セミになりたい少女と内気な僕

ノベルバユーザー173668

笑顔

僕が寮を出て、病院に着くと、もう仕事の時間だった。今日も患者さんのカウンセリングをしたが、やはり上手くいかず本当に役にたてているか心配になってくる。僕は勇気を振り絞り、
「あの。」
と言った。気まずい時間が流れる。患者さんは、結局一言も話さなかった。そして、かなり精神的に疲れてしまう。今日は午前で仕事が終わりなので、帰ろうとしたとき、ふと彼女のことを思い出した。えっと…名前はどうだったかな…そうだ、桜井咲だ。僕は、近くにいた医師に勇気を振り絞って
「桜井咲さんの部屋ってどこか分かります?」
と聞くと、医師が驚いた顔をして、
「104号室ですよ。」
と教えてくれた。無口な僕がいきなり声を描けたので驚いたのだろう。僕は
「あ、あありがとうございます。」
と言った。104号室につくと、扉に"桜井 咲様"と書いてあった。ここで間違いない。僕は
「失礼します。」
と中に入ると、そこには昨日の彼女がいた。
「あっ、昨日の人。来てくれたんだね。」
と笑った。すると、彼女が
「へー。あなたカウンセラーやっているんだ。あなたの名前を教えて。」
と言った。僕は 
「鈴木 幸夫。」
と言った。すると、彼女が
「じゃあー私幸夫先生と呼ぶね。私のこと咲って呼び捨てで呼んてくれてもいいよ。」
僕は先生って変な感じがしたが、気にしないことにした。そして、咲って呼び捨てで呼ぶのがはずかしいので、僕は
「セミになりたいみたいから、セミちゃんって呼ぶね。」
と冗談言った。すると、セミちゃんは
「うん。分かった。」
と言った。僕は驚いたが、その事にも特に触れないことにした。セミちゃんは僕に、
「ねえ。外の世界について教えて。」
と言った。僕は、
「外の世界?」
と聞くと、セミちゃんは
「この、病院の外の世界のこと。私、生まれつきの病気で、ほとんど外にでたことがないんだ。」
僕は、
「分かった。」
と言って返事をした。僕はいろんなことを話した。学校のことや自動車のことお店についてや何気ない日常的によくみているものだ。その話を聞いて、セミちゃんは顔をくちゃっとして笑う。その笑顔が僕は、とても好きだった。話していると気持ちが軽くなった。色々なことを話していると、空がもう少し暗くなっていた。僕は、壁掛け時計を見ると、もう午後の7時だった。セミちゃんは、不思議そうに言った。
「その、腕時計を見ないの?」
僕は、苦笑いをして、
「この、腕時計壊れているんだ。」
そう、僕の腕時計は壊れていた。僕の腕時計は3000円という安いものだ。それを10年以上使っていれば壊れるのも当然だろう。僕はセミちゃんに、
「今日はありがとう。また、暇なとき来るね。」
と言った。すると、セミちゃんは、
「私こそ今日はありがとう。また、外の世界について教えてね。先生~!」
と笑顔で言った。僕はセミちゃんの病室を出る。廊下を歩いていると、同僚に出会った。
「おう、えっと、誰だっけ?」
僕は、失礼な人だと、思ったが、僕も彼の名前を知らないので、お互い様だろう。
「カウンセラーの鈴木幸夫です。いつもお世話になっています。」
と言った。すると、同僚は、笑顔で
「いや、幸夫さんが、こんな遅くまでいるなんて、驚きまして、いつも定時で帰っちゃうんじゃないですか、それに、今日はなんだかとても楽しそうだし。」
と言った。僕は、
「楽しそう…?」
と尋ねると、同僚は、
「はい。いつもとても深刻な顔をしていたので、楽しそうで少し安心しました。」
僕は、自分で驚いた。僕が楽しそうな顔をしていると、言われたからだ。同僚は、笑顔で
「では、僕は、帰りますので明日また会いましょう。幸夫さん。」
と去っていった。こんな、僕に話し掛けてくれるなんていい人だなと思った。僕は、寮に帰るまでにいつものスーパーに寄った。夕食を買うためだ。すると、レジのおばさんが、
「おっ、お客さん。なんか嬉しそうだね。何かいいことでもあった?」
と聞かれた。僕は、
「いえ、特に。」
と言った。おばさんは、
「いや~いつもなんか、くらい顔をしているから、なんか今日の君の顔を見て、安心したよ。」
と言われた。寮に帰り、テレビを見ながら呟いた。
「僕が笑顔ね…」




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