嫌悪感マックスな青春~マジでお前ら近づくな~

黒虱十航

不良さん

「んんっ」
本気で本気でこの人には負けてしまう。こんな変化、俺は出来ないし何よりこんな可愛い声を出されたら敵うはずが無いじゃないか。ベナと同じレベルの可愛さ・・・。素にすら見えてしまう分こっちのほうが性質悪い。それに俺よりも体が小さい奴なんて最近じゃあまりいなかった。だから、俺より体が小さい奴に甘えられてダメージが大きい。春でさえ、もう何年か前に俺を超えて行ってしまったからなぁ。
「早くぅ・・・」
「ぐ・・・・・・・ホントなら通じないって言いたいんですけど・・・はぁ、流石です流石です。ほら、来てください」
しょうがない。俺が悪いんじゃなくてこの人と俺の実力差があまりにも大きすぎるからいけないのだ。いや、本気でこの人が悪い。前言撤回。この神がわるい。
「ありがとぉぉ。じゃ。お願い」
それだけいうとばたりと俺に体重をかけてきた。とはいえ太ってないしむしろ引き締まってるようで軽く、なんだか結構遠い昔に春をおんぶしてやったときのことを思い出しそうだった。確か、あのころにはもう目が見えていなかった。それでも問題なくやれたけど。でもやっぱり兄妹じゃないので背中に感じる温かみにすごくどきどきしてしまう。
「え、あぁ、えっと家ってどこですか?」
「ふにゃぁ・・・・・・」
俺が家の場所を聞いたときにはもう、完全に熟睡してしまってるようで返事は空気の抜けたような声だけだった。っていうかこれ、理性が持つかどうか分からなくなってきた。こういう寝ている猫みたいな感じのが一番きついんだよなぁ。
「あの・・・」
「んにゃ・・・・・・」
「あのぉ?」
「ふわぁにゃぁ」
「あ、あの?」
「むにゅぅ」
この人、なに考えてるんだ?せめて目的を言ってからはじめてくれないとまじで俺、どうしようもないぞ?何とかしてこの人のたくらみを暴かないと手の打ちようがないし通り過ぎる人の視線が痛くてもうやばい。何かもう、何かもう。嫌になっちゃうこの悪魔☆
「ふぅ」
「ふぁっ」
そんなことを考えていると寝息が耳に直接当たり頭がこてん、と右肩に乗っているのに気付く。まあ、そりゃ寝てるんだからそうだよなぁ・・・・・・。目が見えなくてよかったと初めて思う瞬間だけどやっぱりこの人寝てるんだよな?そこまで隠してないよな。
「はぁ、やばい・・・・・。」
とはいえ、これ、マジでキツイ。別のこと考えていられない。とりあえずもう、俺の家に運んでしまおう。この駅からなら歩いてでも帰れるだろうし電車に乗るのは躊躇われるからな。と、いうことで夕日すら沈みかけている午後5時。渋々ながら目的地に向かってスピードを上げた。


