遺産を相続したら異世界の独裁者になったんだけど、今度こそ俺はまともな人間に生まれ変わる事ができるかもしれない

ノベルバユーザー234468

四神の儀

 水晶の中に入ると、カイは何かに襟をつかまれた。
 雪菜が引っ張り出そうとしているのかと思ったが、それは違った。
 なにせその『何か』は長い首を持ち、カイの襟をくわえていた。
 悲鳴を上げようとするが、カイの口からは声が出ない。


「世界の壁を破ってこちらに来るとは……おもしろいやつが生まれたようだな」


 何かはカイの頭に直接語りかけてきた。
 テレパシーというものだろう。


「お主は守り人の一族か?」


 カイをくわえた何かはカイを背中に降ろすとカイを見つめた。
 何かは巨大な亀だった。
 亀に巨大な蛇が絡みついている。


(亀蛇……? 四神の玄武? でも思ってたのとは違う)


 カイはさらによく観察した。
 蛇は頭と尾で輪を作っていた。


(ウロボロス? 陰と陽、混沌と秩序、破壊と創造……それに世界)


「……詳しいな。実に興味深い。我の姿を見ても驚かぬか」


 やはりカイの思考を読めるようだ。
 だとしたら答えることもできるだろう。


(いえ、じゅうぶん驚いてます)


「そうか。玄武……ということになっている。玄武でいいぞ」


 どうやらテレパシーで会話ができるらしい。
 玄武はウロボロスである事を否定も肯定もしなかった。
 とりあえずカイはぺこりと頭を下げた。
 強引に挨拶から仕切り直したのである。
 玄武は気にしなかった。余裕のある姿だ。
 真に力を持つものはささいなことは気にしないのだろう。
 そう言う意味では、いちいち周りを気にするカイは究極の弱者と言えるだろう。


「そうか? 驚いているようには見えぬが。まあいい。もう一度聞こう、お主は守人か?」


(わかりません)


 正直にカイは言った。
 その辺の説明は受けていないのでわからない。


「それなら、どうしてお主はここにやって来た? 人の身で来られるようなところではないはずだ」


(実は祖父から国を継ぐことになりまして、四神の儀というのを受けること。それで水晶を触ったらここに来ちゃったんです)


「やはり守り人の一族か。先代はどうした?」


 なんだか玄武は困っているようだ。


(先日なくなりました)


「病気か? なにも聞いておらぬぞ」


(いえ、祖父は熊に襲われてそのまま……)


 そこまで言うと玄武の亀は目を鋭くし、蛇もカイを見据えた。


(それはありえぬ。我らやその眷属が守っているのだ。熊如きに殺されるはずがない)


 その可能性は異世界についてからずっと考えていた。
 不自然なのは四神だけではない。
 カイですら人間の護衛がついていたのだ。
 祖父に護衛がついてないはずがない。


(つまり……祖父は殺された……いったいどうして? 誰が殺した?)


 カイの目が鋭くなる。
 犯人を探し出して罰を受けさせねばならない。
 だがどうすればいい?
 ここは日本じゃない。
 警察もいないのだ。


「ほう、お主はそのような顔もするのか。よし決めた、お主といると退屈しないですみそうだ。我がお主を守ってやろう。名前は?」


(鈴木海です)


「あいわかった。守り人を殺害したものに報復しようぞ。カイ、矮小で弱きものよ。力をつけよ。さすれば他の四神もお主に手を貸すだろう」


 玄武はカイの襟をぱくんとくわえた。


「出るぞ」


 玄武は振りかぶる


(ちょ、待って、待ってくれー!)


 玄武はカイを放り投げた。
 くるくる回りながらカイは水晶の外へ放り出される。
 扱いが乱暴である。
 すぐに部屋に出る。
 カイは床に叩きつけられゴロゴロと転がった。


「ひ、ひどい……扱いがひどすぎる……」


「カイ様!」


 雪菜がやってくる。
 カイは雪菜に手を差し出す。
 雪菜が手を取りカイを起こそうとした瞬間、それはやってきた。


「よっこらせっと。おっと入り口が狭いな」


 それは亀だった。かなり小さくなっているが、それでも巨大な亀だった。
 テレパシー機能つき亀。玄武である。


「ふむ、この世界か。どうやら厄介なことになっているようだな。カイよ」


 ガタンと音がした。
 カイが振り返ると数人が尻餅をついていた。


(契約をさせておいてなにその態度!)


