嫌悪感マックスな青春~マジでお前ら近づくな~

黒虱十航

思いやり部入部

翌日。俺が作文を提出すると誉田先生はにっと笑った。
「何ですか?そんなに変だったんですか?」
「いや、面白いと思っただけだ」
「そうですか。というかそもそも俺は何で先生の思い通りに書かなきゃいけないんですか?この作文って現国の先生が選ぶんでしょ?」
「まあそうだな」
「じゃあ、そっちの先生のOKを貰わないとだめじゃないですか。絶対OKもらえないと思うんですよ。文章っていうのは読者に媚びなければならないんですよ?」
「その駄目論理はどこから来たんだ。全く、君の母親は、昔からしっかりしてたんだぞ?それはもう真面目でモテてなぁ。それでいてあいつの書く文章は、エンターテイメント性に富んでいた。」
「まあ、仕事にするぐらい文章書くのが得意なわけですからね。俺は別に仕事にするわけじゃないですし母さんもよく言ってますよ。『いくら必死こいて書いても気付かれないレベルに読者に媚びないと売れないし編集者も五月蝿いんだよ』って。」
昔からほんとに愚痴ばっかり聞いていたので働く意欲をなくしているのだ。ラノベ作家はまだしも母さんみたいな真面目真面目した小説を書く小説家はやり続けるだけで疲れるからな。あの業界には文章力が無いと入れないしな。ラノベ作家はその点いい。専業主夫になれなかったときとか就職失敗した時とかの滑り止めでなった奴が多いはずだ。専業主夫は分からないけれど。どちらにしたってラノベ作家なんてメンタルさえ強ければなれるのだ。書き続ける、叩かれても我慢する、アニメを見たからってすぐに影響を受けない、の三つこそ重要だといえる。
「はぁ。何故だろうな。思いやり部に入ってから君は明らかにおかしくなりつつあるぞ。性根が腐りきっているというか思考が真っ黒になってるとか」
「世界の黒さを知ったからじゃないですか?ほら、俺働かされたわけだし。働くと思考がブラックになるんですよね。働きたいのに邪魔してくる奴とかいると心の中で刺してますし。」
「ああ、その気持ちは分かる。うむ、だがまあ、働いているなら結構だ。」
そういってから誉田先生は息をはく。そして次の言葉を発せようと口を開く。
「それでどうする?」
「え?書き直しじゃないんですか?」
「書き直しにして欲しいのか?大丈夫だ。現国の三田先生には許可をとっている。他の生徒があまりよくなかったんでな。時間もないしこれで行くからいい」
「そうですか。それならいいんですけど」
そうは言ったもののだったら三田先生と俺が話し合うべきなんじゃないですか?と思う。だが今はそれよりも考えなくてはならない。「どうする?」って何のこと?俺、何もしないしもうすることないんですけど。あ、いやまあ八街の教育はやらないといけないか。まあそれだって先生が関わってくることじゃないしな。
「・・・・・・・まあ、ぼちぼちですかね?」
「何を言っているんだね?」
あれ?おっかしいな。これを返答の時にいっておけばとりあえず何とかなると思ったのだがだめだったか。やっぱり「そうですねぇ~」とでも言えばいいのだろうか。
「まあ、そうですねぇ~」
「は?」
駄目だったか。
「猫実、私が何を言っているのか分かっていないのか?」
「ま、まままままままさか。そんなことあるわけ無いじゃないですかぁ。俺の理解力を舐めないでください。それ、これでも何を言ってるか外野から聞いてて分かるレベルですよ?」
「それはわざとなのか?」
やばいやばい、あせった。別に理解していない、でもいいのだがそれで何か言われるのもいやだし何か重要なことだったら嫌なので誤魔化そう。
「ご想像にお任せします」
「不倫した芸能人か。ご想像じゃなくてしっかり答えろ。いって置くが私に報告しなければ強制連行だぞ?」
「は?何を・・」
強制連行。その言葉が意味するものはこの場合一つしかない。第二図書室への連行である。そしてそこから導き出される答えは一つ。先生が聞いていることとは「思いやり部に残るかどうか」ということである。さぁ、かなり難しい問題を突きつけられました。猫実涼選手、どうするのでしょうか。と、似非実況をしてみたくなるぐらいにはピンチっている。今日でちょうど2週間のはずだ。2週間前ならば俺も即答していただろう。けれどこの2週間で得るものがあったのだ。ほんの少しだけ変わっていることがある。だから迷ってしまう。
「八街は、入るそうだよ。今日連絡に来た」
「・・・・?八街が、ですか・・・・。」
八街が思いやり部への入部を決めた理由は定かではないけれど入るとなれば師匠の俺も入部せざるを得ない。とはいえなぁ。ちょっとめんどくさい。だが、ちょうど2週間前の今日。俺は言っているのだ。その一連のくだりを思い出すと入部しないともいいにくい。
「・・・・まあ、入りますよ。入るのはいいんですがね、あの部って結局どんな部なんですか?」
「ああ、そうだな。それについてはこの紙をみたまえ」
そういって渡してきたのは一枚の紙である。
「・・・・・・・?」
だが正直訳が分からない。
「まあ、分かりました」
ただ、正直これ以上踏み込むと面倒なのでやめておこう。
「そうか。ならいい。これを北風原に渡しておいてくれ。プリントアウトするように頼まれたやつだから」
「はぁ、まあいいですけどご自分で渡したら如何ですか?」
「私は彼女が苦手なのだよ。」
「いいんですか?教師がそんなこといって」
「教師だって一人の人間だ。嫌いな奴ぐらいいる」
「それが生徒っていうのもあれですし生徒の前で堂々と言っちゃうのもどうかと思うんですがね」
「しょうがないだろう?彼女はつまらないんだ」
「それ、先生が一番言っちゃだめでしょ」
「君も思わないか?彼女は、北風原菜月はつまらない。面白みが無いのとは違うがな。君も、八街も北風原も、生徒は皆面白い」
「まぁ、確かに北風原はつまんないかもしれませんね。行き詰ったゲーム、テスト前にやりすぎた勉強、みたいなそういう感じですかね。怖いですし」
「君もなかなか言うようになったのだな。怖いのは君もだよ」
「え?」
「君も北風原も八街も凶器を抱えてるように見えるのだ」
「・・そうすか。まあいいんじゃないですか。進路指導もほどほどにしてくれれば俺は、何でもいいですよ。」
「進路指導・・・。そうだ、思い出した。そういえば君はなぜ3者面談を拒否してるんだ?早く用紙を提出してくれないと困るんだが」
「だってあれって一応、希望する職業を書かないといけないじゃないですか。そうしたらちょっと時間が必要ですし」
うちの高校は毎年始めに進路相談と3者面談を織り交ぜて面談を行っている。親と共に担任と話し、前もって提出しておいた希望する職業と希望する進路先を書いた用紙をみながら会話するというものをやっているのだが、俺は親が学校に来るというのが嫌であることと進路と職業がまだはっきりとしていないことから3者面談を拒否している。

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