神の代理人

神崎詩乃

拾い物

 死界の森…世間一般でそう言われている森はその名に反して命に溢れている。そう、外のものからすればそれは死神の歩く森になるのだ。
 毒草、毒キノコ、毒虫、肉食の野獣達。古き時代からこの森に住まう者達も今はなりを潜めて巣穴や塒で嵐が過ぎ去るのを待っていた。

 獣たちの視線の先には黒髪のひ弱そうな男性と得体の知れない気配を漂わす白髪のナニカと冷静に全てを見透かした様な目をした黒髪のモノ達がいる。彼等はいつの間にか森の中にいて、いつの間にか領域テリトリーを侵略していた。本来なら怒りに身を任せ、八つ裂きにしているところだが、本能が彼等に近寄るナと囁いている。

「そろそろ野営だ。」
「え?」
「了解です。薪を集めて参ります。」 
「あぁ。よろしく。ヘカテ、火は起こせるか?」
「え!?何?野営?夜襲の間違いじゃなく?」
「地の利も何もないまま突貫しても仕方ねぇだろ?」
「……。そうだね。」
 機凱種の少女が薪と食料を抱えて戻ってきた時には既に野営の準備が出来ていた。
「そう言えば…お前、名前は?」
 夕食として川でとった魚を食べながらふと気になったことを聞いてみた。

「製造番号はAMI2100です。ですが個体識別名称はありません。」
「そうなのか…じゃあ名前が必要だな。『アミ』でどうだ?」
「『アミ』……。了解ですマスター。現時刻をもって私はアミです。」
「よろしくな。」
「えぇ。」

 十分な休養を取り、朝早く。野営地を出た。
 山賊たちに取って夜は獲物が寝静まっていて狩りやすいはずだ。その為、わざと隙を見せて誘い出すつもりだった。だが、奴らもそこまでアホでは無いらしい。

 考えられる今後の策としては……。

「ねぇ。」

 今後の策を練っていると不意にヘカテが話しかけてきた。

「何?」
「何か臭うよ。」
「何かってなんだよ」
「何か有機物の腐敗ガスと思われます。この先です。」

 森では常に生命が回っている今更腐敗ガスが…。この臭い……。この鼻にまとわりつく悪臭…。どこかで嗅いだことのあるこの臭い……。
「マ、マスター。」
「何があった?」
「死体です。色んな動物と…人も混ざってました。」
「……。ゴミ捨て場って奴か……。」
「アンデットになったものもいるかもしれない。注意して。」

 臭いの元に辿り着くと、その光景に息を飲んだ。

 黒く変色したかつて腕だったもの…。顔の穴という穴から虫が湧き出てもはや形もわからないもの。馬、人型の何か、獣。全てがここに捨てられ、風雨に晒され、朽ち果てていた。

「酷いな。」
「……。声が聞こえる。死者たちの…声。」
「へぇ。なんて言ってるんだ?」
「『酷い』『奴らを殺して』『腐りたくない!』『助けて!』って感じ」
「そうか。アミ、生存者はいるか?」
「……。居たとしても…この状況では…。」
「いいからいるならここに連れてきてくれ。」
「了解です。」

 程なくしてアミはこの死体の山から一人連れてきた。

「すみません。マスター。1人しか見つけられませんでした。」
「いい。1人でもいたなら……。」
「君はその子どうするの?」
「診せてくれ」

 連れられてきた子はファンタジーなどで偶に見かける「鬼」と酷似した姿をしていた。ただ、角は1本しかなく、それも既に折られたあとのようだった。

「その子の腕と脚はもうダメだね。腐り落ちてる。」
「どうにか出来るか?」
「生かすことは出来る。だけどね、その子を生かしてどうなる?」
「……。」
「悪戯に他者の命を救うもんじゃない。その子は今後両手両足を失って生きていけるのかい?面倒みきれないなら今ここで介錯してあげるのが善意ってやつだよ」

「いいから…。やってくれ。」
「まぁ、可愛い眷属の頼みだ。無下にはしないさ。」
「『冥府の神の権限を持って命ず。彼女はまだ死ぬべきではない。』」

 ただの宣言のように思えたが、その言葉と共に何かが消えた様なそんな錯覚を覚えた。
 すると、唐突にアミが抱えた少女の両手両足が落ちた。
「その子の両手両足はこっちで切り落としといた。どうするかは君が決めて。」
「アミ、この付近に山賊の塒になりそうな物はあるか?」
「…ねぐらにするかどうか分かりませんが、以前猟師が使っていたと思われる小屋なら…あります。」 
「なるほどな」
「どうしたの?洞窟行かないの?」
「なぁ、ヘカテ、この子の体調はどうなんだ?」
「んー栄養失調にだいぶ衰弱してるね。体温も少し低いし大分危険。」
「アミ、この子を保護できるか?」
「ご命令とあらば。問題なく可能です。」
「じゃあよろしく頼む。それと、恐らく奴らの塒はその小屋だ。ほら、足跡が向こうに行ってる。」
「……。なるほど?じゃあこのまま突入かナ 」
「相手の数が分からないからな。慎重に素早くぶっ潰す。」
「私は戦闘系の神ではないから戦闘になったら自力で何とかしてよ?」
「あぁ。大丈夫だ。何となく身体が覚えてる。」
「弓使いもいるからね?」
「あぁ。分かってる」

  昼間でも薄暗い道無き道をしっかりとした足取りでアミが教えてくれた道を進む。右手は腰にある一振のナイフに掛けられ、何時でも抜ける準備がされていた。

 脳裏に言葉が流れる。『依頼は絶対だ』と…。『必ずこなせ』…と。
 ならばただの兵器として、彼等の思いに応えよう。何、どうせ12人も殺さなきゃいけないんだ。何人か増えたところで大したことはないだろう?

 肩の力を抜き、自然体で音、気配、臭いを辿る。

 この日、殺意の嵐が森を襲った。

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