フェイト・マグナリア~乙ゲー世界に悪役転生しました。……男なのに~

神依政樹

ギリギリの戦い

「……はっ!吠えるな。だが、この俺が、なぜお前程度の奴を相手にせねばならん?時折俺が剣を振るっていたのを覗き見していたのだ。実力の差を理解出来んほど愚鈍か?」


……頭に上った熱を冷ますように深く息を吐く。熱くなりすぎた……。お兄様が簡単には挑発に乗ってこないのはありがたい。


……三つ。ここを切り抜けるには三つクリアしないといけない条件がある。


喧嘩を売っておいてなんだが、一つがお兄様と完全に敵対しないことだ。


今更だが第二王子として一応王位継承権があるとは言え、お兄様と完全に敵対したらその時点で詰むのだ。俺は。


今現在、俺の価値と言えば、お兄様に何かあった時のスペアとしての価値しかない。


そのスペアとしての価値しか無く、母も庶民の出で何ら政治的な後ろ楯を持たない俺が、王国の大事な後継者と敵対。


害意を持っていると周りが判断したら、将来的に禍根を残すくらいなら……と、俺を消そうと考える人間も出てくるだろう。


王妃様あたりはこれ幸いと、目障りな俺を排除しようと動くかもしれない。


二つ目が完全に勝たないことだ。下手にお兄様より優れたモノが一つでもあると、俺を担ぎ出して甘い汁を吸おうと考える馬鹿達が寄ってくる可能性が僅かにある。それと俺がお兄様の邪魔になる可能性があると、動く人間が出るかも知れないからだ。


三つ目がディアナに謝罪させる事だ。お兄様がディアナを罵ったのだけは許すつもりはない。絶対に頭を下げさせる。


……と言っても同時に落とし所を作ることも必要だろう。それを定めないと収拾が着かなくなる。


第一がディアナに何らかの非難を向けさせないことで……出来れば俺にも向けさせないようにしたいが……。


「……確かに実力差は歴然かも知れないですが……油断してると足元を掬われるかもしれないですよ?……おや、それともお兄様は訓練とは言え、負けるのが怖い腰抜けなんですか?」


……さすがに言い過ぎかもしれんが、乗ってくるか?


「……ふん。いいだろう。その安い挑発に乗ってやる。その代わりと言ってはなんだが、少しばかり痛みを教えてやろう」


「……それはおっかないですね。ああ……それとですが訓練ですので、直接的な魔法の使用は禁止。三本勝負で……余興と言ってはなんですが、勝った方は相手にできる事に限り、お願いを聞いてもらえると言うのはどうですか?」


……少しばかり強引だろうか?


「……ふん。なるほど、良いだろう。大口を叩いたんだ……多少は楽しませろよ?」


条件の付け方が強引かと心配だったが、お兄様は何事か少し考えると、了承して俺に向けて刃が潰された訓練用の剣を放り投げ来た。


その剣を受け取り、お兄様から盗んだマグナリア流剣術の型で剣を両手で握り、お兄様と対峙した。


「ふ、二人ともお止めください!ご兄弟で争うことになんの意味があるのです!カインは下がって下さい。アベル様!私が全て悪いのです。私がどうなろうと構いません。ですからここはお引きください」


このままではダメだと思ったのか、俺とお兄様の間をディアナが割って入って来た。


「……下がっていろ。これは争いではなく、弟が訓練をしてくれと頼んできた事なのだ。……お前が下がらなければ訓練ではなく決闘になるぞ?」


……一応、対外的に喧嘩じゃなくて訓練と言い張るつもりで、訓練と言っていたがお兄様も乗ってくれるようだ。


「……ですが……」


「お兄様の言う通りディアナ嬢は下がっていてください。……こう見えてそれなりには剣を扱えますのでお兄様を多少は楽しませますよ」


「……分かり……ました」


いくら言っても俺達が止めないと分かったのだろう。ディアナは渋々ながら、俺達から距離を取った。


「……ふん。では小手調べだ。行くぞ?愚弟」


ディアナが離れるのを確認したお兄様がそう言った……次の瞬間、


「……っ!」


お兄様が数メートルの距離を一瞬で詰め、同時に重い一撃が降り下ろされた。


「……ほぅ?口だけではないか」


剣が降り下ろされる寸前、何とか剣の横っ腹を叩くようにして、剣を受け止めた俺に、どこか感心したようにお兄様は呟く。


……全く冗談じゃない。これが十歳が振るう剣の威力か……。魔法で身体能力を強化してるのだろうが、重過ぎる。普通の九歳児……いや、鍛えていない一般人なら頭を割られて死んでるぞ!これだから天才は……。


