遺産を相続したら異世界の独裁者になったんだけど、今度こそ俺はまともな人間に生まれ変わる事ができるかもしれない

ノベルバユーザー234468

番人になれなかったもの

「カイはどうやってコンラッドに自白させるの?」


 雪菜はカイに質問をぶつけた。
 だがカイの言葉は実に単純だった。


「正面から聞いてみる」


 妙に雄々しい行動である。
 これがコンプレックスから解放されたカイの本性である。
 カイたちは堂々とコンラッドを呼び出す。
 カイは悠然と玉座に座り、コンラッドを見下ろしていた。


「実に堂々とした態度ですね」


 コンラッドの言葉にカイはにこりともしない。


「コンラッド。俺の記憶をいじったな?」


「なんのことやら……」


「ずっと、おかしいと思っていた。俺は一目見たときからアンタを憎んでいた。アンタへの憎しみに顔が良いからとか一生懸命理由をつけていた。それで気づいたんだ」


「ほう……? どういう意味でしょうか?」


 コンラッドはあくまで微笑みを崩さない。
 完璧にシラを切っていた。


「俺はアンタを憎むような明確な理由があったんだ。でもそれを忘れていた。つまりだ。祖父を殺したのはお前だ。俺が忘れているのは、お前が祖父を手にかけるところを目撃したことだ。そりゃ気が気じゃなかっただろうよ。俺の記憶が戻るか心配だっただろうな」


「ご冗談を……」


 カイは手を挙げた。
 すると鎧に身を包んだ雪菜がアルバムをコンラッドへ放り投げた。


「雅之おじさん。どうして、じいちゃんを殺したんだ?」


 コンラッドは下を向いた。
 時間にして数秒ほど。
 沈黙が場を支配した。


「くっくっく……バカな子だ」


 コンラッドは突如として笑い出した。


「ただお前を哀れに思って生かしておいてやったというのに……」


「哀れ……か、そうかもね。洗脳に今まで気づかなかった間抜けだ。アンタからして見れば哀れに見えるだろうな」


 カイは悲しげな顔をした。
 同時に浩たちがコンラッドを囲む。
 カイは話を続けた。


「なぜ殺した? それだけがわからない。どうしてもそれだけがわからないんだ。怨恨ならもっと前に殺しただろうし、玉座が欲しかったら俺を殺すべきだ。俺を傀儡にするつもりなら、もっと露骨に恩を売っただろう。……そもそもバロウ家ってのは本当に存在するのか?」


「いい質問だ。そうだな。……ある継承者がいた。国を継ぐはずだった男だ。だけどその男は偽物だったとしたら?」


 コンラッドは不敵に笑った。
 カイは言葉の意味がよくわからなかった。
 何度も考える。


「継承者……そうか。本来の継承者は俺じゃなかったのか……」


 カイは真実の入り口に立った。


「コンラッドが本当の継承者。そして継承者は四神の儀をするはず……つまり異変が起こったのは四神の儀の最中。玄武が俺についたのも、やたら焦って成長をさせようとしてたのも……。そうか、玄武は知っていたのか!」


 カイがそこまで結論を出すと、玄武がどこからともなく現れた。


「気づいてしまったか。そうだ。こいつが門番を殺したものだ」


「でもわからない。なぜ殺したんだ? さっきから全く答えになっていない。偽物ってどういう意味だ?」


 玄武はそこで黙った。
 コンラッドが顔を歪める。


「ゲートキーパーに指名されるには強い魔力が必要だ。指名された人間が失敗することはありえない。だが俺は失敗した」


 そう言うとコンラッドは手を掲げる。


「出でよ。フェンリル」


 黒い影が現れ徐々に人の大きさを優に超える、巨大な狼の形になっていく。


「まさか世界を終わらせる存在と契約するとはな」


 騎士たちから動揺が伝わってきた。
 だがカイは、ため息をついた。


「儀式を失敗したって全てを失うことはないだろ? 鈴木商事で働く選択肢もあったはずだ。何度も言うが、俺を味方につけて裏から政治を操る選択肢もあった。なのになぜ、お前はじいちゃんを殺すことを選択したんだ?」


「偽物だって言っただろ。俺は親父の……一朗の子じゃなかった。母親が別の男とデキてたんだ。俺の責任ではないと言っても、発覚したら俺は全てを失う」


 カイはコンラッドを見た。
 本当にそうなのだろうか?
 元首の地位を失うだけだけではないだろうか。
 頭の中で話の矛盾点を洗い出していく。
 おそらくコンラッドから話を聞けるのはこの場限りだ。
 この後、どちらかが死ぬ。
 この場で真実に辿り着かなければならないのだ。
 失敗は許されない。


「日本で働くっていう選択肢もあったはずだ。ゲートキーパーの地位にこだわる理由はないはず……。そうか。必要があったのか……。なにか大きな夢があったのか! コンラッド、お前はこの国でなにをする気だったんだ!?」


 コンラッドの目に仄暗い闇が広がった。


「俺は、この世界を切り離すつもりだった。この国は人を不幸にする。過去、この世界にかかわった全ての文明が手痛いダメージを負った。金は人を狂わせる。この世界は日本と繋がるべきではない」


「コンラッド! この世界は日本に依存している。切り離したら何人も死ぬぞ!」


「わかっている! だが何人死のうが切り離さねばならん。さもなければ、この国の文化は破壊され、日本も早晩おかしくなるだろう。実際に日本の一部はこの世界に目をつけている」


 カイはどうにか説得しようと思った。
 それが最善策だと信じていた。
 だがカイに玄武は言い放った。


「カイよ……無駄だ。コンラッドはもうなにもかも失った。コンラッドに最後に残ったのはこの世界を切り離すという使命感だけだ。お前の言葉は届かぬよ」


「そうだ。カイ、決着をつけようじゃないか!」


 カイは何も答えなかった。
 答える必要もないし、かける言葉も持っていなかった。
 ただ玉座から見下ろしていた。
 コンラッドは下からカイを睨み付けた。


「さあフェンリル! 暗愚を倒すのだ!」


 次の瞬間、とうとうフェンリルが実体化した。
 巨大で獰猛、不自然に口が大きな巨大な狼だった。
 それが引き金となって戦闘が始まる。
 真琴が率いる魔道士たちが炎の魔法を発射する。
 真琴はモデルガンの拳銃を取り出しフェンリルを撃つ。
 モデルガンだが魔法の玉を発射しているので凄まじい威力だった。
 まるでロケットランチャーに当たったかのようにフェンリルが爆発した。


「サラマンダーを呼び出すから時間を稼いでくれ!」


 真琴が呪文を詠唱する。
 すると煙の中から巨大な狼の顔がぬうっと出てくる。
 その顔は醜く歪んでいた。
 フェンリルは真琴を飲み込もうと口を開け噛みつく。
 その大きさは真琴よりも大きかった。


「ほいさ! お座り!」


 次の瞬間、雪菜の声が響きフェンリルが吹っ飛んだ。
 鎧を着けた雪菜が巨大な狼の顔を殴りつけたのだ。


「真琴急いで! 効いてない!」


 雪菜が怒鳴った。
 フェンリルがゆっくりと立ち上がった。

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