神の代理人

神崎詩乃

夜明けの旅立ち

 息を深く吐く。部屋全体に意識を向け、薄く…広く引き伸ばしていく。アミは相変わらず玄関付近で待機しているのがわかる。

「……。マスターなら出かけました。」
「いっ」
「今のが鬼の力ですか?」
「い、いや。」
 
 私が放ったのは探査魔法に近いがそうではない。ただ、昔から捜し物が得意で度々牢を抜け出し盗み食い等をしていただけである。
「そうですか。あぁ、話は変わりますが、こちらを。」

 アミが手渡してくれたのは銀色の腕輪だった。内側には何やら細かく魔法文字が刻まれているあたり、魔道具なのだろう……。

「私…に?」
「えぇ。他に誰もいませんし。」

 魔道具はその造りの難しさ、適合する素材の入手難度等々のせいで大体高い。そんなものを奴隷である自分に持たせるだなんて……。
「言っておきますが……。貴女はもう奴隷ではありませんよ」
「え?」
「マスターは貴女と契約していません。元の契約者は既に死亡していますので。」 
「……でも、自由な奴隷って事じゃ…。」
「では、聞きます。あなたの体の何処に奴隷印があるのでしょう?」

「え?」

 アミの言葉に驚き、背中を見やるがそこにあの忌々しい奴隷印は無く、少し汚れた白い肌があるだけだった。

「え?どう…して?」

 慌てて腕と足の奴隷印を確認しようとして止めた。私の腕や足は今や違うものだから…。

「背中の印を消したのはグランドマスターです。『女の子の柔肌にこんなものは不要だよね』との事です。」
「……。どうして…あなた達は私にそこまで?」
「?私には分かりません。」
「凄い……。ねぇ、アミ?」
「何でしょう?」
「どうすれば…皆の…役に立てる…?」
「難しいですね。大抵の事はマスター御自身で出来てしまいますし、グランドマスターは神ですし……。」
「え!?ヘカテ様って神様だったの!?」
「神の御業でなければ奴隷刻印を消し、誰も開発したことの無い通信腕輪など開発できませんよ。」
「……。じゃあ…この足も……。」
「えぇ。そうです。」

 手を握る。開く。
 その一連の動作に昨日のような遅延は無かった。
「……。凄い。」
「そうだ。今、立てますか?」
「え?」

 起き上がり、ベッドから足を出す。どうやら腐り落ちたのは膝から下らしく、どうにかバランスを取れば立てそうだった。
「立てそう……。」

 ゆっくりと足をつき、ベッドから立ち上がろうとした瞬間。ぐらりと視界が揺らめき、気づけばアミに支えられていた。
「喪ったバランスを取り戻すのは用意ではありません。根気よく行きましょう」
「……う…うん。」

 その後も立つ練習、歩く練習を積み重ねているとカイトが帰ってきた。ヘカテ様も一緒である。

 4人で朝食を摂り、再び歩く練習を始める。転び、立ち上がり、再び歩く。そんな私をカイトは静かに見ていた。決して手を差し伸べる訳もなく、ただ、黙って見ていた。今はそれだけが嬉しい。どうにか立って歩けるようになった頃には日が暮れ、夜闇が街を包み始めていた。

「さて、宿を出るぞ?ヘカテ、荷物を頼む。」
「了解了解。」
「私も荷物を持ちましょう。」
「んじゃ行くか。」
 唐突にカイトに背負われるとカイトはそのまま出発しようとした。

「待って。」
「ん?どうした?」
「何故私は背負われているの?」
「頑張ったご褒美。」
「意味がわからない。」
「あははっ面白いなぁホントにあははっ。」
「あー……。まぁ、徒歩で何キロも移動するからな…朝からずっと歩行練習していたのは知ってる…だから少し休ませようとしただけだ。」

 この男…少々言葉が足りないところがある。     
 だが、確かに朝から歩けるようになるのに必死で自分の疲労をまるで考えていなかった。
「……。ありがとう。」
「ん。どういたしまして。」
「いやぁ。君たちを見ていると。本当に飽きないよ」
「おもちゃじゃないぞ?」
「いやぁ眼福眼福。」
「道中は寝ていた方が楽ですよ。」
 その一言を受けてかどうか…カイトの背中は大きく、暖かかく…直ぐに意識を手放してしまった。

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