「よし、では……次は少し本気だ」


「ぐっ!」


先程の無様と言ってもいい素振りは何だったのか……。流れるような流麗な動作で縦、横、斜め、といくつもの斬撃が襲い掛かってくる。ギリギリで弾き、反らし、受け止めるがこのままでは押しきられるな……。


……ああ。やっぱり無理があったか。勝てる気がしない。正騎士に勝ち、訓練とは言え十歳にして近衛騎士に勝つ。文字通りの天才には勝ってる訳がない。


……そう、訓練……それもマグナリア流剣術ではこれから先もお兄様には絶対に勝てないだろう。なら、他の術理で勝てばいい。


「どうした!防ぐだけでは勝てぬぞ!貴様も口だけの男かっ!」


「言われなくてもっ!」


お兄様の剣を強く弾く。同時に、剣を両手持ちから、片手持ちに変える。右手は何も持たず、左手には武器を持つ。どこか安心感すら感じる型。


……これでも前世では姉の無茶ぶりで数え切れないほどの修羅場を潜り抜けて来た。


不良、極道、マフィア、殺し屋、傭兵。魔法も何もない世界でそれらを相手に生き抜いた力を見せてやるよ……お兄様!


踏み込むと、同時に体を時計回りに捻る。片手持ちの力不足を遠心力で補う我流斬技『独楽斬』。斬線と狙いを外さなければ鋼鉄も切り裂く斬撃はしかし……お兄様によって呆気なく相殺された。それもじような技によってだ。


……どうやら瞬時に普通に受けては剣が折れるか、吹き飛ばされると判断して俺と同じ動作を真似したみたいだ。体の軸をぶらさないようするとか、相当練習したんだけどな……これ。


「ふ……ふははっ!面白い!面白いぞ。さぁ、カイン!俺をもっと楽しませろ!この俺を震えさせた実力が、この程度とは言わせぬぞ!」


嬉々として、凶悪に笑うお兄様にドン引きだ。どこの狂戦士だよ。


まぁ……お兄様には悪いが終わりなんだけどね。


踏み出して斬りかかって来るタイミングを狙い、俺は剣を投げつける。


「なにっ!貴様ふざけ……」


狙い通りに投げつけた剣を避けず、剣で払い、気勢を削がれ、目をつり上げたお兄様の懐に飛び込み、零距離で首元と腕を掴み、足の骨が折れないように加減して踏みつける。


「ぐっ!」


甘い。足を踏まれたくらいで重心を崩しすぎだ。重心が崩れたお兄様をそのまま投げ飛ばす。


この国には組技はあっても投げ技はない。おそらく地面に叩き付けられるのは初めてだろう。


衝撃で苦悶の表情をするお兄様の首に拾った剣を突きつけた。まぁ、慣れないと叩きつけられた衝撃で少しの間は呼吸も出来ないからな。俺を睨み付ける闘争心はさすがと言うか、怖いものがある……。


