彼女は、オレの人肉を食べて強くなる。
家畜のオレをキレイにしよう
「オヌシ。次はこっちじゃ」
と、クレハは鎖を引っ張って、オレのことを森の奥へと連れ込んだ。
「どこ行くんだ?」
しばらく低木を踏み越えて行くと、開けた場所に出た。湖だった。夜空には月が4つ浮いているのが見えた。4つの月が湖の表面に映りこんでいた。
「ほれ。オヌシ。服を脱げ」
「え? 服?」
「昨日は風呂に入ってないじゃろう。都市にあるような風呂は用意できぬが、せめてカラダを洗わんと不潔じゃろう」
それで湖に連れて来られたのかとわかった。よく見てみると、湖にはオレの他にも水浴びをしているオークがいるようだった。
服を脱いで足から徐々に、湖に入った。湖の水は冷たかった。ムッとした蒸しかえるような森の熱気を、カラダから拭ってくれるようで心地よかった。気づいたときにはクレハも一緒に、湖のなかに裸体をしずめていた。
「ほれ。シッカリと汚れを落としておくんじゃぞ」
と、クレハが抱き着いてきた。
愛玩動物をかわいがるかのように、オレの髪をもみほぐしてきた。
湖は暗い。水の中に浸かっているカラダを見ることは出来なかった。だが、オレは裸だったし、クレハも一糸まとわぬ姿のはずだった。実際に、艶のあるシルクのような肌触りが、オレのカラダに密着する感触があった。つつましい2つの突起や、やわらかいフトモモの感触があった。
下腹部に熱がこもるのを禁じ得なかった。
「恥ずかしいから、あんまりくっつかないでくれよ」
「なんじゃ。欲情したか?」
図星だったから、余計に照れ臭かった。
クレハが大胆にオレに接してくるのは、オレを種族の違うまるで別の生き物だと考えている証拠だった。オレのほうばかり恥ずかしくなるなんて、理不尽な気がした。
「オヌシもオスじゃからな。考えてみれば、性欲の処理も必要になってくるか……」
クレハが真剣に悩んだ声をあげた。
もしや義務的に搾り取られるのではないかと思うと、欲情してきた気持も、いっきに冷えてきた。
オレにそんな趣味はない。
「余計な心配しなくてもいいから。それより、オレばっかり洗ってもらって、恥ずかしいじゃないか」
不意をついて、クレハの髪に手をもぐりこませた。そんなことが出来たのは、この暗闇のせいもあり、そして、女体の感触がオレを大胆にしているせいでもあった。
「これ、やめんか。オヌシ」
クレハはそう言ったが、本気で嫌がってるわけではないとわかった。もしもクレハが本気で嫌がるなら、オレのチカラなんて簡単に押しのけることが出来るはずだった。
クレハの頭をやわらかくモミほぐしていく。小さな突起があるのを感じた。角。人間にはない部位だったので、興味を惹かれた。その感触をたしかめるように、何度も角をなぞりあげた。固い。尖っている。ツメではじくとコツコツと音が鳴る。
「小さいじゃろう」
クレハは小さな頭を、オレの胸元にあずけるようにしていた。
「そう言えば、カムイの角はもっと大きいよな」
「オークはわりと角の大きさを気にしておってな。我はこの小さい角が昔から、コンプレックスじゃった」
「角の大小で、何か違うことがあるのか?」
「別に。ただのくだらぬプライドじゃ。くだらぬが、しかし、気にはなる。人間にもそういうものがあろう」
人間も身長を気にしたり、やたらと高価なものを身に着けたりして、自分を大きく見せたがる。
オークの角とは、そういった類のものなのかもしれない。
「でも、小さいほうがいいだろ。角は」
「そうか?」
「カムイの角なんて、あれ隠しようがないぜ。クレハぐらいの大きさなら、まだフードで隠したりできるけどさ。フードがなくても髪を盛り上げておけば、隠せるじゃないか」
都市に侵入したりするには、大きい角は不便だろう。
