フェイト・マグナリア~乙ゲー世界に悪役転生しました。……男なのに~
新たな出会い
リグ公爵領へやって来た翌朝、リグ公爵から遠回しに私を頼らずにやってみろと言われた俺は……とりあえず中庭を借りて鍛錬をしていた。
何度でも言おう……日課って超大事!
……まぁ、単純に技を磨くとか肉体を鍛錬したいってよりも体を動かして、一度頭を空っぽにしたかったんだけどね。
だっていきなり領地運営だよ?領地運営。どうせ断れないと、勢いに任せて引き受けたもののどうしろと……いや、一応それなりに勉強はしたけどさ。知識は大事だけど、知識は知識に過ぎないからね!
……どっちにしろリグ公爵が言っていた問題の領地に朝食を終えたら向かう予定なので、行ってから考えるか。……問題とやらが俺でも解決出来るものだと良いんだけど。
考え事を終えるのに合わせて、素振りを終えると……それなりに育ちが良さそうな十代前半くらいだろう数人の侍女が俺を嘲るような笑い浮かべて見ていた。
やだ!貞操の危機!……なんて事はなく、俺はやっぱりと言うべきか、侮られているらしい。リグ公爵の前では澄まし面をして、あからさまな態度を取らないのに、俺にはしても構わないと思ってるんだろう。
別に良いんですけどね……慣れてるんで。
関わるのも面倒なので、さっさと汗を流して朝飯でも食べるとしよう。
「あの……カイン様ぁ?」
……非常に耳障りな甘たるい声を掛けられた。やだ……僕に構わないでよね。
「……なんですか?」
嫌々ながらも無視するのもどうかと思い、嫌そうな顔をしないように気を付けながら聞き返す。
「カイン様はお兄様のアベル様と良くお話しされるんですかぁ?」
「まぁそれなりに……」
ま、話すようになったのはつい最近ですけどね。俺に取り入ってお兄様と出来ればお近づきになりたいんだろうけど、アレは絶世の美女でも無理だと思う。だって今のところお兄様にとって女の子=面倒な存在って認識だもん。
肯定すると侍女は後ろに居る侍女達を見て頷くと……言った。
「あのぅ……これは先輩達から聞いたんですけどぉ?ディアナ様の噂、知ってますか?ディアナ様は母親の命を奪って産まれてきたらしいですよ。それであの髪は母親を殺したからなった呪いとか、病気って話もあるんです。それにぃ……リグ公爵がそんな子供を捨てないのも、あの歳にして父親を誘惑する淫ば……」
「黙れ」
「ひっ……!」「あっ……」「っ……!やっ!」
胸糞悪い女の首を手加減しながら締め上げ、壁に押し付ける。取り巻き達も逃がさないように土魔法で、石畳を液状にして足を嵌めてから固定して、逃げないように拘束する。
女達から怯えと恐怖が入り交じった目を向けられる。
おいおい……何をそんなにビビってるんだ?覚悟も何もない軽い悪意で人の心を壊そうとしたくせに、自分が物理的に壊されそうだからってさ。やってることに大した違いはないんだが。
「ゆ、ゆ…るじぃてぇ……くださ……い…っ!」
あーあ……それなりに可愛い顔してるのに、涙や鼻水の体液で随分と不細工になっちゃて、足元も濡らしてるよ。ヤバイな……抑えが聞かなそうだぞ。
「わ、私達は関係ないんです!その子がアベル様にあんな女は相応しくないからと言い出……」
「……黙れって言葉が理解できないか?」
「ひっ……!」
後ろで楽しそうに醜悪な笑みを浮かべていた癖に、仲間を売って見苦しい言い訳を始めやがった。本当に不快だな……こいつら。やろうと思えば王族への不敬で首を跳ねれるか?
