三代目魔王の挑戦!

シバトヨ

初めての勇者に挑戦!

「どうやら、城を攻め落とすのが優先事項のようですね」

 街道から森へと入った途端に、紺色の鎧を着ていた兵士――ペルンの兵士らの姿が見えなくなった。
 森に入るまでは、後ろから追随してくる奴もいたんだが。

「なら、さっさっと、領主を倒さねぇとっ!」

 無茶苦茶な全力ダッシュの成果が出ているのか。
 クサリさんのペースに付いていけるレベルにはなっているようだ。

「……街に着いてからが本番です。気を抜かれませんように」

「あぁ」

 分かって「魔王様っ!」

「うおっ!?」

 急に飛び込んでくるクサリさん。
 俺はクサリさんに抱き付かれながらも、地面を転がるように転倒させられる。

「いつつっ……なんだよ、クサリさん」

「……不味いですね」

 即座に立ち上がるクサリさん。
 初めて見せる苦々しい表情だけだと、何がなんだかさっぱりだが……

「勇者です」

 その単語で、今の状況が絶望的だと理解できた。



 勇者。
 それは職業の一種であり、誰もが就ける称号みたいなものだ。
 ただ、かなり厳しい訓練を受ける必要があるらしく、専門の学校があるくらいだとか。
 生計は、街から依頼されるクエストみたいなものの報酬で成り立っているらしい。
 そんでもって、魔王である俺にとっては、最大最悪の相手だと、クサリさんから教えられた。

「初めまして。魔王領のお二方」

 目の前の黄緑色のショートヘアー男は、腰に下げていた剣を抜き放つ。

「……あの二人が見落とすとは思えませんね」

 クサリさんは相手から情報を引き出すつもりのようだ。
 ここは、この世界の常識を熟知しているクサリさんに任せるとしよう。

「あの二人……というのが誰かは知りませんが。私はペルンの勇者ではありませんので。そもそも、ペルンには勇者が居りませんし」

 クサリさんの意図に感付いているのか、男はペラペラと話始める。
 時間稼ぎ……をしているようにも感じねぇけど。

「名乗るとするならば、私はバルアスの勇者で、アスタと申します」

「それで? なにかご用でしょうか? 私たちは先を急ぎますので、そこを退いていただけますでしょうか?」

「……あなたがクサリ・スクスですか?」

「いかにも」

「そうですか……あなただけでしたら、ここを通過してもらって構いませんよ?」

 狙いは俺かよ。クソ気持ち悪りぃ。
 男に好かれたって迷惑だぞ。

「俺に用事があるなら、美少女の一人でも連れてきやがれってんだ!」

「すまないね。勇者ってのは、圧倒的に男性が多いのだよ」

「だったら貴重な女勇者ってのを連れてこいよ! こちとら魔王だぞ!!」

「……な、なかなか色モノの魔王のようだね」

「英雄、色を好むとも言いますし、何より魔王ですからね」

 酷い言われようじゃね? 勇者はともかく、クサリさんまで。
 もう一度言うが、酷くねぇか?

