フェイト・マグナリア~乙ゲー世界に悪役転生しました。……男なのに~

神依政樹

リグ公爵領へ

マグナリア王国は王都を中心に、大きく分けて東西南北の領地に別れており、それぞれの方角を大きな権限が与えられた四公爵が纏めている。


北方ノースは長年小競り合いが続く帝国に、多くの魔物の生息圏が隣接することから、礼節と誇りを大切にする武都として有名であり、多くの騎士達の輩出し、ファン公爵家も王を除けば軍の最高責任者である軍務卿を代々輩出している。


西方ウェストは元々は良質な鉱山が多くあったが、ある程度取りつくしてしまい、今までの鉱山頼りの領地運営を止め、三代前のキサラギ公爵だから……アズマさんの曾曾じいさん?が教育に大きく力を入れ、今では学都として有名になっており、多くの学者や魔法使い、縁の下を支える役人がキサラギ領の出身であるらしい。


それと教育に力を入れた結果、新たな採掘法に、新たな鉱脈を発見等があった為、昔ほどでは無いものの今でも良質な鉱石が取れるそうだ。


南方サウスは海に面し、海産物や塩の製造、南諸島連合との貿易で海運業が活発だったことから、多くの商人が集まった為に、今では商都として有名であり、大きな商会の本部のほとんどはラーガイ公爵領に集中している。


そして……リグ公爵領のある東方イーストは肥沃な大地が多いことから、古くから農業や畜産業が盛んで、マグナリア王国に流通する肉や野菜の半分以上はリグ公爵領で生産され、国の食糧庫として国の胃袋を支えているらしい。


それと様々な亜人達の小国が集まって出来たムラクモ連合と隣接しており、現当主のリグ公爵が通商を結び、交易を開始した為に交易賂として少し賑わいを見せ始めてるそうだ。






と、北が武を、西が学問を、南が商業を、東が農業とそれぞれ違う分野に秀でているマグナリア王国の特徴をリグ公爵領へ向かう馬車の中で思い出しながら……俺は外に広がる太陽を浴びて、これでもか!と緑に色づいた牧歌的な畑を見ながら大きな欠伸をした。


「……カイン様、元々あまり品がないとは言え、そんな大きな欠伸をしては……その、ええ、とても私の口からは言えない有り様ですよ」


すると対面に座るエミリアさんに失礼な事を言われて注意された。


「いや、どんだけさ?ごめん。本も読み終わって暇だったからつい。気をつけるよ」


俺は突っ込みを入れてから謝り……エミリアの隣に座ってカチコチと音が聞こえそうな程に身を固くしているソーマを見た。


あれだけ身を固くしてたら、馬車を降りた時大変だろうに……まぁ、あんまり女気がない職場で青春時代を過ごしてるソーマにしてみれば、見た目美人であるエミリアの隣に座ってれば緊張もするか。


それにちょっと前に確か「カイン様のお付きの方はとても素敵な女性ですよね……」と、偶像アイドルに憧れる中高生のように目を輝かせてたしな。


……うーん。ソーマがエミリアさんとね。ソーマの感情が憧れなのか、本気の好きなのかはともかくとして可能性はどうなんだろう?見た目は……まぁ、悪くないだろう。それなりに整った真面目そうな顔立ちをしてるし、恋人には選ばれないが、結婚相手には選ばれるタイプだろう。


性格も普段はちょっと気弱な印象があるけど、料理に懸ける熱意は本物だし、腕前も王族専属料理長が認める程だから確かだ。俺の教えた料理をすぐに覚えて、更に発展させたりする才能を持ってるし。


なにせ、普段は寡黙な料理長自らが


「カイン様。しばらくリグ公爵領へとご遊学へ向かうと聞きました。良ければこいつを……ソーマを連れて行って下さい。私が教えられる限りの事は教えてありますので、多少はカイン様のお役に経つはずです。こいつに取っても……カイン様と共にあった方が為になるでしょうから」