「それに小さいほうが可愛げがある」
クレハのことをカワイイとホめたわけではない。正直に、大きい角は迫力があって怖いのだ。大きい角は、クレハの美しい容姿を台無しにしてしまう気がした。
「ふふん。オヌシはなかなか良いことを言う」
クレハはぐりぐりと頭を、オレの裸の胸に押し付けてきた。角をホめられたのが、よほどうれしかったようだ。この獰猛な生き物が、ときおり見せる稚拙な面は、オレの男心をくすぐるものがあった。
「そろそろ上がるか」
と、クレハは湖から出た。
その瞬間に、クレハの全身があらわになった。月明かりに照らされたクレハのカラダは、ガラス細工のようだった。真っ白い肌に、青い血管が透き通っているさまが見てわかった。胸とお尻は幼い丸みを帯びていた。幼児体型ではあったが、足はスラリと長くて、バランスが整っていた。
クレハは亜麻色のショートボブの髪をかきあげた。そこから水滴が落ちてゆき、カラダをつたっていた。
オレがジッと見ていることに、クレハは気づいたようだ。
「そんなに見られると、さすがに恥ずかしいのぉ」
クレハは胸と恥部を手で隠した。
「わ、悪い」
魅入られていたのだが、自分があまりに無粋な目をやっていることに気づいた。
「まぁ良い。オヌシもさっさと服を着ろ」
「あ……ちょ……」
鎖を引っ張られてムリヤリ地上にあげられた。クレハはオレの裸体などまるで興味がないようだった。タオルで乱暴にオレのカラダを拭いてくれた。ホントウに、クレハのペットにでもなったような心地だった。
今日着ていたものとは別のブリオーを渡された。タオルもブリオーも、襲った人間から奪ったものなのだろう。オレが最初に着ていたブリオーもそうかもしれない。その紺色の地味なブリオーを身にまとった。
その時には、クレハもブリオーを着なおしていた。
「風呂も入って、腹も満たされたし。あとは寝るだけじゃな」
「どこで寝るんだ?」
「どこって、ここに決まっておる」
オークたちは寝る準備に入っていた。木の根っこを枕にしたり、地面に直接寝転んだりして眠っていた。カラダを洗ったのに、土がカラダに付着することなど、まるで気にしていないようだった。
「こんなに暗いけど、大丈夫なのかよ」
「なんじゃ。怖いのか?」
母親が子供を揶揄するかのようにクレハがそう言った。揶揄の声音は感じていたが、強がってもいられなかった。
「だって、クマとかオオカミがいるって言ってたじゃないか。こんなところで寝ても大丈夫なのかよ」
「こんなところだから、安全なんじゃろうが」
「なんで?」
「クマやオオカミは我らを襲ったりはせん。むしろ、我らの臭いを嗅ぎ付けると、尻尾を巻いて逃げていきよるぞ」
クレハの獣めいた咆哮を思い出した。オークという生物が食物連鎖のトップに立つ、怖ろしい種族だということを、動物たちは本能で察知するのかもしれない。
それにな――とクレハは続ける。
「夜の森は、人間どもは危険だと思って入って来ん。今日の昼にも話したが、聖肉守騎士団という我らを狩ろうとする厄介な連中もおる。この暗闇は、そういった輩から守ってくれる」
「たしかに言われてみれば、そうなるのか」
「うむ。たくさん食べて、たくさん眠って、大きく育てよ」
オレも地面に仰向けに寝転がった。そんなオレの胸元にクレハは頭を乗せてきた。どうやらオレは枕がわりのようだ。さっそくクレハは、すーすーと寝息をたてはじめた。オークという種族が、いかに奔放にこの世界を生きているのか、よくわかる1日だった。
腹がすいたら人を襲い、ときには都市のなかに潜り込む。入浴は湖などで済まして、寝るときはどこだろうと構わない。
たしかに動物と同じ種類だとエルフに思われても仕方がない。知性はないが、狡猾ではある――といったクレハの言葉にも得心がいく。
