遺産を相続したら異世界の独裁者になったんだけど、今度こそ俺はまともな人間に生まれ変わる事ができるかもしれない

ノベルバユーザー234468

決着

 カイは手を挙げ騎士を呼ぶ。


「避難はどうなっている?」


「あと少しで完了いたします」


「もう少し時間を稼ぐぞ」


 あらかじめ避難させるのは困難だった。
 コンラッドに発覚して人質を取られるのは避けたかったのだ。
 カイは国の元首として悠然と、暴君のごとく座っていた。


(超怖えええええええええぇッ!)


 内心はガクガクブルブルとしていた。
 だが逃げるわけにはいかない。
 避難誘導がされても断らなければならない。
 ここで逃げたら騎士はカイを信用しないだろう。
 だから必死に考えた。
 フェンリル。
 ロキと巨人の子で、ラグナロクでオーディンを丸飲みにする存在。
 別の話では、フェンリルの一族に太陽と月も飲み込まれる。
 終末の象徴だ。
 鈴木家のものは召喚魔法しか使えない。
 だから後継指名を受けてから四神の儀を受け、四神と契約をする。
 簡単に言うと四神しか出ない『はずれ』ありのガチャだ。
(対して真琴たちは別の所でスーパーレアも出るガチャを引く)
 カイも契約できないレアケースは説明された。
 そのガチャを回したらフェンリルが出た。相当なレアケースだろう。
 だが結論がおかしい。
 鈴木家ではないから? 本当にコンラッドは鈴木家の一族ではないのか?
 コンラッドもDNA鑑定くらいはしたに違いない。
 いや母親の証言のみで結論を出したのかもしれない。
 だが、そこは重要ではないだろう。
 現実としてフェンリルが目の前にいるのだ。
 フェンリルはなにもかもを飲み込む。おそらく記憶も。


「オラァッ、サラマンダー喚んだぞ! 雪菜どけ!」


 完全に男口調になった真琴が叫んだ。
 やはり中身はバトル野郎だった。
 真琴の下には前に雪菜が呼んだサラマンダーよりも何倍も大きいトカゲが出現していた。
 ちょっとした怪獣映画気分だ。
 真琴とサラマンダーはフェンリルの前に出る。
 最初は頭突きだった。
 フェンリルとサラマンダーが同時に頭突きをした。
 ドンッと建物全体が揺れる。


「あんぎゃああああああッ!」


 痛かったのかサラマンダーが叫ぶ。


「うおおおおおおおおんッ!」


 フェンリルも遠吠えをした。
 サラマンダーが炎を吐いた。
 フェンリルは襲いかかる炎にかまわずサラマンダーの喉に食らいつき振り回した。


「ぬおおおおおおおッ!」


 真琴がサラマンダーから落ちる。
 雪菜が放り出された真琴をキャッチする。


「し、死ぬかと思った」


「ごめん真琴!」


 雪菜は真琴を頬り投げる。
 次の瞬間、雪菜が吹っ飛んだ。
 フェンリルの体当たりをまともに食らったのだ。
 鎧姿の雪菜が壁にぶち当たり、床に落ちた。
 死んだかも。
 誰もがそう思ったとき、雪菜が立ち上がる。
 だが足にきているのかヨロヨロとしていた。


「避難はまだなのッ!」


 カイが叫ぶ。
 同時に広間に若い騎士が転がり込んできた。


「ひ、避難完了しました」


「おっしゃ! 全員避難! 雪菜! 真琴! お前らも逃げろ!」


 カイはそう叫ぶと、玄武を見た。


「やるぞ!」


 玄武も答える。
 フラフラしながら雪菜が。
 真琴も足を引きずって。
 二人ともカイの側に来た。


「二人とも外に逃げろ」


「で、でもカイ……」


「そうだよボクたちは最後まで……」


「命令だ。逃げろ。そうだよな! コンラッド!」


 カイが叫ぶとフェンリルの後ろからコンラッドが現れる。
 コンラッドは薄笑いしていた。


「玄武を使え。俺を止めるにはそれしかない」


「だろうな。というわけだ。二人とも避難してくれ。あとさ……加減間違えてこの世界滅亡したらごめん♪」


 最後は努めて明るく言った。
 雪菜と真琴は意味がわからなかったのか、それとも策があると思ったのか、泣きそうな顔をしながら広間から出て行った。
 騎士たちも二人の様子を見て広間から出て行った。
 広間はカイとコンラッド、それに玄武だけになった。


「コンラッド、言っておく。加減を間違えたら全員死ぬぞ」


「ゲートキーパーが加減を間違えるはずがない。お前らはそういう生き物なんだ」


 カイは玉座から立ち上がる。
 あくまでコンラッドを見下ろしながら。
 心理的圧迫感を与える演出だ。


「ではさらばだ!」


 フェンリルが牙をむいた。
 それと同時に時が止まった。


「カイ、わかっているな。この中で動けば全員死ぬ。さてどうする?」


 玄武がカイの前に来た。


(答えなんてわかっているくせに。なにか裏技があるんでしょ?)