と言われ、元々出来れば連れて来たいと思っていたソーマをリグ公爵領への旅に連れてくることになったのだ。まぁ、とりあえずエミリアさんをものにしたかったら……金かな。


しかし、腐っても俺も王族。大して注目もされてないとは言え、公式の遊学だからか、リグ公爵が迎えに寄越してくれた馬車はとても豪華だった。


見た目も勿論、内装にも金が掛けてあるからか、座り心地も良く、揺れもほとんどないから、尻が痛くなることは無さそうだ。


うーむ、一体いくらの金が掛かってるのか。護衛として俺の乗る馬車を挟むように先頭と後方にも、馬車が走ってるし。しかも、俺の乗る馬車馬は普通の馬じゃなくて、ホーンホースっていう、確か強靭な肉体と角を持つ魔物一種のはずだしな。


まぁ、見たことはないけど王や王太子にはクリスタルホーンと呼ばれ、一部の地域では聖獣として信仰されてる美しい専用馬がいたりするんだけどね。


と暇潰しにそんなことを考えていると、いつの間に目的地である公都ケレスが見えてきた。


さすがは公都と言うべきか、王都ユピテルには一歩譲るものの、城壁に囲まれた街はかなりの大きさだった。


あそこでしばらく過ごすことになるのか。まぁ……頑張るとしますか。








城門を抜けると……ケレスの住人達が集まっていた。何事かと窓から外の様子を伺うと、どうやら俺を歓迎するために集まったらしいが……なにやら微妙な空気だ。


「……おい、あの馬車に乗ってるのが出涸らしの第二王子か?」「らしいぜ。なんせ、お触れがあったからな」「やーん、アベル様がいらっしゃれば良かったのに」「第二王子って、言葉も喋れない小太りの子豚王子でしょう」「……そういえば、十歳にもならないうちに侍女に手を出した淫獣って話を聞いたぜ」


……好き勝手にも程がある噂が小声で囁かれていた。城での扱いはある程度慣れたし、お兄様と一緒に過ごすようになってからは、侍女達の態度も多少は変わっていたので、どこか懐かしいという思いすら沸き上がって来やがるよ?


しかし、この世界の住民達は俺を敬わないようにとでも、潜在意識に刷り込まれてんのか?……何か、無いとは言い切れないから嫌だな。


小太りの噂を払拭する為に顔でも出そうかと思ったが……止めた。太っているって噂があれば、誰も俺が第二王子とは思わないだろう。そっちの方が色々動きやすい。


「……あいつらカイン様の事を何も知らない癖に好き勝手な事を言って、許せねぇっす」


……予想外と言うか。なんと言うか……ソーマが憤慨したように外を睨んだ。


「……こう言ってはなんですが、ソーマ様がそこまでカイン様の事を慕っていらっしゃるとは驚きですね」


エミリアも予想外だったのか、そんなことを言った。……従者的にはソーマと同じような反応が正しいと思うが、エミリアさんにそんなことを期待したらダメだな。うん。


「……いや……なんて言って良いのかわからねぇっすけど、あれっす。俺、カイン様の事を尊敬してるんっすよ。王子様なのに周りからのひどい扱いに負けないで、色々な事を努力なさってるし、俺が考えも付かない料理を創るっすから」


ソーマは照れているのか、頬を掻きながらキラキラした目を俺に向けてきた。


……何て言うか、気持ちは嬉しいけど罪悪感があるな。料理は俺が考え出した訳じゃないし、周りの扱いに耐えられるのは前世の記憶があるからだ。それに努力するのも自分自身の為だ。


