遺産を相続したら異世界の独裁者になったんだけど、今度こそ俺はまともな人間に生まれ変わる事ができるかもしれない

ノベルバユーザー234468

ハリウッド系悪役屋敷

 どこまでものどかな風景が続いていた。
 心地よいそよ風がふく。
 カイはキョロキョロと辺りを見ていた。
 先ほどぶつかった木の種類はわからなかったが、ソテツの木が生えているのが見えた。
 自生しているようだ。
 温暖な気候だ。今は冬のはずなのに少し熱い。
 太陽も少し眩しい気がする。
 ふと上空を見ると、緑色に赤というカラフルな鳥が飛んでいた。
 少なくとも埼玉ではありえない。
 それどころか関東でもありえないだろう。
 中学校の修学旅行で行った京都でも見かけたことはない。
 ありえないにもほどがある。
 カイは雪菜と真琴に案内される。
 少し歩くと南米の武器商人が住んでそうな屋敷が現れた。
 ヤシの木が生えていてプールもある豪邸だ。
 なぜその表現かというと、なんとなく悪役側のにおいがしたのだ。
 ハリウッドの筋肉系アクションスターに爆破される系の。


「へえ、すごいお屋敷だね」


 カイとしては問い詰めたいことがたくさんあった。
 女になった幼なじみとか、全身鎧の幼なじみとか。
 だが聞き出す空気ではなかった。
『なんで鎧を着てるの?』なんて聞けない。
 だからどうでもいいことを口走ってお茶を濁した。


「あはは。誰の家?」


「お屋敷っていうか……これ……カイの別荘というか隠れ家」


 本当にB級アクションテイストだった。
 たぶん最後に爆破される。


「えーっと、雪菜。つまり俺は隠れ家必要な状態ってこと?」


「……大丈夫。守るから」


 そう言うと雪菜は下を向いた。
 余計に不安になる。その言い方は不安を増大させるだけだ。やめてくれ。
 しかたないのでカイは真琴に振る。
 雪菜のおかげで質問するチャンスができた。
 ならば本丸に切り込もう。


「真琴……なんで女なの?」


 真琴はなぜか抱きつこうとする。
 カイはあわてて一歩下がる。
 すると真琴は少し寂しそうな顔をしてから、急に楽しげな態度で答えた。


「とうとう聞いてくれたか、心の友よ。簡単に言うとだな。魔法で姿を変えていた」


 意味がわからない。
 技術はもとより、その必要性がまるでわからない。
 なぜ男の姿でカイに近づいたのだろうか?
 思い出すだけで美しい男の友情という思い出が、女の子にセクハラの限りを尽くした黒歴史に変換されていく。
 カイは悪夢を振り払って意識を戻す。


「いやそうじゃねえよ。なんで男になってたの?」


「男じゃなきゃ完全警護はできないだろうが。水泳の時間とか体育の時間には着替えがあるだろ? 雪菜だったら、ただの変態だろが。あのおっぱい」


 真琴は当然だと言わんばかりの態度だった。
 おっぱいに恨みがあるらしい。


(いやいやいやいや、おかしいって!)


「ていうかね、中学の修学旅行とかどうしてたの? 風呂とかみんな素っ裸だったでしょ! そんな中にいたら恥ずかしいでしょ! 女の子なんだから!」


 本当に女の子なら、男の裸なんて嫌に違いない。なにせ思春期なのだ。
 中学の修学旅行など男が汚く見える年齢の出来事だろう。
 男の汚いアレとかソレを見られたかと思うとカイは死にたくなった。


「ガン見したね……みんなの裸を。心の画像フォルダに記憶したね、男子の裸を!」


 そう言うと真琴は親指を立てた。
 最低である。


「ち、痴女だー!」


 カイは思わず言った。
 変態がいた。生育過程に同情できる原因があるような気がしないでもないが、ド変態がいた。
 恐ろしく歪んだのがいた。
 欲望に忠実すぎるのがいた。


