彼女は、オレの人肉を食べて強くなる。
都市の中へ
都市の入口となる、城門棟。
オレたちは水売りから奪い取った通行手形を見せた。通行手形には「この都市で商売することを許可する」といったようなことが書かれているようだった。もちろん、クレハたちオークはフードをかぶって角を隠していた。
「見ない水売りだな」
衛兵がそう尋ねてくる。
きっと、このフィルドランタの領主に仕えている騎士なのだろう。
「新人の水売りなんですよ。あはは」
言わされている。
首輪は外されていた。代わりに、ワキバラの肉をクレハが隠れてつまんでいるのだ。もしも、余計なことを言ったら、ワキバラの肉をちぎり取ってやるとのことだ。
「ホントウに水が入っているのか、樽をひとつ開けても良いか?」
「ええ。どうぞ」
ホンモノの水売りから奪ったのだから、入ってるに決まっていた。オレはまだワキバラを囚われていた。助けを求めるべきか懊悩していた。騎士たちの装備は、チェインメイルよりもさらに薄いクロスアーマーだった。
助けを求めたところで、騎士のほうが殺されそうだ。水売りたちを護衛していた騎士のチェインメイルを、オークの手が貫く光景が、脳裏にたちのぼっていた。
オークのいる世界なんだから、関所の兵士たちももっと分厚い装備をすれば良いのに……と思った。しかし、分厚い装備を、常時着用しておくわけにもいかない。熱中症待ったなしだ。だからクロスアーマーという最低限の装備なのだろう。
「たしかに水だな。よし通っていいぞ」
と、無事に都市へと入ることが出来た。
通行手形を持っていたというのもあるが、身分をあまり調べられなかった。鎧も薄いし、普段からオークにたいして警戒しているわけではなさそうだ。
「上手くやるではないか」
クレハはフードの奥で満足そうに笑っていた。
「もういいだろ。ワキバラから手を離してくれ」
「良かろう」
ようやく手が離れた。
「生きた心地がしないよ」
「オヌシが逃げようとしなければ、何もせぬから安心せい。それにしてもオヌシ……」
クレハは、ワキバラを今度は優しくナでてきた。
「なんだよ。くすぐったいな」
「肉付きが悪いのぉ。身長と体重はどんなもんじゃ?」
「えっと……。身長は170センチちょいだったかな。体重は50キロ前後だと思うけど」
平均より痩せているほうだと思う。別にダイエットしてるわけではない。食べても太らない体質なのだ。
それを聞いたクレハは渋い顔をした。
「せめて100キロは超えてもらわんとな」
「それは太り過ぎだろ」
「太ってるほうが食べる部分が多くて良いではないか。我は人間の脂身の部分も大好きじゃ」
クレハは手の甲で唇をぬぐっていた。
自分が太っていなくて良かったと、心底思う瞬間だった。
都市の中は石畳のストリートが伸びていた。左右には木造のものもあれば、石造りの建物もあった。そして明るい喧騒に包まれていた。
いろんな商売人たちが行き交っている。油を売る者、魚を売る者、パンを売る者。民衆はそれに集っている。もちろん水を求める者も多く、オークたちはホントウに水売りになったかのように、商売に励んでいた。
水売りが繁盛するということは、各家庭に水道が通っていないのだろう。その代わりに、噴水のようなものがあった。
給水泉と言われるものだ。
それはオレも歴史の本か何かで読んだことがある。中世ヨーロッパの人たちは、その給水泉と水売りたちから、水を得ていたのだ。セパレートでも同じらしい。
給水泉の周囲には、桶が置かれていた。桶には衣類が山積みになっている。その山積みの衣類の上では、ネコ耳を生やした少女が、跳びはねていた。健康的な白い素足をさらしている。
「あれがケモミミ族か」
「うむ。洗濯をしておるようじゃな」
店頭販売をしているパン屋では、耳のツンととがった少女が、「安いよ」「出来たてだよ」と、客を呼び集めていた。
「あれは、エルフか?」
「エルフは普段、森で暮らしておるが、出稼ぎに都市に来る者も多いようじゃな」
「にぎやかな都市だな」
地球も喧騒にあふれている。だが、この都市の喧騒には、人々の活気が満ちていた。見ていて心地の良いにぎやかさだった。
「修道院に行けば、修道士がいるはずじゃ。まずはオヌシのことを診てもらうとしよう」
「修道院があるってことは、宗教があるのか」
「ティナ教とやらがあるな。そこの修道士は、癒術という人の傷を癒す魔法を使う。そのおかげか信徒も多いし、人間のなかでは頼りにされておるようじゃ」
オークたちはフードで頭を隠しているものの、堂々と民衆の中を通過してゆく。バレたら、きっと騒ぎになるだろう。オークたちは、そんなこと歯牙にもかけていないのかもしれない。