 さすがのカイも不機嫌になった。
 だが彼らの次の反応はまさの予想外だったのだ。


「か、加護を得るだけではなく四神の一柱を召喚しただと!」


「過去に例がないぞ!」


「こ、これからどうすればいい」


「そんなこと知るか!」


 もめているようだ。
 困ったカイは玄武の方を見る。


「そういや、こっちの世界に出てきたのは、だいぶ久しかったかのう」


 亀のお化けの言うことである。
 一年二年の話ではないだろう。
 カイは愛想笑いをした。
 すると玄武は言った。


「貴様ら、静まらんか! 我はこの男に正体を見破られた。意味はわかるな」


 ザワザワと声がした。
 カイは「うん?」と言って周りを見回す。
 一人だけなにが起きているかわからなかったのだ。


「以後、我はこの男に使役されることにした。以上、我は帰る」


 玄武はそれだけを言いにわざわざ来たのだ。
 カイは玄武を見た。
 すると玄武が言った。


「そこの水晶からいつでも来るがよい。なにかあったら報告しろ。ではさらばだ」


 玄武はのそのそと歩き、紫水晶から元の世界に帰って行った。
 貴族たちはヒートアップした。
 カイの動きは彼らの予想を超えたのだ。
 どうせたいしたことはないと考えていたのかもしれない。
 それはカイを特別侮っていたわけではない。
 ここ数代の守人の記録から最悪のシナリオと、最高のシナリオを作っていたという意味だ。
 もしかすると、カイのせいで自身の身の振り方のシナリオすら根本から崩れてしまったものもいるかもしれない。
 いや、おそらく玄武はそれを狙ったのだろう。
 犯人に揺さぶりをかけたのだ。
 カイは貴族たちを見た。
 貴族たちはまだ言い合いをしている。
 特別不自然な動きをしているものはいない。
 だがカイは気づいた。
 コンラッドを含めた数人の姿がない。
 さっそく会議をするのだろう。
 残った連中は権力のない連中、つまり『はずれ』だ。


(じいちゃんは殺されたかもしれないのに、つまらないことを言い合いしている)


 カイはなんだかバカらしくなった。
 同時に腹の底から怒りがこみ上げてきた。
 四神の儀も、独裁者の椅子も、日本でのいじめすらもどうでもいい。
 ただ祖父の死の真相を暴かねばとだけ思った。
 それがカイのという人間が成長するきっかけだったとは、まだ本人も思ってはいなかった。
 カイは思いっきり手を叩いた。
 パーンと音がし、辺りが静まりかえる。


「話し合いが終わったら呼んでください。私は別室で休んでいます」


 そう言ってカイは部屋を出た。
 貴族たちはざわついた。
 非常識だの変わり者だのと言う言葉が聞こえてきたが、あえて無視した。
 廊下に出るとズンズンと大股で真琴がやってくる。
 四神の儀のことを聞いたに違いない。


(困ったな。お説教されるかな?)


 カイは真琴を見た。
 だがカイの予想とは違い、真琴は額にしわを寄せている。
 真琴は雪菜の前に来ると手を振り上げた。


「雪菜、お前がいながらなんで!」


(まずい!)


 カイは大急ぎで真琴の前に立ちはだかる。
 パーン! とカイの頭の中で小気味のよい音が響いた。
 真琴のビンタがカイに直撃した。カイは雪菜をかばったのだ。
 普段だったら涙目で「ひどいよぉ」と泣き言の一つも言ったかもしれない。
 だが今のカイは以前のカイとは別人になっていた。


「カイ……なんで……」


 真琴はポカーンとしていた。
 常に余裕のある真琴にしては珍しい表情だ。
 雪菜の方はカイに寄りそい「だいじょうぶ?」と心配そうに声をかけ、真琴をにらんだ。


「真琴、玄武の件はアクシデントだ。ケンカはなしだ。わかったな? えーっと、これは事故ですからね!」


 カイは真琴を制しながら、わざと第三者に向けて偶発的な事故であることをアピールした。
 どこで誰が聞いているかわからない。
『真琴も迂闊なことをしたなあ』とすら思っていた。


「この、真琴なにす……」


 雪菜が真琴につかみかかろうとする。


「雪菜もやめろ!」


 カイは雪菜も制した。
 二人が落ち着くとカイは低いトーンで声を絞り出した。


「じいちゃんが殺されたことをお前らは知っていたのか?」


 これは誰に聞かれても問題のない質問だった。
 その可能性はあったのだ。
 ただカイもカイの家族もその可能性から目をそらしていただけなのだ。
 ところが雪菜も真琴も目をそらす。
 それは消極的ながら肯定を表す意思表示だった。
 雪菜が言った。


「可能性はあると思ってた」


 真琴の方は明らかに動揺していた。
 カイはため息をつく。


(ようやくわかった。じいちゃんが殺されたから、弁護士事務所の帰りに迎えに来たのか)


「わかった。俺は玄武と犯人を捜す。二人は……どうする?」


 それは今までのカイでは考えられないほど挑発的な態度だった。
 雪菜はすぐに答えた。


「わ、私も犯人捜しする! もう危ない目にはあわせない!」


 雪菜は真っ直ぐカイを見た。
 それはカイへの誓いだった。


「ありがとう。これが終わったら遊びに行こうな」


 カイはそう言って雪菜をねぎらった。
 一方、真琴はカイをひとにらみした。
 そしてうらめしそうに言った。


「ケガしたら泣くぞ。死んだら後を追う。わかったな!」


「わかった。気をつける。お前がケガしたら俺も泣く。おぼえとけ」


 カイは軽口を叩いた。
 こうしてカイたちには、犯人捜しという目的ができたのである。

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