四人の勇者と宿屋の息子(仮)

神依政樹

試練の洞窟2

不思議な光をくぐり抜けて、洞窟内に入ると、僅かな明かりが灯った広い空間が広がっていた。


前を見ると、4人の勇者全員が揃ったいる。
どうやら律儀にも、待っていてくれたらしい。


「…マリーとサーシャは入れなかったか。残念だが仕方ないな…ここはそういう場所だ」


アベルは残念そうに呟いた。
「ふん…。問題はないな。それでは我が友も来た事だし、早く先に行くぞ」


そう言ってブラッドは、薄暗い洞窟をズンズンと進んで行こうとする。


「待ってくれ、ブラッド!」


アベルの声に若干不機嫌そうに、ブラッドは振り返る。


「なんだ…?アベル」


その二人をニースが心配そうに、視線を移動させて見ている。
「この洞窟は入った者の強さに見当たった魔物が出ると聞いた。そうだね?ヤマトくん」


確認を取るアベルに頷く。


「バラバラで行動するといざという時に対処出来ないかもしれない。だからちゃんとチームとして行動したい」


キリッと引き締まった顔で、アベルが言った。


「ふむ…。それで誰が指揮を執る?」


つまらなそうにブラッドがそう言うと、アベルが僕に目線を寄越した。


「ヤマトくんにお願いしたい。何度か、この洞窟に入っているし、ブラッドを倒したのだから力量も問題ない」


おいおい…何を面倒くさい事を…


「賛成…!」


「ヤマトさんなら、良いですよ」


「ふむ…!我が友ヤマトの指示なら、従おう」


いつの間にか、近くに寄って来たルナスを始めに、みんな賛成らしい。


返事もしていないのに…。


「と、言うわけで…頼めるかな?ヤマトくん」


アベルがこちらに目を向ける。


めんどい…あっ、そうだ。


「皆さん、僕の指示に必ず従ってもらえるなら、引き受けましょう!」


「もちろん!あまりに無茶な指示以外、必ず従うさ!」


アベルが頷いた。


これで言質は取ったな。


「では先導と指揮はアベルさんに、一任します!よろしく!」




「はっ…!?」


アベルが珍しく間の抜けた顔をした。


「フハハ…!ふむふむ!知恵もなかなか回るな。友よ!それなら我は基本はアベルの指示に従おう」


ブラッドが愉快そうに笑う。


「だ、だがな…」
アベルが何か言おうとする。
「僕の指示に従うんですよね?必ず!」


「っ…そうだったな。分かった!責任を持って指揮を預かろう」
アベルは生真面目に頷いた。


この先、誰かに騙されないといいけど…、少しばかり心配になる。


そしてアベルを先頭に、僕達は洞窟を進む事にした。


★1


試練の洞窟はランダムに内部の構造が変化するのだが、今回は最初出た広い空間と、細い道が相互に続く構成になっているようだ。


広い空間に一つだけぽっかりと開いた穴を目指し、穴に入り、細い道を進んで行く。


するとまた広い空間にヤマト達は出た。


「…なんだ?魔物が出ないな」


細い道を唯一抜けた、先頭のアベルが立ち止まり、眉をひそめて、呟いた時に「アベル!盾を構えろッ!」
最後尾を歩いていたヤマトから鋭い声が上がった。


ヤマトの声で反射的に盾を構えたアレスに、重く、鋭い一撃が襲い掛かる。


「ッ…カッ!?」
あまりの衝撃に、アレスは吹き飛ばされそうになったが、口から空気を漏らしながら、なんとか踏みとどまる。


アレスが前方を見ると、広い空間はいつの間にか、異形のアンデット達に埋め尽くされていた。


そして、アレスに衝撃を与えたのは、ニメートルは超える巨躯を持つ存在だった。血で染まった頭巾で顔を隠し、上半身は何も身に着けずにいるため、青白い肌の筋肉が晒されている。


左手には異様に太い鎖を、右手にはその巨躯に見合った剣…と言うよりは相手をその重量と衝撃によって、圧殺する事を念頭に置いてあるだろう厚みのある大剣を持ち、下半身は布のズボンで隠され、両足には鉄球が括り付けられている。




「アベル!無事か!」


ヒュッ!ヒュッ!


