嫌悪感マックスな青春~マジでお前ら近づくな~

黒虱十航

月の歌人~2

「おい、求名。こんな時間になにやってるんだ?」
リア充オーラを出しながらも補導されると面倒なので存在感は消して話しかける。ちょっと自分の能力が恐ろしいほどだった。
「ひぃ・・・・・なんだ、おぬしか」
「なんだとはなんだ。言っとくが俺は、そんじょそこらの奴らより全然怖いぞ。肉体的な面じゃまず、俺が勝つだろうし何よりお前だって身をもって感じてるんだ。」
こいつには、俺の試験段階であった気絶させる技を使用しているのだ。こいつ自身俺の恐ろしさは十分に分かってるはず。軽く命の危機を持たせるぐらいにやってるんだけど逆にこれで危機を感じてなかったら恐ろしい。
「・・・・・・・・・・・・すまぬすまぬ。少し考え事をしていたがため反射的に口から出てしまっただけなのだ。赦せ、我が僕よ」
「いつ、俺がお前の僕になったんだよ」
「そんなのおぬしが生まれてからに決まっておるであろう?我は、何千年と生きる吸血鬼族の亜種、最凶最悪の吸血鬼、紅き吸血鬼レッドフードであるぞ。この世に生まれる愚民共は皆、我が僕だ」
「なるほどな。ちょっとマジでうざい。」
本気で殴るのは気がひけるが、この考えを少しでも正さないとまずいことになるので一応軽く拳骨を食らわせておく。まあ、こいつ、一応俺と同学年なんだけど。
「ぐぐぐ・・・。レッドフードに対する敬意が足りぬぞ。おぬし、我が魔力を見縊っておるな?まあ、仕方があるまい。愚民に我が偉大さを理解させるほうが難しかろう」
「っち、そろそろ殺るぞ?」
「ひぃぃ・・・・・。我の扱いがひどすぎる・・。それよりもおぬしよ。このような時間に外に出歩いて何をしておるのだ?」
「それはこっちの台詞だ。いいか?お前は見てくれはいい、女の子なんだぞ?こんな時間に外にでたら危ないから、やめろよ?」
最近は何かと物騒である。女の子が夜で歩けばすぐに不良に絡まれるものだ。まあ、こっちに越してきて少しましになってるけどそれでも今の時間が1時を越えている。外にでていて褒められたような時間ではあるまい。
「それをいったらおぬしこそ男のくせに女子に間違われ教われるのではあるまいか?」
「うっせぇ。そんなことが起きたらそいつらを一網打尽にするっての。で?何してたんだ。何してたんにしろ一人にするわけにも行かないしお前が家に帰るまでは、俺が付き添う」
「なんだ?ロリコンか?」
「自分がロリだって自覚あるのかよ。」
実際、振動で感じる顔立ちだけでもかなりのロリ顔である事は間違いなくしかも美人だ。それこそアニメじゃ後輩、妹キャラとして使われそうなデザイン。しかし俺の同級生である。
「うるさい。ロリだのロリじゃないだの禍々しいリア充のようなことを言うでない」
「おいおい、大丈夫か?今の一言だけで一気にキャラ設定が崩れてるぞ。吸血鬼はどうした?」
「吸血鬼ではない。紅き吸血鬼レッッッドフーーーーーーードである」
「やけにためたな。レッドフードとかどこから来たんだよ」
正直言えば結構気になっていたポイントでもある。だが、俺が聞くと何故か求名の表情は暗くじめじめした色に変わった。悲しみの匂いがして懐かしみの音がする。だがそれと同時に深い闇の色も見える。
「あ、すまんすまん。タブーだったよな?」
「ほぅ。勘付いたか。出来ればもう少し早めに気付いてほしいものだがまあ、いい。我の機嫌は今はいい。早く立ち去りたまえ。
人には、触れてはいけない過去があってそれを人は地雷と呼ぶ。人にはいってはいけない言葉があってその言葉を聞いた瞬間その人は別人に変わる。父さんや俺、北風原が感情的に、もしくは論理的になったようにスイッチ後の変化には自制が効かない暴走という意味合いが強いと思っていた。けれども求名のスイッチは明らかに別種のものだった。


「で?何してたんだ」
「人にものを聞くときはまず自分が話すべきであろう?」
「っち、ご尤もです」
今回ばかりは間違ったことを言っているわけではないので従う。何かこの一連の流れは北風原の時と同じように感じた。けれども北風原の時と違って感情を読み取るのは簡単な相手だ。それゆえに手が抜けない。あんな繊細で危うくて脆い恋を詠い、物語を作るような奴だからもしかしたら傷つきやすいのではないかと思った。


いじめられている子は大抵、自分自身の口から大人に「いじめが辛い」と話すことは無いらしい。その理由は幾つかあるが俺の思う大きな理由はいじめられる者といじめる者の停滞してはいるものの変化することの無い関係性が出来ているからなんじゃないかと思う。変わらないものに人は安らぎを感じるのだ。古くから変わらず伝わる伝統芸能なんかに心癒されるしクラスが変わってしまうというだけで胸がざわつく。俺には経験が無いが好きな子と同じクラスになれるかどうかで一喜一憂する思春期男子もいるそうだ。そこまでに変わらないとは心の最も健康な状態なのである。それは自然界でも同じことで肉食動物が草食動物を喰らい肉食動物が死んで草となって草食動物がそれを食べて繁殖する。その、食物連鎖も変わらない動きなのだ。だから、いじめられていてそれで一切辛いといった表情を出さずに微笑み余裕を見せるような子供は、繊細だ。変化を恐れる。変化してしまうだけで自分が壊れるのではないかと思うほどに繊細で脆いと自覚している。だから守ってあげなければならない。けれども本人が守られていると自覚してしまったらそれまでで全ては加減である。密かに、だなんていうのは傲慢で助けてもらう側の気持ちを考えていない行動だ。助けてもらう側が「迷惑だ」といったり「ありがとう」といいたいのにそれを妨害しているわけだからな。だから俺は、別に密かに影から、えんのしたの力持ちになろうとは、思っていない。けれども、俺にしか出来ないこともあるのではないかと、思うのだ。今、俺が思いやり部にいる理由。それはきっと俺にしか出来ないことで俺より弱いものを救済する。腐った世界が俺に手を差し伸べる権利は無いけれど俺が世界に手を差し伸べる権利はあるのだから腐った世界ごと手で握りつぶしてしまいたい。

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