「まあな。だがやり方はお前が考えねばならん」


(まずは時をゆっくり流すようにする。そこで普通に動けば、ただ動くだけでフェンリルをバラバラにできる)


「衝撃波でお前も死ぬのでは? その前に足なんか簡単に折れるぞ」


(そうやってツッコミを入れるってことは解決策があるんだろ? 雪菜みたいに体を強化するとか)


「答えは出ているのか。わかった、手を貸そう。自由にやってみろ」


 そう言った瞬間、フェンリルが動き出す。
 成功だ。時間の流れが遅い。
 フェンリルの動きはひどく緩慢だった。
 カイは手を動かした。
 体が動く。
 まるで水の中にいるように重い。
 焦ったカイは走ろうとした。
 ぴしりと足に違和感を感じすぐにやめた。


(そうか。これが玄武に力を貸してもらった肉体での限界なのか)


 カイはゆっくり動く。
 足の痛みはなかった。


(たぶん、大丈夫)


 カイは階段を下りる。
 ちょっと走っただけで足が壊れてしまう。
 踏み外したら大怪我をするだろう。
 カイはフェンリルの側に行く。
 フェンリルはカイのいた玉座に噛みつこうとする寸前だった。


「カイ、今だ! ぶん殴れ!」


 カイは拳を思いっきり振りかぶる。
 技術はない。
 背筋の使い方も、踏み込みや体重移動も、拳の握りかたすらもなっていなかった。
 だがこのゆっくり進む時の中では、速かった。
 隼よりも、弾丸よりも、雷よりも。
 踏み込んだ床が割れ、破片がゆっくりと宙に浮かんだ。
 カイは水の中でもがくように拳を突き出す。
 拳が空気の壁をぶち破るのが見えた。


(ソニック・ブーム! 音速を超えた!)


 カイの拳はゆっくりとフェンリルの体にぶち当たった。
 次の瞬間、時が元に戻った。
 カイの体の中でガシャンとガラスの割れたような音がした。
 フェンリルの体がゴムボールのようにへっこんだ。
 そのままフェンリルが吹っ飛ぶ。
 同時にカイも吹っ飛ばされた。


(クソッ! なにが手を貸すだ! 腕が折れちまったぞ!)


 見たくもない。
 プラプラしているのがよくわかる。
 カイの脳裏に玄武への文句が頭によぎった。
 そのまま吹っ飛んで宙を飛んだカイの体は壁にぶち当たる。
 ごきりと肩のはずれる音が体の中から響いた。
 内臓に重い衝撃が伝わり、カイは「おえっ」っと小さい声を出した。


 フェンリルの方は宮殿を壊しながらゴロゴロと転がっていく。
 フェンリルが吹っ飛んだ方向は、壁と天井までが崩れていた。
 カイはもう動けなかった。
 だが勝利を確信していた。
 フェンリルが飛んでいった穴から、外の牧歌的な風景が見えた。
 穴の外から宮殿に這ってくるものがいた。
 コンラッドだ。
 コンラッドの背中から壁の鉄筋が生えていた。
 飛び出したときに刺さったのだろう。
 それは誰もが見ても致命的な状態だった。


「俺は負けない……絶対にこの世界から日本を……守る」


 そう言ってコンラッドは動かなくなった。
 カイは痛みで動けも、気絶することすらできなかった。


「お前に守られなくても……日本もこの世界もどうにもならねえよ」


 心地よい風が吹いた。
 少し冷たい。
 カイが下を向くと血まみれになっていた。
 どこか切ったらしい。
 そんなカイの前に玄武がいた。


「よくやったな。フェンリルは滅びたぞ」


「『死んだ』じゃなくて?」


「ああ。元の世界に帰っただけだ」


「俺の方は死にそう」


「正しい表現じゃな。普通の人間だったら日本に着く前に死ぬ状態じゃ」


「あーあ、二人の胸もんでおけばよかった」


 正直な言葉だった。


「このケガでそれか。まあいい……このままだと死ぬ。だがお前はゲートキーパーじゃ。この世界にいる限りはめったなことでは死なぬ。ほれ、もう回復が始まっているぞ……おい、起きろ……」


 玄武の声を最後まで聞くことなくカイは意識を手放した。

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