静かに入るんだよ、あと変な事はしちゃダメだよ」

「わか……まかりました!!」

「うん、今の間は気にしないであげるね。じゃあ、行ってらっしゃい」

「はい!」

 芹那は嬉しそうにカードキーを握って隣の高志と優一の部屋に向かった。

「高志も入ったら? どうせ部屋に帰れないでしょ?」

「まぁね、じゃあお邪魔します」

 高志は紗弥達女子に部屋に入る。
 女子が泊まっているだけで、なんだか良い匂いがする気がした高志。
 風呂上がりの紗弥に少しドキッとしながら、部屋の椅子に座る。

「なんか夏休みって感じでいいな」

「そうね、みんなといっしょで楽しいし」

「お二人さん本当にそう思ってる~?」

「いきなり何よ、由美華」

 高志と紗弥の話しに由美華はニヤニヤしながら入っていく。

「本当は二人きりで来たかったんじゃな~い?」

「そ、そんな事……あるけど……」

「み、みんなで来た方が楽しいだろ? それに俺と紗弥の二人だと……」

「いつもと変わらないでしょうね」

「「はい……」」

「毎日楽しそうで良いわね、あんたら」

 顔を赤くしながら答える高志と紗弥に、由美華はニヤニヤしながら答える。

「ほんと……妬けちゃうくらいに仲良しね……」

 ニヤニヤした表情から、由美華は一瞬寂しそうな目をして二人から視線を外す。

「これじゃあ、いつか紗弥は私にかまってくれなくなるのかしら?」

「それは無いわよ?」

「え……」

「由美華が居なかったら、誰が私の恋愛相談を聞いてくれるのよ」

 紗弥にしてみればどうって事ない言葉だった。
 しかし、由美華にとってはこれ以上無いほど嬉しい言葉だった。

「紗弥~、ありがと~可愛いわね~」

「えっと……あの由美華……く、苦しいんだけど……」

 紗弥の言葉に、由美華は感激して抱きついた。
 紗弥の頬に自分の頬を擦りつけ、紗弥の頭を撫でる由美華。
 高志はそんな由美華と紗弥の様子をそわそわしながら見ていた。

「大丈夫よ、紗弥は取らないから」

「え?!」

 高志の視線に気がついたのか、由美華が高志に言った。

「ま、まぁそれはさておきだ……何かしないか、暇でさ」

「あぁ、それは私達も話してたのよ、何か持ってきた?」

「トランプとかあとはタブレットかな?」

「じゃあ、大富豪でもしましょう、あれなら三人でも出来るわ」

「おう、それじゃさっそ……」

「ぎゃぁぁぁ!!」

 高志がトランプを取り出した瞬間、隣の高志達の部屋から大きな悲鳴が聞こえてきた。

「やっぱりか……」

「芹那ちゃん、何もしないと良いけど」

「また縛ってたりして~」

「ま、あいつなら大丈夫だろ。トランプしようぜ」

 高志はそう言って、紗弥と由美華にトランプを配り始める。

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