オレたちは水売りから奪い取った通行手形を見せた。通行手形には「この都市で商売することを許可する」といったようなことが書かれているようだった。もちろん、クレハたちオークはフードをかぶって角を隠していた。
「見ない水売りだな」
衛兵がそう尋ねてくる。
きっと、このフィルドランタの領主に仕えている騎士なのだろう。
「新人の水売りなんですよ。あはは」
言わされている。
首輪は外されていた。代わりに、ワキバラの肉をクレハが隠れてつまんでいるのだ。もしも、余計なことを言ったら、ワキバラの肉をちぎり取ってやるとのことだ。
「ホントウに水が入っているのか、樽をひとつ開けても良いか?」
「ええ。どうぞ」
ホンモノの水売りから奪ったのだから、入ってるに決まっていた。オレはまだワキバラを囚われていた。助けを求めるべきか懊悩していた。騎士たちの装備は、チェインメイルよりもさらに薄いクロスアーマーだった。
助けを求めたところで、騎士のほうが殺されそうだ。水売りたちを護衛していた騎士のチェインメイルを、オークの手が貫く光景が、脳裏にたちのぼっていた。
オークのいる世界なんだから、関所の兵士たちももっと分厚い装備をすれば良いのに……と思った。しかし、分厚い装備を、常時着用しておくわけにもいかない。熱中症待ったなしだ。だからクロスアーマーという最低限の装備なのだろう。
「たしかに水だな。よし通っていいぞ」
と、無事に都市へと入ることが出来た。
通行手形を持っていたというのもあるが、身分をあまり調べられなかった。鎧も薄いし、普段からオークにたいして警戒しているわけではなさそうだ。
「上手くやるではないか」
クレハはフードの奥で満足そうに笑っていた。
「もういいだろ。ワキバラから手を離してくれ」
「良かろう」
ようやく手が離れた。
「生きた心地がしないよ」
「オヌシが逃げようとしなければ、何もせぬから安心せい。それにしてもオヌシ……」
クレハは、ワキバラを今度は優しくナでてきた。
「なんだよ。くすぐったいな」
「肉付きが悪いのぉ。身長と体重はどんなもんじゃ?」
「えっと……。身長は170センチちょいだったかな。体重は50キロ前後だと思うけど」
平均より痩せているほうだと思う。別にダイエットしてるわけではない。食べても太らない体質なのだ。
それを聞いたクレハは渋い顔をした。
「せめて100キロは超えてもらわんとな」
「それは太り過ぎだろ」
「太ってるほうが食べる部分が多くて良いではないか。我は人間の脂身の部分も大好きじゃ」
クレハは手の甲で唇をぬぐっていた。
自分が太っていなくて良かったと、心底思う瞬間だった。
都市の中は石畳のストリートが伸びていた。左右には木造のものもあれば、石造りの建物もあった。そして明るい喧騒に包まれていた。
いろんな商売人たちが行き交っている。油を売る者、魚を売る者、パンを売る者。民衆はそれに集っている。もちろん水を求める者も多く、オークたちはホントウに水売りになったかのように、商売に励んでいた。
水売りが繁盛するということは、各家庭に水道が通っていないのだろう。その代わりに、噴水のようなものがあった。
給水泉と言われるものだ。
それはオレも歴史の本か何かで読んだことがある。中世ヨーロッパの人たちは、その給水泉と水売りたちから、水を得ていたのだ。セパレートでも同じらしい。
給水泉の周囲には、桶が置かれていた。桶には衣類が山積みになっている。その山積みの衣類の上では、ネコ耳を生やした少女が、跳びはねていた。健康的な白い素足をさらしている。
「あれがケモミミ族か」
「うむ。洗濯をしておるようじゃな」
店頭販売をしているパン屋では、耳のツンととがった少女が、「安いよ」「出来たてだよ」と、客を呼び集めていた。
「あれは、エルフか?」
「エルフは普段、森で暮らしておるが、出稼ぎに都市に来る者も多いようじゃな」
「にぎやかな都市だな」
地球も喧騒にあふれている。だが、この都市の喧騒には、人々の活気が満ちていた。見ていて心地の良いにぎやかさだった。
「修道院に行けば、修道士がいるはずじゃ。まずはオヌシのことを診てもらうとしよう」
「修道院があるってことは、宗教があるのか」
「ティナ教とやらがあるな。そこの修道士は、癒術という人の傷を癒す魔法を使う。そのおかげか信徒も多いし、人間のなかでは頼りにされておるようじゃ」
オークたちはフードで頭を隠しているものの、堂々と民衆の中を通過してゆく。バレたら、きっと騒ぎになるだろう。オークたちは、そんなこと歯牙にもかけていないのかもしれない。
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