彼女は、オレの人肉を食べて強くなる。

執筆用bot E-021番 

家畜のオレをキレイにしよう

「オヌシ。次はこっちじゃ」
 と、クレハは鎖を引っ張って、オレのことを森の奥へと連れ込んだ。


「どこ行くんだ?」


 しばらく低木を踏み越えて行くと、開けた場所に出た。湖だった。夜空には月が4つ浮いているのが見えた。4つの月が湖の表面に映りこんでいた。


「ほれ。オヌシ。服を脱げ」
「え? 服?」


「昨日は風呂に入ってないじゃろう。都市にあるような風呂は用意できぬが、せめてカラダを洗わんと不潔じゃろう」


 それで湖に連れて来られたのかとわかった。よく見てみると、湖にはオレの他にも水浴びをしているオークがいるようだった。


 服を脱いで足から徐々に、湖に入った。湖の水は冷たかった。ムッとした蒸しかえるような森の熱気を、カラダから拭ってくれるようで心地よかった。気づいたときにはクレハも一緒に、湖のなかに裸体をしずめていた。


「ほれ。シッカリと汚れを落としておくんじゃぞ」
 と、クレハが抱き着いてきた。


 愛玩動物をかわいがるかのように、オレの髪をもみほぐしてきた。


 湖は暗い。水の中に浸かっているカラダを見ることは出来なかった。だが、オレは裸だったし、クレハも一糸まとわぬ姿のはずだった。実際に、艶のあるシルクのような肌触りが、オレのカラダに密着する感触があった。つつましい2つの突起や、やわらかいフトモモの感触があった。


 下腹部に熱がこもるのを禁じ得なかった。


「恥ずかしいから、あんまりくっつかないでくれよ」
「なんじゃ。欲情したか?」


 図星だったから、余計に照れ臭かった。


 クレハが大胆にオレに接してくるのは、オレを種族の違うまるで別の生き物だと考えている証拠だった。オレのほうばかり恥ずかしくなるなんて、理不尽な気がした。


「オヌシもオスじゃからな。考えてみれば、性欲の処理も必要になってくるか……」
 クレハが真剣に悩んだ声をあげた。


 もしや義務的に搾り取られるのではないかと思うと、欲情してきた気持も、いっきに冷えてきた。


 オレにそんな趣味はない。


「余計な心配しなくてもいいから。それより、オレばっかり洗ってもらって、恥ずかしいじゃないか」


 不意をついて、クレハの髪に手をもぐりこませた。そんなことが出来たのは、この暗闇のせいもあり、そして、女体の感触がオレを大胆にしているせいでもあった。


「これ、やめんか。オヌシ」


 クレハはそう言ったが、本気で嫌がってるわけではないとわかった。もしもクレハが本気で嫌がるなら、オレのチカラなんて簡単に押しのけることが出来るはずだった。


 クレハの頭をやわらかくモミほぐしていく。小さな突起があるのを感じた。角。人間にはない部位だったので、興味を惹かれた。その感触をたしかめるように、何度も角をなぞりあげた。固い。尖っている。ツメではじくとコツコツと音が鳴る。


「小さいじゃろう」
 クレハは小さな頭を、オレの胸元にあずけるようにしていた。


「そう言えば、カムイの角はもっと大きいよな」


「オークはわりと角の大きさを気にしておってな。我はこの小さい角が昔から、コンプレックスじゃった」


「角の大小で、何か違うことがあるのか?」


「別に。ただのくだらぬプライドじゃ。くだらぬが、しかし、気にはなる。人間にもそういうものがあろう」


 人間も身長を気にしたり、やたらと高価なものを身に着けたりして、自分を大きく見せたがる。
 オークの角とは、そういった類のものなのかもしれない。


「でも、小さいほうがいいだろ。角は」
「そうか?」


「カムイの角なんて、あれ隠しようがないぜ。クレハぐらいの大きさなら、まだフードで隠したりできるけどさ。フードがなくても髪を盛り上げておけば、隠せるじゃないか」


 都市に侵入したりするには、大きい角は不便だろう。


「それに小さいほうが可愛げがある」


 クレハのことをカワイイとホめたわけではない。正直に、大きい角は迫力があって怖いのだ。大きい角は、クレハの美しい容姿を台無しにしてしまう気がした。


「ふふん。オヌシはなかなか良いことを言う」


 クレハはぐりぐりと頭を、オレの裸の胸に押し付けてきた。角をホめられたのが、よほどうれしかったようだ。この獰猛な生き物が、ときおり見せる稚拙な面は、オレの男心をくすぐるものがあった。


