神の代理人

神崎詩乃

最初の被害者

 この世界には殺人や強盗なんかの汚れ仕事を冒険者の依頼クエストの様に斡旋する「アカギルド」なる組織があった。

 そのギルドから斡旋された仕事は「とある実業家の御曹司が欲した美しきドールを行商人から奪え」
というものだった。

 しかし、肝心の行商人に関する情報は「死界の森」を通る。としか知らず、気づけばかなりの数の行商人を殺して積荷と金を奪っていた。 

「お頭!ジャックとロビンと連絡がつかねぇ!」
 6人の仲間の内、1番頭の足りないロックが水汲みから帰ってくるなりそう騒いだ。

「何騒いでんのさロック。アイツらまたどっかでサボってるんでしょ。」
「サーモット……。だ、だけどよぉ。きょ…今日は森の獣たちが何かから逃げてるみてぇに出くわさねぇんだ…。」
「なら尚更奴らのことを心配することはねぇだろ?」
「エルビン……。まぁ……それもそうか…。そううだよな。アイツら帰ってきたら覚えてろ〜」
「……。いや、ロック。お前ちょっと探してこい。」
「え?お頭?」
「いいから行け!」
「はっはい!」

 その後…ロックは二度とアジトに戻ることは無かった。

「はぁ…はぁ…。君、ほんと何者だよ…。森に潜んで……。山賊を1人ずつ孤立させて殺していくって……。どこの特殊部隊員?それに、君の出身地って殺人ご法度なんじゃないの?どこでそんな技術学んだのさー」

「南の島で親父に習ったんだよ。」
「そんな飛行機の操縦できる様に殺しなんて出来ないの。」
「なら、こうしよう。『説明書を読んだ』」
「何の!?」
「とにかく…時間が無い。とっとと殺してしまいたいな。」
「ったく…こいつら闇エルフじゃん。普通ただの人間が殺せる相手じゃないヨ!」
「えーっと?血が出るなら殺せる…だったか?」
「その血を出すのが難関なの!」
「いいじゃねぇか…現に殺せてるし…。」

 森の中をこっそりと移動し、呑気に歩いている闇エルフの喉元を切り裂いて死体は3つになった。
 小屋はそこまで大きくないから…残りそう何人も居ないだろう…。

 そんな事を考えながら、汚れた森の小屋に辿り着くと死体から奪ったトラップ用のワイヤーと小さなナイフを手に持ちながら中に獣避けの煙玉を投げ入れる。

「なっ何だ!?敵か!」
「やめろエルビン!俺は味方だ!」
「何言ってんだサーモッ」

「おい、サーモット!エルビン!どうした!返事しろ!」
「……。お前が親玉か?」
「なっ…人間!?どうしてこんな所に……。」
「神のいたずらってやつかな。」
「くっそ…。てめぇが仲間を殺ったのか?」 
「あぁ。そうさ。」
「た…頼む……。助けてくれよ。殺さないでくれ…。」
「は?」
「俺たちだって好きでこんなに殺したんじゃない。赤ギルドの依頼で……。」
「頼まれたからやったってか?」
「あぁ。そうだ。だ、だから、自分勝手だとは思うが…どうかこの命…助けてくれねぇか?」

「ふふふっ」 

笑いが堪えきれず、声が漏れ出す。

「何がおかしい?」

「いやぁ。俺もさ…頼まれてお前ら殺す事にしたからさ…。お互い様だなって」
「なっクソっ人間ごときが!」
 親玉はワイヤーを焼き切ると戦鎚を振り下ろす。頑丈そうなテーブルが破片となり、床に穴が開く。
「ヒュー。流石親玉だナ。魔法まで使うとは」
「抜かせクソガキが。お前ごときがこのハーディ様に敵うわけねぇんだよ!」

 戦鎚がログハウス調の壁を破壊し、事切れた仲間の死体も熟れたトマトのように押しつぶしていく。

「これで…終わりだァ!」
「あぁ。お前がな。」

 戦鎚を振り下ろしたハーディの腕に激痛が走る。見れば両腕が切断され床にべシャリと落ちた。

「うっうわぁぁぁぁ」
「いやぁやっぱり『糸』はいいねぇ。なんにでも使える。」
「お…お前…。な…なにものだ…?」
「ん?あぁ……んー冥府の神子って言っとこうか?」
「冥府ノ…神子……。」

 出血のせいか顔色の悪いハーディの首を掴むとそのまま軽く持ち上げ、半ば砕けたテーブルの上に置く。

「じゃあな。」

 振ったナイフは寸分の狂いもなくハーディの喉を切り裂くと血の泡を吹き、身体を痙攣させ、しまいには動かなくなった。

「嫌な事思い出しちまった。」 
「何思い出したの?」
「あぁ?くだらない事だよ。」
「そう。」
「まぁ、いいや。この糸の素材…分かるか?」
「あぁ…っと闇蜘蛛の糸だね。しかも『鋭利』の刻印付きだ。」
「ふぅん。だいぶ使い勝手がいいぞこれ。」
「普通はトラップ起動やトラップ解除に使うんだけどなぁ。」

 収縮自在。硬度も粘度も使用者の魔力により変化するそれは真っ当な冒険者だった頃にジャックが遺跡の最奥で発見したものとも知らず。武器としてカイトはこの糸を使う事にした。

「マスター。この子はどうするのです?」
「アミ。ご苦労さん。その子の容態は?」
「傷口を塞ぎ、止血しました。後はこの子の回復力と気力次第ですね。」
「そうか…。よし、あらかた物資を頂いたらさっさと街に向かうぞヘカテ。」
「分かった。」

 その日の夕方にはこの辺りで1番大きい街「ダラス」にたどり着いた。
「ねぇ。カイト…ソレは…些か……不審じゃない?」
「?何がだ?」

俺は今、ローブにマント、それと黒い角の生えた鬼を模した仮面を付けている。それにはいくつか理由がある。まず1つは俺が人間だと思われない様にするため、それと万が一何かあった時、顔バレを防ぐため等々である。

「いいか?俺達は鬼人種の冒険者パーティだ。」 
「一般的な冒険者パーティが両手両足を失った娘を抱えて冒険するかな?」
「うっせ。」
「冒険者票もないし」
「じゃあ観光ってことにするか?」
「厳しい言い訳だねぇ。」
「あの…すみません。ダラスの街は特に検閲などはやっていなかったかと…」
「え!?アミそれほんと?そんな街あるの?」
「ここから見える範囲に衛兵らしき人の姿はありませんよ。」
「まぁ、なんでもいいや。取り敢えず、この子の事をそこで決めるぞ」
「まぁ、そうだね。」

 両手両足を失った少女の意識はまだ戻らず、たまにうなされているようだった。

 今はヘカテが作った仮の義足と義手が着けられているが、目が覚めた時のショックは計り知れないだろう。

 今後の方針をどうしていくべきなのか…色々考える時期が来ていた。

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