誑かした世界に終わりを告げて
14
生まれは平凡な家庭だった。
仮面夫婦の下に生まれた私は、点数にしか興味の無い母と、仕事にしか興味のない父と暮らしていた。
家族旅行どころか、家族イベントに参加した記憶がない面白みのない家。
幼少期はそれが許せなく、親におねだりをしたこともあった。勿論、そんな両親だ、願いを叶えられたことなど無かった。
小学校に通うようになると、家の中で無い会話が楽しく、外では沢山喋るようになった。
最初は子供の小さな嘘だったと思う。その何気ない嘘に母が反応したのだ。
それが嬉しかった。
点数を取らないと見向きもしない母が、こちらを向いてくれた。
それだけで、子供の簡単な脳は嘘に味を占める。
気づけば、嘘を吐く私を回りは遠巻きにするようになっていた。
嘘しか吐かない子供に両親はいつしか、視界にも入れなくなっていたのに気づいたのは中学に上がった頃。
世間体の為に捨てられることは無かったが、あれも立派な育児放棄だったと思う。
しかし、両親は我慢の限界だったのだろう。高校を卒業すれば無一文で家を追い出された。
18歳そこらの子供が無一文で生活できるはずも無く、人からお金を巻き上げて生活するしかなかった。
それが、私の始めての詐欺。私の礎。
そんな私が、あいつを拾ったのはほんの気まぐれだった。
見るからに社会からのはみ出しもの。薄汚れていて、世界に飽いた目をしていたその男に、声をかけたのだ。
男は私に一瞥しただけで、他に反応をしなかった。
それがなぜか面白く、男の手を無理やり引き、連れ帰った。
私の生涯一人だけの相棒との出会い。
相棒は、何事にも無関心だった。いや、私以外に無関心だったと言うべきか。
詐欺の相手は勿論、物にすら関心を持たなかった。
だが、私には執着というほどの関心を見せた。
私が怪我を負えば、狼狽して泣く。まるでペットを飼っている感覚だった。
そんな相棒が少しずつ感情を見せ始めた頃、私は殺された。
結局、相棒はあの後どうなったのだろう。
前世を思い返しながら雪のチラつく暗い森の中を進んでいく。
先ほど、神殿にて結界の張り直しと、前から言い渡されていた強化を行い、正直体はへとへとだが、最後にあいつに会わなくてはいけない。
指定された場所まで進んでいるのか、遠のいているのか分からないが、止まったら動けなくなりそうなので、取り合えず足を動かしている。
そもそも、私の転生した訳は、あいつの気まぐれだ。
前世、私の生きていた世界の住人にしては魔法の素質があるから、と訳のわからない空間で告げられ、この世界に転生させられたのだ。
転生してからも、度々現れたあいつは、他の人には見えないようで、面白半分に私を構った。
それも、今日でおしまいだ。
「やっと見つけた」
森の少し開けた場所。
中性的な容姿、中性的な体格の性別不明の人物を見つけ、呟く。
その人物は神々しい容姿に微笑を浮かべた。
「お疲れさま」
よく通る、清らかな声が、目の前の人物が唇を動かすと辺りに響く。
「もう体はへとへとよ」
私がそう返すと、そいつはクスクスと笑う。
「ねぇ、この世界は楽しかった?」
そいつ、この世界の『神』は私に一歩近づき、尋ねる。
「私には勿体無いくらい…楽しかったわ」
とても、とても楽しかった。
色々な人々からの愛情をもらった。幸せだった。
前世では感じなかった心まで感じた。
幸せな思い出がいっぱいある。
そう顔にでたのだろう。神は柔らかな笑顔を向けてくれる。
「なら、その寿命が尽きるまで生きてみる?」
「…いらないわ。もう幸せは十分もらったもの」
「君の事を戻って来てほしいと願っている人が居ても?」
「えぇ」
「頑なだね」
「私、一度出した言葉は絶対の責任を持つの。口だけや、口約束だからって蔑ろになんてしないわ。ましては神との契約を違えるつもりはないの」
「そう…そうだったね」
どこかで言った言葉をもう一度言う。
違えるつもりなど最初からない。
神はどこか悲しそうな表情をする。
「私に情でもわいたのかしら?随分と渋るわね」
「情か…そうかもね。お前に愛着がわいたのかも」
「神がなにを言うのかしら…。でも、契約よ」
結界の張り直しと強化が終わった私は地獄に落ちる。
その契約は今、実行される。
「私を殺しなさい」
言い切った直後、強い力で後ろに引かれ、後頭部になにか硬いものがぶつかった。
目の前の神が実に楽しそうな笑顔を浮かべていることから、後ろの硬いものの正体に気づく。
「残念、タイムアウトだね!!」
「謀ったわね」
「言っただろ、情がわいたって。それに今死なせたら幸せなままだ」
神を睨んでいると後ろから強い力で抱き込まれる。
あまりの強さに息が苦しくなる。
「生きることは辛い事だよ。精々生きて苦しみな!」
神々しい顔に嬉しそうな、楽しそうな表情を浮かべ、神はそう言って消えた。
「あの、腐れ神」
思わず零れた恨み言も、仕方ないことだと思う。
「ねぇ、ヴィーラ。どういうことかな?」
氷魔法が使えない相手の冷たい声。
光のような温かさは感じられない、後ろの相手。
錆びたブリキのように、ギギギと音が鳴りそうになりながら後ろを振り向く。
後ろには言葉では言い表せないほどの表情をした三人がいた。
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