……と言っても公爵家に仕えてる事、こいつらのそれなりの育ち良さそうな顔立ちや、若さを考えるに下級貴族や、豪商が花嫁修業や情報収集、顔繋ぎ、箔付け、それにあわよくばそれなりの相手に御手付きされれば……とか考えて送り込んだ娘達だろう。
……こいつらをどうにかするだけでディアナを蔑視する奴等が居なくなるならいいが……こいつらだけの訳がないしな。根を断ち切れないのにわざわざ敵を増やすのも、割に合わないか。
さて……どうするか、とりあえず脅すだけで済ましてもいいが……逆効果になる可能性もある。
この足音は……ああ、さすが頼りになる。悪いけど手伝ってもらうか。
「……貴様らは不敬罪で死にたいのか?ディアナ・リグ・マグナリア公爵令嬢は代々公爵を務めるリグ家のご息女であるだけでなく、将来は我が姉上となり、王族に名を連ねるお方。それを私の前で侮辱するとはな。このまま全員死ぬか」
「お許しをっ!」「た、助けて……」
「おやおや……何やら物騒な空気ですね。カイン様」
女達への忠告と説明を兼ねてそう言うと、エミリアさんが丁度良く来てくれた。
(……バカな小娘がやらかしたのは分かりましたが、それで私にどうして欲しいのですか?)
視線で問い掛けてくるので視線で返事を返す。
(いや、本当に殺すのもアレだし、この事を利用して使用人達のディアナに対する態度を止めさせたいんだけど、やってくれない?)
(……まぁ、出来なくは無いと思いますが、カイン様の評判が更に悪くなりますよ?)
(元からマイナスなんだから俺の評判なんてどうでもいいよ。頼む)
(はぁ……仕方ないですね。あんなに健気なディアナ様が傷付くのを見るのもアレですから、やれるだけやりましょう。ただし……ボーナスは弾んで貰いますからね?)
(……ぐっ!分かった。よろしく頼む)
「ふん、王族に不敬を働く無礼なこいつらどうしてやろうかと考えていた所だ。このまま殺しても構わんよな?エミリア」
「「っ!」」
場の主導権を少しエミリアに預けると、狙い通り侍女達が救いを求めるようにエミリアへ視線を向けた。
「それは死罪で妥当……かと思いますが、見たところまだまだ年若い娘達です。良く躾ておきますので、ここは私に預けていただけませんか?カイン様」
「……まぁ、エミリアがそう言うなら預けよう。貴様らアレの言うことを良く聞けよ?次はないと思え」
首を締め上げていた娘を解放して、侍女達を拘束していた魔法を解いた。
「けほっ!けほっ!…はぁ!はぁ!……あ、ありがと…うございます!」「か、感謝します」「も、申し訳ありませんでした」
……まぁ、余程のバカじゃない限り、これで同じことは繰り返さないだろう。侍女達はエミリアさんに、立場は勿論、精神的にも逆らわないようになった。しかし、以外と目で会話って出来るもんだ。
汗を流した俺は朝食の前にソーマの顔でも見ようと厨房に立ち寄ったら……何やらコック達が尊敬の眼差しをソーマに向けてた。しかも、シェフらしい人までソーマを『さん』付けで呼んでるし……完全にリグ家の厨房をソーマは掌握していた。何?名前が一緒だからってら食◯でも挑んでボコボコにしたの?この子。
「おはようございます!カイン様!今日も腕に縒りを掛けて朝食作ったので、是非食べてくださいっす!……そうそうカイン様は俺に取って第二の師匠みたいな方なんで……失礼な態度を取ったら、分かってるっすね?お前ら」
「「うっす!!!」」
ソーマが普段は見せない鋭い視線を周りに向けると野太い声と共に……俺に対しても尊敬の眼差しが向けられた。
やめてっ!俺は前世で学んだことをそのまま教えたりしてるだけだからっ!ソーマみたいに一を教えると、そこから十まで自分で閃いて覚える孔子が賞賛した顔回みたいなチートと一緒にしないでっ!
