遺産を相続したら異世界の独裁者になったんだけど、今度こそ俺はまともな人間に生まれ変わる事ができるかもしれない

ノベルバユーザー234468

コンラッド

 夜だというのにカイたちは護衛を引き連れセーフハウスに向かった。
 カイは前に来たときに宿泊した祖父の遊び部屋に行く。
 あまりに真剣なカイの様子に雪菜も心配になって声をかける。


「ねえ、なにを探すの? カイ、顔色悪いけど本当に大丈夫?」


「探すのはじいちゃんが残した記録だ。それに俺は大丈夫」


 胸で泣かせて欲しいとかのセクハラをするだけの余裕はカイにはなかった。


「記録って日記?」


「日記だけじゃない。写真、出生証明、銀行口座、母子手帳、日本で生まれていたらだけどね。でも絶対に日本で生まれているはず。なあ真琴、医療レベルは日本の方が進んでいるんだよな?」


 真琴も『なにを言われているのか全くわからない』といった表情だった。
 カイの意図がわからないのだ。


「ああ、医療は圧倒的に日本の方が上だ。特にお産は命がけ。死亡率が高いから妊婦さんは日本との人道的措置として適当な日本各地の病院に紛れ込むことになってるけど……だからなにを調べているんだ?」


「お前ら、おかしいと思わなかったのか? なあ、最初からおかしいんだよ。なにもかも」


「だからなにが?」


「じいちゃんの事件だよ。玄武と契約してわかった。四神の力は強力すぎるんだ。あのな……言ってなかったけど。俺は玄武の力を使って、いますぐ人類を滅亡できる。俺も死ぬからやらないけどね」


『ブラックホール作ってこの世界ごと消滅』とは言わない。
 カイはその現実を直視したくはない。
 個人の技で核兵器よりも威力が高いとは悪夢そのものである。


「い、いやちょっと待てって。雪菜も止めろ。カイがおかしくなって……」


「おかしくない! よく考えろ。じいちゃんはどれほど強かった?」


「そりゃ……小さな街くらいだったら消滅させられるほどの……」


 真琴は黙った。
 おかしさに気づいたのだ。
 雪菜も気づき真相に辿り着いた。。


「抵抗してない……戦ったら大きなニュースになるはず……」


 さすがの日本政府でも市町村消滅レベルの災害を隠すのは不可能だろう。


「そう。そして一番不自然なことは、じいちゃんが無抵抗だったことが今まで問題にならなかったことだ」


「どういうこと? 日本側との連絡ミスとか。情報操作とか……」


「違う。情報操作したって人の口に戸は立てられない。それよりも俺でも気づくことに誰も気づかなかったことが異常なんだ」


 真琴が絶望を顔に貼り付けて言った。


「おいおいマジかよ……洗脳かよ……それも大規模なやつ。反則だろ、おい」


「反則……そうだね。反則だ。でもそれだけじゃない」


 カイは本棚に向かう。
 ゲーム機が置いてあった棚だ。
 カイはゲームソフトを収納した奥の本棚を出す。


「たぶん……この隙間に」


 カイは本棚の隙間に手を突っ込む。
 それを見て真琴は言った。


「ふーん、やっぱ血は争えない。カイのエロ本の隠し方と同じだね」


 カイはピタッと止まり、雪菜はもじもじした。
 嫌なDNAの業に気づいてしまった。


「いいか真琴。心をえぐるのはやめるんだ」


「だってぇ、ほらカイってビッチ系の女優さんが好きなんでしょ」


「ぐっは!」


 カイの心に深刻なダメージ。
 カイは立ち直れない。
 だがカイはそれでも立つ。
 がんばったカイの手に何か固いものが当たった。


「なんだろう……」


 もぞもぞとそれを引っ張って出す。
 それはアルバムだった。
 中には大量の写真。祖父の生きた記録がつまっていた。


「やっぱり……」


「なあカイ。そろそろ教えてくれ。一朗大佐を殺したのは、四神の契約者になにもさせないほどの実力者。その手がかりをカイは探している。なんで一朗大佐の部屋に手がかりがあるんだよ」


「そうだよ。ぜんぜんカイのやってることがわからないよ!」


 カイは二人の言葉に答えずにアルバムを見ていく。
 そしてアルバムを二人に見せながら言った。


「……やっぱりだ。じいちゃんは抵抗できなかったんじゃない。抵抗しなかったんだ」


 そこに映っていたのは、まだ髪の毛がいくらか黒いころの一朗が立っていた。
 ただその両手に幼子を抱きかかえて。
 カイはアルバムから写真を抜き取る。
 写真の裏には『次男 雅之と。』と書かれていた。
 だいぶ遅くにできた子だ。
 これが本当ならカイの叔父にあたる存在だ。
 雪菜がぺたんとその場に座り込む。


「ちょっと待って……ちょっと待ってよ。その子って」


 見たことのある顔だった。
 子どもは外国風の外見を持っていた。


「コンラッドだ。たぶん俺たち全員、なんらかの洗脳を受けている。もしかすると雅之おじさん、コンラッドを俺も雪菜も真琴も浩さんも知っているかもしれない。記憶をいじられてわからなくなっているんだ。だから頭の中にあるコンラッドの情報はあてにならない。何もかもだ。俺の予想だと、コンラッドはある日を境に日本から行方不明になってると思う。裁判所に失踪宣告が出てるかもね。誰も憶えてないけど。とにかく日本側の公式な記録以外なにも信じられない」


 失踪宣告は行方不明者を一定期間で『死亡した』とみなすための制度だ。
 もしかすると足取りがつかめるかもしれない。


「カイのおじさんが……なぜ一朗大佐を殺したの?」


「わからない。単純に金銭問題か、この国を乗っ取るためか、恨みがあったのか……でもこれなら説明がつく。あとさ、コンラッドは強力な存在を召喚できると思うよ。なにせ鈴木の一族の能力は召喚に偏っているから」


「いやまさか……そんな……」


「普通のやり方じゃわからないよ。悪いけどさ、浩さんに日本と異世界両方の記録を調べてもらって」


 コンラッドはそれなりの地位にあると全員が思っている。
 だからこそ動かぬ証拠が必要だ。
 カイたちはそのまま日本に帰った。
 裁判をするには証拠が足りなかったが、もう三人の中で犯人はコンラッド以外にはいなかった。
 それから三人はなんとなく学生生活を過ごした。
 雪菜とつき合っているという噂で、クラスメートからも教師からもからかわれたが、どうにも頭に入ってこない。
 腹も立たないし、そもそも憶えていられなかった。
 一週間が経った頃、弁護士の高見沢から浩に電話があった。証拠がそろったのだ。
 浩の用意した車に乗って異世界を目指す。


「やはりカイ様には叔父上がいらしたそうです」


 やはりコンラッドはカイの叔父だった。
 もうあとにすることは決まっていた。
 カイは浩に言った。


「コンラッドに会いましょう。ただこれだけは頭の中に入れてください。今ある証拠はコンラッドが俺の叔父っていうだけのものです。殺人の決定的な証拠はありません」


「じゃあどうするんですか? 証拠を集めるなんて無理ですよ。相手は召喚獣を使うんですよ」


 浩としてはすぐにつかまえたかった。
 だがカイはこの証拠だけでは満足ではなかった。


「自白させようと思います。その中で我々を洗脳または殺そうとしたなら返り討ちにします。腕利きの騎士を用意してください」


 カイはハッキリと言った。

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