誑かした世界に終わりを告げて

山永

05

殿下にエスコートされながら登場してきた神子。
神子はレースがふんだんに施された純白のエンパイアラインドレスに身を包み、ピンクの髪は緩く結われている。
ピンクの髪に小ぶりの花が散らされている神子はまるで花の妖精のようだ。


光魔法に包まれた美しい二人の登場に皆息を呑む。
一瞬の沈黙の後、溢れんばかりの拍手。
美しい二人への賛辞と、神子への祝福の声が会場を包む。


愛らしい神子と麗しい殿下の組み合わせはまさに絵画のよう。


その中で面白くなさそうな顔をする者など私くらいだろう。
と、思い隣のレイノの表情を見ると、無表情。
それどころか、私が見ているのに気が付くと、こちらを向き微笑を向けてくれる。


「どうしました、姉上?」


「いえ、あんなに美しいものを見たレイノの呆け顔を見ようと思ったのだけど…」


真実のままに述べるとレイノはゆっくりと口角を上げる。しかし、瞳に熱はなく。


「見てくれだけで美しさを決めるつもりはありません」


「姉上もそうでしょう?」と言われてしまえば確かに。
弟はいつの間にこんなにも達観した考えを持つようになったのか。


弟の成長を目の当たりにして思わず笑みが零れる。


「そうね。見てくれに騙されるようではいけないわ」


私はあまりの苦手意識に彼女に飲まれていたのだろう。
私らしくない。そう思うと心が軽くなる。


「ありがとう、レイノ」


「なにか知りませんが、姉上のお力になれたのならよかったです」


シスコンの弟に感謝を述べれば、レイノは柔らかく笑ってくれる。
その笑顔に癒されていれば、神子の紹介が終わっていた。


神子の挨拶は選ばれたことへの感謝と役目を精一杯頑張ると当たり障りの無い言葉だった。
この後は私たちのほうから挨拶に行かなければいけないが、先ほどよりも随分気が楽だ。


「さて、神子様に挨拶に行きましょうか」


「そうですね」


レイノに声をかけ、エスコートされながら神子に近づく。






「神子様、殿下。ごきげんよう。神子様に於かれましてはご就任、衷心よりお慶び申し上げます」


「神子様、ご就任心よりお慶び申し上げます」


「あ、ありがとうございます」


「神子様、こちらロズベルク公爵家の長姉ヴィーラと直弟のレイノでございます」


殿下に紹介をされ、軽く礼をすると神子は深く礼をしてくる。


緊張した面持ちをみせる神子様。
リエモラ家といえば子爵家でも衰退気味の家だ。
こういう場に出てくることも少ないので、慣れないのだろう。
そう思わせる立ち振る舞いに関心してしまう。


しかし、レイノを見た瞬間の神子様の目は狩りをする肉食獣ものだった。
なるほど、神子様も例に漏れず美形がお好きなようだ。


「あ、あの選考人の方ですよね?」


「えぇ、恐れ多くも今回選考人をさせて頂きましたヴィーラ・ロズベルクと申します」


「カリーナ・リエモラです!」


「存じておりますわ。リエモラ家のお嬢様がこんなに愛らしい方だなんて知りませんでしたわ」


「あ、ありがとうございます!」


どうやら神子は私のことを覚えていたようだ。
上辺だけの褒め言葉を羅列すると、感極まった様子の神子様。
彼女も私も壮絶な化かし合いだと思う。


「ヴィーラのエスコートは大変だろう?」


「念願の姉上のエスコートができたことに喜びを隠せませんよ、殿下」


神子を話していると、レイノと殿下の会話が聞こえてくる。


普段そう思っておられるのですね、殿下。


少し睨みながら殿下を見ると、殿下は痛くも痒くもないという態度を示す。
実に腹立たしい。


睨むのにも上を見上げなくていけないのも腹立たしい要因だろう。


殿下の身長が185センチもあるのがいけない。


10年の月日で成長した殿下。
金糸の緩やかなウェーブがかかった髪は一房顔の前に垂れ、後ろは襟足より短めに切りそろえられている。
女性のように大きかった若緑の輝く目元はもう女性のようではなく、涼しげなアーモンドになった。
性格も初対面の高慢な態度が嘘のように温和で有名だ。
しかし、実際は策士で言葉遊びが得意。私ですら言い負かされるときがある。
勝率は私のほうが一割ほど有利と言ったところなのだ。
この10年で一番成長したのは殿下だと思う。


親子揃ってフェミニストで有名なのもどうかと思うが。


殿下の成長にしみじみしていると、神子に挨拶に来たほかの貴族たちが私たちがいることで困っているのに気が付く。
公爵家が話しているのを邪魔できるほどの馬鹿はいないようだ。


未だに神子をほったらかし、言葉遊びを興じている殿下とレイノに話しかけることにする。


「今日は殿下は美しい神子様のエスコートができるのです。姉上のことは俺に任せてください」


「そうだね。優秀なレイノのことだ。自分にかかる火の粉だけでなく、ヴィーラにかかる火の粉も守ってくれると信じているよ」


「お二人とも。言葉遊びも程ほどになさいませんと。他の方々が困っておりますわ。レイノ、挨拶も済んだことですし、私たちは行きましょう?」


「はい、姉上。では失礼します。神子様、殿下」


「ごきげんよう」


「ご、ごきげんよう」


まだまだ白熱しそうな二人に終止符を打ち、他の貴族に一礼してその場を去る。
二人のせいで私まで他の人間に睨まれるのは勘弁願いたい。


他の貴族たちは美しい二人と話したくてしょうがないようだし。


私たちが去ると、我先にと二人に挨拶する貴族たちが視界に入る。
その様に少し笑いながらウェイターに飲み物を貰い、口元を隠した。


飲み物がなくなると疲れから私は夜会を後にした。
後から聞くと、その後も夜会はとても盛り上がったらしい。



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