ソーマ達が用意してくれた朝食はこれでもか野菜とベーコンが入ったスープに、マフィンにポーチドエッグと野菜、スモークサーモンを挟んだエッグベネディグドだった。
リグ公爵はソーマの料理を絶賛し、ディアナはディアナで「カインの連れて来た方ですもの!当たり前ですわ。お父様!」とまだまだ控えめな胸をなぜか張っていた。
「今日、カイン様に向かってもらう領地には現地を纏めている寄子であるゼリア男爵が居ます。彼を補佐に付けますので色々事情を聞かれるとよろしいでしょう」
「分かりました。どれ程の事が出来るか解りませんが、やれるだけやりたいと思います」
朝食を食べ終わるとリグ公爵はそう切り出した。その色々を懇切丁寧に教えてくれる気はないらしい。まぁ、それを含めて、俺がどれ程出来るかを見るための試験なのだろうけど。
「その……カイン!精霊の導きがありますように祈ってますわ!私も公爵家の娘として相応しいように頑張ります」
領地へ向かうために食堂から出る直前、むんと擬音が聞こえそう感じで、胸の前で握り拳作ったディアナにそう声を掛けられた。
……ああ、やっぱりディアナはかわええな。うん。頑張ろう。
リグ公爵が手配してくれた馬車に、これまたリグ公爵が付けてくれた腕が良さそうな護衛と共に、街道を一時間程。盗賊に教われるとか、魔物の襲撃に遭うとか、何のイベントもなくたどり着いたのは公都ケレスよりは小さいものの、それなりの大きさがある町であった。
ちなみにエミリアには今朝の頼みを実行してもらうために、残ってもらっている。ソーマも居残りだ。
ただ、町の様子は公都ケレスとは違う活気に満ちている。野菜、穀物、羊、豚、牛、鳥と食肉用だろう家畜がところ狭し並び、それを商人達が番号の割り振られた札を掲げながら大声で競り合い。
少し視線を移せば、忙しなく人が動き回り、箱に野菜を詰め込んだり、野菜が詰め込まれた箱や、穀物の入った袋に、何処に運ぶ込むのか識別するためだろう、数字と意味のわからない文字が付けられている。
「……ああ、ここは卸町オリオンと言いまして、野菜、穀物、家畜の仕分け、そして、それらを商人達が競り合う場所なんですよ。何せ、ここはマグナリアの胃袋と言われるほどの食糧を扱ってますからね。ケレスでこれをやると人の住む場所が無くなるなどの問題がありますし、大変ですからね。ここでワンクッション置いて、どこ行きでどの商会が買い付けしたかなど分別された物が交通網の発達しているケレスに向かい、他の領地や王都に運ばれるんでさぁ」
「……そうなのか。勉強になった、ありがとう」
「ははっ……!何の何の。お役に立てれば良かったでさぁ」
馬車からキョロキョロと外を見ていると、護衛の一人である気の良さそうなおっさんが、そう説明してくれた。
……なるほど、ここは農協所と市場が一緒になったような場所らしい。リグ領の農家さん達から、ここに殆どの農作物などが集められ、梱包や発送準備が行われると同時に、商人達が買い付けをする町らしい。
しかし、何もしなくても高い税収が有りそうなこの町を含めた領地に問題ね……何だ?
そのまま賑わう町を馬車で走ると、そこそこ立派な建物に止まった。
護衛の一人が建物に入り、俺の到着を知らせに行くと……公園のブランコで黄昏てそうなやつれたおじさんと、ふわふわとしたウェーブの掛かった亜麻色の髪を肩まで伸ばした、髪型とは不釣り合いに気の強そうな俺と同じ年齢くらいの美少女。それと燃えるように赤い髪をした活発そうな少年が護衛と共に出てきた。
はて……?少女と少女に見覚えがあるような。
それに……なんだ。おっさんは王族に粗相がないようにしようとビクビクした態度だし、少年は見た目通り好奇心に満ちた視線を向けて来るのだけど……少女の反応が分からん。
何で知ってるはずの人間なのに知らない人間に会ったような反応をする……?
「ええ……この度はカイン様に来てくださり……」
やつれたおっさんが口上を述べてる間、少女は俺をずっと睨み付けていた。
口上が終わり、建物の中に案内すると言うので進むと……少女が俺の隣に来た。
「……あら?畏まりました。お父様。少し、カイン様をご案内して来ますわ」
「……案内?ああ、なるほど。では待っているからご案内しなさい」
すると何も俺は言ってないのに、少女が突然そう言うと皆が頷いた。……これ確実に俺がトイレ我慢出来なかった人だよね?案内される直前にトイレに行きたいとか子供か!……子供だけど。
「では……こちらにカイン様」
言われるがままに少女に付いて行き、少し歩くと……死角に引っ張り込まれた。……予想通り少女は俺に話があるらしい。
少女は俺を睨み付けると、口を開いた。
「あなた……本当に『あの』第二王子のカインなの?」
……普通なら噂と違う容姿の事を事を言っているのだろう。だが、違う。……道理で既視間を覚えるはずだ。何せこの女は……主人公なのだから
「……その反応はやっぱりそうなのね」
「……ああ、お前も「あなたも「「転生者」」
何度でも言おう……日課って超大事!
