誑かした世界に終わりを告げて

山永

13

月の変わりに白い雪が輝く真夜中。不寝番以外眠りについている屋敷。


私は、昔作った中で一番人目に付かない、渾身の出来の抜け道の前にいる。


抜け道の前で国王陛下から内密の御達しがきてからの数日を思い返していた。


御達しが来てからの数日。
神子様の結界の張替えが成功した、と号外が流れてからは国どころか世界はお祭り騒ぎだった。
一部の人間以外。


国の上役、国王陛下と神官長は神子の張り替えた結界に綻びを見つけた。
しかし、表向きは成功という号外を流したのは、世界の人々に不安を与えないためだろう。


綻びを見つけた国王陛下は、神官長にも内密に私に御達しをくれた。
どこまでも有能な人だと思う。


御達しが届いてからの私の行動は至極簡単だった。
ただ手紙を書いたのだ。


父に。国王陛下に。屋敷の使用人に。リアヴィの人々に。


殿下に。


レイノに。


そして、リアンに。


一人に一日、時間をかけていたら何時の間にか数日経ってしまった。
それ以外は何もしていない。


それで良い。手紙以外いらない。


あっという間の数日を思い返すのに時間は必要なく、私は抜け道を潜った。








***


ヴィーラが居ないというのはロズベルク家の朝を騒がした。


ヴィーラの不在に一番に気づいたのは、何時まで経ってもヴィーラが起きてこないことを不振に思ったリアンだった。


「ヴィーラ様?失礼致します」


寝室に入り、ベッドに近づくもヴィーラの居るであろうベッドの膨らみは動かない。
頭も見えないほど深く潜って寝ることを不振に思い、一声かけてからシーツをめくる。


しかし、シーツの中に居たのは茶色のテディベア。
リクハルドが初めてヴィーラにプレゼントしたテディベアだ。


そこで一瞬思考の止まったリアン。
すぐに周りを見渡すと、机の上にいくつもの封筒が置かれている。


恐る恐る近づき、封筒を見ていくと様々な人々に書かれていた。




そこから、ロズベルク家は大騒ぎになった。




既に王宮に出勤していたリクハルドの元にも知らせが届いたとき。


「あの娘は…なにを考えているのだ!!!」


珍しいリクハルドの怒声が執務室に響く。
なんだかんだと、放任ながらも娘を愛しているリクハルドの心境は計り知れない。


一方、ライリーは溜息をつき、頭を抱えていた。
まさか数日で、しかも、誰に言うでもなく、一人で結界の張替えに行ってしまうとは思わなかったのだ。


そもそも、神子の結界の張替えの場所は、協会本部がある森の奥にある神殿で行われる。
そこまで行くのは公爵令嬢のヴィーラなら簡単だ。
ヴィーラのことだ、予め門番の神官を誑かすなり、金を握らせるなりしているのだろう。


そういうところは異常な程容量が良いのだ。


「父上!!!ヴィーラが失踪したとは本当ですか!?」


再び溜息を吐くライリー。そこへ、セスが執務室のドアを破る勢いで入ってきた。


「あぁ、どうやら本当らしい」


そういってセス宛の手紙を差し出す。




手紙には…


探さないでください。


と書かれていた。
とても丸一日かけて書いたとは思えないが、これが全文だった。




手紙を受け取ったセスは手紙を読むなりワナワナと震えだした。


「あの子は本当に俺を怒らせるのが上手だ」


その時のセスの顔は言い表せない程の顔だったと後にライリーは語る。






「それで、父上はヴィーラの居所を知っておられるのですよね?」


核心を持った表情のセスは、ライリーに形ばかりの質問をする。
ライリーは少し冷や汗を流し、溜息をつく。


こうなったのも内密なんてことにしたヴィーが悪い。


そう、己に言い聞かせ、未だに怒りを露にするリクハルドにも聞こえるように、口を開く。


「ヴィーラには内密にするように言われたが、あの子は結界の張替えに神殿に行っている」


驚愕を浮かべる両名に苦笑を浮かべるライリー。


「馬鹿な…あの子の魔力はAですよ?結界を張り直せるとは思いません」


「それでも、あの子はなにかあると言っていたよ」


「その何かは教えてくれなかった」と付け加える。
ますます驚愕を露にする二人。


沈黙が続くかと思った執務室に、突如大きな音が鳴り響く。
何事か、音のした方に目を向けると、レイノとリアンが慌しく入ってきた。


「どうした、お前たち」


「姉上は!!姉上の居場所は分かったのですか!!?」


「ヴィーラは恐らく、いや、確実に結界の張替えの為に神殿にいる」


「じゃあ…」


レイノはヴィーラの居場所を聞くなり、絶望の表情をみせる。
同じく入室してきたリアンは顔を青くさせ、絶望という言葉では言い表せない表情をしている。


「どうしたんだい?何かあったのか?」


あまりの様子にライリーは椅子から立ち上がり、二人に近づく。


「今先ほど…リアンから契約が切れたと…」


「…契約が切れた?ま、さか」


告げられた言葉に執務室が凍る。


そんな、まさか…


その言葉しか脳内に浮かばない。最悪の想定しか出来ない現状に、今度こそ沈黙が執務室を包んだ。


契約が切れた、それはヴィーラの魔力が尽きたか、死んだ。そういうことだ。


「セス、レイノ、リアン。俺が許可する。神殿へ行け」


この事態はある意味、分かっていた。
けれど、思わずそう零れたのは、この子達の絶望した顔を見てしまったから。


ライリーの言葉に、三人は我先に、と執務室を飛び出した。


「私もなりふり構わず行ってしまいたい気持ちだ」


「正直、俺もだ。返ってきたらお説教しようじゃないか」


リクハルドの握り締め、血が滲んでいる手を見ながら励ます。


自分の読みの甘さを呪い、返ってきたときは飛び切りのお説教をしよう、そうライリーは己に言い聞かせた。



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