ヤマトはアベルに声をかけながら、壁を無理やり登り、追撃を仕掛けようとしていた《処刑人/》に即座に牽制の矢を放つ。


頭を狙って放たれた矢は剣に防がれ、二発目は鎖を振り上げようとしていた左肩に突き刺さった。


「っ…!なんとか無事だ」


「ならアベルは道をこじ開けてくれ!そして、ニースとブラッドはそれを広げてくれ!僕とルナスが援護に回る」


狭い一本道に押し込まれないように、即座にヤマトが指示を飛ばす。


(っ…!あの廃院で出た生物兵器かよ…。強さは問題ないけど、数が厄介だ)


内心、ヤマト舌打ちした。眼前に広がる異形達はヤマトがこの世界に来る前に戦った存在達だった。


白衣を纏い首がねじ曲がった男、全身の関節がねじれた看護士の服装をした女、全身が鱗で覆われた人間を爬虫類にしたような存在。


ヤマトの声と共に、全員が闘身術を使う。まずはアベルが突撃を行い、それに続いてニースとブラッドが続く。


「光剣閃撃」


アベルが剣を振り上げると、剣が光輝き、振り下ろすと共に一直線に熱量を秘めた光が異形を薙払う。


それに続き、ニースが双剣を地面に突き刺して、アベルが開けた道を疾駆する。


「水晶の乱舞」


地面に差した双剣を引き抜くと、剣は水晶に覆われている。その剣をニースは舞うように敵に振り下ろすと、豆腐でも斬るように、敵を引き裂き肉片に変えて行く。


「はっ!金剛激帝」


ブラッドは縦横無尽に拳を、蹴りを、肘を、膝を、全てを敵に叩き込んで行く。


そしてルナスが、懐から銃形の魔道器を取り出し『冥炎/ヘルファイヤー』銃の魔道器を媒介に魔術を行使すると、銃から紫炎が銃弾となり、敵を貫き、焼いて行く。




ヤマトも弓で援護しながら、敵が近づく腰の剣を引き抜き、一刀のもとに倒していく。


そして…数分が経ち、肉片となった異形達は氷が溶けたように跡形もなく消失した。


「…強いと思った戦ったが、呆気なかったな」
ブラッドが拍子抜けしたように呟いた。


「油断は禁物だが…確かに…。弱い…と言うわけではないが、手応えがなさすぎるな」


ブラッドにアベルが
同意した。


「…ヤマトさん、何回かここに挑んでいると聞いたのですが…出現する魔物の強さはこの程度なのですか?」


ニースが首を傾げて、聞いて来る。


「う〜ん。なんとも言えないですが、今回ここに入るのは四回目になるんですが…なんか、段々弱くなってるような気がします」


僕は困ったように言った。
なんとなくアノ【スライム】と戦う度に魔物が弱くなってる気がしないでもないけど…。


「…考えても仕方ない。早く先に進む」


考え込んでいた僕らにルナスが言う。


それもそうだ…。と皆で頷いて僕達は進んで行った。


★2
その後、獣人の混成、下位の竜種と二回ほど魔物達と遭遇したが…ヤマト達は何ら問題にせず、討ち果たして行った。


「到着…か」


アベルがなんともスッキリしない表情で呟いた。


穴を抜けると、眼前にはまるで底が見えない深い谷間が広がり、その丁度中心に、人一人がやっと通れる程度の天然の橋が奥に続いている。奥には魔術紋様が施された巨大な扉がある。


「ここまで歯ごたえがなかったのだ。最後くらいは楽しめると、いいが…さて」


ブラッドが橋を渡って行く。


それに僕達も続いていく。


「こうして間近で見ると、凄いです。…本当に何の為に創られた場所なんでしょう」


ニースが扉を見上げてそう言う。


「ふん。冒険者だけならともかく…公国で調査して分からなければ、どうしようもあるまい」


先ほどからブラッドの声にいつもの元気がなかった。


「こんな場所早く出るぞ。歯ごたえが無さすぎてつまらん」


どうやら魔物達が強くなくて、不満らしい。


「よし!ならこの扉に入って出てくる【何か】に打ち勝てばおしまいだ。行くぞ」


アベルは鼓舞するように、そう言うと扉に開けて奥に進んだ。
「ふん…」「どんなのがでるのかな…」


つまらなそうなブラッドとニースがそれに続く。


「ヤマト…。行こう」
ルナスにそう言われ「じゃ…行こうか」
と僕も扉をくぐった。


その時…(資格を持つ者よ…今度こそ…を倒してみよ…)
とどこか威厳を孕んだ女性の声が聞こえたのだった。



「四人の勇者と宿屋の息子(仮)」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く