……まぁ、単純に技を磨くとか肉体を鍛錬したいってよりも体を動かして、一度頭を空っぽにしたかったんだけどね。
だっていきなり領地運営だよ?領地運営。どうせ断れないと、勢いに任せて引き受けたもののどうしろと……いや、一応それなりに勉強はしたけどさ。知識は大事だけど、知識は知識に過ぎないからね!
……どっちにしろリグ公爵が言っていた問題の領地に朝食を終えたら向かう予定なので、行ってから考えるか。……問題とやらが俺でも解決出来るものだと良いんだけど。
考え事を終えるのに合わせて、素振りを終えると……それなりに育ちが良さそうな十代前半くらいだろう数人の侍女が俺を嘲るような笑い浮かべて見ていた。
やだ!貞操の危機!……なんて事はなく、俺はやっぱりと言うべきか、侮られているらしい。リグ公爵の前では澄まし面をして、あからさまな態度を取らないのに、俺にはしても構わないと思ってるんだろう。
別に良いんですけどね……慣れてるんで。
関わるのも面倒なので、さっさと汗を流して朝飯でも食べるとしよう。
「あの……カイン様ぁ?」
……非常に耳障りな甘たるい声を掛けられた。やだ……僕に構わないでよね。
「……なんですか?」
嫌々ながらも無視するのもどうかと思い、嫌そうな顔をしないように気を付けながら聞き返す。
「カイン様はお兄様のアベル様と良くお話しされるんですかぁ?」
「まぁそれなりに……」
ま、話すようになったのはつい最近ですけどね。俺に取り入ってお兄様と出来ればお近づきになりたいんだろうけど、アレは絶世の美女でも無理だと思う。だって今のところお兄様にとって女の子=面倒な存在って認識だもん。
肯定すると侍女は後ろに居る侍女達を見て頷くと……言った。
「あのぅ……これは先輩達から聞いたんですけどぉ?ディアナ様の噂、知ってますか?ディアナ様は母親の命を奪って産まれてきたらしいですよ。それであの髪は母親を殺したからなった呪いとか、病気って話もあるんです。それにぃ……リグ公爵がそんな子供を捨てないのも、あの歳にして父親を誘惑する淫ば……」
「黙れ」
「ひっ……!」「あっ……」「っ……!やっ!」
胸糞悪い女の首を手加減しながら締め上げ、壁に押し付ける。取り巻き達も逃がさないように土魔法で、石畳を液状にして足を嵌めてから固定して、逃げないように拘束する。
女達から怯えと恐怖が入り交じった目を向けられる。
おいおい……何をそんなにビビってるんだ?覚悟も何もない軽い悪意で人の心を壊そうとしたくせに、自分が物理的に壊されそうだからってさ。やってることに大した違いはないんだが。
「ゆ、ゆ…るじぃてぇ……くださ……い…っ!」
あーあ……それなりに可愛い顔してるのに、涙や鼻水の体液で随分と不細工になっちゃて、足元も濡らしてるよ。ヤバイな……抑えが聞かなそうだぞ。
「わ、私達は関係ないんです!その子がアベル様にあんな女は相応しくないからと言い出……」
「……黙れって言葉が理解できないか?」
「ひっ……!」
後ろで楽しそうに醜悪な笑みを浮かべていた癖に、仲間を売って見苦しい言い訳を始めやがった。本当に不快だな……こいつら。やろうと思えば王族への不敬で首を跳ねれるか?
