嫌悪感マックスな青春~マジでお前ら近づくな~

黒虱十航

悪魔が去って忠犬登場

窓から差し込む朝日が、やけに目に染みる。目が覚めていない、というよりまだ夢の中にいるかのような感覚をもっている、といったほうが正しいのだと思う。目の前には、絶世の美女がいる。やけに大人びていてというより、本当に何千年も生きているかのような貫禄と落ち着きがあってそれなのに俺より幼いと断言出来るほどにロリ可愛い。美しさと可愛さは別種である。それは俺にも分かっているが目の前の少女……訂正しよう。目の前の女性を見ていると美しさと可愛さが同じもの、或いは互いに引き立てあうことの出来る素晴らしいものであるかのように感じてくる。更に言えば両立することが当然で比例して美しければ可愛いという式が出来てしまいそうだ。いや、よく分からん。兎に角やばい。
可愛さで言えば俺の弟子たるハチが代表に挙げられるだろうか。俺に懐いてきて素直だし忠実だ。覚えもいいし妹として、弟子として可愛いことには定評がある。まあ、他の奴に評価されてるかは知らんけど。でもまあ、素直だし実際に顔も悪くない。そこらの男子高校生に告白すれば大抵は落ちるだろ。なんなら、ちょっと俺がコツを教えれば鹿渡レベルでも落とせるまである。いや、それはないかもな。いいすぎた。んまあ、何が言いたいかっつうとハチは可愛い女の子だってこと。
それに比べて北風原は、美しいといえるだろう。常に向上心を持ち続けるというのは強い人間でなければ難しい。常に上を向き歩くというのは本当にキツイ。下に落ちた時の苦痛は人一倍大きい。上に上がることを想定に動いてどれだけ早く大きく上に上がれるかを考えている中で下に落ちるのだ。それはきっと絶望に等しい。そして、どんなに努力しても常に上に上がり続けられるとは限らないのだ。その姿は強いと評すことも出来るが、俺にしてみれば強いというより美しいという方が北風原には適切であるのだ。北風原は美しい女の子だ。
ハチと北風原をあわせて、それでやっと生谷さんに敵う。それほどまでに生谷さんは美しく可愛い。そして俺よりも強い。ここまで色んなものを兼ね備えた人間が、世界に存在しうるのだろうか。どうしてもそう思ってしまう。
「私は、もう帰るから。君は大人しくお出かけの準備でもしてなさい」
「そうですか。じゃあ――」
じゃあ。その後に危うく『また』なんて言葉をつなげそうになった。こんなのもうごめんだ。次を待ってなどいない。っていうか生谷さんには今後関わってほしくないまである。だって普通に怖いんだもん。同族嫌悪とかそういう生易しいもんじゃない。この人と俺はそもそも同族なんてレベルに達せられていないのだ。全く以って敵わない。届かない巨利に絶望しているわけではなく、同族嫌悪でもないとすればこの嫌悪はなんなのか。それは、俺の根本であるといえる。一言で言ってしまおう。それは近づいてくる人間が鬱陶しいという感情だ。……んん、だめだな。まとまらん。嫌いなものに理由なんて無いのと一緒。上の命令に特別な意図がないのと一緒。本能的に感じたそれに特別な意味などない。端的な拒絶反応ってだけだ。
「大丈夫。目的は達成したからもう、無理矢理遊びに誘ったりはしないよ。まあ、お姉さんを誘ってくれるのは嬉しいから全然ウェルカムなんだけどね」
「いや、それはないですね。そもそも遊びに行くってのが珍しいですしその中で貴方みたいなレアな人を呼ぶなんて珍しすぎる」
なんなら、家族とすらそこまで外出しなくなった今日この頃、生谷さんとわざわざ遊ぶ為に俺から誘う、というのは無いであろう。……ん? 今、目的っていったか?
「目的ってなんすか? 俺をおちょくる事ですか?」
「そんなわけ無いじゃん。まあ、そのうち分かるよ。嫌でも因果は動くから。今度こそ、受け入れて欲しいところだけど」
受け入れる? 因果? そんな意味深発言、今日日は中二病ぐらいしか言わないだろって感じだったのだが生谷さんが言うと不思議とその言葉に真実味があった。というか普通に真実であるのだと理解しているような感覚だった。
「はいはい、そういう不審な目で見ないの」
こつんと俺の頭に拳骨を食らわせてきたがその威力は驚くほどに弱かった。まあ、ダメージを与えるための行動ではないんだろう。こういう所はあざとい。
「それじゃね」
そういって家を出て行く姿は、あまりにも様になっていた。まるで何千何万と同じことを繰り返しているようにきれいに立ち去った。
「じゃあまた」
その姿に不思議と惹かれたからだろう。不覚にも『また』なんて不確定な言葉を使ってしまった。まあ、何ていうの? 気まぐれだ気まぐれ。


「お兄ちゃん、朝からモテモテだね」
リビングに行った俺に向かってニヤニヤしながら近づいてきた春は、俺のスマホを渡してきた。部屋に置きっぱなしだったのを取ってくれたのだろう。珍しく気が利く……というか不自然に利きすぎている。
「何だ?」
朝だからという訳ではなく、不機嫌そうに言っておけば勢いで乗り切れる気がしたのであえて不機嫌そうを装ってみた。別に朝は苦手じゃないので不機嫌でもない。
「ハチさんから電話だよ。お兄ちゃんが出ないから春のところにまで心配の電話が来たんだからね?」
「おお、すまんすまんまじすまんはんせいしてますごめんなさい」
「棒読みすぎる。もっとはっきり」
適当に勢いでどうにかなるわけでもないので一応きちんと誤っておくか。実際俺にも非がある。なんなら春には非がない。まあ、思春期真っ盛りの男子高校生の部屋に無断ではいるのは妹であっても如何なものかと思うが俺はやましい事が何もないし何より心配の電話が掛かってきたのだから仕方が無い。
「すみませんすみませんほんとすみませんはんせいしておりますもうしわけございません」
「いや、別に言葉遣いを言ってる訳じゃないし。普通に区切ってよ聞き取りづらい」
ったく、注文が多いな。折角こっちが真剣に……謝ってやろうとは思っていなかったな……すまん妹よ。
「すみませんでした。本当に反省してます。申し訳ございませんでした」
「心が捻じ曲がってる」
「唐突に人格批判はやめろ」
「あ、ばれた?」
「ばれるも何も人の人格批判を隠して言おうとするんじゃねぇよ」
「てへぺろ?」
本当にこの辺の能力は、俺譲りだと思う。もしくは役者の父さん譲り。まあ、所々でまだ隙があるしまだまだではあるのだけれど。

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