誑かした世界に終わりを告げて

山永

04



16歳になったレイノはやはりとんでもないイケメンに育った。
釣り目の怜悧な美少年は父の若い頃のそっくりでありながら表情が出るので違う印象を与える。
ストレートの銀糸は襟元まで伸ばされ、大きな釣り目が今は男性らしく鋭さを持っている。
身長が私を越したのはレイノが13歳の時だ。
それからもぐんぐんと伸び今や183センチにもなった。158センチの私は見上げなければいけないので首が痛い。


魔法も全般的に器用にこなすようになり、結界以外で私が勝てることもなくなってしまった。
戦略勝ちできていた頃が懐かしい。


おかげで14歳の夜会デビューからレイノは令嬢方の優良物件トップを独占している。
しかし、レイノの御眼鏡に適う相手は居ないらしく、現在になっても婚約者は居ない。
一度婚約者は作らないのかと尋ねたところ「近くに姉上がいるのに他に目が移るわけがありません」といわれ不覚にも頬を染めてしまった。
イケメンの破壊力はすごい。
その後たまたま訪れていた殿下に叩かれ、リアンに冷たい目で見られていたが。


殿下は18歳ということでそれ程頻繁に我が家に訪れることが無くなっていた。
私が王宮に訪れることが多くなったので、わざわざ訪れなくてもいいからかもしれないが。


髪が結い終わり、準備が終わるとリアンが当たり前のように後ろに来る。


リアンもこの10年でとても成長した。
青紫の髪は短く切りそろえられ、清潔感を感じさせる。少したれ目だが、鋭さを持った目元に深い緑の瞳。
身長は188センチ。元暗殺者として育てられ、今も鍛錬を欠かさないので体つきはがっしりしている。
それでも着ている執事服に違和感を感じさせないスマートさ。
体中に暗器が仕込まれているとはとても思えない。
子供の頃思ったことは現実となり、ワイルドな男前になった。


「選考人お疲れ様でございました、ヴィーラ様」


「ありがとう、リアン。夜会は早く上がりたいわ」


「選考人のヴィーラ様には難しいかもしれないですね」


「そうよね…」


リアンの言葉にまた落ち込んでしまいそうになる。
はぁ、と本日何回目になるのかも分からないため息を吐く。


部屋に居る一同の同情の視線が痛い。


「俺が風除けになれるようにがんばりますよ」


「レイノといたらそよ風が強風になりそうだわ」


遠まわしに遠慮するとレイノは見るからに落ち込む。
素直で可愛い弟だ。


一笑するとレイノはムッとした顔でこちらを見た後艶やかに口角を上げる。
これは…よろしくない。


「分かりました。では誠心誠意を持って姉上を警護しましょう」


「なにも分かっていないじゃない」


「遠慮しないでください。大事な姉上に他の男は近づけさせません」


凄艶な微笑を浮かべて甘い言葉を吐くレイノ。
訂正。この弟は可愛くない。


「私で遊ぶならエスコートをお父様に任せるわよ?」


「…それは嫌です」


「分かれば良いわ」


これ以上甘い言葉を吐かれるのは遠慮したいので、早々に手を打つと大人しく引き下がる。
いくら言葉が好きでも口説き文句や甘い言葉は苦手だ。言葉は苦味と辛味を持っているほうがいい。


「さて、時間も良い頃合なので、行きましょう」


手を差し出すレイノに選考会のときとは違う、淡い青のシルクの手袋をはめた手を重ねる。








今日の夜会は王宮内の迎賓館で行われる。


今回の神子の祝典は国内のみだが、後日他国の賓客を招待して大々的にも催される予定だ。
神子の選考会のとき、他国は外交官の出席が一般的だ。


普段の夜会なら嬉々として参加し、狸や狐と戯れるのだが、あの神子が主役となると…
どうにも選考会でみたオーラと見事に隠す本心に拒絶反応がでてしまう。


ぶるっと身の毛がよだつ感覚がして思わず腕を擦ると、レイノが不思議そうな顔でこちらを見てきたので、微笑を向けておく。




祝典の会場、迎賓館に入ると、既にたくさんの参加者で賑わっていた。


ちらほらと知っている狸や狐をみつけ、無意識に口角が上がってしまう。
淑女としてはよろしくないので、すぐに口角に力を入れた。


今現在いるロズベルク家と縁のある貴族に挨拶をする為、レイノと二人で近づく。


本来父の仕事なのだが、父の仕事は宰相なので、基本入場は国王陛下と一緒になってしまう。
なので、夜会デビューをしてからは私が。レイノがデビューしてからは二人で挨拶回りをすることが定番になっている。


公爵家なので、挨拶しに行くというよりは挨拶にこられるほうが多いのはご愛嬌。


「こんばんわ、ロズベルク家のお二方」


「ごきんげんよう、ベルイマン侯爵」


「こんばんわ」


「今日はお疲れでございますな、ロズベルク嬢」


「ありがとうございます、私には大任でしたわ」


「はは、ご冗談を。実に堂々としていて素晴らしかったですよ」


「あら、嬉しいわ」


二人で居ると凡庸で特に秀でた容姿も身長もしていない中年男性が話しかけてきた。
男性は私に労いの言葉を柔らかく伝える。


「陛下が特例で神子と同世代の方を選考人に選んだときは驚きましたが、貴方なら納得です」


「ベルイマン侯爵にそう思っていただけるなんて嬉しいわ」


「ハロネン公も貴方なら安心だと申しておりましたよ。自分ももう少し若ければとも」


ハロネンとは選考人を欠席した老人のことだ。
ベルイマン侯爵と仲が良いらしい。


「まぁ、ハロネン様まで…。ですが、ハロネン様がいらっしゃたら私は選考人に選ばれませんわね」


手で口元を隠し笑い、ハロネンが欠席した恨み言を遠まわしに伝える。


ハロネンが若ければ…私もそう思います。


そう思いながらベルイマン侯爵と別れ、他の貴族やレイノ目的の令嬢と挨拶していると、神子入場の合図の光魔法が会場を包んだ。



「誑かした世界に終わりを告げて」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く