……と言っても公爵家に仕えてる事、こいつらのそれなりの育ち良さそうな顔立ちや、若さを考えるに下級貴族や、豪商が花嫁修業や情報収集、顔繋ぎ、箔付け、それにあわよくばそれなりの相手に御手付きされれば……とか考えて送り込んだ娘達だろう。
……こいつらをどうにかするだけでディアナを蔑視する奴等が居なくなるならいいが……こいつらだけの訳がないしな。根を断ち切れないのにわざわざ敵を増やすのも、割に合わないか。
さて……どうするか、とりあえず脅すだけで済ましてもいいが……逆効果になる可能性もある。
この足音は……ああ、さすが頼りになる。悪いけど手伝ってもらうか。
「……貴様らは不敬罪で死にたいのか?ディアナ・リグ・マグナリア公爵令嬢は代々公爵を務めるリグ家のご息女であるだけでなく、将来は我が姉上となり、王族に名を連ねるお方。それを私の前で侮辱するとはな。このまま全員死ぬか」
「お許しをっ!」「た、助けて……」
「おやおや……何やら物騒な空気ですね。カイン様」
女達への忠告と説明を兼ねてそう言うと、エミリアさんが丁度良く来てくれた。
(……バカな小娘がやらかしたのは分かりましたが、それで私にどうして欲しいのですか?)
視線で問い掛けてくるので視線で返事を返す。
(いや、本当に殺すのもアレだし、この事を利用して使用人達のディアナに対する態度を止めさせたいんだけど、やってくれない?)
(……まぁ、出来なくは無いと思いますが、カイン様の評判が更に悪くなりますよ?)
(元からマイナスなんだから俺の評判なんてどうでもいいよ。頼む)
(はぁ……仕方ないですね。あんなに健気なディアナ様が傷付くのを見るのもアレですから、やれるだけやりましょう。ただし……ボーナスは弾んで貰いますからね?)
(……ぐっ!分かった。よろしく頼む)
「ふん、王族に不敬を働く無礼なこいつらどうしてやろうかと考えていた所だ。このまま殺しても構わんよな?エミリア」
「「っ!」」
場の主導権を少しエミリアに預けると、狙い通り侍女達が救いを求めるようにエミリアへ視線を向けた。
「それは死罪で妥当……かと思いますが、見たところまだまだ年若い娘達です。良く躾ておきますので、ここは私に預けていただけませんか?カイン様」
「……まぁ、エミリアがそう言うなら預けよう。貴様らアレの言うことを良く聞けよ?次はないと思え」
首を締め上げていた娘を解放して、侍女達を拘束していた魔法を解いた。
「けほっ!けほっ!…はぁ!はぁ!……あ、ありがと…うございます!」「か、感謝します」「も、申し訳ありませんでした」
……まぁ、余程のバカじゃない限り、これで同じことは繰り返さないだろう。侍女達はエミリアさんに、立場は勿論、精神的にも逆らわないようになった。しかし、以外と目で会話って出来るもんだ。
汗を流した俺は朝食の前にソーマの顔でも見ようと厨房に立ち寄ったら……何やらコック達が尊敬の眼差しをソーマに向けてた。しかも、シェフらしい人までソーマを『さん』付けで呼んでるし……完全にリグ家の厨房をソーマは掌握していた。何?名前が一緒だからってら食◯でも挑んでボコボコにしたの?この子。
「おはようございます!カイン様!今日も腕に縒りを掛けて朝食作ったので、是非食べてくださいっす!……そうそうカイン様は俺に取って第二の師匠みたいな方なんで……失礼な態度を取ったら、分かってるっすね?お前ら」
「「うっす!!!」」
ソーマが普段は見せない鋭い視線を周りに向けると野太い声と共に……俺に対しても尊敬の眼差しが向けられた。
やめてっ!俺は前世で学んだことをそのまま教えたりしてるだけだからっ!ソーマみたいに一を教えると、そこから十まで自分で閃いて覚える孔子が賞賛した顔回みたいなチートと一緒にしないでっ!