美しく、獰猛な獣だ。
そしてオレは、その家畜だ。
と、クレハは鎖を引っ張って、オレのことを森の奥へと連れ込んだ。
「どこ行くんだ?」
しばらく低木を踏み越えて行くと、開けた場所に出た。湖だった。夜空には月が4つ浮いているのが見えた。4つの月が湖の表面に映りこんでいた。
「ほれ。オヌシ。服を脱げ」
「え? 服?」
「昨日は風呂に入ってないじゃろう。都市にあるような風呂は用意できぬが、せめてカラダを洗わんと不潔じゃろう」
それで湖に連れて来られたのかとわかった。よく見てみると、湖にはオレの他にも水浴びをしているオークがいるようだった。
服を脱いで足から徐々に、湖に入った。湖の水は冷たかった。ムッとした蒸しかえるような森の熱気を、カラダから拭ってくれるようで心地よかった。気づいたときにはクレハも一緒に、湖のなかに裸体をしずめていた。
「ほれ。シッカリと汚れを落としておくんじゃぞ」
と、クレハが抱き着いてきた。
愛玩動物をかわいがるかのように、オレの髪をもみほぐしてきた。
湖は暗い。水の中に浸かっているカラダを見ることは出来なかった。だが、オレは裸だったし、クレハも一糸まとわぬ姿のはずだった。実際に、艶のあるシルクのような肌触りが、オレのカラダに密着する感触があった。つつましい2つの突起や、やわらかいフトモモの感触があった。
下腹部に熱がこもるのを禁じ得なかった。
「恥ずかしいから、あんまりくっつかないでくれよ」
「なんじゃ。欲情したか?」
図星だったから、余計に照れ臭かった。
クレハが大胆にオレに接してくるのは、オレを種族の違うまるで別の生き物だと考えている証拠だった。オレのほうばかり恥ずかしくなるなんて、理不尽な気がした。
「オヌシもオスじゃからな。考えてみれば、性欲の処理も必要になってくるか……」
クレハが真剣に悩んだ声をあげた。
もしや義務的に搾り取られるのではないかと思うと、欲情してきた気持も、いっきに冷えてきた。
オレにそんな趣味はない。
「余計な心配しなくてもいいから。それより、オレばっかり洗ってもらって、恥ずかしいじゃないか」
不意をついて、クレハの髪に手をもぐりこませた。そんなことが出来たのは、この暗闇のせいもあり、そして、女体の感触がオレを大胆にしているせいでもあった。
「これ、やめんか。オヌシ」
クレハはそう言ったが、本気で嫌がってるわけではないとわかった。もしもクレハが本気で嫌がるなら、オレのチカラなんて簡単に押しのけることが出来るはずだった。
クレハの頭をやわらかくモミほぐしていく。小さな突起があるのを感じた。角。人間にはない部位だったので、興味を惹かれた。その感触をたしかめるように、何度も角をなぞりあげた。固い。尖っている。ツメではじくとコツコツと音が鳴る。
「小さいじゃろう」
クレハは小さな頭を、オレの胸元にあずけるようにしていた。
「そう言えば、カムイの角はもっと大きいよな」
「オークはわりと角の大きさを気にしておってな。我はこの小さい角が昔から、コンプレックスじゃった」
「角の大小で、何か違うことがあるのか?」
「別に。ただのくだらぬプライドじゃ。くだらぬが、しかし、気にはなる。人間にもそういうものがあろう」
人間も身長を気にしたり、やたらと高価なものを身に着けたりして、自分を大きく見せたがる。
オークの角とは、そういった類のものなのかもしれない。
「でも、小さいほうがいいだろ。角は」
「そうか?」
「カムイの角なんて、あれ隠しようがないぜ。クレハぐらいの大きさなら、まだフードで隠したりできるけどさ。フードがなくても髪を盛り上げておけば、隠せるじゃないか」
都市に侵入したりするには、大きい角は不便だろう。
