誑かした世界に終わりを告げて

山永

ヴィーラへの想い(セス視点)



ヴィーラに惚れたのは何か劇的なものがあったとか、その一言に惚れた等、甘いものは無かった。
最初は本当にただ、友愛だった。


出会いは最悪で、涙目にされて、反論も悠然と返されて…
本当に最悪な出会いだと思う。


最悪な出会いではあるが、強烈な出会いでもあった。
今までに周りにいない人間。また話してみたいと思わせる人間。
そう思っていたら、次の約束をしていた。


会うたびに色々な言葉で刺激され、いつしか教師の言葉よりヴィーラの言葉を信用するようになっていた。
特に人心掌握の話は俺のためになることが多く、気取る必要など無いのだと気づかされた。


気づかされてから数年の月日が流れる頃には友愛は恋愛感情に変わっていた。


性格が悪いことも、要領が異常にいいことも、飄々として同じ歳に見えないところも、何故だか無性に可愛くて、可愛くて仕方なくなっていた。




それでも何か上げるとしたら、あの時だろう。




改革をしていた貧困街の改革者が死んだとき。
初めてヴィーラの涙をみた。


それはヴィーラがずぶ濡れになって帰ってきた翌日。
ヴィーラの知り合いが亡くなったと聞き、雨の中訪れたロズベルク家のヴィーラの部屋の前。
ノックをしようと手を上げたところで、中から嗚咽が聞こえたのだ。


思わずノックをしようとした手を止め、扉に耳を寄せる。


耳を澄ませば、やはり中からは押し殺したような嗚咽。
悪いと分かっていても中を確かめたくなった俺は、そっと扉を開けた。


暗い室内。明かりは枕元の淡いランプのみ。
雨が叩く窓に背を向けてベッドに座るヴィーラは下を向いていて表情は見えない。


しかしよく見れば、ベッドのシーツを強く掴み、微かに見える口元は耐えるように食いしばられている。
涙を耐えているのだろう、それでも涙は止まらず、ぽつぽつと影の落ちた目元から雫が落ちていく。
合間に小さな肩は上下し、それと同時に小さな嗚咽が雨の音にかき消されるように聞こえた。


懸命に涙を耐えるヴィーラ。


いつも飄々としており、歳不相応に落ち着いているヴィーラの初めての耐える姿。
その姿に胸が苦しくなる。
部屋に入り抱きしめたいのに、ヴィーラが人を拒絶しているようで足が動かない。


もう少し大人なら違ったのだろうか。
もう少し大人ならヴィーラを抱きしめられたのだろうか。
もう少し大人なら…


そう思うと同時にヴィーラにここまで想われる人物が羨ましくなった。


いつもどこか遠くを見つめる彼女に想われる。
羨ましくて、羨ましくて仕方ない。


思えばあれは嫉妬だったのだろう。


結局、部屋には入れずその日は帰ることしか出来なかった。




あの日から徐々に恋愛感情が芽生え始めたのかもしれない。
ヴィーラが何かあっても一人で耐えなくて良いように、相談できる人間になれるように。


しかし、ヴィーラは一人で考えて行動する人間だった。
要領よくなんでもこなし、こちらの手助けなど必要としない。
俺の心配なんて気にもせず、無茶もした。


大人に対して口で言い負かすことなど当たり前。
それは複数人でも変わらなかった。


流石に魔法契約をしたと聞いたときは心臓が止まるかと思った。
いくら主の方には負担が少ないとはいえ、魔法は共通して一歩間違えれば怪我をする。
場合によっては怪我だけでは済まない。
大人でも難しいとされる魔法を子供が…ヴィーラが。
こちらの心配などお構い無しに事後報告だったのは未だにに許せていない。


暗殺されかけても、撃退してしまう逞しい女性だが、女性は女性。
いい加減複数人のしかも男性に対して怨みを買うのはやめてもらいたい。


そういう無茶をするたびに唯一、ヴィーラが苦手としていた甘い言葉と行動でお仕置きをするようにした。


ヴィーラがそういう言動と行動が苦手だと気づいたのは、出逢ってから少し経った頃。
ふと、父上の真似をしたらヴィーラは固まったのだ。
理由を聞くと、慣れないの一言。強く、逞しい彼女の唯一の弱点。


彼が死んでしまってから気づいた俺にはわからないが、彼が死んでしまったことでその弱点に何かを及ぼしたのかもしれない。


いつまでもヴィーラの心の中に居る彼。
いつしか俺は彼にヴィーラが攫われてしまうのではないか、と思うようになった。
その中でのヴィーラの失踪事件。
俺の中を占めたのは怒りと焦りだった。


ヴィーラが彼に攫われてしまう、居なくなってしまう。
だから、父上のお言葉で失踪したヴィーラを捜索にでて見つけたとき、安堵した。
彼女はまだこの世界に居た。


しかし、彼女は何かを見ながら言ったのだ。


「私を殺しなさい」と。


その言葉で何かに俺は無意識に体を動かし、彼女をこの世界にとどめるため、後ろから強く抱きしめた。


行かないでくれ、俺の側から居なくならないでくれ、側にいてくれ…


ヴィーラは何かと喋っていたが、その何かを気にすることも出来ずに強く抱きしめる。
最後にボソッと呟いた声は聞こえづらく、聞き取れなかったが、話が終わったのは分かった。


だから努めた冷たい声量でヴィーラに話しかけ、有無も言わさずその場を立ち去ることにした。


ヴィーラをあの場に留まらせたくなかったから。




失踪事件のおかげで暫くヴィーラは謹慎処分を受けていた。
噂が瞬く間に広がったことに対する安全の為だとは言ったが、失踪事件を知るものはまたヴィーラが居なくなってしまう不安に駆られたのだ。
リアンなどうらやましくも常に行動を共にしていたと聞く。


その謹慎も明け、王城に訪れたヴィーラ。
謹慎中もヴィーラに会いにはいっていたが、それでも王城に訪れてくれたことが嬉しく、上がってしまったまま挨拶する。
その流れで、告白まがいをしてしまった。


失踪事件で彼に攫われる可能性がある。そう思うと我慢の限界だった。
いくら生きてくれると言っていても、限界だったのだ。


もう少しロマンチックな告白をしたかったのに、出来なかった。
後悔をしていると、ヴィーラからの「ごめん」という言葉。


やはり駄目か…。
そう思いつつも彼女を放したくなくて強く抱きしめると、ヴィーラの声で「好き」という言葉。
一瞬幻聴かと思った。それ程までに信じられなかった。


勢いよく体を離すと、苦笑を浮かべつつも、頬は染まり、艶やかな表情。
純粋に見惚れた。俺の婚約者はこんなにも逞しく、強くて、可愛い。


恋愛感情など、俺が教えよう。
この片思いの年数以上の恋愛感情を。


奇しくも、場所は初めて彼女と出会ったあの部屋だった。



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