本当ならこんなはずじゃなかった。今日は家に篭って寝ようと思ってたのだ。けれど邪魔されてしまった。まあ、俺としてもお世辞交じりなら楽しいとほんの少しならいってもいいかもしれない。が、そもそも俺は下等であれ上等であれ人と関わること自体が結構煩わしいのだ。そんなことに改めて気付かされ思い出されてしまった。しょうがないな。あのころ頑張ったんだし。今ぐらいは関わらなく手も許されるし嫌っても許されるだろう。
「ふわぁぁぁぁ・・・」
そんなことを考えていると不意にあくびが出てしまった。そりゃそうだ。今日、無茶苦茶寝るつもりで居たわけだからそれぐらい疲れてるのは当然だ。
「んん・・・」
あと、耳元で聞こえる無茶苦茶完璧な神様の寝息のせいだろう。まあ、それでも眠いというのは、変わらないかもしれない。全く、誰かと関わると疲れる。エネルギーの消費もやたらと多いし特にこの人みたいなタイプは無茶苦茶疲れる。
「にゅぅ」
わざとなのかなんなのか、本気で可愛い声が聞こえる。トーン調整をすれば時間は掛かるが俺もこれぐらい、出せるだろうけど調整して時間をかけてないのにやってる辺りが本当にすごい。真似できない。まあ、俺は真似する気もさらさらないんだけどな。そもそも俺は、誰かとかかわるのが嫌だ。気持ち悪い。ぼっちを気取って絡まれるのも嫌だ。今までと違う。そんな関係性だから、なんて理由で受け入れることも出来ない。ましてやしっかりとした理由で納得したとしてもそれを好きになる事は、出来ない。ホンモノもニセモノも全部、大っ嫌いだ。嫌う理由なんていくらだってあって一つも無い。ただ嫌いであるっていうだけじゃきっと納得してもらえないだろうし納得してもらいたいわけじゃない。言うならば俺はただただ、関わらないでほしいのだ。ほっといてほしいとかそういうことじゃなくてホントに、一切関わってほしくない。存在を認知されることすら嫌なのだ。けれども思いやり部なんて部活のせいで人生の神みたいな人に目をつけられたし北風原や求名やハチにであった。一瞬だけ、ハチを見守ってやら無いと、だなんて思ったりこんな環境も悪くない、だなんて思ったりした。けれども俺の本質はそこにはないのだろう。そもそも、ずっと昔から一人称は「僕」だったはずだ。もっと弱かったしただただ孤独だけを望んでいたはずだ。だから、社会の節理に気付く前。ずっとずっと昔の。それこそ気が遠くなるほど昔の俺。いや僕は、弱さを肯定していて家族も他人も拒絶して仲良くなろうとしてくる人が煩わしかった。
「おいおい、そこのお穣ちゃん。子供だけでどうした?」
そんなことを考えていると明らかに不良のようなトーンの男の声が聞こえた。振り返らなくても人数は分かる。10人だ。皆、かなり体つきがいい。俺より小さい奴はいないし一番小さい奴でも俺プラス15センチほどある。筋肉もそこそこある。それに若い。100%不良だ。そうなれば無視してしまうのが模範的な対処方法だろう。そんな事は俺にだってわかった。むしろ一時期不良さえ、監視下においていた俺としてはこの手の奴らの対処方法は、容易く分かる。けど、今日は本気で疲れていた。背中には重さを感じることも無いぐらい軽い生谷さんがいる、逆上して攻撃されたら危ないし問題を起こしたらやばい。あと、本気でイライラしていた。
「おいおい、素っ気無い態度をとんないでくれよぉぉ~~。お兄さん達、悲しいぜぇ。ほらほら遊んでいこうよ。お兄さん達がしっかり相手してあげるから」
考えている間にもそんな声が飛んでくる。っち、全く声のトーンがなってない。怖がらせるならもっとしっかり、親しみを持たせたいならもっとやんわり。そんな工夫も出来ない奴がナンパなんてするんじゃねぇよ。まったく、下衆よりも酷い。腹立たしい。
「あ?」
だから、俺が見本を見せてやることにした。一瞬しっかり相手をしてあげるかのような笑顔で振り向き一瞬で空気を操作して殺気を声に込める。声は、そいつらの脛を打ち抜く銃弾になって放たれすぐにがくがくとひざを振るわせる。鳥肌がたっていることが空気の動きでわかった。けど、振り向いたせいで俺と、生谷さんの顔がそいつらの目に入ってしまった。特に生谷さんの寝顔。普通の人間なら理性が崩壊しそうな顔だから心が純粋な馬鹿で端的で浅ましい不良でさえ恐怖と幸福の狭間に立ってやがて10人でなら気絶させられるんじゃないか、だなんて考えを持ち始めやがった。ホント下等動物はレベルが低い。
「お穣ちゃん、可愛がってやるから一緒に来いよ。なぁ?」
「穣ちゃんじゃないんですけど・・・・・」
「あ、いやごめんごめん。別に子ども扱いしたわけじゃないんだわ。な?ほら、さっさと行こうぜ。楽しいことしたいだろ?」
ああ、せっかく可愛い声で男であることを告げようと思ったのに。もう、いいわ。めんどくさい。下等動物に付き合ってやるのは俺の役目じゃない。囲まれ始めたが軽々と飛び越えて生谷さんを一度降ろす。ちょうど近くに公園があったのでベンチに寝かしておいた。これで大丈夫だろう。
「さて、と」
「な、なんだよ姉ちゃん。体操でもやってんのか?」
「はぁ、しょうがないよなぁ」
ノブレスオブリージュ。その言葉があるから俺がこいつらを導いてやることも義務なのだ。問題になって呼び出されるのはごめんだしとりあえず衝撃波で気絶させられればいいんだけど。流石にその道のプロじゃないのでそんなこと出来ないしプロでも出来ないと思うので音を利用するしかあるまい。
「なんだぁ?やるきか?」
「10人相手だからって甘く見んじゃねぇよガキ。身の程を思い知らせてやるよ」
もう、全くフラグ立ちまくってるんだよなぁ。何でこうも不良キャラって言うのはフラグ建設の名人な訳?そもそもさっきの動きで勝てないって理解しろよ。
「別に対戦シーンに需要ねぇから。」
「は?何言ってんだよ」
「こういうこと」
めんどくさいので一気に殺気を放出して目で殺す。見えないけどそれでもそれだけで意識はカットできるだろ。別に喧嘩するわけじゃないし恐怖を教えてあげればいいだけ。
「んにゃ・・・・・・・」
恐怖で一時的に不良たちが動かなくなり聞こえたのはそんな生谷さんの寝息だけだ。さっさと行かないと流石にこの不良さんたちも逆上するだろうからさっさと行く。背中の生谷さんに振動が行かないように一度のけりで長距離を進みやがて俺の家に着いた。

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