「それに小さいほうが可愛げがある」
クレハのことをカワイイとホめたわけではない。正直に、大きい角は迫力があって怖いのだ。大きい角は、クレハの美しい容姿を台無しにしてしまう気がした。
「ふふん。オヌシはなかなか良いことを言う」
クレハはぐりぐりと頭を、オレの裸の胸に押し付けてきた。角をホめられたのが、よほどうれしかったようだ。この獰猛な生き物が、ときおり見せる稚拙な面は、オレの男心をくすぐるものがあった。
「そろそろ上がるか」
と、クレハは湖から出た。
その瞬間に、クレハの全身があらわになった。月明かりに照らされたクレハのカラダは、ガラス細工のようだった。真っ白い肌に、青い血管が透き通っているさまが見てわかった。胸とお尻は幼い丸みを帯びていた。幼児体型ではあったが、足はスラリと長くて、バランスが整っていた。
クレハは亜麻色のショートボブの髪をかきあげた。そこから水滴が落ちてゆき、カラダをつたっていた。
オレがジッと見ていることに、クレハは気づいたようだ。
「そんなに見られると、さすがに恥ずかしいのぉ」
クレハは胸と恥部を手で隠した。
「わ、悪い」
魅入られていたのだが、自分があまりに無粋な目をやっていることに気づいた。
「まぁ良い。オヌシもさっさと服を着ろ」
「あ……ちょ……」
鎖を引っ張られてムリヤリ地上にあげられた。クレハはオレの裸体などまるで興味がないようだった。タオルで乱暴にオレのカラダを拭いてくれた。ホントウに、クレハのペットにでもなったような心地だった。
今日着ていたものとは別のブリオーを渡された。タオルもブリオーも、襲った人間から奪ったものなのだろう。オレが最初に着ていたブリオーもそうかもしれない。その紺色の地味なブリオーを身にまとった。
その時には、クレハもブリオーを着なおしていた。
「風呂も入って、腹も満たされたし。あとは寝るだけじゃな」
「どこで寝るんだ?」
「どこって、ここに決まっておる」
オークたちは寝る準備に入っていた。木の根っこを枕にしたり、地面に直接寝転んだりして眠っていた。カラダを洗ったのに、土がカラダに付着することなど、まるで気にしていないようだった。
「こんなに暗いけど、大丈夫なのかよ」
「なんじゃ。怖いのか?」
母親が子供を揶揄するかのようにクレハがそう言った。揶揄の声音は感じていたが、強がってもいられなかった。
「だって、クマとかオオカミがいるって言ってたじゃないか。こんなところで寝ても大丈夫なのかよ」
「こんなところだから、安全なんじゃろうが」
「なんで?」
「クマやオオカミは我らを襲ったりはせん。むしろ、我らの臭いを嗅ぎ付けると、尻尾を巻いて逃げていきよるぞ」
クレハの獣めいた咆哮を思い出した。オークという生物が食物連鎖のトップに立つ、怖ろしい種族だということを、動物たちは本能で察知するのかもしれない。
それにな――とクレハは続ける。
「夜の森は、人間どもは危険だと思って入って来ん。今日の昼にも話したが、聖肉守騎士団という我らを狩ろうとする厄介な連中もおる。この暗闇は、そういった輩から守ってくれる」
「たしかに言われてみれば、そうなるのか」
「うむ。たくさん食べて、たくさん眠って、大きく育てよ」
オレも地面に仰向けに寝転がった。そんなオレの胸元にクレハは頭を乗せてきた。どうやらオレは枕がわりのようだ。さっそくクレハは、すーすーと寝息をたてはじめた。オークという種族が、いかに奔放にこの世界を生きているのか、よくわかる1日だった。
腹がすいたら人を襲い、ときには都市のなかに潜り込む。入浴は湖などで済まして、寝るときはどこだろうと構わない。
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