「さあ、ハーレムを作ろうじゃないか! 異世界と言えばハーレム、ハーレム!」


「いらんわ!」


 やめろ、雪菜が見ている。
 頼むからやめてくれ。
 実際、雪菜はブンむくれている。


(や、やめて……)


 カイが音をあげた次の瞬間、ふと疑問が頭をかすめた。


「……あれ? お前ら付き合ってるんじゃ」


 カイは二人を交互に指さした。
 たしか二人はつきあっているはずだ。
 学校でも噂の美男美女カップルなのだ。
 だが真琴は女なのだ。
 これは百合というやつだろうか?
 百合というやつだろうか?
 もう一度言うと、百合というやつだろうか。
 カイはこの間、単行本にして三冊、計三十万字もの妄想をした。
 東京都の有害図書指定を恐れない妄想をした。
 カイの妄想がさらにとんでもない方向に向かう。
 女体化とかそういうもんじゃねえ、もっと恐ろしいものをである。
 これだけの熱量のエロスが自分の中に眠っていたことにカイは恐怖した。
 目がぐるぐるとして、顔も真っ赤だった。
 するとそれを見た雪菜がツッコミを入れる。


「カイ! その妄想絶対に違うからね! 私たちはつきあってなんかないの!」


 カイは真琴を見る。
 真琴もほほ笑むと雪菜に同意した。


「もちろん付き合ってないよ。おっぱいは好きだが百合の趣味ないし。……たぶん」


 微妙にうそくさい。
 なぜこうも真琴は胡散臭いのだろうか。美形なのに。


「真琴が誰とも付き合わないからクラスの子たちが変だって言い始めて、焦って偽装したんだよね」


「そうそう、だって女の子と付き合ってもさあ……不毛だよね……おっぱいは好きだけど」


 そう言うと真琴は暗い顔をした。本当に嫌だったらしい。
 おっぱいを連呼しているのは気になるが、カイはそこに触るのは嫌だった。
 女の子と下ネタ話をするのはまだ難しい。
 本当に真琴には百合属性はないようだ。


「あ、ごめん」


 なんとなくカイは同情した。
 すると真琴が顔の前で拳を硬く握った。


「そう……だから悔し紛れに体育の時に男子の着替えを見るしか楽しみがなかったんだ! 体操部の横島くんの背筋……ちょうエロイ。ああ……ダメ! カイ……浮気なボクを許して……」


 真琴への同情心は消え失せた。
 とりあえずカイはスルーすることに決め雪菜と話す。


「それでこの屋敷がなんだっけ?」


「セーフハウスよ。国家元首専用のね」


「国家元首ね……なにがなんだか……」


 もうわけがわからない。


「それも中で説明するね」


 一行は中に入る。
 すると雪菜の父親が出てくる。


「中は無事だ。カイ様。私は近衛隊長のイーゼルにございます」


ひろしさんですよね」


 たしかに浩はオシャレでカッコイイおっさんだ。
 だが春日部に嫁と、下ネタが得意な子どもと、イケメンが好きそうな娘と住んでそうな野太い眉毛でイーゼルはなかろう。と、カイは思うのだ。


「こちらではイーゼルでございます」


 そう言う浩からカイは目をそらす。
 なんとなく中二病の香りがしたので目を合わせるのが嫌だったのだ。
 浩の方も顔が真っ赤である。
 やはり浩は浩なのである。
 目をそらしながらカイは室内を見た。
 室内は南国の別荘風だった。
 天井にはシーリングファンが回っている。
 実に観光地気分な内装である。


「ここって沖縄?」


 カイは一応聞いてみる。
 それだってありえない。
 だがそれがカイの精一杯の妥協だった。
 すると真琴が至極真面目な顔で言った。


「異世界だよ」


「はい?」


 そうかなとは思っていたが、やはり異世界だった。
 異世界というとチーレムを身につけた選ばれし勇者が喚ばれる、あの異世界だろうか?
 カイの場合はダンプカーにはねられても喚ばれることはないだろう。
 そういう星の下に生まれてきているのだ。


「だから異世界。この世界は常世の国……ニライカナイとも言われる世界だ」


 さらにカイは混乱するのだった。

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