ソーマ達が用意してくれた朝食はこれでもか野菜とベーコンが入ったスープに、マフィンにポーチドエッグと野菜、スモークサーモンを挟んだエッグベネディグドだった。
リグ公爵はソーマの料理を絶賛し、ディアナはディアナで「カインの連れて来た方ですもの!当たり前ですわ。お父様!」とまだまだ控えめな胸をなぜか張っていた。
「今日、カイン様に向かってもらう領地には現地を纏めている寄子であるゼリア男爵が居ます。彼を補佐に付けますので色々事情を聞かれるとよろしいでしょう」
「分かりました。どれ程の事が出来るか解りませんが、やれるだけやりたいと思います」
朝食を食べ終わるとリグ公爵はそう切り出した。その色々を懇切丁寧に教えてくれる気はないらしい。まぁ、それを含めて、俺がどれ程出来るかを見るための試験なのだろうけど。
「その……カイン!精霊の導きがありますように祈ってますわ!私も公爵家の娘として相応しいように頑張ります」
領地へ向かうために食堂から出る直前、むんと擬音が聞こえそう感じで、胸の前で握り拳作ったディアナにそう声を掛けられた。
……ああ、やっぱりディアナはかわええな。うん。頑張ろう。
リグ公爵が手配してくれた馬車に、これまたリグ公爵が付けてくれた腕が良さそうな護衛と共に、街道を一時間程。盗賊に教われるとか、魔物の襲撃に遭うとか、何のイベントもなくたどり着いたのは公都ケレスよりは小さいものの、それなりの大きさがある町であった。
ちなみにエミリアには今朝の頼みを実行してもらうために、残ってもらっている。ソーマも居残りだ。
ただ、町の様子は公都ケレスとは違う活気に満ちている。野菜、穀物、羊、豚、牛、鳥と食肉用だろう家畜がところ狭し並び、それを商人達が番号の割り振られた札を掲げながら大声で競り合い。
少し視線を移せば、忙しなく人が動き回り、箱に野菜を詰め込んだり、野菜が詰め込まれた箱や、穀物の入った袋に、何処に運ぶ込むのか識別するためだろう、数字と意味のわからない文字が付けられている。
「……ああ、ここは卸町オリオンと言いまして、野菜、穀物、家畜の仕分け、そして、それらを商人達が競り合う場所なんですよ。何せ、ここはマグナリアの胃袋と言われるほどの食糧を扱ってますからね。ケレスでこれをやると人の住む場所が無くなるなどの問題がありますし、大変ですからね。ここでワンクッション置いて、どこ行きでどの商会が買い付けしたかなど分別された物が交通網の発達しているケレスに向かい、他の領地や王都に運ばれるんでさぁ」
「……そうなのか。勉強になった、ありがとう」
「ははっ……!何の何の。お役に立てれば良かったでさぁ」
馬車からキョロキョロと外を見ていると、護衛の一人である気の良さそうなおっさんが、そう説明してくれた。
……なるほど、ここは農協所と市場が一緒になったような場所らしい。リグ領の農家さん達から、ここに殆どの農作物などが集められ、梱包や発送準備が行われると同時に、商人達が買い付けをする町らしい。
しかし、何もしなくても高い税収が有りそうなこの町を含めた領地に問題ね……何だ?
そのまま賑わう町を馬車で走ると、そこそこ立派な建物に止まった。
護衛の一人が建物に入り、俺の到着を知らせに行くと……公園のブランコで黄昏てそうなやつれたおじさんと、ふわふわとしたウェーブの掛かった亜麻色の髪を肩まで伸ばした、髪型とは不釣り合いに気の強そうな俺と同じ年齢くらいの美少女。それと燃えるように赤い髪をした活発そうな少年が護衛と共に出てきた。
はて……?少女と少女に見覚えがあるような。
それに……なんだ。おっさんは王族に粗相がないようにしようとビクビクした態度だし、少年は見た目通り好奇心に満ちた視線を向けて来るのだけど……少女の反応が分からん。
何で知ってるはずの人間なのに知らない人間に会ったような反応をする……?
「ええ……この度はカイン様に来てくださり……」
やつれたおっさんが口上を述べてる間、少女は俺をずっと睨み付けていた。
口上が終わり、建物の中に案内すると言うので進むと……少女が俺の隣に来た。
「……あら?畏まりました。お父様。少し、カイン様をご案内して来ますわ」
「……案内?ああ、なるほど。では待っているからご案内しなさい」
すると何も俺は言ってないのに、少女が突然そう言うと皆が頷いた。……これ確実に俺がトイレ我慢出来なかった人だよね?案内される直前にトイレに行きたいとか子供か!……子供だけど。
「では……こちらにカイン様」
言われるがままに少女に付いて行き、少し歩くと……死角に引っ張り込まれた。……予想通り少女は俺に話があるらしい。
少女は俺を睨み付けると、口を開いた。
「あなた……本当に『あの』第二王子のカインなの?」
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