「そろそろ上がるか」
 と、クレハは湖から出た。


 その瞬間に、クレハの全身があらわになった。月明かりに照らされたクレハのカラダは、ガラス細工のようだった。真っ白い肌に、青い血管が透き通っているさまが見てわかった。胸とお尻は幼い丸みを帯びていた。幼児体型ではあったが、足はスラリと長くて、バランスが整っていた。


 クレハは亜麻色のショートボブの髪をかきあげた。そこから水滴が落ちてゆき、カラダをつたっていた。


 オレがジッと見ていることに、クレハは気づいたようだ。


「そんなに見られると、さすがに恥ずかしいのぉ」
 クレハは胸と恥部を手で隠した。


「わ、悪い」
 魅入られていたのだが、自分があまりに無粋な目をやっていることに気づいた。


「まぁ良い。オヌシもさっさと服を着ろ」
「あ……ちょ……」


 鎖を引っ張られてムリヤリ地上にあげられた。クレハはオレの裸体などまるで興味がないようだった。タオルで乱暴にオレのカラダを拭いてくれた。ホントウに、クレハのペットにでもなったような心地だった。


 今日着ていたものとは別のブリオーを渡された。タオルもブリオーも、襲った人間から奪ったものなのだろう。オレが最初に着ていたブリオーもそうかもしれない。その紺色の地味なブリオーを身にまとった。


 その時には、クレハもブリオーを着なおしていた。


「風呂も入って、腹も満たされたし。あとは寝るだけじゃな」
「どこで寝るんだ?」
「どこって、ここに決まっておる」


 オークたちは寝る準備に入っていた。木の根っこを枕にしたり、地面に直接寝転んだりして眠っていた。カラダを洗ったのに、土がカラダに付着することなど、まるで気にしていないようだった。


「こんなに暗いけど、大丈夫なのかよ」
「なんじゃ。怖いのか?」


 母親が子供を揶揄ヤユするかのようにクレハがそう言った。揶揄の声音は感じていたが、強がってもいられなかった。


「だって、クマとかオオカミがいるって言ってたじゃないか。こんなところで寝ても大丈夫なのかよ」


「こんなところだから、安全なんじゃろうが」
「なんで?」


「クマやオオカミは我らを襲ったりはせん。むしろ、我らの臭いを嗅ぎ付けると、尻尾を巻いて逃げていきよるぞ」 


 クレハの獣めいた咆哮を思い出した。オークという生物が食物連鎖のトップに立つ、怖ろしい種族だということを、動物たちは本能で察知するのかもしれない。


 それにな――とクレハは続ける。


「夜の森は、人間どもは危険だと思って入って来ん。今日の昼にも話したが、聖肉守騎士団という我らを狩ろうとする厄介な連中もおる。この暗闇は、そういった輩から守ってくれる」


「たしかに言われてみれば、そうなるのか」
「うむ。たくさん食べて、たくさん眠って、大きく育てよ」


 オレも地面に仰向けに寝転がった。そんなオレの胸元にクレハは頭を乗せてきた。どうやらオレは枕がわりのようだ。さっそくクレハは、すーすーと寝息をたてはじめた。オークという種族が、いかに奔放にこの世界を生きているのか、よくわかる1日だった。


 腹がすいたら人を襲い、ときには都市のなかに潜り込む。入浴は湖などで済まして、寝るときはどこだろうと構わない。


 たしかに動物と同じ種類だとエルフに思われても仕方がない。知性はないが、狡猾ではある――といったクレハの言葉にも得心がいく。


 美しく、獰猛な獣だ。
 そしてオレは、その家畜だ。

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