「俺の勝ち……で良いですよね?お兄様」


「っ……はっ!ははっ!確かに負け……だな。はははっ……!」


……卑怯だと罵られるかと思ったが、お兄様は素直に負けを認めた。それどころか負けたのにどこか晴れやかで、爽やかな顔をしている。


……マゾとかじゃないよね?俺が目覚めたきっかけとか嫌なんだけど。


「と言っても……三本勝負、あと二回やるのだろう?カイン」


回復したのか、バネのように勢いよく起き上がったお兄様が不敵に笑いかけてくる。


「……ええ……そうですね。お手合わせお願いします」


「ふん、とりあえず本気・・を出せとは言わんが、手は抜くなよ?では……行くぞ」


……もしかしなくても俺の意図は全部お見通しか?と思いながら、俺はお兄様の剣を受ける為に剣を握る手に力を込めた。








「二勝一敗で俺の勝ちだな。カイン」


どこか憮然と、分かりきったつまらない結果だと言うようにお兄様がそう告げた。


最初だけ勝って、あとの二回は負けた。……手を抜くなと言われたのでそれなりに善戦はしたが、予定通りにあとの二回は負けた。


「ええ……お兄様の言う通り俺の負けです。それで一勝・・したのでお願いを聞いて欲しいのですが……」


そう。俺の思惑はこれである。誰も三回勝負とは言ったが……三回勝負で勝った方が願いを聞いて貰うとは言っていない。要するに一回でも勝ちは勝ちと言う屁理屈だ。


こうすれば完全に勝たないことと、ディアナに謝罪させることの二つの条件を達成できる。それに勝ち方も気をつけたから大丈夫だろう。


「……ふん。言ってみろ」


と言っても賭けの要素が強すぎたけど……この様子だと一番不安だったお兄様を敵に回すことも無さそうだ。
俺の考えなど天才のお兄様には全部読まれていたか。


「では……ディアナ嬢を罵った事、菓子を踏みつけた事を彼女へ謝ってください」


「……それだけ……か?」


「はい」


どこか呆けたように言うお兄様に頷くと、お兄様はディアナに近付き、深く頭を下げた。


「貴女を貶し、罵った事、更に私の為にと用意してもらった菓子を踏みつけた事を謝罪しよう。すまなかった」


「い、いえ!私がアベル様のお気持ち考えずに行動したのが悪かったのです!ですので頭を上げてください!王太子ともあろうお方が私などに軽々しく頭を下げないで下さいませ!」


慌ててディアナがアベルに頭を上げるように懇願する。


「寛大な心に感謝しよう。ディアナ嬢。それとカイン、お前が菓子作りを教えたと聞いた。すまなかったな」


「……いえ、俺の事はお気になさらないでください」


顔を上げ、振り向いたお兄様に謝罪された。……あれ?衝撃で脳がやられて、人格変わったりしてないよね?人を寄せ付けない一匹狼って感じだったのに、雰囲気が柔らかくなってる……。


しかし……今回はお兄様が相手だったからたまたま上手くいったものの、これからこんな事をしてたら命がいくつあっても足りないな……。


相手が狡猾で、俺やディアナに敵意を持ってたら通用しない手だった。最悪……闇魔法で記憶を操作する手もあったが……他の魔法と違って試すに試せないからな……。でも、これからは使う可能性がある以上、使いこなせるようになっておきたい。


と言っても仮にも王位継承権第二位なので、余程の無茶をしない限り気を使う相手は限られるが……それでも、力を、地盤を固めていかないと。


全てが運命シナリオ通り進んで、俺やディアナが死ぬしかない状況でも生き残れるくらい強くなろう。ディアナを守って生き残ってやる。例えどんな手を使っても!


「……そういえばカイン、俺は二回勝ったのだから、二回ほどお前に命令することが出来るのだよな?」


丸くなったと言うか、何処と無く雰囲気が柔らかくなったなーと、思っていたら獲物を弄ぶ捕食者のようにお兄様が凶暴に笑う。う


ん、命令じゃなくてお願いね。……お願い。


「……そうですね……。そうなりますね」


あれ?何されちゃうのかな?俺。


「……では明日の朝またここに来い。その時に一度目の命令を聞いて貰おう。後の一つは……まぁ、楽しみにしておけ。では俺は用が出来たので行くぞ」


そう言ってお兄様はディアナを意味ありげに一瞥すると去っていった。……本当に何を命令するつもりなんだよ。


「……カイン?お話しましょうか?」


そして、とりあえず終わった……。と安心していると驚く程に強い力でディアナに肩を掴まれた。


「……えっと、目が怖いよ?ディアナさん」


素敵な笑顔なのに、目が一切笑ってないですよ。


「……今回の事についてじっくりお話しましょう?じっくり」


「……は、はい」


その後……俺はディアナに本気でお説教された。怒ってくれた事は嬉しいが、無茶や無謀な事をするなと……日が暮れるまで。


…………これからはなるべくディアナの前で無茶は止めよう。年下の少女に本気で説教とか心が折れそうになる。

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