何とも微妙な気持ちになりながら、整備された道を進むと、豪奢ではないが確かな品格を感じる立派な屋敷が見えてきた。






屋敷にたどり着くと、使用人、ディアナ、リグ公爵が総出で、出迎えてくれた。


……うむうむ、淡い水色のドレス来たディアナは妖精のように愛らしく、綺麗だね。眼福、眼福。


「やぁ、良く来ましたね。カイン王子、我が領に入らしたことを心より歓迎しますよ」


「カイン様。心より歓迎しますわ」


リグ公爵がにっこりと笑って、歓迎の意を表してくれると続いてディアナが、洗練された優雅なお辞儀をした。


「これはこれは……若輩の私などの為に、公爵とディアナ様自ら出迎えていただき、心より感謝いたします」


俺もそれに併せ、感謝を表すために僅かに頭を下げた。……周りからどう見えてるかは分からないけど、練習したからそれなりには見える……はずだ。


正直、めんどくさいやり取りだが、一応俺も公爵達も身分と言うものがある以上、それなりの形式と言うのが必要なのだ。


「さて積もる話もありますし、先ずはカイン王子を応接室に案内しよう」


リグ公爵自らが案内してくれるようなので、俺はリグ公爵とディアナに着いて行く。その間に、使用人達に案内されてソーマとエミリアさんは用意された部屋へ荷物を運ぶようだ。と言っても大した荷物はないんだけどね。


案内された応接室は品の良い調度品が置かれた落ち着いた雰囲気の部屋だった。


リグ公爵に促され、ソファーに座ると、どこから現れたのか。壮年の執事がお茶を淹れてくれた。


「改めて良く来たね。カインくん。慣れない馬車で疲れなかったかい?」


「本来なら尻が痛くて、座るのが苦痛だったかもしれないですが、リグ公爵が高級な馬車を迎えに寄越してくれたので快適でした。ありがとうございます」


「そうかい?それは良かった。こっちは昨日から、カインくんが来るからとディアナがドレス選びに夢……」


「お、お父様!」


何かを言いかけたリグ公爵をディアナが真っ赤な顔をして止めた。最近のディアナの反応って……まさか……ね。俺の気のせいだろう。


「やれやれ、我が娘ながら素直じゃないな。まぁ、今はその方が良いか」


……何か、蚊帳の外感が最近あるよね。何だろうね?この周りのやりとりは。本当に。


「さて、カイン王子。遊学に来た貴方には領地運営を学んで貰うために、実際に二年間ほど領地を直接運営して貰う事になります」


世間話の終わりを告げるように咳払いをして、居住まいを正したリグ公爵がそう言った。


……いきなり領地運営かよ。リアル内政は難易度高いぞ。


「カイン王子にお任せする領地はこの都から程近い距離にありますので、この屋敷に滞在してください。そして、お任せする領地なのですが……いくつかの問題を抱えているのです」


「もちろん……カイン王子ならば私の助けなどなくても、あの領地の問題を解決が出来ると思いますが……無理だと思うならば、言ってくだされば私の方でどうにかしますのでご安心を」


そう言うリグ公爵は……俺が今まで見たことの無いような凄みがあった。そして、どこか俺を試すような、底を覗き込むような目を向けてきた。


おいおい……俺は何を勘違いしてた?いつ頃からリグ公爵を優しく、子煩悩な父親程度の過小な認識をしてた。この人は紛れもなくこの国を支える四公の一人。


そんな人が、優しいだけのはずがないじゃないか。リグ公爵はこう言っているのだ。俺の価値を、力を、能力を、与えられた領地の問題をリグ公爵の助けなく解決して、示してみせろと……。


どんな問題なのかは分からないが……無茶ぶりをしてくれる。でもまぁ、やんないとな。反対に言えばそれだけ期待されてるって事だろう。……上等。期待されたなら、それに応えないと男じゃあねぇよな。


「……分かりました。どうか、楽しみにしててください」




▽▲▽▲▽


リグ公爵は己が目を強く見返して来るカインに、威圧を解いて笑みを浮かべそうな自分を押さえつけた。


正直、リグ公爵がカインに要求したのは並大抵の事ではない。


今まで、領地運営などしたこともない十歳の少年に、今、様々な問題を抱える広大な『リグ公爵領』の運営をして、問題を解決しろと言うのだ。それも自分の助けなく。


だが、それでもやり遂げて貰わねばならないのだ。大人が子供に対して過度な期待と希望を抱いてるのは分かっていても。公爵にとってカインの考えは東方イーストが抱える問題を解決出来る唯一の妙手と言って良いのだから。


それにそれくらいの事がやれないようでは周りを黙らせ、公爵位はることも出来ないし、条件からして大事な娘を嫁にくれてやれない。


……決して今更になって娘が嫁に行くことを真剣に考えたらそれが嫌になったからと、公爵は無茶ぶりをしたわけではないのだ。決して。





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