嫌悪感マックスな青春~マジでお前ら近づくな~

黒虱十航

景色

「そういえば仕事、そろそろ何か新しいのが入ってくるんじゃないのか?キララ自体はそこまで人気じゃないにせよ期待に声優として雑誌に載ってたんだし」
「師匠。お詳しいんですね」
「ああ、まあ俺は八田町のことがむちゃくちゃ好きだからなぁ。完全なファンなんだよ。熱狂的な。で、実際のところはどうなんだ?」
「あ~、確かに雑誌に載ったりもしましたが残念ながら私はうちの事務所の中ではそこまで売り出す予定が無いので今は仕事が回ってこないんです」
「そうか。あ、でももうすぐまわってくるな」
「何ででしょうか。」
「何でって俺が人気投票でベナに投票して1位になれば一気に注目されるだろ?人気じゃないとはいえコアなアニヲタの中じゃ神アニメとして取り扱われてるんだし人気投票で印象に残るようなことをすればもっと多くの人に知られるようになるだろ?自然と仕事も多くなる」
「し、師匠・・・。私、師匠のお役に立てるように頑張らせていただきます。本日は、購買部の限定10品のメロンパンでよろしいですか?」
「え?ああ、さっきの話か。いや、でもなぁ、あれってすごいレアで買えないだろ。わざわざそれの為に人ごみに突っ込まなくとも」
うちの購買部には伝説のメロンパンと銘打たれるメロンパンがある。一日限定10品というだけではない。噂によるとむちゃくちゃ美味しいらしいのだ。何か隠し味を入れているらしいのだがそれはどうしても分からない。ただ、一口食べるともう一口食べたくなるような味らしい。甘党にはむちゃくちゃ人気で甘党以外にも一度食べてみたいという生徒が多い。これはリア充たちの会話から聞いたのだがその会話の脈路的に1年生は先輩と同じ時間帯に行ったとしても先輩が優先されるので誰も食べたことが無いという。
「いえ、用意しております。先ほど第2図書室においてまいりました。しっかりと鍵をして温かいまま保存しております」
「は?どうやったんだ」
「簡単なことです。今日はいつもより1時間ほど早く登校して購買部に行ったのです。まだ、誰も生徒が来ていなかったのですが購買の小母様が、3つ売って下さいました」
ちょっと、軽く事件レベルだった。まあ、一人1品限りという縛りは聞くところによるとない。けれど並んでいる中で先頭が10品買ったら周りからブーイングを受けるため基本的に1品となっている。しかし人がゼロの場合には複数買うことも可能だ。
「なるほど。お前すごいな。何か埋め合わせでもしないとな」
「いえいえ、私は弟子として当然の勤めをしたまでです。」
「いやそういわれても俺の気がすまない。何か欲しいものいってみ。ある程度なら前向きに考えるぞ」
「で、でしたらあだ名を考えていただきたいです。」
「あだ名かぁ・・・・・」
流石に何か礼を、と思ったのだがかといってあだ名を考えてといわれても弱る。そもそもあだ名の定義がまた不確定で本名でも変わった名前で周りから呼ばれればあだ名になるだろうし不本意な名前であろうと多くの人に呼ばれればあだ名になるのかもしれない。その辺がいまいちはっきりしなくてめんどくさい。とはいえ可愛い弟子の為だ。考えるのもやぶさかじゃない。
「そうだなぁ・・・・・。じゃあ昼休みにでも北風原と考えるか」
「そうしていただければ嬉しいです」
そう、やり取りしている間も意識はクラス全体に行っていた。さっきよりも酷くまるで歪みきっていて光がまっすぐ進まない、かつての宇宙かのような景色を作り出していた。正直に言おう。みているだけで気持ち悪い。歪みきってるだけじゃない。形すらはっきりしていない。ぼやけて霞んでいる。本気で不思議な景色だ。
「師匠?どうかいたしましたか?」
「あ、いやなんでもない。」
そこまでいってから一つ確かめたいことが浮かぶ。
「なぁ、八街」
「どういたしました?」
「今の教室って何色に見える?」
「え?色・・・ですか?色は、まあ色々ですけどベースは机とかの茶色と銀ですかね。他にもかなりの色が多いです。それがどうかなさったんですか?」
「いや、お前ってさ」
そこまで言ってから一応周りに配慮して八街の耳元に口を近づけて言葉を発する。耳責めボイスだなんていって腐女子がひぃひぃいうコマンドだが別に深い意味は無い。ちょっといいにおいがしたくらいだ。あ、別に自主的に匂いをかいだわけじゃないよ?鼻に入ってきたんだよ。とはいえ。よく考えてみるとこの動作に意味は無いのですぐに元の体勢に戻り咳払いをして口だけ動かし音を出さずに伝える。はたから見ればさっきので話してたと思い今の俺の行動は何をやってるのか分かんないだろう。
『お前、耳が聞こえないだろ?』
「え、あ、はい」
重要箇所だけ言ってあとは言葉を普通に発する。
「何かが足りない人間ってやっぱり違う景色をみるのかなぁって。」
「どうしてそう思いになられるのですか?」
「どうしてってそれは・・・」
そこまでいってから俺がこの後なんと言うべきなのか考えるために思考がフル回転された。こういう時、ノベルゲームだと『なんでってそれは・・・』から幾つかの選択肢が出るはず。「~~だからだろ?」みたいな中途半端な会話がほとんど。
「ほら、S君のことだよ。あいつ、普通の人とは別の景色が自分には見えてるのかもしれないっていっててさ」
「景色?S君さんは、目が見えないのではないんですか?」
「ああ。けど空気の振動、音の跳ね返りで普通の人と同じ空間を脳に形成できた。それが出来れば脳が判断してみていると錯覚できる。平面は無理だけどな。だから、景色が見えてるように感じるんだってさ。だけど色とかはかなり汚くてぐちゃぐちゃだって」
「なるほど。私はまだ、そのレベルに達していないのでもっと鍛錬するべきですね」
「いや、そうでもないだろ」
「え?」
「十分すぎるほどにお前は出来てる。まだまだ伸びる所は山ほどあるけどそれでももっと鍛錬ってほどじゃない。あとは見て学んで真似から始めて各分野を極める。今学期の期末とかじゃ、総合順位、2位を目指してもらう。」
「北風原さんを越えるのですか?」
「まあ、俺の弟子ならできるだろ。じゃ、あだ名は、昼休みってことで俺から誘って考えるからそうだなぁ。話し合って決めたのを部活中に発表っていうのでいいか?」
「はい、よろしくお願いします」
「どーんと任せとけ」
そういって胸を叩く。とはいえ俺も自覚はしている。ちょっと俺も色々鍛えなおさないといけないということを。世界が腐ってると断言する為にやりこむんだったらもう一度やり直さないとこの間のスタミナ切れはきつかった。夜にでも走るかな。


『北風原
今日の昼休み八街のあだ名を考えたいんだけど抜けられるか?』
『あだ名・・・?なるほどいいわね。思いやり部の目的の二つ目。部員同士思い遣りを持ち友達となるべく努力する、というのにも適するものね。いいわよ、抜けてみる。』
俺はホームルームが始まる前にそんなやり取りをメールでした。


俺の携帯電話というのはちょっとだけ特別でちょっとだけ光を普通より強く出せるようになっている特注のものである。その理由は幾つかあるがこれぐらいに強い光ならば光の屈折などでなんて書いてあるか空気の振動で分かる。俺が”目が見えなくても”

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