嫌悪感マックスな青春~マジでお前ら近づくな~

黒虱十航

幽霊―Ⅱ

先生に案内されるがままに俺は歩き続ける。地下、というだけあって若干肌寒いといったレベルの気温ではある。まあ、春だしそういう日が少なからずあるから文句があるわけじゃないんだけど。そうじゃなくてなんと言うかものすごい胸騒ぎがしていた。だからこそ気温だとか言うどうでもいいことを考えているのだろう。そんな馬鹿馬鹿しいことをしていても脳は動いているわけでこの胸騒ぎの正体を探っていた。そんなことをすること3分。まだたどり着かないようで歩き続ける。正直、マジで長いなぁなんて考えながらもこの胸騒ぎの正体が何となく分かっている。


まず一つ。この胸騒ぎは「何かが変わる」とかそういう運命を感じているものではない。それは何となく分かった。ある種、生物的本能というのだろうか。生物的本能というと俺の中じゃ働かないということから派生する主夫志望ぐらいしか思いつかないのだが案外、生物的本能は身近にあるのかもしれん。というか胸騒ぎってそもそもなんだろうなぁ。今から俺は働きに行くんだぞ?嫌悪感以外ないだろうだ。


そして二つ目。この胸騒ぎは、恐怖によるものでもない。働きたくない⇒働かされるという恐怖が生まれる方程式なんだが案外生まれていない。いや、働きたくないのは事実ですけどね。でもこの胸騒ぎはそういった種類ではない。だとすると俺の出せる答えはひとつしかなかった。簡単だ。「俺には証明不可能」である。そもそも俺雅証明できると思ってたのが間違いだ。なので考えるのをやめて歩く。合計してしまうと5分以上歩いているのだがまだつかない。うちの学校、やけに広いからなぁ。絶対そのせいだ。何となくだけどその連続通り魔さんがこの学校に逃げ込んだのも分かる気がしてきた。こういう時、心理学を学んでおくと超便利。そーでなくて、とりあえずさっさと歩きたいんだけど案内していた誉田先生が立ち止まった。
「急にどうしたんですか?やっぱり生徒にこんなことをやらせるのは教師としてよろしくないと思いましたか。行動に移す前に分かっていただけてよか」
「いや、そうではないのだよ。むしろ君にはこれからも私の下僕として働いて欲しい。だがそうではなくてな。君の心配以外にも私には考えなければならないこともあるのだよ」
「結婚のこととかですか?」
「君は馬鹿なのか?私は結婚する気は無い。言って置くが独身も悪くは無いぞ。寂しくもないしな。若者からの冷たい視線とラブソングの歌詞以外は、全然痛くも痒くも無い。昔は悲しいと思っていた頃もあったけどな。」
「じゃあ、何の考え事ですか?」
「それを君に話したところで変わらない。だろ?ほれ、そろそろだ」
そんな些細な会話をしてからさらに進む。先生の言うとおり。俺は何かするきはないし変える気も無い。この世界は変える価値の無い世界だと判断した。だからもう、俺が変えてやる必要性が無いのだ。全ては俺に告白してきた奴らとそれに順ずる低レベルな腐った愚か共たちのせいだ。


それからまた3分ほど歩き続けるとどうやらついたらしく先生も立ち止まる。その頃には正直異臭を感じていた、もしかして先生は感じないのだろうか。無視してるだけのなのかもしれないけどこれは俺にはインパクトが強いですねぇ。異臭というのは分かっていてもこの匂いが何の匂いだったか思い出せない。こう、何か変な感じだ。いや別に変な意味じゃなくて。卑猥とかそっち方向も止めてないのでその辺はよろしく哀愁して欲しい。哀愁って何だろうなぁ。


そんなことを考えていると先生は一つの扉の前に向かった。おそらく第二図書室というのはこの部屋のことであろう。どうにも好きになれない空気。この雰囲気と匂い。それがさっきまでの肌寒さを際立ててすごく寒く感じた。肌寒い。そして何故だろうか。さっきの胸騒ぎが明らかに大きくなって逆に消え去っている。その代わりに今すぐ何かがやってくるという胸騒ぎが俺の鼓動を早くする。きっとそれは自分が寒いと感じているから自分を暖めようとしたんだろう。そうだと信じたいしだからこそ先生が扉を空けるこの瞬間がものすごく嫌だった。
「入るぞ~~」
「どうぞ」
そんな慣れたようなやり取りを聞きながら俺も失礼しますと声を発する。いや、まあ人がいて当然だよな。流石に図書室の掃除を一人でって言うのはありえない話だろうし。よかったなぁ。むしろこの人に任せておけば良いんじゃねえの?とかそんなのは入ってすぐに消えた。


その部屋には風が通っていなかった。地下だから当然だろう。まあ、換気扇とかあるだろうし空気があることは確かなんだけどそれでも風と呼べる目立ったものは無いはずだ。でも、入った瞬間。その人がこちらを向いてその動きがあってびくりと何かが震えた。あまりにも似合っていたのだろう。彼女がこの部屋にいてその姿が。なんというかあまりにも心地がよさそうにしているというかこの部屋に馴染みすぎているというかどちらにせよ異質である事は間違いが無いのだ。何故かって?簡単だ。この部屋があまりにも異臭がしまくっていた。そして俺にもわかったのだ。この匂いが何なのか。俺は聴覚と一緒で嗅覚も鍛えている為人一倍においには敏感だ。なので分かる。この匂いは明らかに「血」だ。だからこそそこで心地よくしている彼女は異質すぎると感じたのだ。でもそれと同時に彼女の動きは明らかに美しいと評するに値するものであった。だからこそ逆に恐怖を感じたのかもしれない。でもそんな事はどうでもいい。きっと彼女は俺と同年代のはずだ。そんな彼女がなぜこんな異質な空間で心地よくしているのだろうか。それだけが不思議で仕方が無かった。何故?それは疑問ではない。問題提起だ。ありえないのだ。人生を極めた俺でさえ不思議だと思ってしまう。どういう生き方をしたら彼女は平然とこの部屋にいられるのだろう。息を呑む。当然だ。あまりにも恐ろしい。こいつは、俺と同レベルなんじゃないかと思うレベルだった。だから俺と同様のレベルの人間の思考が読めずに怖かった。誰しも自分には必ず勝てない、というがそれと同じだ。自分と同じレベルの奴が目の前にいて俺はどうしようもなかったのだ。


これは明らかに生物的な本能。


やばい。それは何となく分かっていた。でも本能は俺の予想を裏切るレベルだったのだ。俺が、自分の予想できないことをしているというのは少ない。


何故ってこいつが「安らげる存在」だと思ったのだから。

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