「魔王様。ここは私が引き受けます。ですか「駄目だ」」

 俺はクサリさんの提案を遮り、

「クサリさんはペルンに先行してくれ。コイツの相手は俺がする」

「その冗談は笑えませんよ?」

「冗談なんか言ってねぇよ」

 俺はクサリさんより前に出て、

「クサリさん、一つ質問だ」

「……なんです?」

「アイツから俺を守りながら、ペルンの領主を確実に倒せるのか?」

「………………」

 沈黙か。まぁ無理だよな。
 魔力を関知できるわけじゃねぇが、勇者って奴を眼にして、クサリさんが警告までしてきた理由が分かった。

 模擬戦のクサリさんと同じか、それ以上の強さを感じる。直感みたいなものだが、肌が痺れた感じがする。

 そんなギリギリの力量差で、俺を守りながらペルンの領主倒すとか、どんな無理ゲーだ。

「だったら、ここでアイツを足留めしている間に、領主を倒してこいっ!」

 拳を構える。
 今日、クサリさんにちゃんとした一撃を入れられた俺の拳。
 奇跡が起きようが、腹立たしい勇者を倒すことは無理だろう。

 だが、

「領主倒したら、すぐさま戻ってこいっ!」

 俺はクサリさんの顔を直視して、

「ここで足掻いててやるからっ!!」

 勇者を見据えて、一気に距離を詰める。



「こんっのっ!」

 クサリさんと別れてから、まだ十分も経っていない。
 俺は勇者に一撃も喰らわせられてない。それどころか、大量の切り傷をもらっている。

「遅いね」

「ずっ!」

 今度は背中だ。
 相手の剣がなまくらな為か、致命傷にはなってねぇが。

「硬いね……その硬さを維持するのに、どれだけの魔力が必要なことか」

「知るかっ! よっ!!」

「おっと」

 左腕こど振り抜くが、簡単に避けられる。
 まるで遊ばれているようだ。

「ようだ……じゃねぇか」

 実際に遊んでいやがるんだろう。マジで腹立たしい。

「おめぇに一発は入れてやるからなっ! 覚悟しておけっ!!」

「ふふふ……ふははははっ!」

 大爆笑か。アッパーだな。顎を砕いてやる。

「うおりゃっ!」

「おっと。人が楽しげに笑っているとこを攻撃しないでくれないかな?」

「ならっ! 一発っ! くらいっ! 喰らってっ! おけよっ!!」

 全部避けやがってっ! マジで腹が立つっ!!

「……そろそろ時間ですね」

 時間?
 時間稼ぎをして得をするのは俺の方だろ?

「一気に攻めさせてもらうよ」

「ぐっ! いっ!?」

 腹を柄で殴られ、曲がった右膝の裏を斬られた。
 さっきまでとは、吹き出る血の量が違う。

「君の状態は、端的に言えば、鎧を着ているようなものだ。だから、関節部分の強度ががた落ちしている」

「………………」

 そうなのか?

「驚愕で声が出ない。そんなところかな? まさか弱点をつかれるとは思ってもみなかったんだね」

 勘違いされているが、どうでもいいや。
 もう少しペラペラ喋らせてやろう。

「魔力による視力の強化を行うとね。魔力の流れを観ることが出来るようになるんだ。その結果。流れの強弱を判別し、弱いところを剣で攻撃すれば、」

「がっ! だっ!!」

「こんな感じに、スッパリ斬れるわけさ」

 なるほど。
 俺は視力の強化なんて芸当が出来ねぇから分からねぇが、魔力で強化されてねぇ部位を狙っているわけか。

「……なら、全身を固めてやるよっ!」

「そうすると、攻撃出来なくなるけど?」

「当たらねぇ攻撃なんか、意味がねぇだろうがっ!」

 というわけで、全身に力を込めていく。
 これで魔力が高まるのか知らねぇが、やらねぇよりはマシだ。

「確かにそうだね。それじゃ」

 ゆっくり近づいてくる勇者。俺の腕に剣の刃を当ててくる。

「一つ勉強をしようか」

 俺の右腕。
 確かに小さい切り傷は受けているが、関節に受けた傷みたいな流血はしていない。
 その右腕にピタリと剣を当てている。
 振り抜いてやっと切り傷だぞ? ゼロ距離で傷が付くと思っているのか?

「魔力によって、鎧のような硬度を得られたならば、」

「っ!?」

「魔力によって、なんでも斬ることが出来る刃ってのも、可能になると思わないかい?」

「があぁぁぁあああ!?」

 右膝に受けた傷とは訳が違う。
 大量の血と今まで経験したことがない痛み。
 大量の電気を浴びているような、例えようがない痛みだ。

「大袈裟だよ。ちょっと斬れただけじゃないか」

 違うっ! ちょっとなんてもんじゃないっ!!
 単なる切り傷じゃないっ!

 傷の度合いと痛みが噛み合ってねぇっ!!

 こんな攻撃を何発も喰らってたまるかよっ!?

「くっそっ!」

「悪手だね」

「なっ!?」

「全身を強固に固められていたら、本当に打つ手が無かったんだが……」

 冷ややかな視線で睨まれた俺は、

「残念だよ」

 勇者の一撃で意識を失った。

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