誑かした世界に終わりを告げて

山永

神子のその後

神子ことカリーナ・リエモラは狂った。
そう噂され始めたのは何時からだっただろう。


彼女が結界を失敗したと噂が流れ始めたとき?


民間の噂はその頃からだろう。


でも実際は?


私に暗殺を仕掛けたとき。いや違う。
リアンに会ってしまったから。そうかもしれない。


実際は…最初からなんて、誰も気づいてない。






カリーナ・リエモラは衰退気味の子爵の出だ。
誇れるのは容姿と魔力だけ。
それだけでも素晴らしいのに、彼女はそれ以上を望んだ。
自分にふさわしいものを、異性を、お金を…と。


それが彼女の礎だろう。




私が彼女を始めて見たとき、寒気すら感じるほどの黒いオーラに身を包んでいた。
それでも取り繕っていたあの表情は彼女の努力の賜物だろう。


今まで人間を自分の良いように操ってきた努力の。


人を操る人間はどこか狂っている。
特に悪人はその傾向が強い。
私の偏見かもしれないが、前世で出会った人間も、今世もそう感じた。
勿論私もどこか狂っている人間なのは自覚済みだ。


その人間が更に狂うのは恋。
普通の人間ですら恋に狂うのだ。


彼女はリアンに一目惚れした瞬間、化けの皮も被れないほど狂ってしまったのも当たり前といえた。


そんな彼女だ、私を暗殺した理由も分かりきっている。
魔法契約は主が死ぬか、魔力は無にならないと解放されない。
つまり私を殺し、リアンを解放して自分の下に置きたい。そんなところだろう。
神子の力なら従者一人手元におくのも造作の無いこと。


しかし、神子の暗殺が失敗し、その直後の結界の張替えすら失敗してしまった。


シンデレラストーリーからの転落。
彼女が最悪に狂うのもしょうがないことだと思う。


「だけれど…私も死ぬことが出来ないのよ」


目の前の狂った彼女に話しかける。


ピンクの髪はボサボサ。大きな目元は窪み、瞳は虚ろ。着ているものもボロボロの布切れ。
その中で最早青白いとも取れる肌と細い腕は異様の一言。
愛らしい外見はもはや名残を残していなかった。


「あ、なたが、いるから!!!彼は!!!!!」


手に持っているナイフはギラギラと光を集めている。
しかし、魔法ではないのだろう。
彼女は先の結界の張替えで魔力がDまで落ち込んでしまった。


そんな彼女と対面している私は先ほどから溜息を飲み込んでいる。


彼女と対面したのはリアヴィの町からの帰り道。
前のようにリアンを撒けなくなった私は、リアンと一緒に帰宅していた。
もう魔力探知が出来ないので、己の危機も回避できないことから、リアンは付きっ切りで私についている。
片時も離れないのは少し煩わしいが、失踪未遂の私に対する不安を彼はまだ拭えていないようだった。
そんなリアンと離れたのはついさっき。
城下町に戻ったことから、人に流されはぐれてしまったのだ。
リアンにしては珍しいな、と思い私は道の端、路地の入り口の前でリアンが戻ってくるのを待っていた。


しかし、路地から伸びてきた手に引きずれ込まれてしまった。


その手の正体が神子様だったわけだが。


さて、どうしたものか、と悩んでいると元神子、カリーナはナイフを取り出した。
そして叫びだしたのだが。


カリーナは結界に成功した、という偽りの号外と共に侯爵家の長男と婚約を発表したはずだった。
しかし、噂で私が結界を張り直し、しかも強化までしたと流れてからは民衆にひどく非難された。
民衆の非難は私の姿絵が流出したことからだろう。
ヴィヴィという名前でそこかしこに出没し、リアヴィの町を建て直したのは民衆では有名な話だ。


そんな私とポッと出の神子では信用度が違い、民衆は噂のほうを信じ、カリーナを非難した。


おかげで、彼女は肩身が狭くなり、結界を失敗したと分かった侯爵家長男は婚約を解消。
神子の役目が終わったことから王宮を追い出された後、姿をくらましたのだが、どうやら城下町にいたらしい。


「そういわれても、リアンの意思が一番ではないの?」


「貴方が死ねば、リアン様は私を見てくれるわ」


会話が通じない。
思わず溜息が出そうになる。
しかし、今溜息を出せば彼女を怒らせるだけだろう。


前なら幻覚でどうにかできたのだが、今はそうも行かない。
人に頼るのは苦手だが、リアンを待つしかないだろう。


そう思っていると、彼女がナイフを前に私に突進してきた。


「ヴィーラ様!!!!!」


遠くでリアンの声がするが、彼女は既に目の前。
一回ならいなせるか?と思い、体を横にずらそうとしたが、その前に彼女はリアンに取り押さえられていた。
見事な速さだ。


「ヴィーラ様!ご無事ですか!?」


「私はなんとも無いわ」


そう返せば、私を観察したリアンはホッと息を吐いた。


「リアンさま!!!私の元にきてくださるのですね!!!」


リアンに組み敷かれ、うつ伏せの状態でありながら、カリーナは恍惚とした表情でリアンを見上げている。


「そんなわけ無いでしょう?」


思わずでてしまった言葉。
私は彼女の対面に思いのほか緊張していたなか、リアンの登場は私を安心させてしまったようだ。
思わず言葉が出るなど…久々のこと。


私の言葉にこちらを睨むカリーナ。
一度でた言葉を撤回するのもいやなので、カリーナの前に膝をつける。


「貴女が狂ってしまったのは、私も原因があるわね」


「なにいってるのよ!?」


「最初に言っておくべきだったわ。貴女は神子になれないって」


私が影に隠れて死のうとしなければ、彼女は少し狂ったままで終わっていたかもしれない。
反省はしないが、哀れと思う心はある。


カリーナは私の言葉に絶望と怒りを滲ませた。


「私は神子よ!!!神子なの!!だからリアン様も私の元に来てくださるの!!!!」


話が通じない彼女に、もはや言う言葉はない。


「ヴィーラ様、憲兵が来たようです」


「そう」


ばたばたと足音が聞こえてきたのを私も確認し、立ち上がる。
ごめんなさいは言うつもりはない。私の計画は最初から神子を利用するやり方だったから。
ただ、リアンに会わせたのは間違いだったかもとは心の隅で思う。


その後、元神子カリーナ・リエモラは殺人未遂で投獄されてしまった。
投獄後、どのような人生を送ったのかは、知らない。



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